2021.1.27

ミッションステートメントの役割とは?経営理念との違いと作成方法、効果について

読了まで約 7

■企業の「考え方」を伝える経営理念と「動き方」を伝えるミッションステートメント

■そもそも経営理念と企業理念、または社是と社訓などは何が違うのか?

■ミッションステートメントが社外へ放つ2つの大きなメッセージ

■ミッションステートメントが社内に及ぼす影響とは?

■ミッションステートメント作りで重視すべき9つの要素とは?

■ミッションステートメントは社内と社外の両方に影響を与える

経営理念、企業理念、社是・社訓をおさらい

企業にとって、自社がどのような会社で、どのような価値観や基準をもって経営を行っているのかを、社外に発信していくことは、非常に重要である。広く社会へ、自社のポリシーを発信することで、より多くの顧客を獲得していくきっかけや、既存の顧客との関係を深化させることが期待できるからだ。

また、新たに自社で働く仲間を採用する上でも、さまざまなメリットを享受することがある。

こうした企業の「法人としての考え方」を対外的にアピールする重要な施策のひとつとして、ミッションステートメントを採択するという方法がある。

ミッションステートメントとは、企業の行動指針のことであり、より抽象的な表現となる企業の経営理念を、具体的な行動に落とし込むために設けられるものだ。

企業が下すさまざまな経営方針は、時としてさまざまな不確定要素、たとえば顧客によって異なるニーズ、または移り行く時代において変わりゆく自社の強み、そして景況感と連動しつつ変化していく経営環境などに対応しきれていないことがある。一般的にミッションステートメントでは、このような経営上の課題を解決する考え方を提供するといわれる。

それは、あらゆる判断での判断基準が行動指針(ミッションステートメント)となるため、不確定要素があった場合でも迷いなく事象の検討や方針の決定がスムーズに進むからである。

そのため、たとえば大きな利益を享受する反面、大きな環境破壊を伴う案件があったとして、企業が環境保護を重視する自社の経営理念に基づくミッションステートメント(=行動指針)を採択していた場合、この理念に基づいて作られた行動指針がある状況下では、そのような案件を検討しないという決定を下す根拠となるわけだ。

上記からもわかるとおり、ミッションステートメントとは「法人としての考え方」を、より具体的な行動に移すために用意された「法人としての動き方」だが、そもそも企業理念や経営理念、またはひと昔前の企業に多く存在する社是、社訓などと呼称される一連の「法人としての考え方」とは、どのようなものかを、ここで再確認しておく。

  1. 経営理念と社是 経営理念とは、企業を経営する者によって示される、経営や企業活動に関わる一切の基本的な考え方や価値観、そして企業としての存在意義を表したものである。経営を行う上で、理念や規範を広く社内外に発表することで、企業としての社会的責任を明文化するとともに、これらは企業カルチャーの醸成や優秀な人材の獲得やその維持に資するものだとされる。

古風な呼び名に社是があるが、基本的な考え方は同じく、「会社・結社の経営上の方針・主張」と定義されるとおり、組織が組織たる理由や意義を広く社会に示すために存在する考え方だ。

もちろん双方とも作って終わりということではなく、企業としてこれに則り企業活動を実行していくため、行動指針としてのミッションステートメントを定めることが重要となる。

  1. 企業理念と社訓 より広く解釈すれば、企業理念や社訓は経営理念や社是と同義といってよく、これらの考え方と同じく企業文化の形成に大きく関与していることは間違いない。

しかし、より細かく見ていく場合、企業理念や社訓は「創業者や経営者の考え方」によっている部分が大きい。例えば、企業理念とは「創業者の信条や考え」を指すことが多く、社訓は「創業者や経営者の教えや戒め」を指して表現されることが多く、時代の変化や社会のニーズにそぐわない場合もある。

このため、これら経営者や創業者の想いを普遍的な考え方として落とし込んだものが、経営理念などであるといえる。また、具体的な行動方針として策定されたものがミッションステートメントとなる。

本稿では、ミッションステートメントが経営理念などほかのアピール方法とどのような違いをもつのか、またミッションステートメントの重要性や策定していく方法について解説を行っていく。

ミッションステートメントの役割と重要性

ミッションステートメントが企業の意思決定において大きな指標となることは、前出のとおりであるが、ミッションステートメントは「法人としての動き方」を規範したものであること以外に、さまざまな役割や側面を持ち合わせている。本項では、ミッションステートメントがあわせ持つ3つの役割と特徴について確認していく。

  1. 企業の存在意義を社会へ明確に示す 企業の将来を左右しかねない重要な経営判断は常に景況や業績、そして株主総会を経た株主の意向などをくみ取った上で総合的に行われるが、その最終的な判断軸となるものが、ミッションステートメントだ。

そのため、経営理念という「法人としての考え方」を行動に移すための「法人としての動き方」を体現するために定められるミッションステートメントは、企業が組織として下すさまざまな経営判断の基準となる。

つまり、企業の体現する価値観や企業として存在する意義そのものを表しているといってよい。

例えば、自社の利益につながることが明白な事業があったとしても、その企業がミッションステートメントに則った企業活動を行っている場合、企業の存在価値を自ら否定しかねない事業へは、投資や進出をしないということになる。

また、企業が株式会社の形態を採る場合、年度ごとの経済活動結果を報告した上で、利益を還元する対象として、株主が存在する。ミッションステートメントを定めることで、企業としての目標を自社の株主へと明確に提示することが可能となるという側面もある。

  1. 人材のリテンション率と結束力を強化する 他の先進国と比べても、日本は急速に少子高齢化が進行している国のひとつである。

そのため、労働人口に占める若年層や壮年層がより減少していき、企業間での人材獲得競争が激しさを増す中で、これからは外国企業による人材の引き抜きも増加し、国外への優秀な人材流出として懸念すべき課題としてあがっている。

このような状況下では、もはや人材難は中小企業のみが抱え続ける問題ではなく、大企業を含む日本全体の問題であるといえる。そのため、自社に在籍する働く個人一人ひとりをいかに大切にしていくか、そして結果としての優秀な人材の「確保と維持(リテンション)」がカギとなる。

ここに、従業員それぞれが自社においてどのような役割を担い、従業員として組織へ、また組織として社会へ貢献していくことができるかという点について考えるきっかけとしての経営理念、または具体的な行動に起こすための羅針盤としてのミッションステートメントの必要性がある。

ミッションステートメントに基づく従業員としての行動が、企業の組織としての結束力を高めることが期待でき、また従業員の声を適切なかたちでミッションステートメントや経営理念へ反映させていくことで、結果として従業員からの評価やエンゲージメントが向上し、優秀な人材のリテンションにつながるわけだ。

  1. 企業の広報や採用広報で大きなプラスに ミッションステートメントとともに、企業は経営理念を体現するための、より具体的な行動指針を得ることとなる。これは企業にとって経営判断を迅速なものにすることや、自社の従業員のリテンション向上以外にも、大きなメリットをもたらすことになる。

ミッションステートメントを経営理念や社是とともに、社外では社会へ広く示しつつ、社内では従業員の多様性を尊重しつつ組織としての結束力を高めていくことで、企業にとっては新たな商機を掴むため、または優秀な人材を獲得するための強力な広報ツールとなるからだ。

例えば、自社の大事にしている経営理念や創業者の想いなどを具体的な行動指針としてまとめたミッションステートメントを、より直接的に社会へと訴求する催し物というかたちで、社外に自社の魅力を訴えかける方法も考えられる。具体例としては、植樹イベントやチャリティランなど、地域に密着したイベントを開催することで、より社会に対して自社の存在意義や企業としての価値観などの「法人としての考え方」に共感してもらう訴求機会の創出が可能だ。

このように、ミッションステートメントは企業活動を行う上での経営理念を、より具体的な行動指針として策定するものだが、上記のとおり、従業員のモチベーション維持や社外へのアピール、そして株式会社の場合株主への明確な目標を提示することができるなど、自社の存在意義と行動指針の多角的な面に説得力を持たせることが可能となる。

次項では、そのミッションステートメントを定める方法についてみていこう。

ミッションステートメントの作り方

ここまで、従業員のリテンション効果や社外イメージ向上、採用力強化など、ミッションステートメントがもつ役割やメリットについてみてきたが、そもそもミッションステートメントはどのように定められるものなのか。本項では、ミッションステートメントの作り方について確認していく。

まず、ミッションステートメント作りでは、企業の9つの要素を検討材料とすることが大切である。9つの要素は、以下のとおりだ。

1. 顧客
2. 製品またはサービス
3. 市場
4. 技術
5. 企業理念
6. 企業の強み
7. 企業の成長性あるいは財務の健全性
8. パブリックイメージ
9. 従業員に対する姿勢

まず、自社にとっての上記9要素と、これらに対して社外のステークホルダーや潜在的な顧客層が抱く印象などを検討していく作業が必要となる。

検討にあたっては、ミッションステートメントに係るタスクフォースを作るとよいかもしれない。それは、ある程度通常業務から切り離して俯瞰的に自社を見つめ直す機会を作り出すことができるからである。また、このミッションステートメント作りのための専門チームには、企業の運営に関わるあらゆる部署の従業員を含めるとよい。広く社内に支持されるミッションステートメントには、できるだけ多くの働く個人の意見や想いをあらゆる角度から吸い上げて検討材料にしていくことが望ましいからである。

また、前出の9要素においても、特に顧客やパブリックイメージなどは社外に対しての自社の印象、また企業理念や従業員に対する姿勢については社内での自社の印象を左右する重要な要素となるため、ミッションステートメントを定めていくとき、はたして自社は社外と社内からどのような印象を抱かれているのかという点を念頭に、これらの要素について十分な議論が交わされながらミッションステートメントを作っていくべきであろう。

実際のミッションステートメント策定にあたっては、文が長すぎず難解ではない表現で、共感を生むようなポジティブで音韻を意識したものであると、人に深く印象付けることが可能となる。

顧客や求職者、場合によって株主などは、社外にあって自社に関心を寄せているステークホルダーといえる。これらステークホルダーに対して自社の印象、特に「法人としての動き方」を知ってもらった上で好意的な共感を創出することは、前出の9要素における自社のパブリックイメージに直結するため、企業活動に大きな影響を与える。このため、ミッションステートメントを定めるにあたり、あくまでも対外的にも公開するものであるという点を重視しつつ、定めていくとよい。

ただし、対外的なステートメントであると同時に、前出の9要素最後に掲出している「従業員に対する姿勢」という部分を疎かにしてよいものではなく、企業とは人が生業を企てることで成立する組織だからこそ、自社で働く個人に対して、ミッションステートメントはどのような共感と支持を生むのかという点を考慮することも重要である。

これまで培ってきた企業カルチャーを大切にしていきつつ、不確実に変動していく曖昧な現代において、より多様化していく従業員のバックグラウンドや価値観を、企業としてどのように尊重していくことができるのかという点も考慮することが求められる。そのためにも、前述したとおりミッションステートメントは、「全社で一丸となって定める」ことに拘る必要があるのだ。

顧客や求職者、株主など社外のステークホルダーから自社の行動を測る指標の一つとなるミッションステートメントは、同時に社内の働く個人に対して、会社としての考え方や動き方を伝えるステートメントでもある。

だからこそ、激しいペースで変化し続ける現代社会において、変わらず大切にしていく企業としてのDNAを次世代に繋いでいくため、ミッションステートメントの策定と、これに基づく企業活動が求められているといえよう。

まとめ

・企業にとって、自社がどのような組織であり、なぜ社会に存在するのか、またどのような価値観や基準で経営を行っているのかを規定したものが経営理念だが、このような「法人としての考え方」を企業活動や企業の社会的責任に基づく貢献活動などに体現していくための「法人としての動き方」を定めたものが、ミッションステートメントだ。

・企業の「考え方」には経営理念や企業理念、またはひと昔前の呼び名として社是や社訓があるわけだが、その違いは次の通りだ。経営理念や社是というのは、企業を経営する者によって示される、経営や企業活動に関わる一切の基本的な考え方であるが、これに対して企業理念や社訓というものは創業者の個人的な信条や教え・戒めを指して使われることが多い。

・ミッションステートメントは自社の経営理念に基づく行動指針であるため、自社の経営理念に沿わない事業が商機として、たとえこれが有益だとしても参入しないということで、社外に対して自社の強いメッセージを伝えることが可能だ。また、具体的な催し事(チャリティランや植樹イベントなど)というかたちで自社の考え方を社会へ還元していくことで、強力な自社イメージ向上につながると同時に、新たな人材獲得に向けた採用力強化にも資する。

・少子高齢化が進む社会での労働人口が減少していく現代、企業にとって、少しでも優秀な人材を自社にリテンション(確保と維持)することは、新たな人材の採用力強化とともに、喫緊の経営課題であり、もはや中小企業のみが抱える問題ではなく、大企業でも同様だ。このため、状況によって従業員の声をくみ取ってステートメントへ反映させていきつつ、組織としての動き方という点において意識のすり合わせを行うことができるミッションステートメントの策定は、自社人材のリテンションに有用だ。

・ミッションステートメント作りでは、企業の9つの要素を検討材料とすることが大切である。9つの要素とは、1. 顧客、2. 製品・サービス、3. 市場、4. 技術、5. 企業理念、6. 企業の強み、7. 企業の成長性、8. パブリックイメージ、9. 従業員に対する姿勢を指している。また、ミッションステートメントを作成するにあたり、専門チームを設けた上で、自社内のあらゆる部署と階層の従業員を参加させることで、全社をあげた組織としての「動き方」に関する意識のすり合わせが可能となる。

・ミッションステートメントを定める際に、特に検討すべきなのは社内的な要素を強く含む「従業員に対する姿勢」という要素と、社外から自社に対して抱かれる印象に深く関わる「顧客」「パブリックイメージ」といった要素だ。ミッションステートメントは法人としての動き方を規定するものであり、社外から見られたときの公的な印象と、自社の人間が経営理念に基づいて企業活動を行う際の基本的な行動指針であるという両面性があるため、これを定めるにあたって、「自社らしい」ミッションステートメントの策定と、これに基づく企業活動が求められる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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