2021.6.23

「エフェクチュエーション」とは?起業家の理論として注目されている理由

読了まで約 6

■アントレプレナーシップの新たな潮流「エフェクチュエーション」とは

■エフェクチュエーションが注目されている背景

■コーゼーションからエフェクチュエーションへ

■エフェクチュエーションのための3つの資源

■エフェクチュエーション5つの原則

VUCAにおいて注目されているエフェクチュエーションとは

VUCA時代と呼ばれているように、不確実性が高まっていることによって社会やビジネスの未来予測が困難となっている現代。
ビジネスの現場でも、これまで用いられてきた方法だけで市場にアプローチを続けていくことは、予測不能な変化の多いこの時代に対応していくには限界があることは容易に想像ができるだろう。

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そのような現代において、アントレプレナーシップの新たな潮流として注目を集めているのが「エフェクチュエーション(Effectuation)」だ。

エフェクチュエーションとは、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏が、著書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』のなかで提唱した理論で、優れた起業家に共通する意思決定プロセスや思考(考え方)を発見・体系化した市場創造の実行理論である。サラス氏の研究によると、優れた起業家の89%がエフェクチュエーションの理論を実践しているというが、このエフェクチュエーションは起業家を目指す人だけのものではない。

例えば、企業内で新製品やサービスを生み出そうとする人や新規事業の立ち上げなどに携わる人にとっても、優れた起業家の意思決定プロセスは大いに参考となるだろう。

起業家個人だけでなく、大企業の新規事業開拓などにも役に立つ概念だというエフェクチュエーションだが、なぜいま注目されているのだろうか。その理由として、まずは、起業家メソッドが確立されたことがあげられるだろう。

それまで起業家の特性については、生まれ持った資質や性格、環境など、抽象的に説明されることが多く、一般化することはできないと考えられていたが、起業家の共通した思考プロセスを体系化し、誰もが後天的に学習可能なメソッドを確立したとして大きな評価を得ているのだ。

サラス・サラスバシー氏によれば、現代で活躍する起業家が取る問題解決アプローチの共通点としてあげられるのは、最初に目標を設定するのではなく、今ある手段から新たな可能性を創造していくことだと言う。また、従来と逆のアプローチ方法を打ち出した点も、エフェクチュエーションが注目を浴びた理由であろう。

では、従来はどのようなアプローチが主流であったのだろうか。本稿では、VUCA時代の現代に企業がイノベーションを生み出すために必要なエフェクチュエーションについて、従来のアプローチとの違いやその原則について解説していこう。

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コーゼーションからエフェクチュエーションへ

先述したように、エフェクチュエーションへの注目が高まっている背景には、これまでとは逆のアプローチ方法を打ち出した点もあげられる。従来、大企業を中心に取り入れられてきたのは「年間売上20億円」「事業拡大」など、はじめに目標を設定し、それを達成するために最適な手段を後から検討していく方法であった。

このような目標設定型の逆算的アプローチは「コーゼーション(Causation)」と呼ばれ、将来をできるだけ予測して目標達成のための手段を考え、行動を進めていくのだ。しかし、コーゼーションはある程度将来が予測できる場合においては有効であるが、不確実で将来の予測がまったくできないVUCA時代では、通用しないと言われている。

そうしたなかで、不確実な状況下でも新たなビジネスを創造していく起業家の共通思考が注目され、コーゼーションとは対極の考え方の、手持ちの手段から新しいゴールを発見していく問題解決型アプローチであるエフェクチュエーションが求められるようになったのだ。

コーゼーションでは「目的」を達成するためにまず、「自分は何をすべきか?(What should I do?)」と考えるのに対して、エフェクチュエーションでは「自分は何ができるか?(What can I do?)」という観点から考え、誰もが持っている「3つの資源」を洗い出すことで、自分が今、すでに持っている手段を見出していく。

それは一般的には以下の3つだと言われている。

1. 自分が誰であるのか?(who they are?)特質、能力、属性

起業家やイノベーターに特定の能力や属性は存在しないため、自分自身の特徴や独自の魅力を明らかにして、それを利用する。

2. 何を知っているのか?(who they know?)教育、専門性、経験

個人が持つ知識や経験の内容や量は、それぞれの人生によって異なるため、同じスタートや環境でのベンチャーでもゴールは違ったものになる。

3. 誰を知っているのか?(whom they know?)」社会的ネットワーク

新しい取り組みを始めるときに最大の資源となるのは、自身が持っている人脈だ。
直接的な知り合いである家族や友人、他者を通じて繋がった人々などがあげられ、その人たちが持つ手段を、自らの手段に加えることも可能であろう。

このように、<資源を洗い出す⇒行動する⇒他者と繋がることで相互作用が働き新たなものを生み出す>といったエフェクチュエーション的なプロセスを踏んでいくことで、最初は想像もできなかった可能性を見出すことができるのだ。

エフェクチュエーションとコーゼーションを対比して紹介したが、どちらが優れているということではなく、0から1を創るような新事業に取り組んでいくにはエフェクチュエーションが、1から10にするような既存の事業の延長にはコーゼーションが有効であるとされており、場面に応じてアプローチを使い分けていくことが必要だ。

エフェクチュエーション5つの原則

前項で紹介したように、手持ちの手段からスタートし、それらを使って何ができるかを考える、というエフェクチュエーションは、以下の五つの原則から構成される。
順番に紹介していこう。

1. 手中の鳥の原則(Bird in Hand)

新しい方法ではなく既存の手段を用いて、新しい何かを生み出すこと。この原則は、目標やプランによって手段を選択する目標設定型アプローチとは異なり、企業や組織がすでに保有している人材のスキルや技術力、ノウハウ、人脈などの手段を用いた問題解決型のアプローチを行う。

優れた起業家は、わずかな可能性に過ぎなかったものからでもビジネスチャンスを生み出すことができるのだ。

2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)

仮に損失が生じても致命的にはならないコストを予め設定すること。従来のように、将来期待できる利益をベースに戦略を練るのではなく、どこまでの損失であれば許容できるのかを決めておき、それを上回らないように行動する。

大きなリターンに魅力を感じる人も多いが、リターンが大きければその分リスクも大きくなる。優秀な投資家は、はじめから巨額の投資を行うのではなく、リスクの小さな少額投資から始め、すぐに切り替えることができるような小さな失敗を重ねて学習することで次のプロセスへと進んでいくのだ。

3. クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)

形や柄の違う布を縫いつけて1枚の布を作るクレイジーキルトのように、顧客や競合他社、協力会社、従業員などのさまざまな繋がりをパートナーと捉えて、一体となってゴールを目指していくこと。優れた起業家は、競合でさえもアライアンス可能なパートナーと見なすのだ。

マーケティング分野では、さまざまな人との出会いのなかからポテンシャルの高いユーザーを見つけて、そこに絞って商品やサービスのプロトタイプを提供することで、マーケットや競合が急速に変わっていく予測不能な時代における市場環境の変化への対応策として活用できる。

4. レモネードの原則(Lemonade)

アメリカのことわざに「When life gives you lemons, make lemonade.」というものがあり、これは「人生がレモンを与えたときには、レモネードを作りなさい。」という意味だ。

レモネードの原則はこのことわざのように、使い物にならない欠陥品でも工夫を凝らして、新たな価値を持つ製品へと生まれ変わらせるという考え方である。優秀な起業家は、ぱっと見た限りでは失敗作に思えるものでも、視点を変えたりポジティブな捉え方をすることによって、新しい製品のアイデアにつなげることができるのだ。

エフェクチュエーションでは現場の社員やリーダー層も含め、失敗を成功に繋げる行動を重要視している。

5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)

先述の4つの原則を網羅した原則でもあり、状況に応じて臨機応変な行動をすること。常に数値を確認し臨機応変な対応をするパイロットのように、不測の事態に備え、外部環境の変化に対して柔軟に行動することが重要だ。

将来は自分たちで変えることができるという世界観を意味しており、未来は発見されたり、予測されたりするものではなく、ビジネスの実践者自らの戦略によって築き上げられていく、という姿勢の考え方だ。

 

激変する市場や予測不能な領域で高い効果を発揮するエフェクチュエーション。不確実性の高いVUCA時代である現代において、状況を臨機応変に判断しながらゴールを目指すこの概念は、これからの時代に企業がイノベーションを起こすための経営戦略としてますます注目を集めていくだろう。

まとめ

・不確実性が高まっていることによって未来予測が困難であるVUCA時代の現代において、アントレプレナーシップの新たな潮流として注目を集めているのが「エフェクチュエーション(Effectuation)」だ。エフェクチュエーションとは、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏が提唱した理論で、優れた起業家に共通する意思決定プロセスや思考(考え方)を発見・体系化した市場創造の実行理論である。エフェクチュエーションは起業家を目指す個人だけでなく、大企業の新規事業開拓などにも役に立つ概念として、今、注目を集めている。

・エフェクチュエーションが注目されている理由の1つとして、それまで一般化することはできないと考えられていた起業家の共通した思考プロセスを体系化し、誰もが後天的に学習可能なメゾットを確立した点があげられる。サラス・サラスバシー氏によれば、現代で活躍する起業家が取る問題解決アプローチの共通点としてあげられるのは、最初に目標を設定するのではなく、今ある手段から新たな可能性を創造していくことだ。

・これまでとは逆のアプローチ方法を打ち出した点も、エフェクチュエーションへの注目が高まっている理由であると言える。従来、大企業を中心に取り入れられてきたのは、はじめに目標を設定し、それを達成するために最適な手段を後から検討していく、目標設定型の逆算的アプローチ「コーゼーション(Causation)」であったが、コーゼーションはある程度将来が予測できる場合おいては有効であるが、不確実で将来の予測ができないVUCA時代では、通用しないと言われている。そうしたなかで、コーゼーションとは対極の考え方の、手持ちの手段から新しいゴールを発見していく問題解決型アプローチであるエフェクチュエーションが求められるようになった。

・コーゼーションではまず、「自分は何をすべきか?(What should I do?)」と考えるのに対して、エフェクチュエーションでは「自分は何ができるか?(What can I do?)」という観点から考え、手持ちの手段を見つけるために、次にあげる「3つの資源」を洗い出す。1.自分が誰であるのか?(who they are?)特質、能力、属性 2.何を知っているのか?(who they know?)教育、専門性、経験 3.誰を知っているのか?(whom they know?)」社会的ネットワーク エフェクチュエーションとコーゼーションに優劣はなく、場面に応じてアプローチを使い分けていく必要がある。

・エフェクチュエーションを構成する5つの原則は次のとおりだ。1.手中の鳥の原則(Bird in Hand):新しい方法ではなく既存の手段を用いて、新しい何かを生み出す原則 2.許容可能な損失の原則(Affordable Loss):仮に損失が生じても致命的にはならないコストを予め設定する原則 3.クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt):顧客や競合他社、協力会社、従業員などのさまざまな繋がりをパートナーと捉えて、一体となってゴールを目指していく原則 4.レモネードの原則(Lemonade):使い物にならない欠陥品でも工夫を凝らして、新たな価値を持つ製品へと生まれ変わらせるという原則 5.飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane):先述の4つの原則を網羅した原則でもあり、状況に応じた臨機応変な行動をする原則 だ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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