2021.4.26

ソーシャルグッドとは?日本企業経営に求められる概念とその成功例

読了まで約 6

■ソーシャルグッドが注目されている背景とは

■日本におけるソーシャルグッドへの意識

■ソーシャルグッドによって得られるメリット

■なぜ「CSRからCSVへ」なのか

■ソーシャルグッドに取り組んでいる企業事例

ソーシャルグッドとは? 日本での意識と傾向

2010年頃から注目をあつめ、現在も世界全体で大きな広がりをみせている「ソーシャルグッド」というキーワード。

ソーシャルグッド(Social Good)とは、「社会に対して良いインパクトを与える」という意味である。その訳のとおり、地球環境や地域コミュニティなどの課題に対して、良い影響を与える活動や製品、社会貢献度の高いサービスなどを総称した言葉である。

ソーシャルグッドが注目をあつめた背景として、2015年9月に開催された国連サミットにて「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されたことで、サステナビリティを追求する取り組みが世界で広まったことがあげられる。

これにより、環境問題や貧困問題、健康問題など地球上で起こっている社会問題の解決に向けて、地球全体で取り組むべきであると認識される。海外ではソーシャルグッドはトレンドにもなり、その考え方は浸透してきている。

しかし、ソーシャルグッドの考え方や取り組みについて、日本ではまだ馴染みが薄いのが現状だ。

その原因としてあげられるのは、当事者意識の低さだ。

世界中で問題視されている環境、貧困、人種差別、宗教に関する問題など、耳にしたことはあっても、日本で生活する中で自身の問題として実感する機会は少なく、企業も消費者も当事者意識を持ちにくい。

この状況が、日本におけるソーシャルグッドに対する意識の低さへつながっていると考えられる。

実際に、株式会社電通と電通グループの社内組織である電通総研が2020年12月に行った日本・イギリス・アメリカ・中国・インドの5カ国のソーシャルメディア利用者を対象とした「ソーシャルグッド意識調査(日本、イギリス、アメリカ、中国、インド編)」(調査手法:ウェブアンケート調査 実施主体:電通、電通総研 調査期間:2020年12月13日2020年12月~21日 エリア:日本、イギリス、アメリカ、中国、インド 対象者:各国15~64歳のソーシャルメディア利用者 有効サンプル数:2624ss/日本537ss/イギリス531ss/アメリカ525ss/中国500ss/インド531ss)の結果をみても、各国とも企業のソーシャルグッド活動への共感層が多くみられるが、日本は他国に比べて意識が低めであることがわかる。中でも「社会をよくする企業・ブランドの商品を購入する」は対象5カ国の平均が73%であるのに対して日本は51%、「環境負荷の低い商品や、フェアトレード商品は多少高くても選ぶ」は同平均66%に対して39%と特に低い結果となった。

しかし、同じ設問への回答で日本の対象者を「SNS週1回以上投稿者」(Facebook/Instagram/Twitter/TikTokいずれかの週1回以上投稿者 個人メッセージ送信は除く)に絞った回答をみると両項目とも日本全体の結果よりも12ポイント上回っている。ここから日本の「SNS週1回以上投稿者」である層は他国同様にソーシャルグッド意識が高いという傾向が認められた。

この結果から、日本におけるソーシャルグッドへの意識は性別や年代よりもSNSの投稿頻度、さらに言えばソーシャルメディアへの習熟度による影響が大きいことが伺える。

今後、ますますSNSを利用する人口や投稿頻度が増えていくことは想像に難くない。 そう考える時、グローバル化や社会問題への意識向上も進んできている日本企業の組織運営において、ソーシャルグッドへの取り組みはより注目され、求められていくことは間違いないだろう。

そこで本稿では、ソーシャルグッドを取り入れるメリットやその取り組み事例などを解説することで、ソーシャルグッドという概念の理解と浸透の一助としたい。

なぜ今ソーシャルグッドなのか 取り組む3つのメリット

企業がソーシャルグッドな活動を行うことで得られるメリットとして、サステナビリティの取り組みが求められる中で、社会に良いインパクトを与えられることがあるが、それだけではない。

なぜ、今ソーシャルグッドに取り組むべきなのか、社会貢献の他に期待できるメリットを3つに整理して解説しよう。

<ソーシャルグッドに取り組む3つのメリット>
1. 企業のイメージや評判の向上につながる
企業のイメージや評判を高めることは、経営やマーケティングなど多方面に良い影響をもたらす。

単に企業のブランド力を強化させるだけでなく、意識の高い優秀な人材を確保しやすくなったり、取引先からの印象が良くなりスムーズな取引が可能になる、資金調達がしやすくなるなどさまざまな効果が期待できる。

2. 企業の認知度向上を見込める
企業はソーシャルグッドの活動を通じて、今まで関わってこなかった新たな社会とも接点を増やすことができる。

また、社会に貢献する活動をしている企業としてアピールができることで、もともとソーシャルグッドに対して、関心がある消費者層から支持を得ることができるまた、今まで認知されていなかった消費者層からも知ってもらうきっかけとなり、企業の認知度向上も見込める。

3. 従業員の帰属意識やモチベーションが高まる
ソーシャルグッドを高めている企業の従業員は、自らの仕事が社会の役に立っているという意識が生まれることで、企業への帰属意識の向上や自らの仕事への誇りを持ち、モチベーションを高めるきっかけとなる。

これは従業員本人だけでなく、その家族や知人など周囲も巻き込んだ形でさらに大きなムーブメントを形成していく。

また、取引先等からも好印象を持たれている企業で働くことは、仕事をスムーズに進めることにつながり、働きやすい労働環境の形成も期待できる。

関連記事:インナーブランディングとは?採用マーケティングにおける重要性と進め方

このように、ソーシャルグッドへの取り組みを進めることは、単純に社会に貢献できるという利点だけでなく、ビジネス上のメリットも多くもたらすことが期待できるため、今後企業を成長させていくうえで積極的に意識するべき考え方であるといえるだろう。

CSRからCSVへ 先進的な取り組み事例

世界中でソーシャルグッドの考え方が浸透してきた中で、事業そのものがソーシャルグッドな「CSV」という概念も誕生した。

企業が行う従来の社会貢献といえば「CSR」が主流であった。

CSR(Corporate Social Responsibility)は日本語では「企業の社会的責任」と訳される。

企業活動の不祥事や、環境問題の深刻化などによって注目されるようになった概念で、企業が経済活動によって社会にもたらす影響に責任を持ち、持続的な社会の発展のために貢献する活動を指す言葉だ。

たとえば、飲料メーカーが行う植林プロジェクト、医療用品メーカーが継続的な被災地支援を行うなどと、企業が普段直接関わっていない事業や周辺分野での活動にも当てはまる。

それに対してCSV(Creating Shared Value)は「共有価値の創造」と訳され、本業を通じて社会問題の解決を図ることで「社会価値」と「企業価値」をどちらも高めていくという考え方である。

CSV経営に取り組むことで、経済的利益を生み出しながら社会的なニーズにも対応できるため、近年ではCSRからCSVへとシフトする企業が増加している。

そこで、ソーシャルグッドを意識して、先進的なCSV経営に取り組む企業の事例を3つ紹介しよう。

1. ソーシャルグッドの専門部署を立ち上げた企業
衣類や家具、食品など幅広い分野の生活用品販売を行っている企業では、ソーシャルグッドコンテンツの充実を目的とした専門部署を立ち上げた。

・大きさが不揃いであるなどの理由から、本来は捨てられていたはずの食品を商品として手頃な価格で販売する
・地元の食材を自社が展開しているレストランのメニューに取り入れることで地域の経済循環を促す
・廃校や空き家を利用してコミュニティスペースを作ることで地域住民同士の交流を生み出すだけでなく企業も住民や自治体との関係を深めていく

このようなことを柱とした活動を行っている。

特に、人材やコストを割いて専門部門を立ち上げ、全社的に取り組んでいる点で、ソーシャルグッドを重視して組織運営を行う企業といえる。

2. 容器の廃棄物を減らし、環境への影響を抑える取り組みを行う企業
コーヒーショップを展開しているとある企業では、プラスチックごみ削減への取り組みとして、紙カップの導入を推進している。その素材も、適切に管理された森林から生産されたものと証明するFSC認証を受けたものを使用している。

また、容器の廃棄物を削減するため、テイクアウトの際にタンブラーやマグカップなど、マイカップを持ち込んだ場合は値引きをする取り組みも行っている。

店内ではショップオリジナルのタンブラーも販売されており、種類の豊富さやデザイン性の高さからも購入する消費者も多い。

消費者が実際に触れる部分にソーシャルグッドなコンテンツを導入することで、活動を身近に感じやすく、認知されやすい取り組みといえるだろう。

3. ソーシャルグッドに取り組むブランドを取り扱う部門を設立した企業
国内外のブランドの代理店業務などを行うある企業では、環境問題や動物保護などのソーシャルグッドに取り組むブランドを取り扱う部門を設立した。

リサイクルしたナイロンで作られたストッキングや、レザーを一切使わず廃材も最小限に抑える製法で作られたシューズを取り扱うなど、環境に優しいファッションを推進している。

また、環境に優しいだけでなくファッションアイテムとして大切な、使いやすくお洒落を楽しむことができる商品作りを行っているブランドを取り扱っている。これにより、その商品を選択する消費者も気軽にソーシャルグッドに取り組むことが可能になる。

ソーシャルグッドな商品を販売することは、企業も比較的取り組みやすく消費者にも認知を広げることができる手法であるといえるだろう。

ここまでソーシャルグッドについて解説をしてきた。

ソーシャルグッドは単に社会貢献に役立つだけでなく、企業のイメージや認知度の向上、ブランド力の強化などビジネスにおいても大きなメリットをもたらす。

さまざまな社会問題が叫ばれている現代、この先さらなる成長を目指していく企業にとって、工夫をして自社に合ったソーシャルグッドに取り組むことは、非常に重要な課題となるだろう。

まとめ

・社会の課題に対して、良い影響を与えるような活動や製品、社会貢献度の高いサービスなどを総称した言葉である「ソーシャルグッド」は、現在も世界全体で大きな注目を集めている。2015年9月に開催された国連サミットにて「SDGs」が採択されたことにより、地球上で起こっている社会問題への解決は地球全体で取り組むべきであるという認識が広がり、その影響を受け、ソーシャルグッドは海外ではトレンドにもなった。

・世界中で広がりを見せているソーシャルグッドであるが、その考え方や取り組みについて、日本ではまだ浸透していない。その理由として、耳にしたことはあっても日本で生活をする中で実感する機会は少なく、当事者意識が低いことがあげられる。実際に行われた調査でも日本は他国に比べ、ソーシャルグッドへの意識が低いことがわかった。しかし、同時に日本の中でもSNSへの投稿を多くしている層は他の層に比べてソーシャルグッドへの意識が高いことも判明した。グローバル化が進み、またSNSの利用者も増加するであろうこれからの世の中で組織運営を行っていくには、ソーシャルグッドへの取り組みは重要な課題となるだろう。

・ソーシャルグッドな活動によって社会に良いインパクトを与えることができるが、メリットはそれだけでない。他にあげられるメリットとして考えられるのは次のとおりだ。1.企業のイメージや評判の向上につながる、2.企業の認知度向上を見込める、3.従業員の帰属意識やモチベーションが高まる。このように、ソーシャルグッドへの取り組みは社会貢献だけでなく、ビジネスにおいても多くのメリットをもたらすことが期待できる。

・企業が行う従来の社会貢献といえば「CSR」が主流であったが、近年では事業そのものがソーシャルグッドな概念として「CSV」が浸透してきた。両者の違いとして、「企業の社会的責任」を意味するCSRは、企業が直接関連していない分野での社会貢献活動にも当てはまるのに対し、「共有価値の創造」を意味するCSVは、本業を通じて経済的な利益を生み出しながら社会問題の解決も図っていく、という点があげられる。近年では多くの企業がCSRからCSVへ取り組みをシフトしている。

・CSV経営が注目されている現在、ソーシャルグッドを意識した先進的なCSV経営に取り組む企業も増えている。実際に取り組んでいる企業の例をいくつかあげてみよう。1.ソーシャルグッドの専門部署を立ち上げた小売企業、2.容器の廃棄物を減らし、環境への影響を抑える取り組みを行う企業、3.ソーシャルグッドに取り組むブランドを取り扱う部門を設立した企業。社会貢献だけでなく、ビジネスにおいても多くのメリットをもたらすソーシャルグッド。さまざまな社会問題が叫ばれる現代で企業のさらなる成長を目指すためにも、ソーシャルグッドに取り組むことは非常に重大な課題といえるだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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