2020.10.19

スペシャリストとゼネラリストの違いとは?ジョブ型雇用の時代に求められる人材像

読了まで約 7

・メンバーシップ型雇用だった日本でも、今後はジョブ型雇用が浸透する?

・ゼネラリストとスペシャリスト、総合職と一般職と専門職の違いとは?

・ゼネラリストが求められていた背景とは?

・なぜスペシャリストが求められ始めたのか

・スペシャリストを採用するメリット・デメリットとは?

・ゼネラリストとスペシャリストのどちらを採用すればいいのか?

ゼネラリストとスペシャリストとの違いとは?

社員に幅広い業務を経験させながら、長い時間をかけて幹部候補を育てるという日本型の人材育成方式の前提である一括採用、終身雇用の崩壊によって、長らくメンバーシップ型雇用だった日本でも、今後はジョブ型雇用が浸透すると考えられている。

ジョブ型雇用では細かいジョブディスクリプションやKGI(Key Goal Indicator)「重要目標達成指標」、KPI(Key Performance Indicator)「重要業績評価指標」の設定などがあることから、ゼネラリストはジョブ型雇用に向かず、これからはスペシャリストが求められると言われている。

では、ゼネラリストとスペシャリストの違いとはなんだろう。いくつかの観点から見てみたい。

一般的にゼネラリストとは多様な専門性を活かして総合的判断する人を指し、スペシャリストとは特定の専門分野に精通している人をいう。両者が揃ってはじめて組織は機能するので、どちらかだけで組織が成り立っているという企業はほぼ存在せず、それぞれの強みを活かした配置や社内異動によって、2つのタイプを事業戦略、組織戦略に組み合わせて運用していくことになる。

では、ゼネラリストとスペシャリストの違いとはなにか?言葉の意味としては、
・ゼネラリストは分野を限定しない広範囲な知識・技術・経験を持つ人
であり、
・スペシャリストは特定の分野に深い知識や優れた技術をもった人
と定義される。

よく目にする一般的な職種から分類すると次のようになる。
ゼネラリスト:役員、管理職、プロデューサー、総務、人事など
スペシャリスト:エンジニア、デザイナー、ディレクター、経理、研究員など

この分類からわかるとおり、ゼネラリストとスペシャリストはどちらが深い知見を持っているとか、というような固定された能力ではなく、自分の能力やスキルを活かして、どのような働き方を選ぶか、であることがわかる。

優秀なデザイナーである社長も存在すれば、総務や人事のスペシャリストとしてヘッドハンティングされる例があることからなどもわかるだろう。

これに近い言葉で総合職、一般職、専門職といった日本独特の呼称もある。

日本企業の多くは総合職と一般職、それに加えて専門職や技術職という区分が存在する。あるいは存在していた。大まかにいえば総合職がゼネラリスト、専門職がスペシャリストと考えられてきたが、本来はゼネラリスト、スペシャリストの定義とは別のものと考えるべきだ。

一般的な定義としては、
総合職:総合的な判断を要する基幹的業務に従事する人。
一般職:定型的・補助的な業務に従事する人。
専門職:専門的な知識や技能が必要な業務に従事する人。

となり、総合職は定期的に部署を転々と異動し、少しずつ職責をあげていき、結果として基幹的業務に従事することになるのだが、この考え方は終身雇用に裏付けられた長期的なキャリア形成を前提としないと成り立たない。

さらに総合職は幹部候補、一般職は事務、専門職は技術者や専門家とほぼ同義とされていて、それぞれのキャリアには比較的高い垣根があるのも特徴だ。この点において、入社からのキャリアコースの区分ではなく、時には転向も比較的容易にできる「役割」の区分ともいえる本来のゼネラリスト、スペシャリストの定義とは異なっている。

以上、言葉の意味や職種、日本企業で言う一般職や総合職との違いなどについて見てきたが、これらを踏まえて、キャリアアップという観点からゼネラリストとスペシャリストを定義付けすると次のようになる。
・ゼネラリスト:多様な専門性を活かした業務に就き、総合的判断を高めることによってキャリアアップするポジション
・スペシャリスト:専門の分野に特化した業務に就き、専門性を深めることによってキャリアアップするポジション

ジョブ型雇用ではスペシャリストが求められる?

20世紀から21世紀はじめまでの日本では、ゼネラリストに近い総合職や一般職が求められ、出世するシステムが一般的だった。

特に、高度成長期に確立したビジネスモデルでは、モノを作れば売れるという時代を背景に、質より量を重視し、大量に生産するためには、さまざまな機材を使いこなせるオペレーターとしての一般職や、大勢の組織の中で指導力を発揮する総合職といった人手を抱えていることが企業の強みとなっていた。

また、機械化、オートメーンション化が進んだため、一般的な技術者にはそこまで高度な専門性は必要がなかったという事情もある。そのため、新卒で一括採用して、多くの人員を確保し、さまざまな業務を経験させることでバランスのよいゼネラリストを育てることが効率の良い人材育成につながっていたという側面もある。この場合、一般職から総合職への「出世」ということも十分あり得た。

さらには、長期に渡って続いた経済成長の中で、日本の企業には人材を長く雇用する余裕があり、終身雇用が一般的であった。だからこそ、採用後長い時間をかけてジョブローテーションを行い、さまざまな経験をさせながら育成し、自社の役に立つゼネラリストを育てていくことが可能だったともいえる。

しかし、平成も終盤になってから、その状況は大きく変化する。

日本経済の成長が完全に鈍化したことで人材が流動化し、終身雇用が崩れたことに加え、ITやAIに代表される高度なテクノロジーの急激な発展によって、それぞれの業務が高度化するなかで、そのテクノロジーを身につけて使いこなせる専門家が求められるようになってきたのだ。

ところが、こうした専門家は総合職で採用し、ゼネラリストを育てていくという日本型の雇用システムでは育たないし、中途採用で雇用しようとしてもメンバーシップ型では組織に馴染みにくい。そこで企業は、ジョブディスクリプションと呼ばれる職務記述書を提示し、どのような能力を持つ人が必要かということを明確にし、その能力にマッチした人を採用し、求職者は自分の専門を活かせる仕事を選ぶというジョブ型の雇用制度の導入が急速に進んでいるのだ。

ジョブ型雇用は雇用契約書をベースとした契約であり、目標管理と報酬制度の中で「私はこれをやる人である」という目標設定を明確に定めているのが最大の特徴だ。これは、専門を任せることで、その人材の持つスキルや強みをさらに伸ばしていこうという考え方でもある。

特にインターネットの普及によってさまざまなことがデジタル化され、さらにAIの普及によって人間がやるべきこと、人間がやらなくてよいことが分かれた今、人間は単純作業ではなく、高度な知的労働を行うことが求められ始めている。人間がAIをつくり、AIを動かし、単純作業はAIに代表されるデジタルテクノロジーに行わせるという働き方だ。

しかもこういった働き方の変化はIT業界に限らず、あらゆる分野で起きていて、それぞれの業務が進化し高度化している。さまざまな分野で次々と新しいテクノロジーが生まれているので、それらのテクノロジーを身につけたスペシャリストが求められているのだ。

スペシャリストとゼネラリストどちらを採用すべきか

今後ジョブ型雇用が広がるとスペシャリストが求められる傾向にあるが、だからといって「今後はスペシャリストだけに絞って採用する」と決めつけるのも危険だ。企業が組織である以上、ゼネラリストでなければ果たせない役割もあり、両者をバランス良く配置することが重要となってくる。

場合によっては、ゼネラリストを採用したほうがうまく機能することもあるので、会社の現状と未来像を分析しながら柔軟に選択、決定していきたい。

採用すべきはゼネラリストかスペシャリストかということを考える時、真っ先に明確にしなければならないのは、「任せたいミッションは何か」ということ。

そもそも採用活動は、事業を発展させるためにあるのであって、事業計画に基づき、組織戦略を決め、そこからどういった人材を採用するのかを決めていくのが正攻法のアプローチだ。この原点に立ち返れば、採用すべき人材は見えてくる。

まずは事業戦略を明確に立案し、それを遂行するためにどのような人材が必要になるのかをとことん分析して、明らかにすることだ。自社の事業戦略を遂行するために、どのような人材が必要なのかが見えればスペシャリストが必要なのか、それともゼネラリストを採用すべきなのかをクリアにすることができる。

こうした前提のもとに、スペシャリストを採用するメリットとデメリットについて整理することで、ゼネラリストとスペシャリストのどちらを採用すればいいのかが見えてくる。

○スペシャリストを採用するメリット
・即戦力として期待できる
ジョブディスクリプションに従って目的通りのスペシャリストを採用することができれば、入社後早期に活躍する可能性は大きい。一からすべて教えていくゼネラリストとは異なり、既に持っている専門知識を活かせるので、企業としては育成コストと教育の時間が抑えられるのもメリットとなる。 ただし、スキルは目的に合致していてもビジネスマナーや実務遂行能力が高くない可能性はあるので、こういった部分の育成は必要となる。
→自社の企業風土に合致したビジネスマナーや実務遂行能力を優先する職種ならばゼネラリストを採用した方がいいだろう。

・新しいテクノロジーや新しい事業分野獲得の可能性
テクノロジーの進化が激しい今の時代、どれだけこの急激な波に乗れるかで企業の成長は左右される。ごく身近な例として、コロナ禍を背景にどの企業も事業のオンライン化が急務になっているが、オンライン化に関する知識や技術を持っているスペシャリストが社内にいなければ当然それを推進することはできないので時代の波に取り残されることになる。

また、AI技術やビッグデータの活用など、今後需要が伸びるであろう分野に進出しようにも、その分野に精通したスペシャリストがいなければ道は閉ざされてしまう。

反対に、有能なスペシャリストを獲得しておけば、専門技術を活かして新規事業を開発できる可能性もあるし、専門技術から新たなテクノロジーが生まれることにも期待できる。

このように、専門技術で企業の発展に貢献できるのがスペシャリストを採用するもっとも大きなメリットといえる。
→新規事業への参入など拡大路線をとらず、現在のスキルを維持し続けるだけならばゼネラリスト採用が向いていると言える。

○スペシャリストを採用するデメリット
・会社都合の配置転換が難しい
ジョブディスクリプションによって職種が明確に規定されているため、会社都合での配置転換などは難しくなる。これまでは終身雇用、年功序列という安定した生活と引き換えに、社員は転勤や未経験の部署への異動を含むジョブローテーションを受け入れていた部分もあったが、スペシャリスト採用では、ジョブディスクリプションに規定されていない配置転換はもちろん、規定されていたとしても自分の意志と反する配置転換は退職リスクを高めることになる。

こうしたことを回避するためにも、採用の際は配置後のジョブローテーションの可能性を十分考慮したジョブディスクリプションを策定しておきたい。
→配置転換、地方転勤などが前提となる職種はゼネラリスト採用が向いていると言える。

・常に技術を向上させ続けなければならない
スペシャリストは自らのスキルアップが、キャリアアップ=報酬に直結している。そのため、入社したものの技術力が身につかない環境になってしまうと、成長できる別の環境を求めて転職してしまうという可能性は高まる。

こういった人材流出を防ぐためには、社内で技術を磨いていける環境などのキャリアプランをしっかりと用意しておく必要がある。また最先端のテクノロジーに関連した職種であれば、事業自体が最先端を走り続けなければ、高い技術力を身につけられる環境を維持できなくなってしまうため、技術革新に対する投資を続けることが大前提となる。

以上、いくつかのデメリットと考慮するべきポイントはあるものの、時代は今後もジョブ型雇用への移行が続くと思われるため、スペシャリストを求める流れは止まりそうもない。

しかし、スペシャリストにしてもゼネラリストにしても、重要なのは時代やトレンドに流されて判断するのではなく、時代の先を読んで、現在とこれからの自社にとってどのような人材が必要なのか、その特性と将来性をしっかり見極めることである。

まとめ

・一般的にゼネラリストとは多様な専門性を活かして総合的判断する人を指し、スペシャリストとは特定の専門分野に精通している人をいう。企業はほぼ存在せず、それぞれの強みを活かした配置や社内異動によって、2つのタイプを組み合わせて組織を運用している。

・ゼネラリストは多様な専門性を活かした業務に就き、総合的判断を高めることによってキャリアアップするポジションであり、スペシャリストは専門の分野に特化した業務に就き、専門性を深めることによってキャリアアップするポジションである。

・企業では、ジョブディスクリプションと呼ばれる職務記述書を提示し、どのような能力を持つ人が必要かということを明確にし、その能力にマッチした人を採用し、求職者は自分の専門を活かせる仕事を選ぶというジョブ型の雇用制度の導入が急速に進んでいる。

・ジョブ型への働き方の変化はIT業界に限らず、あらゆる分野で起きていて、それぞれの業務が進化し高度化している。さまざまな分野で次々と新しいテクノロジーが生まれているので、それらのテクノロジーを身につけたスペシャリストが求められている。

・スペシャリストだけに絞って採用すると決めつけるのも危険であり、ゼネラリストでなければ果たせない役割もあるので、両者をバランス良く配置することが重要。 明確にしなければならないのは、「任せたいミッションは何か」ということ。

・スペシャリストにしてもゼネラリストにしても、重要なのは時代やトレンドに流されて判断するのではなく、時代の先を読んで、現在とこれからの自社にとってどのような人材が必要なのか、その特性と将来性をしっかり見極めること。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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