2021.7.13

部下に仕事を任せるデリゲーションとは?エンパワーメントとの違い・行うポイントも解説

読了まで約 7

■デリゲーションとは?

■デリゲーションの目的とは?

■エンパワーメントとデリゲーションの違い

■エンパワーメントとデリゲーション、それぞれのメリット

■組織内でデリゲーションを妨げてしまう4つの上司のタイプ

■デリゲーションを成功させ組織力を最大限発揮するための2つのポイント

デリゲーションとは何か?

「風通しの良い職場」や「仕切りのないワンフロア」、「肩書ではなく○○さんと呼び合う」など、採用シーンで職場のフラットさをアピールするようになって久しい。

もちろん、指揮命令系統以外の部分で上司と部下を権威主義的に分け隔てる必要性は薄れ、多様性が認められはじめている現代において、上意下達のような日本の従来型社風は時代遅れだといえよう。

他方、企業の実情として業務量におけるフラット具合はどうなのか。
そもそも、経験のある上長や先輩従業員が、若手以上に複雑かつ緊急の案件に対処可能なのは当然だ。

しかし、仮にこれらの従業員が予期せぬ事故や病気、あるいは何らかの都合で突然職を辞したとなると、BCP(Business Continuity Plan=事業持続性)を考えた場合、企業として深刻な事態に直面する可能性があり、企業のレジリエンス(強靭性)を問われることは間違いない。
関連記事:
コロナ禍で注目を集めるレジリエンス(回復力)とは?企業の組織づくりに取り入れる方法
レジリエンス(回復力)の高い組織づくりとは?自律型組織への関心が拡大

具体的に見れば、大口取引先を担当する営業部門の従業員や、特殊な工程の技術を保有する製造部門の作業員などが、こういったケースに該当してくる。
VUCA時代と呼ばれる現代の事業環境において、何が起こるかはますます不透明で予測しがたくなっている。

本稿では、企業におけるBCPの観点から「デリゲーション(delegation)」というマネジメント手法について考えていきたい。

まず、本項ではデリゲーションとは何かについて、リーダーシップとマネジメントの違いという観点から確認していくことにする。
そもそも企業における業務は、時間管理(タイムマネジメント)の観点から大きく下記4つのカテゴリーに分けることが可能だ。

1. 緊急かつ重要
2. 急を要さないが重要
3. 緊急だが重要ではない
4. 急を要さず重要でもない

マネジメントとは、ボトムライン(成果)に焦点を当てて、目標達成するための手段を講ずることを指しており、トップライン(目標)自体を考えていくリーダーシップとは大きく趣旨が異なる。

デリゲーションとは、「代表派遣団」や「代表任命」などの意味合いがあり、商習慣の文脈上では「権限委譲」を指して用いられる用語であり、マネジメント手法の一つといえる。
このため、先の4カテゴリーでいうと、マネージャー層は3と4を部下や若手へデリゲーションしていくことで、重要な意思決定業務に集中することが可能となり、同時に若手の成長を後押しすることを可能とする。
デリゲーションを実行することができる能力こそ、マネージャー力を量る上で重要な指標となる。

では、マネージャー層がデリゲーションを行うとは、具体的に何を意味するのか。
デリゲーション(=権限委譲)とは、ビジネスシーンにおいては、従業員に適切なかたちで権限委譲することにより、主体的かつ自律的に業務にあたり、生産性を向上させつつ企業の業績向上に貢献していくことを指す。

仮にマネージャー層がデリゲーションに成功した場合、営業などのフロント部門でいえば、自身のプレーヤーとしての要素が減り、より重要事項の意思決定や部下のマネジメント、そして成果を追い求めることと次の目標を策定することに集中することを可能にする。

後ほど詳述するが、デリゲーションが成功するかどうかは、「何を任せるか」と「任せきること」に懸かっている。
中途半端なデリゲーションは成果が出ないどころか責任の所在も曖昧となり、マネージャー層と部下の関係悪化など、チームワークの機能不全に陥る可能性なども考えられるため、デリゲーションの実行は慎重に検討・計画されるものでなくてはならない。

次項では、デリゲーションと同じく「権限委譲」を意味するエンパワーメントとの違いについて見ていこう。

デリゲーションとエンパワーメントの違い

前項では、デリゲーションとは何かについて、そしてリーダーシップとマネジメントという枠組みにおけるデリゲーションの立ち位置について確認した。
本項では、デリゲーションと同じく「権限委譲」を指して使われ、かつ近似するマネジメント手法のひとつである「エンパワーメント(enpowerment)」との違いについて見ていきたい。

関連記事:組織における社員の自律性を高める方法「エンパワーメント」とは?

エンパワーメントという語を直訳した場合、「力を持たせること」ということを指す。
そもそもエンパワーメントとは、20世紀のアメリカにおいて、公民権や先住民の権利に係る社会改革運動の高まりを受けて提唱されはじめたもので、「個人が主体的に活躍できるように力を与え、社会の発展に活かす」という考え方だ。

転じてビジネスシーンにおいては、従業員に適切なかたちで権限委譲することにより、主体的かつ自律的に業務にあたり、生産性を向上させつつ企業の業績向上に貢献していくことを指す。

つまり、ビジネスシーンにおけるエンパワーメントとは「権限を与えていく」組織運営を行うことで、その目的はチームメンバー「1人ひとりに力を付けさせる」ことだ。
エンパワーメントのもたらすメリットと具体的に目指しているポイントは次の2つだ。

1. 自律的な意思決定の促進による生産性の向上と部下の主体性を育むこと
エンパワーメントによって権限を委譲し、与えられた範囲内でメンバーが自律的に意思決定できるようになれば業務のスピードが上がり生産性の向上をも期待することができる。

また、権限委譲によって当事者意識が生まれることで、メンバーはより主体的に問題解決に取り組み、業務に対して「自分ごと」として捉えるようになる。

これにより、同じ業務であっても、その行為の背景を考えたり、より良い方策はないかを模索したりする習慣が身についていくだろう。

2. チームメンバーの潜在的な能力を引き出すこと
組織内でエンパワーメントが浸透・定着していけば、それまで本人も気が付かなかった能力が見いだされることもある。

与えられた裁量の中で自主的に考えて行動することにより、メンバー個人の潜在的な強みや能力が表面化され、それらを早期に発見し適した場所や方法で成長させることで、次期リーダーや戦力となる優秀な人材の育成につながる。
メンバー本人も今まで気が付かなかった自分の能力を知ることで自信を持ち、より業務に意力的に取り組むだろう。

ここまで見て分かる通り、エンパワーメントが意図する権限委譲とは、マネージャー層から見れば、チームメンバーの「育成」、メンバー視点でいうところの「自己成長」に焦点が当てられている。
そのため、ある程度の権限委譲に際しては、業務への取り組み方などをマネージャー層から都度助言されることなども考えられる。

これに対して、デリゲーションは、「何を任せるか」、「任せきること」、「成果を出すこと」に主眼が置かれている点において、エンパワーメントと大きく異なる。
「権限委譲」自体を目的とするマネジメント手法であるデリゲーションの主なメリットと、目指すポイントは下記の2点だ。

1. 責任を含めた部下への権限委譲を通した成果を重要視すること
デリゲーションの大原則は、任せた仕事のやり方よりも結果を重視することだ。
そのため、業務への取り組み方などは部下に全面的に委任し、業務の結果に対して責任を持たせる。
マネージャー層が直接業務に関わらずとも、意図した成果ができるような権限委譲を行っていく。

これは権限委譲によって空いた時間で、マネジメント業務に集中できる状態を作り出すことが目的だ。
そのため、生産性の向上やメンバーの成長はその過程に生じる副産物であり、最終的な目的ではないことが分かる。

2. 常に個人の限界を意識しつつ、組織力の向上を目指すこと
マネージャー層であろうと、チームメンバーであろうと、経営陣であろうと、人間1人が1日にできる業務量には限界がある。
全く寝ずに働いたと仮定した場合でも使える時間は24時間だ。上の者が上手くデリゲーションを行い、それを受けた下の者がさらにデリゲーションを行う。

その輪が広がり、上手く機能していった場合、効果的なチームプレー(=権限委譲に基づく分業)による組織力・業務遂行力を発揮することが可能となる。

関連記事:権限委譲とは?その意味と企業における組織の成長のために適切に行う方法を解説

デリゲーションを妨げるものと行うためのポイント

ここまで、デリゲーションとは何か、そして類似する考え方であるエンパワーメントとの相違点について見てきた。

しかし、現状の日本では、デリゲーションが実行されておらず、上手く権限委譲できていないためにマネージャーとプレーヤーの兼業状態にあるマネージャー層も少なくない。
よく見られる理由としては以下の4つの声がある。

1. この仕事は自分でやりたい
この類の思いは理由として最も多いものだといえよう。
しかし、自分がマネージャーであることを忘れ、プレーヤー業務にまい進しているということは、部下から業務を奪っているのみならず、マネージャーとしての業務を怠っていることでもある。

2. 部下より自分が上手くできる
「部下より」という思いの根底にあるのは、部下と自身を無意識に比較し、競争している状態だ。
そもそも自身がマネージャーであり、部下はプレーヤーであることから、競争は成立しない。
積極的な権限委譲により、部下の働きを以てチームの成果を最大化させることに努めるのがマネージャーの責務だ。

3. 細部にわたり、自己流を貫きたい
デリゲーションであろうと、エンパワーメントであろうと、権限委譲とは仕事のやり方も含めて部下へ任せることだ。
仮に権限委譲を行ったとしても、マイクロ・マネジメント(細部にわたる指示出し)を脱却できない場合、権限委譲は上手く機能しないだろう。

4. 自分でないと、上手くいかない
「自分でなければ」という考え方は、ある意味において最も危険であり、これは自身の能力の過大評価に他ならない。
本来、部下へ積極的に業務を任せて、これを評価するのが自身の業務であるにも関わらず、自分自身を過信している状態にある。
マネージャー層の評価は、経営層が行う業務であり、マネージャー自ら行うものではない。

前項でも述べた通り、デリゲーションが実行できていないということは、組織力が発揮できていない状態ということにある。
これは、上長と部下との信頼関係や、どの範囲まで部下に任せてよいのかという点について、上長が把握できていない、つまりマネジメントが行えていない状態を指す。

そこで、ここではデリゲーションを成功させ、組織力を大きく躍進させるための2つの注意点とポイントについて見ていこう。

1. 権限委譲はカルテ・ブランシュ(白紙委任状)ではないこと
一旦任せた仕事に対して応援や助言を超えた介入を行わず、任せきることで支援に徹するのがマネージャーのあるべき姿となる。
しかし、任せることとは、全権委任を意味しない。そのため、「任せきる」範囲は事前に定めておかなければならない。

また、部下の業務推移を監督するというのもマネージャーの業務であることから、事前に報告や相談のタイミングや基準を決めておくことが重要となるだろう。
行き違いや解釈の相違を事前のすり合わせでつぶしておくことで、デリゲーションの効果を最大限発揮することが期待できる。

2. 効率ではなく、どこまでも効果を追求すること
デリゲーションではエンパワーメントと異なり、生産性向上や部下の自己成長よりも、自身が関わらずとも委任した業務が成果に結びつくことを目的とする。
業務に係る権限を委任するため、業務の効率よりも効果を計っていくことが、マネージャーの業務になる。
なぜなら、自身の時間を使用する業務は効率性を重視すべきだが、他者に委任する業務はその効果性を問うべきだからだ。

デリゲーションを通じた効率の追求は、マネージャーとプレーヤーの双方の時間と忍耐、そして継続的なコミットメントを要する。
しかし、デリゲーションが成功した場合、その効果は絶大だ。

まとめ

・企業のレジリエンス(強靭性)とBCP(事業持続計画)の観点から、今までになくデリゲーションが注目されている。
もともと「代表派遣団」や「遠くに遣わす」ことを指して使うこの言葉を、ビジネスの文脈では「権限委譲」を指して用いる。
デリゲーションとは、即ち上司から部下へ業務と責任を移管する一連の流れであり、マネジメント手法だ。

・時間管理の視点から見た場合、業務とは大きく次の4つに分かれる。
1. 緊急かつ重要
2. 急を要さないが重要
3. 緊急だが重要ではない
4. 急を要さず重要でもない
デリゲーションでは、権限委譲を通じて3と4の業務を減らしていき、1・2あるいはチームのマネジメントに集中できる環境を作り出すことを目的とする。

・エンパワーメントが意図する権限委譲とは、マネージャーから見たチームメンバーの「育成」、あるいはメンバー視点でいう「自己成長」に焦点が当たっている。
デリゲーションの意図する権限委譲とは、事前に何を任せるか決め、一旦権限委譲したら任せきり、成果がしっかり出ているかを確認していくことに主眼が置かれている。
このため、前者が部下の成長や生産性の向上など、業務の「過程」を評価対象とすることに対して、後者は権限委譲によって得られた「結果」に対して評価を行う点で、大きく異なる。

・エンパワーメントのメリットとゴールは、主に次の2つだ。
1つ目に、自律的な意思決定の促進による生産性の向上と部下の主体性を育むこと。
2つ目に、自己裁量で業務に取り組ませることで、チームメンバーの潜在的な能力を引き出すこと。
デリゲーションのメリットとゴールは、主に次の2つだ。
1つ目に、部下への権限委譲を行うことで得られる生産性よりも成果に重きを置くこと。
2つ目に、一個人の業務量の限界を認識することで、「任せること」を通じた組織力の向上を目指すこと。

・組織力を向上させるデリゲーションだが、マネージャーがこれを妨げる4つの要因は次の通りだ。
1つ目に、「この仕事は自分でやりたい」という思いで、自身がマネージャーであることを忘れプレーヤー業務にまい進してしまうこと。
2つ目に、本来比較すべき相手ではない部下に対して「自分のほうが上手くできる」と競争心を抱き、比較してしまうこと。
3つ目に、せっかくの権限委譲を行ったのにも関わらず、「細部にわたり、自己流を貫きたい」とマイクロ・マネジメントを行ってしまうこと。
4つ目に、「自分でなければ上手くいかない」と自身過剰になり、部下ではなく自分を過大評価してしまうこと。

・デリゲーションが成功していないということは、組織力が発揮できていないということだ。
組織力を最大限発揮するためには、次の2つのポイントを押さえておくと効果的だといえる。
1つ目に、「権限委譲」と「全権委任」は異なることを部下と上司の双方が十分に理解することだ。
マネージャーが権限委譲する業務の範囲、責任の所在、報告や連絡、相談などの要否や頻度などをすり合わせしておくことが重要となる。
2つ目に、業務自体の「効率」ではなく、権限委譲による「効果」について追求していくことだ。
事前に取り決めた通りに業務を権限委譲していくため、業務の効率よりも得られる効果について計ることが、デリゲーションの成功度を視る上で重要となる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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