2020.8.5

タレントアクイジションの意味とは?従来のリクルーティングとの違いを解説

読了まで約 6

・優秀な人材獲得のみにターゲットを絞るタレントアクイジションとは?
・リクルーティングはタレントアクイジションの一部に包摂される。
・タレントアクイジションの目的とは?
・「待ち」の採用活動から「攻め」のタレントアクイジションへ。
・タレントアクイジションを行うメリットとデメリットは?
・タレントアクイジション組織の役割とは?

リクルーティングからタレントアクイジションへ

人材獲得競争が激化する現在、競合他社との人材獲得競争に勝利することは、自社の維持や発展に直結する特に重要な課題だ。

なかでも高付加価値人材の獲得競争はさらに激化しており、同業種間ではもちろん異業種間、さらには国際的な争奪戦へと発展することは珍しくない。

例えばIoTに関わる技術者が自社にはじめから存在している企業はごく一握りに過ぎない。しかもIoT人材はさまざまな製造業で必要とされるだけでなく、IoT技術を用いた他のあらゆるサービスの事業者においても必要な人材だ。

IoT人材のように市場価値が高く、貴重な人材を獲得するためには、受け身の姿勢で求職者が応募してくれるのを待ち続けたり、従来の採用手法のみを実施し続けるような消極的な姿勢ではではとうてい成功は望めない。

こうして多くの企業が新しい採用手法を模索している中、一般的なリクルーティングとは異なり、優秀な人材獲得のみにターゲットを絞るタレントアクイジションという手法が注目されている。

タレントアクイジション(Talent Acquisition)とは、自社で実行することが可能なあらゆる手段を用いて「タレント(優秀な人材)」を「アクイジション(獲得)」する役職や組織、行動を意味する言葉であり、企業が自ら積極的にアクションを起こし、ターゲットを囲い込むことで人材を獲得しようとする手法だ。

リクルーティングが企業の経営側や事業部門側が設定した採用したいポジションに対し、適切な人材を探して獲得することであるのに対して、タレントアクイジションは自社が採用したいタレントをあらかじめ定義しておき、それに向けた採用ブランドを構築し、タレントを惹きつけ、タレント獲得後の活躍をサポートする、など、より長期的で広範囲な概念だ。

リクルーティングはタレントアクイジションの一部に包摂されるという見方もできる。

なぜなら、タレントアクイジションでは従来行われてきた一般的なリクルーティングである採用活動・採用広報に加えて、タレント人材の獲得に向けた計画や戦略の立案、求めるタレント人材の分析・定義と共有、採用ブランドの強化による潜在的な求職者の発掘と育成、採用後のオンボーディングなど、より幅広く、長期にわたる活動を行うことになるからだ。

これまでの採用活動との違いとメリット・デメリット

タレントアクイジションの目的は、高付加価値人材の重要性が高まる中で、他企業との人材獲得競争に勝ち、獲得したタレントの力で新しく事業を起こしたり、すでにある事業をさらに拡大、隆盛させていくことにある。 そのため、これまでのリクルーティング担当は、タレントアクイジション担当として、より積極的に、経営層に近い立場で人材獲得に貢献することが求められる。

なによりも、これまでの採用活動との決定的な違いは、「待ち」から「攻め」の採用に変わるということにある。「何が何でも高付加価値人材を獲得する」ため、自社で考え得るさまざまな採用手法を活用することできる強力な組織を構築することが重要だ。

これまでも、採用戦略を策定する際、求める人材像の設計や競合の洗い出しなどは行われていたが、タレントアクイジションための計画および戦略策定においては、以下の2点が従来と異なる。

1.経営戦略・事業戦略の徹底的な理解と一貫性のある人事戦略の策定。

タレントアクイジションは、企業の経営戦略や事業戦略を基に行われるため、徹底的な戦略の理解と一貫性のある人事戦略を構築しなければならない。自社のビジネスモデルに貢献するのはどんな人物か、新規事業であれば、どのような人材が必要となるか、そしてそうした人材を獲得するためはどのような戦略を採用するかなどを徹底的に議論し、策定しておくことが重要だ。さらに、採用戦略の周辺だけでなく、より経営の中枢に踏み込み、人材に関する全体的な予算の策定や管理に関わることで、経営から採用まで一貫性を持った戦略を構築することが可能になる。

2.自社のポジショニングの洗い出しと活動領域の切り分け

タレントアクイジションにおいては、自社に関係する周辺領域の理解が必要不可欠だ。自社のポジショニング、競合の動向、市場に割り込んでくる新興勢力があるか、などをふまえ、勝ち抜くために何をすべきかを策定する必要がある。

また、従来の採用より、かなり広範な活動領域をカバーするため、どこまでが実行可能なのか冷静に見定める必要もある。豊富な人員がある大企業は別として、多くの企業はすべての活動領域をカバーすることは困難だと思われる。人事・採用部署で取り組むべきことは何か、社内の協力者や社外パートナーが必要か、またどこまで取り組むのかなどを考察する必要がある。

次にタレントアクイジションを行うメリットとデメリットを見てみよう。

まず、メリットとしては従来の採用手法と違い優秀な人材にピンポイントに焦点を絞れるため、入社する人材の質が高くなることがあげられる。

また、タレントアクイジションは量より質を重視した採用手法なので、リソースを投資した分の見返りとして、質の高い優秀な人材を獲得できる可能性が高まることもメリットに数えられよう。

デメリットとしては、まだ歴史が浅い手法であるため、学ぶべき他社事例が少なく、自社における正解を模索しながら推進することになるため、従来のリクルーティングよりも大きく手間がかかるという点がある。

先に述べたとおり、タレントアクイジションでは、タレントの分析・定義や採用ブランディング、定着のサポートなど、従来のリクルーティングよりも幅広い業務に携わるため、難易度が高い点もデメリットといえる。採用担当者としてだけではなく、成長やエンゲージメントへの責任も生じ、トータルな人事担当者・経営者としての視点が求められるので、その任に堪えうる人材の発掘や教育にも時間がかかる。

そして、量よりも質を求めるため、従来の「母集合を大きく」という価値観からすると、採用人数で見た場合の費用対効果が悪化して見え、経営層の理解が得難いこともネックだ。

また、タレントアクイジションは、優秀な人材獲得に焦点を絞っているので、その実施には、採用対象者(候補者)との関係構築にも大きなコストと時間が割かれることになるので、この点も費用対効果としては悪く見えるのでネックとなる。

以上のように見てみるとタレントアクイジションにはデメリットの方が多いように感じられる。しかし、高付加価値人材を求めるニーズの高まりの中で「売り手市場」「買い手市場」という言葉はもはや意味をなさなくなっている。数少ないタレント人材の獲得を争うフィールドでは、たった一人でも「欲しい個人」を獲得し、自社への貢献へと導けたかどうかだけが成否の分かれ目となるからだ。そして、こうした人材を獲得するためには、今までの採用戦略だけでは競争力を得られないことは明白となっている。

高付加価値人材を求める企業ならば、タレントアクイジションを導入し、人材を確実に獲得できる組織へと変貌を遂げるべき時がきているのだ。

採用組織をタレントアクイジション組織に変える

タレントアクイジション組織の役割には、1.ワークフォース分析を行う、2.タレントのデータベース化と常時アップデートを行う、3.自社の将来像をベースに採用ブランドを構築する、4.タレントを惹きつけるアクションを起こし、継続する、の4つの役割がある。

また、採用組織をタレントアクイジション組織に変えるには、1.タレントアクイジション経験者を新たに採用する、2.現状の組織を活かしながら採用力強化につながる人材を社内でスカウトする、3.タレントアクイジション組織をゼロから構築する、の3つのアプローチがある。

1.ワークフォース分析を行う

まず、自社の将来について、タレントポートフォリオの設計と現在の自社のタレントポートフォリオの分析を行い、タレントポートフォリオ変革のためのロードマップを策定する。そして、自社内の人材をどうトレーニングし、不足する人材をどのように採用するなどを具体的に決定していくという役割がある。

2.タレントのデータベース化と常時アップデートを行う

策定したロードマップに従い、外部に存在するタレントをデータベース化する。今すぐに獲得できなくても、将来のタレントポートフォリオ実現のために獲得したい人材は、データベースに取り込んでおき、タイミングが来たら獲得のアクションを起こすことになる。 同時に、データベースは常に最新のものにアップデートし続けることが重要だ。

3.自社の将来像をベースに採用ブランドを構築する

ワークフォース分析によって導き出された自社の将来像から、採用ブランドを構築する。 タレントにとっては、その企業の現在の姿だけでなく、将来どういう方向を目指しているかが重要なため、将来像についての経営層の思いやビジョンを表出しながら採用ブランドを確立していくことが重要だ。

4.タレントを惹きつけるアクションを起こし、継続する

3.で確立した自社の採用ブランドをもって獲得したいタレントを惹きつけるアクションに入る。ここでは、自社の誰がどういう順番でタレントと接触をしていくのかといった獲得のための戦術も重要となる。また、惹きつけるアクションを採用後も継続して行うことでエンゲージメントにつなげ、自社への貢献を引き出していく。これが新たな「自社像」となり、次の新たな将来像の策定へとつながって行くのだ。

では実際にタレントアクイジション組織を構築するにはどのようなアプローチがあるのだろうか。代表的なものとしては以下の3つが考えられる。

1.タレントアクイジション経験者を新たに採用する

もっとも手っ取り早いのは、自社に人材がいなくてもタレントアクイジションの経験者を外部から新たに採用するというアプローチだ。対象はすでにタレントアクイジションをはじめている外資系企業からとなることが多く、その人材を中心に組織を編成していく。

ただし、組織構成を大きく変更する施策であるため、採用関連だけでなく、企業組織全体に与えるインパクトや状況を考えながら、タレントアクイジション経験者自らが組織の改革を中長期的な視点に立って主導していくことになる。
つまり、経験者の手腕によっては定着までに時間がかかる可能性があることも考慮しておきたい。

2.現状の組織を活かしながら採用力強化につながる人材を社内でスカウトする

次に考えられるのは現状の採用組織の強みや弱みを洗い出し、不足していると考えられるスキルや経験を持つ他部署の人材をスタッフとして加えることで、タレントアクイジション組織へと変えていくというアプローチだ。

スカウトすべき人材に必要となるスキルは組織によってさまざまだが、例えば、採用業務において重要となるコミュニケーション力を持ち、説得や好感を得ることに長けている優秀な営業マンなどは、採用組織においても力を発揮する場合が多く、採用力アップの戦力となるだろう。

3.タレントアクイジション組織をゼロから構築する

これは主にスタートアップ企業などでよく採用されるアプローチである。

スタートアップ企業やベンチャー企業などは、無名であることから採用活動において最初から不利となっているケースは多い。しかも採用にかけられる人的、金銭的リソースは限られているため、より高度な採用力が求められる。

こうした企業は、企業の成長においてもっとも重要である人材獲得を効率的に行うため、通常の採用組織ではなく、タレントアクイジション組織を創業時から立ち上げている場合も多い。ゼロから構築したタレントアクイジション組織は、創業時から経営陣と密接に連携し、時には経営トップ自らが先頭に立って全社体制で人材獲得を目指すというスタイルの活動を展開することが可能となる。

まとめ

・タレントアクイジションとは、自社で実行することが可能なあらゆる手段を用いて、タレント(優秀な人材)をアクイジション(獲得)する役職や組織、行動を意味する言葉であり、企業が積極的にアクションを起こし、ターゲットを囲い込むことで人材を獲得する手法。

・タレントアクイジションでは従来の採用活動に加え、戦略の立案、タレント人材の分析と定義、採用ブランドの構築、求職潜在層へのアプローチ、引きつけなどのタレント人材発掘、採用後の定着と、より広範な採用活動を行う。

・タレントアクイジションには優秀な人材にピンポイントに焦点を絞れるため、入社する人材の質が高くなる。リソースを投資した分の見返りとして、質の高い優秀な人材を獲得できる可能性が高まることなどのメリットがある。

・高付加価値人材を求める企業ならば、タレントアクイジションを導入し、人材を確実に獲得できる組織へと変貌を遂げるべき時がきている。

・タレントアクイジション組織の役割には、1.ワークフォース分析を行う、2.タレントのデータベース化と常時アップデートを行う、3.自社の将来像をベースに採用ブランドを構築する、4.タレントを惹きつけるアクションを起こし、継続する、の4つの役割がある。

・採用組織をタレントアクイジション組織に変えるには、1.不足している知識・スキル・経験を持った人材を加える、2.経験者を外部から獲得し、組織デザインを変える、3.経営陣と連携しながら新たに組織を立ち上げる、の3つのパターンがある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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