2020.11.6

EX(従業員体験)向上の重要性とは?企業が実施している具体的な施策

読了まで約 6

・金銭的価値以外の要素で従業員のエンゲージメントを高めるEX。

・EXにおける「経験」とは?

・EXを施策立案することによるメリット。

・いつ頃からEXは認知されはじめたか?

・EXの価値を高めるにはどのような施策があるか。

・実際にEXに取り組んでいる企業とは?

EXが重要視される背景

最近、従業員のパフォーマンスを最大限に高める取り組みとしての従業員体験(Employee Experience:エンプロイーエクスペリエンス=以下EX)が注目され始めている。

マーケティングの分野では、ダイレクトに顧客とつながり、サービスや製品を提供する従業員が、いかに業務効率を上げつつ、質の高いサービスを提供できるかが顧客体験価値(Customer Experience)の向上と業績アップにつながることがわかってきていた。

この概念を人事分野に取り入れたのがEXだ。

今、人事分野ではマーケティングでいうところの「顧客」を「従業員」に置き換えて、職場環境や働きがいといった金銭的価値以外の要素で従業員のエンゲージメントを高めるEXの手法を取り入れる企業が増加している。

人事戦略において、人材はとても重要であり、従業員次第で会社の存続が決まるといっても過言ではないほど大切な存在であることが大前提だ。しかし、これからの時代は少子高齢化により働き手が減少しているにも関わらず、働き方は日々多様化し続けているため、人材の流動化は激しく、人材の獲得と定着率の向上はあらゆる企業の喫緊の課題となっている。

しかも、1980年代以降に生まれたデジタルネイティブであるミレニアル世代が組織の中心となり、2000年以降生まれのSNSネイティブであるZ世代も社会人となってきていることから、労働に対する価値観はさらに大きく変容している。これらの世代は、従来の終身雇用を前提とした働き方にとらわれず、新たなキャリアを求めて転職することへの抵抗が薄い。

つまり、従業員に満足してもらうための施策を打ち出さなければ、人材を集めることが難しく、流出も防げない時代となったのだ。このような背景から、労働環境を整備して働きがいを向上させ、従業員の組織に対する愛着や帰属意識を高め、離職を防止する施策に力を入れる企業が増加し、EXの重要性が高まってきている。

特に、従業員満足度に問題があり離職率が高い企業や、年々求職者が減少し慢性的な人手不足に悩んでいる企業などはEXの実施は有効な対策であると考えられるので、導入について真剣に検討する時期が来ているといえよう。

EXにおける「経験」とは、
・従業員の満足度
・スキルアップ
・健康状態
・会社組織での経験

など、従業員が仕事や職場内で経験できるすべての要素を指す幅広い概念だ。

従業員体験とは、従業員が企業や組織内で行われるあらゆる経営活動や人事施策などを通して体験することができる価値を意味している。

EXがいつ頃から知られてきたかというと、2015年から2016年頃にかけて人事業界で認知度を高めるようになったといわれている。理由は、HR系の議会や経営雑誌などで、エンプロイーエクスペリエンスが「トレンドキーワード」として取り上げられたことが大きい。

さらに、宿泊予約サイトを運営しているAirbnbが、人事部門の名称を「エンプロイーエクスペリエンスチーム」と変更し、「社員が選ぶ企業ランキング」で一位を獲得したことも話題となり、世界的に注目されるワードとなった。

EXを高めるには?

EXを施策立案することによるメリットは、以下のようなものが考えられる。
1.従業員の離職率低下
2.従業員のパフォーマンス向上
3.企業イメージ向上による応募者の増加

もちろん、EXは従業員のモチベーションを高めるので、結果的には業績や売り上げにもよい影響を及ぼすと考えられる。

EXの価値を高めることは、企業と従業員、どちらにとってもプラスになる施策なのだ。

では、EXの価値を高めるにはどのような施策があるだろう。 それには以下のようなものが考えられる。

1.エンプロイージャーニーマップを作成し、全体像を把握する
エンプロイージャーニーマップは対象となる人が自社と出会い、入社して従業員として働き、やがては退職してOB・OGとして過ごす。この長い時間軸のなかで、従業員は具体的にどんな経験をしたときにどのような感情・思考を抱くのかを整理し、EX向上のための施策とマッピングして体系立てる手法だ。

職種や企業ごとに指標となるポイントは異なるが、例として以下のようなポイントをチェックする。
・入社後すぐの環境にはなじみやすいか
・育成環境に満足しているか
・上長からの評価は適切か

このように各ステップで従業員の行動や感情を可視化することで、問題点を浮き彫りにし、改善のための行動を策定していくことが可能となる。

2.健康経営の推進
最近では健康経営に本格的に取り組む企業も増えていて、その推進もEX向上には有効な施策となる。ストレスを感じやすい現代社会では、心身共に健全な状態で就業できる環境の整備が非常に重要であり、健康経営によって、企業が経営的な視点から従業員の健康管理を行うことは、従業員の体験価値を高めることに直結しているからだ。

従業員の心身が不健康な状態にあれば、業務に支障が生じたり、離職者が増加したりといった経営リスクを増幅させる。経営リスクを軽減するためにも、健康経営の推進には、積極的に取り組むべきでしょう。

3.従業員調査を実施し、改善点を発見する
エンプロイージャーニーマップで従業員の行動・感情を分析することで、職場の改善点について仮説を立てることが可能となる。

その後、その仮説を実際に検証していくステップに進む。具体的には、従業員調査を実施し、より明確に改善点を浮彫りにしていくことが有効となる。

実際に行う調査には、「従業員意識調査」や「従業員満足度調査」などがあり、これらを定期的に行うと、従業員が抱えている問題の芽を早く摘むことができる。

エンプロイージャーニーマップで立てた仮設を実際の調査結果と照らし合わせることで、調査時の問いの質を高める効果も期待できる。

この時、改善点だけに目を奪われるのではなく、「従業員が良いと感じる項目」、「満足度が高い項目」を明確にすることができれば、その分野を成長させることでエンゲージメントを高めることができる。

4.PDCAを回しながら、満足度向上を図っていく
最後は、調査票を元に問題点を明確化し、実際にEX改善のための施策を実施していく。

このとき重要になるのは、「PDCAサイクルをしっかり回していき、EX改善施策の効果を毎回向上させていくこと」だ。つまり、ただアンケートを元に施策を実施するという繰り返しだけでは満足度は向上しないということ。

明確に目標を達成するためのKPI(Key Performance Indicator)「重要業績評価指標」を定めたうえで、定期的に従業員への調査を実施し、効果が出ているかのKPIを実際に計測しながら改善を重ねていくことが大切だ。

EX改善は、その人物のライフステージをたどることになるので、短期間で完結するものではない。腰を据えた長期的な視点で取り組んで見直しを重ねていく必要がある。もちろん取り組んで行くうちに企業とビジネスを取り巻く環境が変化し、KPIそのものがEXの内容と合わなくなってくる場合もある。KPIが妥当かどうかも常に検証しながらEX改善に取り組んでいくことが重要だ。

EXに取り組む企業事例

では、実際に、従業員体験を重視している企業はどのような取り組みを行っているのか見てみよう。

Airbnb, Inc.

世界最大ともいわれる民泊仲介サイトのAirbnbは、いち早く従業員体験の概念を取り入れた企業のひとつだ。

前述したとおり、人事部門の名称を「エンプロイーエクスペリエンスチーム」と変更し、「社員が選ぶ企業ランキング」で一位を獲得している。この他、HRリーダーを「チーフエンプロイーエクスペリエンスオフィサー」と呼称するなど、全社的にその価値観を浸透させることに取り組んでいる。

同チームのミッションを「社員の面倒をいろいろと見る部署として、会社の健康と幸せの向上のために日夜働くこと」と定め、従業員の働きやすさや生産性を最大化させる施策を行っている。

具体的には
・最新の機器を揃える
・社食の献立を考える
・人材のヘッドハンティング

などを実施していて、同社がこういった要素をエンプロイーエクスペリエンスとしていかに重視しているかがうかがえる。

Adobe Inc.

PhotoshopやIllustratorなどのクリエイター向けソフトウェアを提供しているAdobeでも、Airbnb同様に人事部を「エンプロイーエクスペリエンス」と称している。

アメリカは、日本ほど育休や産休等の有給休暇制度が整備されている企業が多くないといわれているが、Adobeではエンゲージメント向上のため、10日間の出産有給休暇や産後26週間の有休制度を他社に先駆けて設立している。

他にも、従来の年次評価を見直して、マネージャーが従業員と面談を行って、定期的に部下の成長度合いをチェックしたり、キャリアの相談に乗ったりする「チェックイン制度」を設けている。

これら独自の制度や価値観を従業員だけでなく採用候補者にも伝え、EXという概念の浸透に力を入れている。

また、自社でEXを追求するだけでなく、さまざまなチャネルに分散しているEXリソースを、クラウド上で一元化された情報としてアクセスできる、コンテンツ管理システム(CMS)を開発・販売するなど、営業面からもEX向上に取り組んでいる。

株式会社ニトリホールディングス

家具・インテリアの小売大手であるニトリは、従業員一人ひとりのEXをどうつくるかに、徹底的にフォーカスしている。特にエンプロイージャーニーマップを作成し、入社から退職までのジャーニーを従業員個々に描いてもらうことによって、経験価値の見える化を図っている。これによって将来その人が入社して、どんなジャーニーを描いて何を実現していくのか、個人が持っている価値観と志とを仕事とマッチングすることができるようになった。特にインターンシップは、この考え方をもとに実施していることが好感を持たれ、学生からの評価はHR総研が「楽天みん就」と共同で実施した「2021年卒学生の就職活動動向調査」(2020年6月8日~23日実施、有効回答数1496件)の「印象の良かったインターンシップ」という設問などでトップとなっている。

まとめ

・いまや従業員に満足してもらうための施策を打ち出さなければ、人材を集めることが難くい時代となった。そのため、労働環境を整備して働きがいを向上させ、従業員の組織に対する愛着や帰属意識を高め、離職を防止する施策に力を入れるEXの重要性が高まっている。

・EXにおける「経験」とは、従業員の満足度、スキルアップ、健康状態、会社組織での経験など、従業員が仕事や職場内で経験できるすべての要素を指す幅広い概念である。

・EXがいつ頃から知られてきたかというと、2015年から2016年頃にかけて人事業界で認知度を高めるようになったといわれている。理由は、HR系の議会や経営雑誌などで、エンプロイーエクスペリエンスが「トレンドキーワード」として取り上げられたことが大きい。

・EXを施策立案することによるメリットは、以下のようなものが考えられる。 1.従業員の離職率低下 2.従業員のパフォーマンス向上 3.企業イメージ向上による応募者の増加 EXは従業員のモチベーションを高めるので、結果的には業績や売り上げにもよい影響を及ぼす。

・では、EXの価値を高める施策には以下のようなものが考えられる。1.エンプロイージャーニーマップを作成し、全体像を把握する 2.健康経営の推進 3.従業員調査を実施し、改善点を発見する 4.PDCAを回しながら、満足度向上を図っていく

・EXに取り組む企業事例には、世界最大ともいわれる民泊仲介サイトのAirbnb PhotoshopやIllustratorなどのクリエイター向けソフトウェアを提供しているAdobe 家具・インテリアの小売大手であるニトリ などがある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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