■企業がインターンシップを実施する3つの意図
■学生がインターンシップに参加する3つの目的
■企業が実施するインターンシップの期間と種類とは?
■それぞれのインターンシップ期間がもつメリットとは?
■インターンシップ実施を検討する企業での懸念点とは?
■インターンシップを実施する際に注意すべき3つのポイント
企業と学生、それぞれにとってのインターンシップとは?
かつて、職業訓練プログラムとしてアメリカで産声を上げたインターンシップ制度。日本では、バブル経済の崩壊により長期化しつつあった就職氷河期の中で、学生と企業を結び付ける意図をもって、文部省、通商産業省、そして労働省により推進されはじめた、一般企業向けのインターンシップとなって普及していった。
近年では、インターンシップは産学連携の制度として一定の評価を得たといえ、かつてない企業数がインターンシップを実施するようになっている。
学生たちもこの流れに沿って、参加するインターンシップ数は年々増加する傾向にあるようだ。
HR総研の調査では、2022年卒学生が参加したインターンシップの社数「4~6社」が最多で30%、次いで「10社以上」が18%、「3社」及び「7~9社」がともに14%などとなっている。「0社」は8%にとどまり、9割以上の学生がインターンシップに参加していることが分かる。昨年と比較すると、4社以上のインターンシップに参加した学生の割合が11ポイント増加しており、「10社以上」が18%(昨年13%)と2割近くを占めるなど、参加社数は増加傾向にあることが分かった。(ProFuture株式会社/HR総研)
そこで本稿では、まずインターンシップを企業が実施する意図や、学生がこれに参加する目的について確認する。その上で、企業が実施可能なインターンシップの種類を整理し、実施によりもたらされるメリットについて見ていこう。
最終項では、インターンシップを導入することにより懸念されるデメリット、およびこれを抑え、インターンシップ実施による効果を最大化させるポイントについて確認していきたい。
まずは、企業側がインターンシップを実施する目的3つを見ていこう。
1. 優秀な人材を見つけ、早期から接触したい
人材不足と採用難という現況の反面、学生が勉学に集中できるようにと、就職協定の改定により、企業が採用活動を行うことができるスケジュールは年々短期化してきた。
このため、企業側がインターンシップを実施する最大の目的は、従業員候補となる優秀な学生たちと早期から接点を持ち、この接点を保ち続けることである。
2. 採用選考でのミスマッチを早期から防止したい
早期にインターンシップを実施し、学生とコンタクトすることで、企業にとっての大きな懸念材料である学生とのミスマッチによる早期退職を減らすことが期待できる。
多くの工数や予算がかかる新卒採用において、自社との相性を見極める時間を長く取れることが、ミスマッチの防止へとつながり、これが企業にとってのインターンシップ実施の動機のひとつとなるのだ。
3. 自社の採用活動を、企業のPR活動として活かしたい
早期インターンシップ実施により、採用活動を短縮化することは、学生の就職活動の負担を軽減することにつながるため、それ自体が企業にとって社会貢献活動の意味合いを持ちつつある。
その意味で、インターンシップ実施による採用活動の短縮化は、同時に企業広報に有用となるケースが多い。ビジネスモデルがBtoC企業の場合、学生たちは自社プロダクトの潜在的な顧客であり、BtoB企業ならば、将来の取引先となる可能性もあるからだ。
では次に、学生がインターンシップに参加する動機や目的、そしてメリットについて、以下の3点を見ていこう。
1. インターンシップ参加により内定獲得の確率を高める
前出の通り、インターンシップは企業が行うもっとも早期の選考に係る活動のひとつだ。
このため、学生にとっては企業説明会や実際の選考活動中よりも早くから、多くの時間をもって自身のアピールを企業側に行えられることに、参加メリットを見出していることが多い。
また、志望企業のインターンシップに参加したときの経験を選考中に面接官に伝えることで、その企業に対する強い志望度をアピールできることにも参加動機があるといえる。
HR総研の調査では、インターンシップに参加する目的は「選考を有利に進めるため」が文理ともに最多とのデータがある。(ProFuture株式会社/HR総研)
2. 現在の自分の実力を知り、自己分析に役立たせる
学生生活と社会に出てからの生活では、学生時代に想像しなかったような違いが多くあるといってよい。
学生は、インターンシップに参加することによって、現在の自分の力がどれだけ希望する業界で通用するのかという力試しの機会を得ることとなる。
また、インターンシップでは、グループワークや先輩従業員との会話などが、学生の自己分析にも役立つという分かりやすいメリットもある。
3. 志望業界をより深く理解し、志望度を高める
学生にとって、インターンシップへの参加を通して、志望する業界の実態、労働の時間帯や休日のパターン、あるいは企業カルチャーなどについて知ることが可能となるため、企業理解の向上につなげることが期待できる。
特に、企業カルチャーや先輩従業員の雰囲気などは、言語化できない部分も多く、実際に社員と話す機会が得られるインターンシップを通じて体感することによってはじめて分かる部分が大きい。
インターンシップの種類と導入のメリット
前項では、企業がインターンシップを実施する意図と、学生がこれに参加する目的について確認してきた。ここでは、日本において実際に実施されているインターンシップの種類や、インターンシップを導入するメリットについて見ていく。まずは、主なインターンシッププログラムの種類から確認していこう。
1. 1day・2daysなどの短期インターンシップ
1dayや2daysなどの短期インターンシップには、自社の認知度を上げる目的をもって実施されることが多く、あまり知られていない業界などの場合、業界研究の側面を強く有する場合もある。
インターンシッププログラム内容は、事業場内の見学や、セミナー形式での講義型となることが多いといえ、短期間であるため、回数を増やして多くの学生と接触することが可能だ。
短時間でのグループディスカッションを行わせ、最終的に発表を行うなどのプログラムも実施可能だ。
HR総研の調査では、「最も望ましいインターンシップのタイプ」については文系・理系ともに「2~3日タイプ」が圧倒的に多く、文系60%、理系51%となっている。(ProFuture株式会社/HR総研)
2. 数日~1ヶ月程度の中期インターンシップ
数日、数週間、あるいは半年などの中期インターンシップは、短期と長期の中間という位置付けであり、主に短期、長期で行われる2種類の内容がどちらも実施可能な点が特長だ。
1つ目は、企業が学生にある一定の課題を課し、学生がグループワークにてこれに取り組むワークショップやプロジェクト型だ。
2つ目は、後述することになる長期インターンシップでも行われている、実際に従業員と同じく業務に従事する就業型の有給インターンシップだ。
3. 1年以上の長期インターンシップ
ヨーロッパやアメリカでも実施されることの多い、1年以上の長期インターンシップはいわゆる就業型であり、企業における通常の業務を担当することとなり、学生からすると従業員と変わらない働きが期待されるものとなる。
学生にとっては、企業の内情を知る貴重な機会となる上、実際に労働の対価として賃金が発生する有給インターンシップとなることから、学びつつ働ける貴重な機会となる。
次に、企業にとってそれぞれの期間のインターンシッププログラムを実施するメリットがどのような点にあるのか、確認していこう。
1. 超短期インターンシップを実施するメリット
1dayインターンシップや2daysのインターンシップなどを企業が実施するメリットは、主に2つある。
まずは、企業案内パンフレットや採用ウェブサイト以上に、企業の雰囲気や業界について知るきっかけを創出できる点だ。2つ目は、短期インターンシップを数多く開催することで、多くの学生との接点を早期から持てるため、自社の知名度を高めることが期待できる点だ。
2. 中期インターンシップを実施するメリット
数日から数か月程度の中期インターンシップを企業が実施する目的とメリットは、ある程度志望度が高い学生に、より自社で働くイメージを具現化してもらうことにある。
中期インターンシップでは、一定期間企業と学生が顔を合わせる時間が生じるため、自社のことを正しく理解してもらう機会を提供できることに最大のメリットがあるといえよう。
3. 長期インターンシップを実施するメリット
企業にとって、長期インターンシップを学生へ実施するメリットは主に3つある。
1つ目は、学年を問わず応募できるようにすることで、より早期から志望動機の高い学生と長期の接点を持つことが可能であること。
2つ目は、企業が学生との相性を見極める時間が十分にあり、早期からミスマッチを防げること。
3つ目は、学生などを企業に受け入れることで、既存の従業員にポジティブな刺激を与え、自社内に活気を生む期待ができることだ。
インターンシップで準備すべきこと
これまで、インターンシップの種類や、実施する期間によって期待される選考活動におけるメリットなどを見てきたが、インターンシップをこれから導入する企業では、慣れない状況において現場への負担やコスト増大などの懸念が生じる可能性もあることだろう。
そこで本項では、予想されるデメリットや、インターンシップ導入初期において注意すべき事項などを確認していく。
まずは、インターンシップの導入を検討するにあたって懸念される2つのデメリットについてから見ていこう。
1. 採用予算が肥大化する懸念
インターンシップを実施する場合、強力なネームバリューを持つ大手企業でない限り、インターンシップ実施のアナウンスをすることと同時に、自社そのものを学生に知ってもらうインターンシップ広報が欠かせないものとなる。
これは採用予算を増大させることが予想されるため、予算の限られている環境下では実施を躊躇してしまう懸念点となり得る。
しかし、新卒採用1名あたりのインターンシップを通じた採用コストは安価であるという試算結果もあることから、一度自社でのコストシミュレーションを行う価値は十分にあるといえよう。
2. 通常業務を圧迫する懸念
事業場内へ長期インターンシップにて学生を受け入れる、あるいはセミナー型の短期インターンシップを開催するという場合においても、学生相手のため、ビジネスマナーなどから指導する必要もあり、現場または採用担当者の負担増は不可避であることから、社内リソースを圧迫することが大きな懸念材料となり得る。
このため、まずは社内の従業員に対して自社が各種インターンシップを実施する意義について丁寧に説明を行い、全社一丸となって採用に取り組むという姿勢を明確にした上で、それを可能にする体制を構築するといった対策が求められるだろう。
次に、企業がインターンシップを導入にあたって、注意すべき点を3つ確認していこう。
1. インターンシップ実施の目的を明確にすること
インターンシップの導入を検討する際、採用担当者が最も重要視すべきことは目的の設定を行うことだ。
実施する期間によって、適切な内容やメリットが異なるのと同様に、企業のCSR施策として就業型の長期インターンシップを提供する場合と、母集団としての求職者との接点を最大化させる1day業界研究セミナーを用意するのでは目的と実施内容が大きく違ってくるからだ。
まずは自社の目的とする選考施策や広報施策を明確にし、これにあわせてインターンシップ導入を検討していくことが重要だ。
2. 賃金の生じる内容か確認する
特に中長期インターンシップの実施を検討している企業において注意が必要なのは、無給であることや、報酬額が時給換算した際に地方自治体所定の最低賃金を下回る安価な賃金であった場合だ。
インターンシップに参加した学生が法定(労働基準法第9条)の労働者として見なされる場合、企業には賃金を支払う義務が生じる。
法定の賃金支払い基準は、「使用者と指揮命令を受ける関係にあったか」という事実関係と、「インターンでの作業が企業の利益につながった」場合などとなるため、インターンシップ実施内容の策定では気を付けたいポイントだ。
3. インターンシップを中途半端に施策しないこと
適切なかたちで実施され、上手くいった場合は、採用戦略と広報戦略の双方において企業に大きなメリットをもたらすインターンシップ施策だが、中途半端な内容で行った場合はデメリットが大きい。
例えば中長期のインターンシップで無給であることや、短期で不十分な内容の就業型プログラムを作ってしまうなど、企業側の施策内容が不適切である場合、求職者である学生が抱く企業イメージが悪化するだけでなく、負担が生じる現場従業員からの不満にもつながってしまうからだ。
このため、明確な目的意識と円滑な社内協力を前提として、適切な内容で実施することが重要だ。
まとめ
・深刻になりつつある採用難と人材不足という現状の下、企業がインターンシップを実施する目的は主に3つある。1つ目は、早期から自社に関心のある層と接触し、優秀な人材を見つけ出すこと。2つ目は、インターンシップ実施を通して、採用選考での学生とのミスマッチを減らし、早期退職率の減少を目指すこと。3つ目は、インターンシッププログラムの実施を企業の広報活動に利用することだ。
・学生がインターンシップに参加する意図は主に3つある。1つ目は、企業による採用活動の一環ともいえるインターンシップに参加することで、面接などより多くの時間を使い自己アピールできることと、インターンシップ参加経験を志望動機に使えること。2つ目は、現在の自分の実力を知り、自己分析に役立たせること。3つ目は、企業カルチャーや先輩従業員などの雰囲気から志望業界をより深く理解し、志望度を高めることだ。
・企業が実施するインターンシップは大きく分けて3タイプある。短期タイプは、セミナー型で早期から多くの学生と接触し自社の知名度を高めることを目的とする。中期タイプは、主にグループワーク型あるいは長期タイプと同じ就業型を実施することで、自社についてより正しく理解してもらうことを目的とする。長期タイプは、通常の従業員と同じ職場での就業と通じて、企業について学びながら働く機会を学生に提供するものだ。
・インターンシップは実施される期間に応じて異なるメリットがある。短期タイプは、多回数実施することで多くの学生との接点を創出できる点、中期タイプでは、視座の高い学生を対象に自社をより知ってもらうことで、選考へつなげていく点、長期タイプは、志望度の高い学生と長期間接点を保てる点と社内の既存従業員に新鮮な風を入れる点にメリットがある。
・インターンシップをこれから導入する企業では、慣れない状況下にてデメリットと判断される点もある。例えば、インターンシップと自社を学生に知ってもらうインターンシップ広報が欠かせないものとなり、採用予算を肥大化させる懸念がある。あるいは、学生を受け入れるあらゆるインターンシップの開催は、採用担当者と現場従業員の双方の業務量を増大させるため、全社の理解と協力を欠くことができないものだ。
・インターンシップの実施を検討している企業が注意すべき点は主に3つある。1つ目は、自社のインターンシップ実施の目的を明確にすることで、実施内容などを策定していくこと。2つ目は、インターンシップに参加した学生が、法定の「労働者」であった場合、対価としての賃金を支払うこと。3つ目は、企業イメージの悪化や、自社従業員の不満などを防ぐため、インターンシップを中途半端なものにしないことである。