2020.12.16

採用マーケティングにおけるファネルとは?ファネル別施策のヒント

読了まで約 6

■激化する人材獲得競争で注目される採用マーケティング

■採用プロセスの見直しから効率化を目指すファネル分析

■3タイプに分かれるファネルとそれぞれの特徴とは?

■採用活動に当てはめたファネル分析

■採用活動でのファネル分析のタイプやプロセスとは?

■ダブルファネルが生み出す採用活動の好循環

採用マーケティングにおけるファネル

新型コロナウイルス感染拡大によって大きく影響された2020年の新卒採用戦線。2020年卒学生入社直前での一部内定取り消しや2021年卒の採用活動見送りに加えて、来年からは長らく産学で協調姿勢を取ってきた経団連主導の一斉採用ルールが廃止されることから、今後の採用市場を展望した場合、採用活動はより混沌と長期化を招くと思われる。

同時にこれからの採用施策は、従来のインターンシップから会社説明会を経て、就活メディアでのプレエントリーから、選考を通じて内定に至るというシンプルでわかりやすいものから、より複合的で複数の採用スキームと導線が入り組んだかたちで変化していくものとなるだろう。

今後の新卒採用における課題は「母集団形成から選考を経て内定出しに至るまでのプロセスを、いかにスピーディな短期決戦に持ち込むか」ということとなってくる。

このような背景から、学生への自社の魅力訴求からはじまり、学生の興味・関心の喚起に至るまでの母集団形成を早期に図り、激化し続ける人材獲得競争での自社優位性を強化していくため、採用計画の立案と実行においてもマーケティングの概念を用いることの重要性が高まっている。

また、中途採用においても付加価値の高い人材への需要はこれまでよりも多くなることは容易に想像でき、これら優秀な人材への内定出しを通した獲得競争がより激化していくことも予想できる。

採用マーケティングを実施することで、採用ターゲット層へのアプローチを行うためにさまざまなテクノロジーを駆使することができ、データに基づいて自社の求めている人材像となり得る候補者のニーズを解明し、より短期で効果的な採用成果に結びつけることが期待できるのだ。

日進月歩で発達していくテクノロジーとともに、マーケティングの手法にも次々と新たなものが生まれているが、その中でも近年注目されているのが「ファネル分析」だ。

ファネル分析とは、消費者の購買フェーズとその人数を図式化し分析することであり、消費者の集団において、その意識が購買という行為に近づけば近づくほど集団の数が減っていくさまが、英語で漏斗(ろうと)を意味する「fannel」にかたちが似ていることから名づけられたマーケティング手法のひとつである。

購買に至るまでのプロセスをいくつかに階層分けし、お客さまひとりひとりが購買プロセスのどの階層に位置するかという情報を蓄積し、このデータを分析することで、より効果的な営業活動やマーケティングアプローチへとつなげる狙いがある。

ファネル分析を採用活動に当てはめてみると、採用マーケット全体の求職者を大まかに「潜在層」「顕在層」「候補者」「従業員」といった4つの性質を帯びた層に分類でき、通常のマーケティングでいう「購買プロセス」の部分は、求職者である学生の「自社へのエントリー」「採用サイトで先輩社員のインタビューを見た」「インターンシップ応募メールを開封した」「会社説明会に参加した」「OB・OG訪問を行った」「選考プロセスで面接を受けた」などといった、「選考プロセス」が該当する。選考プロセスの一連の流れにおいて、それぞれのプロセスに内在するさまざまな課題を解決していくことで、採用活動の効率化を目指す手法こそ、採用マーケティングにおけるファネル分析だ。

ファネルの種類とそれぞれの特徴

マーケティング手法を用いて採用活動における課題を解消しつつ、より効果的な採用成果に結びつけることを目指すために活用するファネル分析には、大きく分けて「パーチェスファネル」「インフルエンスファネル」「ダブルファネル」の3つの考え方が存在する。ここでは、従来型の採用活動では触れることの少ないマーケティング概念であるファネル分析の考え方を3つ紹介しつつ、次項の採用マーケティングでのファネル分析の活用につなげていきたい。

1. パーチェスファネル
購入(Purchase/読み:パーチェス)を意味する英語のとおり、パーチェスファネルは消費者の消費行動を表す。パーチェスファネルは、消費者が購入に至る道すじであるAIDMA(読み:アイドマ)モデル、即ち「注目(Attention)」「興味・関心(Interest)」「欲求(Desire)」「記憶(Memory)」「行動(Action)」という購買決定のプロセスモデルを、さらに発展させたものである。最も初歩である「認知する」段階から最終的な購入というアクションを起こす段階までに経る道のりが、だんだん少数に絞り込まれていくさまが逆三角形の漏斗に見えることから、マーケティング業界においてファネルと言った場合、まずはこのパーチェスファネルを指すことが多い。

2. インフルエンスファネル
パーチェスファネルが「購入」というゴールへの道のりを表したものであるのに対して、インフルエンスファネルは、消費者の購入後に起こす行動を図式化したものだ。B to Cの業界では顕著となるが、インターネットが発達した現代では、消費者の口コミやレビューがさまざまなチャネルを通じて多く集まるようになっており、購入した消費者が自ら広告塔となっていくことから、インフルエンスファネルは、「買った後に抱いてもらいたいイメージ」や「周りに紹介したくなるときの気持ち」などを検討する際に用いる概念である。

3. ダブルファネル
前出のパーチェスファネルとインフルエンスファネルを文字どおり「ダブル」で組み合わせることで、マーケティング効果の最大化を図ることを目指すのが、ダブルファネルだ。インターネットショッピングサイト上のレビューや、ソーシャルメディアに投稿された話題の口コミなど、消費者のさまざまな「声」が可視化された現代において、インターネット上の評判を検討材料とし、また自らもサービスや商品の購入後にSNS上で発信したり、知人や友人に勧めたりすることで、商品・サービスの認知度を向上させ、より多くの他者への認知や関心を創出していくという考え方が広まりつつある。

従来のような採用メディアでの広告や、就活イベントでの企業ブース出展などのマスに向けた一方通行の発信のみを重視するだけでは、もはや激しい人材獲得に勝算はなく、ファネル分析を採用活動に充てて考えてみると、自社の魅力を本当により多くの求職者に届けるためには、出す広告や打つ施策ひとつひとつが「効果的」である必要がある。採用マーケティングにおいてファネル分析を活用することで、段階(求職者/選考者/内定者)ごとに、どのような施策を打ち出していくべきかを明瞭にすることで、はじめて自社の求める人材像と合致するターゲット層が具体化し、焦点を絞った訴求が実現するといえる。

ファネルの階層別施策とポイント

前述のとおり、採用活動における各プロセスで顕在化する課題に対して、マーケティングの知見を活かし改善を図ることが採用マーケティングであり、その有用なアプローチのひとつにファネル分析があるわけだが、ここでは先ほど紹介したファネルのなかでも「ダブルファネル」にフォーカスしつつ、具体的な例を挙げながら採用マーケティングに活用できるファネル分析の手法を見ていく。

AIDMAモデルのような消費行動のプロセスは、採用活動においても存在しており、大まかに3つの層と5つのプロセスに分けることができる。まず、3つの層というのは求職者全体から自社を認知して、興味と感心を持ってもらえる可能性のある「潜在層」、そして自社を知ってもらい徐々に選考段階に進もうとしている求職者たちである「顕在層」、最後に自社選考プロセスのラインに乗っている「候補者」である。

また、パーチェスファネルに相当する5つのプロセスは、次のとおりだ。

1. 認知
消費者が、知らない商品やサービスに手を出さないのと同じく、採用の世界でも知らない企業に応募することはありえない。企業名や事業内容を自社の求める人材に広く知ってもらうことは、潜在層からの母集団形成に大きく資する。この段階では、ある程度のマスに向けてPRすることが全体の認知度を向上することから、企業の一般的な広報とオーバーラップする部分もあるかもしれず、場合によってはメディア露出やイベント開催などを通じた企業そのものを宣伝する行為が必要となる。

2. 興味・関心
前段階が広範に周知した企業PRから、自社に対して知ってもらう段階であるのに対して、ここではAIDMAモデルでいうところの「Interest」、つまり興味や関心を持つ求職者が現れる、顕在層の段階に入っていく。自社に関心をもつ層の傾向を把握しつつ、「あの企業を知ってはいるが、そこまで関心はない」という考えをもつ求職者を分析することで、より効果的な自社魅力の訴求を目指すことが重要となる。

3. 応募
企業を知り、興味が湧き、応募してもらう。すんなりと行く場合なら採用担当者にとってこの上なく望ましいが、実際は興味・関心を示しつつも採用サイトでのエントリーに至らない求職者も一定数存在する。自社の形成した母集団において、どのような求職者がここの段階で関心を失っていくのか。そして応募前に志望意欲の低下や離脱率をどのように抑えていくのかという課題に対して、ファネル分析が有用となってくる。

4. 選考・内定
選考プロセスに入ると、いよいよ求職者たちの入社意欲の維持と向上がカギとなってくる。選考途中で「なぜこの会社を受けているのかわからなくなる」という事態が起きれば、必然的に求職者の関心は薄れていってしまう。また、内定出しを行ったとしても、自社への入社意思がなく、内定承諾を貰えなければ意味がない。自社を知り、興味関心を持ち、応募した「きっかけ」の記憶をしっかりと呼び起こしていくコミュニケーションを、採用活動の前後をとおして企業と求職者との間でとっていくことが重要だ。

5. 入社後
入社前までの選考段階がパーチェスファネルだとするならば、入社後とはインフルエンスファネルに相当する。そのため、自社の求める人材像と合致する求職者を採用できた場合、必然的に従業員のエンゲージメント向上が図られ、自律的に仕事ができる従業員である場合、リファラルなどの採用チャネルにおいて企業の広告塔として、次の採用において大きな役割を果たすという、好ましい採用活動での好循環を生み出すきっかけとなり得るのだ。

各プロセスにおいて、それぞれの段階のターゲットに適したマーケティングを実施していくことが大切であり、「企業の成長のために最も必要な人材を獲得する」ことを念頭に、応募経路ごとの採用コスト見直しや、就活メディアなどの業者ごとのパフォーマンスなど、採用活動全般にわたる問題点を見える化することで、採用施策に用いるリソースを常に最適化するためにも、ファネル分析をはじめとしたマーケティングのアプローチは、これからの採用活動において欠かせない存在となるだろう。

まとめ

・コロナ禍や経団連による就活ルール撤廃の影響を受け、採用活動における今後の大きな課題とは、「母集団形成から選考を経て内定出しに至るまでのプロセスを、いかにスピーディな短期決戦に持ち込むか」ということとなってくる。そこで、採用活動にもマーケティングの概念を応用することで、自社の魅力訴求や効率的な選考プロセスを目指す動きが注目されている。

・商品・サービスの認知から購買までの人数が減っていくさまが逆三角形の漏斗に似ているから名づけられたファネル分析だが、採用活動における効果は強力だ。採用活動全体をプロセス分けし、求職者の行動をデータとして蓄積することで、自社の採用課題を顕在化させ、一連のプロセスに内在する課題を改善していきつつ、採用活動の効率化を目指すことが可能となる。

・ファネル分析には大きく分けて3つの考え方が存在する。認知から購買までの道筋を表した「パーチェスファネル」、購買後の消費者の行動を表した「インフルエンスファネル」、そして両者を組み合わせた砂時計のかたちをした「ダブルファネル」である。インターネットが発達した現代では、購買を行った後の消費者が、口コミやレビューをとおして他者の消費行動に与える影響が大きく、インフルエンスファネル分析からパーチェスファネルでのプロセスが改善する可能性もある。

・従来のような一方的なマスマーケティングに基づく採用活動では、もはや混迷し長期化する人材獲得競争のなかでは上手くいかず、採用マーケティングを活用して効率的にターゲット層への認知拡大と採用活動における各プロセスでの離脱率抑止策を図ることが重要だといえる。ファネル分析を用いることで、どのプロセスにいる求職者に、どのような施策を打ち出すかを明確化してこそ、効率的な自社の魅力訴求が実現する。

・採用活動では、求職者を主に自社を認知して、興味と感心を持ってもらえる可能性のある「潜在層」、そして自社を知ってもらい徐々に選考段階に進もうとしている求職者たちである「顕在層」、最後に自社選考プロセスのラインに乗っている「候補者」の3つに分け、また、「潜在層」から「候補者」、さらに「従業員」に至るまでを、5つのプロセス(認知→興味・関心→応募→選考・内定→入社)に分けることができる。

・パーチェスファネル部にあたる、求職者の企業への認知から内定に至るまでを、分析に基づいて改善を図ることで、よりマッチングした人材への訴求や選考段階での離脱率抑止につながる。また、入社後の仕事意欲にも影響するものであり、自社に対するポジティブなオンボーディングは自社ロイヤリティの醸成と、企業の広告塔としてリファラル採用などで次の採用活動へ好ましいサイクルを生み出すきっかけとなる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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