2021.2.3

エンゲージメントを向上させる具体的な方法、事例とは?|内定者・新入社員2021年度版

読了まで約 7

■従業員エンゲージメントのイロハ

■そもそも「エンゲージメント」とは?

■従業員エンゲージメントの調査で用いる3つの指標

■企業が従業員エンゲージメントを測る2つのメリット

■エンゲージメントを高める5つのアプローチとは?

■従業員エンゲージメント向上の実践例2つ

エンゲージメントとは何か?

近ごろ、さまざまな企業で従業員エンゲージメントの向上に関する取り組みが増えているが、企業の発展と従業員の成長に大きく関わる要素である、エンゲージメントとは一体どのようなものか。

本稿では、その基本的な考え方や、ほかの類語との相違点、また取り組みにおけるポイントなどを考えていく。

まずは、エンゲージメントの基本的な考え方をおさらいしておこう。

従業員エンゲージメントとは、自身の所属する企業の方向性に共感しており、企業に貢献したいと希求する意欲を指している。

仕事や会社に対する熱意あるいは信頼度、また愛社精神といった言葉に置き換えることもできるかもしれない。会社での従業員エンゲージメントが高いほど、従業員が会社を信頼して好意的に働いている状態であるとされており、仕事に対するやる気やパフォーマンス向上につながるものだ。

やる気が増しており、愛社精神に富んだパフォーマンスの高い人材が増えるということは、企業全体としての生産性向上につながり、これは必然的に人材のリテンションや業績向上にも資することを意味する。

関連記事:リテンションとは?採用マーケティングで使う場合の意味と具体的なメリット

激しい人材獲得競争や、複雑さや曖昧さが増しながら加速して変化していくVUCA時代の市場競争における企業の優位性確保のため、一部の企業の経営層や人事部門において注目されてはじめている概念のひとつだ。

しかし、日本企業における従業員エンゲージメントの現状は、世界的にみても低い水準であるという調査結果もあり、浸透するのはまだまだこれからであるともいえる。

日本の企業における従業員エンゲージメントの率が低い要因のひとつとして、従来の従業員の育成方法や研修方法などが、さまざまな価値観を擁する現代の従業員に合致しなくなってきたからだともいわれている。同時にエンゲージメントという語と近しい概念を持つ類語が多いことから、エンゲージメントという概念自体への理解が進んでいないことも、理由のひとつとして考えられる。

ここでは、用語としての「エンゲージメント」の類似語のうち代表的なものを取り上げ、それぞれの基本概念と、エンゲージメントとの相違点について確認していこう。

1. モチベーション
モチベーション、いわゆる仕事に対する「やる気」は、エンゲージメントを構成する重要な部分的要素だ。

モチベーションという用語自体は、従業員自身の心理状態を表す主観的なもので数値化が難しい。それに対して、従業員エンゲージメントとは、客観的に見た場合の従業員と企業との関係性だということができ、数値化が可能なものである点が異なる。

2. 従業員満足度
従業員満足度は、エンゲージメントを構成する一部分だと定義できる。

この言葉の意味は直接的に従業員が所属企業に感じている居心地の良さに重点を置いているため、必ずしも企業の業績や働く個人の生産性などに結び付くとは限らないということに注意が必要だ。

エンゲージメントでは企業への共感や能動的な貢献に着目するが、従業員満足度はあくまでも働く個人が感じている企業での働きやすさに対する所感に限定される。

3. ロイヤリティ
ロイヤリティは英語で「忠誠心」を指す。 従業員に限らず、自社の顧客などを指しても用いる用語ではあるが、日本では殆どと言っていいほど戦後長きにわたってヒエラルキー型の組織構造を有する企業が多かったため、従業員のロイヤリティ(=企業への忠誠度)を重視する傾向が強かった。

ロイヤリティの高さが企業への貢献と正比例する場合もあるが、この場合主従関係が色濃く反映される点がエンゲージメントと異なる。

4. コミットメント
コミットメントという用語を、エンゲージメントとの類語として考えた場合、企業が従業員に要求する行動あるいは結果に対して、働く個人がどれだけこれに応えている、あるいは承認しているかという状態を指して用いる。

エンゲージメントが能動的に組織への貢献や期待に応えていく行動を指すとすれば、コミットメントという枠で考える場合、これはあくまで企業側の要請に基づいているという受動性が、エンゲージメントと異なっている。

エンゲージメントの調べ方と向上のメリット

前項では、エンゲージメントの基本的な概念と、混同しやすい類語との相違点について確認した。本項では、従業員エンゲージメントの調査方法と、エンゲージメント向上が企業にもたらすメリットについて確認していく。

そもそも企業にとって自社の従業員エンゲージメントを測定するメリットとは、可視化されたエンゲージメント率が柔軟で効果的な人事施策の執行に資する点にある。

逆に、従業員エンゲージメントが不明瞭な状態で人事施策を采配することは、企業にとって人材のリテンションなどの観点からリスクの大きい行為であるといってよい。

このため、従業員エンゲージメントを正確に測ることは、企業にとってヒトが最も重要な資本である以上、最優先で行われるべきものだといえる。

ここでは、まず実際の測定方法や指標についてみていく。従業員のエンゲージメントを測定する方法として最も多く用いられるのはアンケート調査である。アンケート調査を行うにあたっての実施障壁が低いこともあり、頻繁な企業では日課としてコンピュータによる意識調査を実施しているところや、その他月1回または半年に1回実施している企業も多い。

なお、従業員エンゲージメントを測るアンケート調査は、指標となる下記の3要素に基づき作成される。

1. エンゲージメント総合指標
これは、従業員が「今の企業を総合的に見てどのように感じているのか」、あるいは「どのように評価しているのか」を理解するための指標だ。

従業員としてのロイヤリティや知人などへの自社推薦度を測る「eNPS(Employee Net Promoter Score)」、総合的に勘案して今職の企業にどのくらい満足しているかを測る「総合満足度」、現職でどれくらい働きたいかを測る「継続勤務意向」の3つで構成される。

2. エンゲージメントレベル指標 これは「仕事に対してどれくらい熱意を持って取り組んでいるのか」を測る要素だ。

エンゲージメントレベル指標では、「熱意」「没頭」「活力」の3つに焦点を当てたUWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)という調査項目が確立されており、「自身の業務に誇りや価値を見出しているか」や「仕事をしていると時間が経つのが早く感じるか」に注目する。

3. エンゲージメントドライバー指標
これは「最終的に従業員エンゲージメントを向上させる要因となるもの」を測る要素だ。

エンゲージメントドライバーは、組織と個人との関係性をつかさどる「組織ドライバー」、従業員が携わっている業務のルーティン性や難易度を司る「職務ドライバー」、そして従業員が業務にあたる上で個人的資質が与える影響を司る「個人ドライバー」の3つで構成されている。

また、アンケート調査以外にも、最先端の技術を活用した客観的なデータ収集が行われている場合もある。

例えば、顔認証技術を応用して表情を読み取ることから仕事への没頭レベルを数値化したり、キーボードの打鍵速度などから仕事への集中度合いを測ること、または従業員の許諾を前提に心拍数などの生体情報を測ることでエンゲージメント測定に役立てる取り組みなどがあげられる。

では、これだけ細やかな工数とコストをかけて、企業が従業員からのヒアリングを行うメリットはどこにあるのか。

企業が定期的に従業員エンゲージメントを計測するメリットは、大きく分けて以下の2つである。

1. 生産性、顧客満足度、企業業績の向上
海外の調査でも、従業員エンゲージメントの高い企業と低い企業では営業利益率に約1.5倍の差がみられるという結果もあるように、従業員エンゲージメントが高いと、企業の業績向上にもつながる。また、自発的で積極的な従業員が増えることにより、生産性が上がり企業活動の効率と品質が向上することにより、顧客満足度の上昇にもつながることが期待できる。

2. 人材リテンションの向上
従業員エンゲージメント向上は、離職率の低下(=定着率の向上)に貢献する。充当要員としての中途入社採用コストを削減する効果もあり、自社での従業員定着率向上に資することから、従業員エンゲージメントの向上は重要だ。

エンゲージメント向上策と実施例

これまで、日本ではあまり浸透していなかった考え方ということもあり、重視されることが少なかった従業員エンゲージメントだが、変化が激しく曖昧で複雑さの増す現代社会において、ますます重要になってくる概念であることは間違いない。本項では、従業員のエンゲージメントを高めるのに有用な取り組みをみていく。

従業員エンゲージメントを高める施策にはいくつかのアプローチがあるが、ここでは大きく5つの取り組みをみていく。

1. 従業員の価値観を把握する
まずは自社の従業員が有する価値観を把握していくことから始めるべきだ。仕事が命と考える人もいれば、ワークライフバランス重視の人もいることから、全体バランスに鑑みつつ、従業員一人ひとりが働きやすい環境づくりのために定期的なアンケート調査を行う中で、従業員のエンゲージメントが高まるニーズを把握することに努めるべきだ。

2. マネジメント層を教育する
従来型の組織行動では、上長から部下への上意下達で一方通行な指揮命令系統が主だったが、従業員エンゲージメントを重視する場合、上司には部下が置かれる状況を正しく認識し、従業員エンゲージメントを高めて、働く個人がこれまで予想だにしていない能力を発揮させていく引き立て役であることが期待される。

3. タレントマネジメントを活用する
適材適所の人事マネジメントは、働く個人の能力を最適なかたちで最大限発揮してもらうために行うものだ。働く個人の特性を把握することを通じて、個々の適材適所を把握することにより、個人としての長所や能力を遺憾なく発揮できる状態を作り出せるため、従業員エンゲージメント向上に有用だ。

4. 従業員にオーナーシップを持たせる
言われたことや指示されたことのみを行っている人材は、期待された以上の成果をあげることが難しい。当事者意識やオーナーシップ意識を醸成することで、然るべき権限委譲や情報共有を通して従業員エンゲージメントを高め、企業の業績向上に資するパフォーマンスを発揮することが期待できる。

5. リーダーシップを推奨する
リーダーシップのある人材を適切なかたちで評価することは、従業員エンゲージメント向上を目指す上で重要な要素だ。しかし、リーダーシップの発揮は数値化が難しく、評価する基準を明確に設けるなど、人事評価システムの再考も検討する必要が出てくる。

次に、さまざまな業種における実際の企業による取り組み実施例についてみていこう。

1. 国内大手建機メーカA社
国内でも有数のシェアを誇る大手建機メーカA社では、従業員全体のエンゲージメントを高める取り組みとして、まずはマネージャー層の教育を通して、マネジメント能力の強化から、働く従業員全体のエンゲージメント向上を計る施策を打ち出した。

取り組みのポイントとして、経営層よりも「ゲンバ」に近いマネージャー層こそ従業員のエンゲージメントに与える影響が大きいという、経営判断があげられる。

マネージャー層は、「信頼を得ること」、「部下のモチベーションを向上させること」、「変化へ対応できること」、「チームワークづくりができること」、「権限委譲の判断ができること」などの5項目を重点的に学び、マネジメント能力強化を行うことで、より丁寧な部下との関係性構築などに励んだ。

その結果、従業員エンゲージメント調査ではエンゲージメント率が33%から70%に向上、また生産ラインの工場でのパフォーマンスも6ヶ月間で9.4%向上した。

2. 外資大手コーヒーチェーンB社
世界的に著名な外資大手コーヒーチェーンB社では、従業員のオーナーシップに着目した、自発性を最も重視するアプローチを通して従業員の自己成長とエンゲージメント向上につなげている。

そのポイントとなるのは、「自分を認めること」、「他者を信じること」、「誰かの役に立とうとすること」の3点である。

これは、例えば職務上の過失や不都合が生ずる行動をとった場合に、上司による叱責や訓戒を行うのではなく、「自分の行動で相手あるいはお客さまがどのように感じたか」ということと、「今後どのような行動を取るとより良くできるのか」という点について従業員に振り返りを実施する。

日常的に他者に役立つことを考える機会を設けることで、エンゲージメント向上を図りやすい職場環境づくりを目指している点が特徴だ。

まとめ

・従業員のエンゲージメントとは、自身の所属する企業の方向性に共感しており、企業に貢献したいと希求する意欲を指す言葉であり、仕事や会社に対する熱意あるいは信頼度、また愛社精神といった言葉に置き換えることが可能だ。会社での従業員エンゲージメントが高いほど、従業員が会社を信頼して好んで働いている状態であるとされており、仕事に対するやる気やパフォーマンス向上につながるとされる。

・まだまだ日本では浸透しているといえない「エンゲージメント」というだが、低い定着率の要因として、他の用語との混同がある。類似語として代表的なのは「モチベーション」「従業員満足度」「ロイヤリティ」「コミットメント」などがあげられるが、モチベーションは数値化が難しく、従業員満足度は必ずしも能率向上に結びつかない点でエンゲージメントと異なり、ロイヤリティやコミットメントは従業員の能動性ではなく、受動的あるいは消極的な主従関係下でのパフォーマンスを測る用語となる点で、大きく異なる。

・従業員エンゲージメント調査で最もポピュラーな手法はアンケート調査だ。調査では、従業員が「今の企業を総合的に見てどのように感じているのか」を測るエンゲージメント総合指標、「仕事に対してどれくらい熱意を持って取り組んでいるのか」を測るエンゲージメントレベル指標、そして「最終的に従業員エンゲージメントを向上させる要因となるもの」を測るエンゲージメントドライバー指標の3要素が組み込まれ、頻度が多い企業だとアンケートを日課とする場合もある。

・企業が工数とコストをかけて従業員エンゲージメントを測るメリットは2つある。1つ目は、高いエンゲージメント率が能率向上や企業活動の効率改善に資するからであり、最終的には業績を左右する要素となる。2つ目は、エンゲージメントの高さが離職率の低下、すなわち定着率の向上につながることにあり、これは莫大な採用コストや新人教育コストを下げるドライバーとなるため、企業にとってメリットが大きい。

・これまで日本であまり浸透しなかった従業員エンゲージメントを重視する声だが、VUCA時代での企業競争力強化のためには欠かせない施策となる。そこで、従業員エンゲージメントを高める取り組みにあたって、次の5つのアプローチを重視すべきだ。「従業員の価値観を把握すること」、「マネジメント層を教育すること」、「タレントマネジメントを活用すること」、「従業員にオーナーシップを持たせること」、「リーダーシップを推奨すること」の5要素である。

・従業員エンゲージメントを高める取り組みの事例として、まずはマネージャー層の教育に注視し、従業員の信頼を得ることや部下のやる気を引き出すことなどを研修して、エンゲージメント率が2倍以上に向上した大手建機メーカー、自他を認め信じることで、他者の役に立とうとするマインドを重視する教育を通して日常的に他者に役立つことを考える機会を設けることで、エンゲージメント向上を図りやすい職場環境づくりを目指している大手コーヒーチェーン企業などがある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

get_field('cf_general_profile_name', 39);

『MarkeTRUNK』編集部

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から
知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。
さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。
独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

関連記事 RELATED POSTS

関連資料ダウンロード RELATED POSTS

メルマガ会員登録で最新マーケティング情報やトレンド情報、セミナーイベント情報をチェック!

メールマガジンのサンプルはこちら