2020.12.24

「アルムナイ制度(企業の退職者を再雇用する制度)」が近年注目を集める理由とは?

読了まで約 6

■人手不足打開策として注目を集める「アルムナイ」の存在

■退職者にアプローチするという新しい採用のカタチ

■自社の即戦力とも、ビジネスパートナーともなり得るアルムナイたち

■アルムナイ採用の導入にあたり注意したい2つのこと

■企業が気を付けるべきアルムナイとの付き合い方

■現役の従業員のアルムナイへの理解が成功へのカギとなる

アルムナイとは何か? 注目される背景

進む少子高齢化を背景に、日本の労働人口が今後大幅に減少していくにつれ、企業の人手不足は年々厳しさを増している。このような状況を打開する採用ソリューションのひとつとして、アルムナイ採用がいま注目を集めている。アルムナイとは、英語で「(男性の)卒業生、同窓生(=alumni)」の複数形(女性複数形はalumnae)を表し、HR分野においては、同窓の意味が通じることから退職者を指す用語として使われる場合が多い。

北米やヨーロッパなどの企業では、アルムナイを貴重な人材資源として認識し、退職後も接点を保ちつづけ、アルムナイを組織化することで一種のタレントプールを形成する「アルムナイ制度」が定着していた。日本でも、「アルムナイ採用」とは、退職した者を採用のターゲットとして捉え、採用アプローチを行っていく採用活動を指すことばとして主に外資系企業から浸透し始めている。

独自の雇用慣行が長らく続いた日本では、終身雇用や年功序列に代表される人事制度・評価制度の下で、ひとつの会社に身を置いて働くことが一般的であった。事実、従業員の、同一企業内における専門性や経験を重要視する「企業戦士」の育成は、戦後の高度経済成長を堅調に支えた要因のひとつであったことは間違いなく、結婚や出産などのライフイベントや家業の継承など、よほどの理由がない限り同じ企業で一生勤めることが通念上当たり前であった。そのため、「やりがい」や「より良い待遇」を求めて転職・企業・独立などを試みることは、身勝手な裏切り者扱いを受けることも少なくなかった。このような、流動性がなく硬直した人材市場において、「転職」は長らく白眼視され続けていたのだ。

しかし、バブル崩壊やIT革命、急激に進んだグローバリゼーション、そして驚異的なスピードで進む技術革新という、日本を取り巻く内外のビジネス環境変化は、日本社会全体に大きな変革を与えており、日本独自の採用慣行や雇用形態の前提だった条件が瓦解しつつある。そのため、現代においてはよりよい処遇を求めて転職や企業・独立をすることは、もはや当たり前の時代だといえよう。

労働市場では、国内が人口減少社会を迎えていることに伴って、労働人口が減少していることに起因する採用難が近年深刻さを増している事情もあることから、ここ数年では過去に退職した者(=アルムナイ)を採用の対象範囲と捉えた採用活動に理解のある企業数が増加しつつある。

こうした社会状況の変化に加えて、もともと自社に在籍した人材であることから社内事情に精通し、業務遂行や自社製品・サービスへの知識も豊かなアルムナイは、新卒・中途採用に比べて教育や研修に係る工数の大幅な削減につながることが期待されており、「即戦力」ともみなせることから大きな注目を集めているのだ。

以上のような背景から、導入が進むアルムナイだが、実際に企業におけるアルムナイの採用にはどのような利点があり、採用施策として導入するにあたってどのような点に注意すべきか。次項から、アルムナイ採用のメリットやデメリット、施策として導入する際のステップやポイントなどを中心に解説していきたい。

アルムナイ制度導入のメリットと注意点

前述のとおり、アルムナイ採用では、企業で働いていたことのある退職者を人的資本として捉えることで、アルムナイたちを活用することを目指す採用手法となるが、ここでは制度として導入した場合のメリットや、考えられるデメリットなどを押さえておく。

まずはメリットからみてみよう。

1. 優れた人材の登用と採用・研修コスト削減の両立
従来、優れた人材とは、自社の業務で求められる能力と経験を有することと、これを自社の環境に適応しつつ遺憾なく発揮する力を指すことが多いが、その点アルムナイはこの要件を最初から満たしており、比較的早期から戦力化する点は、企業にとってのメリットは計り知れない。

また、アルムナイ制度では採用前後を通したコスト削減効果が見込める点も、大きなメリットだ。アルムナイ制度の採用システムでは、退職者本人からの応募や、在籍中の従業員からの推薦というダイレクトリクルーティングの仕組みを利用することがほとんどであるため、求人媒体など募集にかかる費用が必要なくなり、採用予算は大幅に抑えられる。

さらに、自社での業務経験を有するアルムナイは、自社のビジョンや働き方を把握・理解している場合がほとんどであるため、研修にかかる時間とコストが大幅に軽減される。ただし、アルムナイは退職時に何らかの不満などが決め手となって職を退いているケースが多いため、丁寧なヒアリングや面談を通して、同じリスクを生まないようなケアが必要となってくるだろう。

2. 再雇用に至らなかった場合でもプラスな関係を構築
アルムナイとの良好な関係を維持することで、結果的に選考プロセスでは採用に至らなかった場合でも、アルムナイたちを有効に活用できるメリットがある。

例を挙げると、アルムナイが自社のサプライチェーンへの転職を果たしたとしたら、そのアルムナイにとって自社はクライアントとなり、引き続きビジネス関係が保たれる。または、自社のPRアンバサダーとなってもらうこともあるかもしれず、これまでの経験を活かしてもらうために業務委託パートナーとなってもらうなど、さまざまなビジネスシーンにおいて、自社とアルムナイとの関係性構築が可能となるであろう。

自社の内情をよく知っている人員として、アルムナイとの関係性を重視することから、採用のための母集団であるということ以上に、ビジネスパートナーとしての価値までもあることが分かる。

適切なイグジットマネジメント(後述あり)を行うことで多くのメリットを享受できるアルムナイ採用だが、同時に制度導入にあたっていくつかのデメリットとなり得る懸念があることも事実だ。以下ではアルムナイ採用のデメリットについてみていく。

1. 情報漏洩リスクやコミュニケーションコストの増加
たとえ自社を退職したアルムナイたちが転職や他のキャリアパスを進もうとも、自社へのブランドロイヤリティを維持する目的において、アルムナイのコミュニケーションがとれる仕組みを利用することは大変有用であり、実際にこれを積極的に導入・運用することで、アルムナイをある種自社の広告塔として活用している企業も存在する。

企業が自前で管理している分、アルムナイと現役従業員たちの交流をモニターできる利点もある。しかし、これらの運用を通して企業の広報部門や採用部門が抱え込むコミュニケーションタスクの負担が増える点についても留意しておきたいところだ。

さらに、思いがけないアルムナイ同士の交流の内容を、ついうっかり現在勤めている他社で話してしまう、または逆に他社の愚痴をアルムナイ同士の交流の場で話してしまうといった、情報リスクについても注意が必要だ。最悪の場合、守秘義務契約を結んでいた知識を漏洩してしまう重大インシデントにつながる可能性もあることから、例えばアルムナイと現役従業員をつなぐ交流の場があるとしたら、その利用規約などを広く周知しつつ、違反行為には厳しい対処をいとわない毅然とした姿勢で臨むことが求められてくるだろう。

2. 既存の従業員の士気が低下する恐れ
アルムナイ制度を導入する大前提となるのが、既存従業員への丁寧な周知と、理解を得ることだ。これまでの雇用慣行では、新規入社といえばほとんどが新卒社員で、わずかに中途採用の経験者が入るといった割合が当たり前だった。しかし、アルムナイ採用を本格化することで、これまで経験したことのない、復職者を採用するということになるため、復職者の処遇や役職などは、十分で慎重な検討を要する。なぜなら、いくら人手不足が原因とはいえ、今働いてくれている従業員の反発を招いてしまっては本末転倒な話となるからだ。

だからこそ、自社で現在働いている従業員に対して、アルムナイ採用を導入するに至った経緯や、今後アルムナイ採用を通して会社として目指すこと、アルムナイ採用が解決できる人材課題などを説明し、従業員の理解を得ることで、従業員がいつか自分もアルムナイとなった時に、現役従業員とのつながりを持ちたいと思えるような良好な関係性を築くことがカギとなってくる。

制度導入のステップとポイント

アルムナイ採用では、自社を退職した者が採用ターゲットにおける「奪うべきパイ」となってくるため、規模が大きく帰属意識の高いアルムナイ組織を構築できれば、企業にとっても採用での母集団以上の価値を創出することとなり、大変有用である。その規模の必然性から、アルムナイ制度の活用は従業員数の多い企業向けの採用アプローチといえるだろう。

また、専門性が高く、企業の規模や組織の環境に左右されず能力が発揮しやすい業種や職種であれば、自社にアルムナイ制度を設けるメリットはより大きくなる。そのため、例えば製薬会社を含めたメディカル系や、ITやフィナンシャル系などは、アルムナイ制度の恩恵を最大限に受け得るかもしれない。同時に、企業規模が大きいと、必然的に退職する者も母数が増えることから、大きなアルムナイ組織を作りやすい側面もある。

ただし、ただ単に大きくて自社に役立ちそうなアルムナイ組織を作るだけでは、選考にあたって、または採用後に思うようにアルムナイが活躍できない場面が出てくるだろう。そこで、ここではアルムナイ制度の導入におけるポイントを紹介していこう。

1. イグジットマネジメント
アルムナイを採用する上での最も重要な地盤固めになるのが、イグジットマネジメントだ。英語(Exit Management)の意味する通り、働く個人にとって会社との最後のやり取りとなる「退職」に関わる部分のマネジメントである。企業として、いかに円満な退職を実現させるのか、そしていかに快く自社からの門出を見届けるのかという観点で取り組むことで、アルムナイとの継続的で良好な関係構築を目指すことが重要だ。ある飲食系の企業では、退職後も在籍時と同じ「社員割引」制度を利用できるようにしており、これは退職者のブランドロイヤリティに資すると同時に、アルムナイとの接点を保ち続ける機会を創出しているいい例だといえる。

2. 退職者を受け入れる心構え
アルムナイ制度導入にあたっての注意事項でも述べたこととなるが、会社全体でアルムナイ(=復職者)を受け入れ、その活躍を認めることのできる考え方を浸透させるため、全社をあげた意識改革の断行が欠かせない。たとえば定期的にアルムナイと現場従業員との交流の機会を設けるなどして、アルムナイの価値を従業員にも理解してもらうことで、自社でアルムナイを活用できるかどうかが変わってくるだろう。接点の作り方は採用に限らない。たとえば、現役従業員のための研修として、退職した自社経験者数名に、自社での経験を話し合うパネルディスカッションを行ってもらうといったことも大変有用だといえる。

3. いろいろな働き方を許容すること
アルムナイたちは、数多くの理由で一度自社を退いている事実がある。仮にそれが人間関係の悪化を原因としたならば、あるいは自社に戻ってくることはないかもしれない。しかし、「正社員と同じフルタイムでは働けない」、「将来起業したいと思っている」などといったことが理由であるならば、アルムナイ制度を利用した「カムバック」には、雇用形態の豊かさが求められてくることだろう。時短勤務や業務委託、副業容認など、現在のニーズに合わせたアルムナイたちのメリットを意識することも大切となってくる。

まとめ

・少子高齢化に伴う労働人口の減少で、深刻な人手不足がここ数年続いてきた日本だが、ここにきて企業の「同窓生」を採用ターゲットにする新たな試みが、注目を集めている。日本でのOB・OGに相当する「アルムナイ(Alumni)」という英語に代表される、一度自社を退職した者への採用アプローチを行うという「アルムナイ採用」だ。

・「よっぽどの事情がない限り、退職者は裏切り者だ」といわれた時代はとうに過ぎ去り、今では転職や独立などはより身近なライフイベントとなりつつある。慢性的な人手不足が背景にあることは間違いないが、自社の事情に精通した業務経験のある人材の登用を目指す企業の動きは、それ以上のメリットを企業にもたらすといえる。

・アルムナイ採用は、自己推薦などを元に、もともと自社の環境で適用して働いていた人材であるため、能力や経験は申し分なく、短期間の研修で実戦投入できる可能性が高いことから採用と研修に係るコスト削減につながるメリットは大きい。また、採用とは縁がなかったアルムナイでも、業務上のパートナーとして活躍する可能性は大いにあるため、アルムナイたちとの良好な関係を継続的に構築することは重要となってくる。

・企業としては、アルムナイ同士や、アルムナイと現役との交流は大いに奨励すべきところだが、同時に思いがけない情報漏洩リスクには十分注意したいところだ。また、アルムナイを採用したことで既存の従業員の反発や不満が発生することは本末転倒のため、制度の意義やアルムナイとの交流の重要性について、社内での丁寧な啓蒙活動が必須となる。

・アルムナイ採用を成功させるためには、そもそも退職する者に対しての心構えを変える必要がある。いかに円満退職のケースを増やし、アルムナイとの長く好ましい関係性を構築するかが、重要となってくる。また、多くの理由で辞職しているアルムナイには、再登用にあたって、ある程度フレキシブルな雇用形態を準備することも大事である。

・企業を支えているのは、その瞬間働いている従業員たちだ。だからこそ、会社全体でアルムナイを受け入れるためには、アルムナイの活躍も認めることのできる意識変革を、従業員に起こしていく必要がある。アルムナイの価値を正しく理解してもらい、復職者の採用を前向きな制度としていくためには、アルムナイとの交流を活発にすることが求められる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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