2021.3.18

「レコグニション」制度とは?人事制度としてのメリットについて解説

読了まで約 6

■少子高齢化時代が日本の採用市場にもたらす影響

■新しい企業文化のあり方として求められていること

■レコグニションの3つのメリット

■レコグニション制度導入5つのポイント

■現代の人材育成に求められる人事戦略

レコグニションとは何か? 求められる背景

世界でも類を見ないほど急激な速度で進んでいる少子高齢化の影響による労働人口の低下で、慢性的な人手不足に直面している日本の採用市場。

大量一括採用の時代は過ぎ去り、新規採用によって優秀な人材を確保することが困難となっている現代において、1人ひとりの社員を大切に育成し、長く働き続けてもらうことで生産性を向上させる人事戦略に多くの企業が舵を切っている。

また、「社内コミュニケーションに課題があるか」について聞いたHR総研の調査では、「ややあると思う」と「大いにあると思う」の割合と合わせると、「社内コミュニケーションに課題がある」と感じる企業は7割を超え、企業規模に関わらず社内コミュニケーションに課題を抱える企業が大半であることがわかっている。(ProFuture株式会社/HR総研

そんな中、社員1人ひとりのモチベーションを高め、育てた優秀な人材を流出させないための取り組みや社内コミュニケーション活性化のひとつとして注目を集めているのが「レコグニション」という制度だ。

「レコグニション(recognition)」は、日本語に訳すと「認知」や「承認」を意味する言葉で、人事関連で使われる用語としては、「企業が社員の活躍を承認する」または「社員同士で互いの功績や努力を認め、称賛を贈り合う」制度のことを指す。

具体的には、企業が社員に対して業績や勤続年数に応じて表彰をする制度、社員間で感謝の気持ちを書いたありがとうカードを贈り合うことや社内SNSでの称賛文化などがレコグニションにあたる。最近では、後者のように社員同士で互いに承認し合う「ソーシャルレコグニション」が注目され、気軽に社内コミュニケーションを図ることのできるツールの登場により、こうした仕組みを導入する企業が増えている。

また、「社員の貢献を労う」という点において、レコグニションと類似した言葉に「リワード」があるが、リワードは「金銭を伴うインセンティブ」、例えば「賃金」や「賞与」などが該当するのに対して、レコグニションは、インセンティブや昇進のように金銭的な報酬を重視せず、社員の仕事への価値を示し、活気に溢れた職場の雰囲気を作り出すなど企業風土への影響が強いことに特徴がある。

働き方が多様化している現代において、金銭的な報酬だけでは若手社員のモチベーション維持や生産性の向上には不十分であることが認識され始めたことで、新しい企業文化を醸成する制度として、レコグニクションを導入する企業が増えているのだ。

そこで本稿では、レコグニションの概要や特徴、導入する際の手順やなどを解説しよう。

レコグニション制度を導入するメリット

レコグニションもリワードも、違った角度から社員のモチベーションを高めるための制度 であるため、両者をバランス良く人事制度に取り入れることが大切だ。

この項では、レコグニションを制度として取り入れることのメリットを紹介しよう。 レコグニションには以下の3つのメリットがある。

<レコグニションのメリット>
1.従業員エンゲージメントを高める
2.優秀な人材の流出を防ぐ
3.会社にポジティブな気風をもたらす

それぞれを少し詳しく見ていこう。

1.従業員エンゲージメントを高める
従来、従業員エンゲージメントの向上には、リワードである昇給や昇格が有効と考えられていた。

しかし、金銭的報酬には、一時的な意欲や幸福感を生み出す効果があっても、永続的なエンゲージメントや愛社精神を維持するまでには至らないことに気付きはじめた企業も多い。自身の業務内容に誇りを持ち、エンゲージメントを高めて離職防止につなげるためには、社員同士が承認しあい、チームへの帰属意識を高めることが必要だと考えられ始めているのだ。

そこで、レコグニションを取り入れることで、仕事そのものにやりがいや面白さを感じることのできる企業文化を醸成しようとする企業が増えている。レコグニションは、安定して永続的なエンゲージメント向上を見込める仕組みとして評価されているのだ。

2.優秀な人材の流出を防ぐ
レコグニションを導入することで、社員は自らの働きに対して、周りから認められ、評価されているという幸福感や充足感を得ることができる。

仕事に対して高いモチベーションや愛社精神を持ち続けることができれば、企業に定着しようという意識も自然と高まるだろう。

社員が自身の仕事に誇りや価値を感じ、エンゲージメントを持って働ける環境を作ることで離職を防止することができ、それは結果として、育てた優秀な人材の流出を阻止することへとつながるのだ。

3.企業にポジティブな気風をもたらす
同僚や会社から自身の取り組みや功績を認められ、また他者の努力を素直に称えることができる環境は、社員の積極性を促すことができる。

また、他の社員の仕事に対しても評価をすることで他者の仕事や他部署などへの関心も生まれてくるだろう。

社内コミュニケーションの活性化によって、横のつながりができることで利他性が働き、社員個人の意欲を高めるだけでなく、企業全体にポジティブな雰囲気をもたらし、一体となって仕事に邁進することができる。

レコグニションに取り組むことで、前向きで活気に満ち溢れた企業へと成長し、生産性の向上だけでなく、働きやすい職場として他社に対しての優位性をも期待できるだろう。

レコグニション制度導入のポイント

では、実際に社内でレコグニションの仕組みを導入する際にはどのような手順を踏めば良いのだろうか? 以下、5つのポイントに整理して解説する。

<レコグニション導入のポイント>
1.導入目標の明確化
2.対象範囲の明確化
3.規準や方法の明確化
4.社員への周知徹底
5.効果の確認と改善

1.導入目標の明確化
まず、自社の課題を見つけ出し、その課題に対してどういった取り組みが必要なのか、目的を明らかにしてから導入計画を立てる必要がある。

レコグニションを導入する目的を明確にして全社で共有することで、目標達成までの計画やマイルストーンが設定しやすくなり、精度も上がるからだ。

2.対象範囲を明確化
次に考えなければならないのが表彰制度や奨励制度の対象範囲だ。

例えば、レコグニション制度の対象に、正社員以外のパートやアルバイト、契約社員や派遣社員といった非正規社員を含めるかどうか、などは必ず検討しておきたい。

制度の導入にあたって、一部の社員のみを対象にすることは不公平感が生まれ、対象外の社員のエンゲージメント低下へとつながる恐れがある。

非正規社員も対象範囲に含めることができれば、レコグニションを全社的に展開できるため、その効果をより一層高めることが期待できる。

また、そうすることで対象社員に「自分も必要な一員として、会社から認められている」といった満足感や安心感を与えられるし、正社員側も非正規社員と区別のない制度設計によって、一体感を持って、認知・承認活動を行うことができる。

3.規準や方法の明確化
組織内でレコグニションに取り組む場合、その基準や方法を決める必要がある。

表彰制度にするのかソーシャルレコグニクションにするのか、どのような行動に対して何を与えるかなどのルールを明確にすることで有効的な運用を目指す。

決定するべき事項をまとめると、具体的に次の要素があげられる。

それは、レコグニションを与える人物と与えられる人物、与えるにあたっての規準、与える場所や方法、タイミングなどである。

レコグニションを効果的に導入、構築するためにもここは明確にするべきポイントだ。

4.社員への周知徹底
レコグニションに取り組むにあたって、社員同士が互いに認め合う企業環境が醸成されていることが重要となる。

そのために、社員向けに説明会を行う、説明資料を配布するなどして制度の導入目的や趣旨、運用にあたってのルールをしっかりと周知する必要がある。

また、ルールを文章化し、これを社内規定として共有することも周知を徹底するための方法として有効だろう。

5.効果の確認と改善
レコグニション制度を導入して、継続的に形骸化させず有効に作用させるためには、運用開始後に効果を確認し、新たな課題の発見や改善点を洗い出す作業が必要不可欠となる。

導入後の確認を怠ったことで、実際の現場では制度が上手く機能していなかった、当初の目的から外れた運用となっていた、といった事例も多く見られるためだ。

制度についての社内アンケートの実施や運用状況の調査などを通して、制度がもたらした影響を把握し、問題点があれば改善のための見直しや目標の軌道修正を行うなど、柔軟に対応をしていくことで、それぞれの企業にとって有効的なレコグニションを構築することが期待できる。

ここまでレコグニションの制度についての概要やメリット、導入のポイントについて解説してきた。

レコグニションの制度によって社内のコミュニケーションが盛んとなることで、社員の承認欲求や帰属意識を高める、さらなる自己実現に向けてのモチベーション向上、離職率の低下などの効果をもたらすことが期待できる。

また、金銭的な報酬に重点を置くことなく、業績の成長が見込めることは経営的観点から見ても合理的であるといえる。

慢性的な人手不足によって、新規で優秀な人材を採用することが困難となり、既存社員のエンゲージメントを高める人事戦略が求められている中、レコグニションの制度は今後ますます注目されていくだろう。

<まとめ>
・現在、日本の採用市場は、急速に進んでいる少子高齢化による労働人口低下の影響を受け、慢性的な人出不足の問題に直面している。新規採用による大量の人材確保が困難となっている現状で、1人ひとりの社員の育成に力を注ぎ、長く働き続けてもらうことで生産性向上を目指す人事戦略に取り組む企業が増えている。

・採用市場の変化に伴って、新しい企業文化を育成するための言葉として、注目を集めているのが「レコグニション」だ。日本語で「認知」や「承認」を意味するレコグニションは、企業が社員の活躍を認めることや社員同士が互いの取り組みに対して賞賛を贈り合う制度を指し、具体的には企業による表彰制度や、社員間でありがとうカードや社内SNSを用いて賞賛するソーシャルレコグニションの文化などがあげられる。

・リワードとの大きな違いとして、リワードは賃金や賞与のように金銭を伴うインセンティブを指すのに対し、レコグニションは金銭的な報酬に重きを置かず、企業風土への影響が強いことに特徴がある。従来のように金銭的報酬を与えるだけでは若手社員のモチベーション維持が困難であることが認識され始めたため、レコグニションに取り組む企業が増えている。

・レコグニションを導入することで得られる3つのメリットは次のとおりだ。【従業員エンゲージメントを高めることができる】社員同士が互いに認め合いチームへの帰属意識を高めることや、自らの仕事に価値を感じることのできる企業文化を熟成することで、社員の安定的なエンゲージメント向上を見込むことができる。【優秀な人材の流出を防ぐことができる】周りから認められ、評価されていると実感することは社員のモチベーションや愛社精神、帰属意識を高める効果がある。社員がエンゲージメントを持って働ける環境作りは離職を防ぎ、結果として優秀な人材の流出を阻止することができる。【企業にポジティブな気風をもたらす】他者から功績を認められ、自身も他者の取り組みに対して評価を伝えられる環境は、社員の意欲向上や横のつながりを生むことへとつながり、結果として、ポジティブな雰囲気が企業全体へと浸透し、働きやすい活気に満ち溢れた企業へと成長することが期待できる。

・レコグニションを導入するにあたっての5つのポイントは次のとおりだ。1.自社の課題とその取り組み方を明確にし、レコグニション導入にあたっての目標を全社に共有すること、2.レコグニション制度の対象範囲について非正規社員も含めるか、などの点を明確にすること、3.レコグニションを与える人物、与えられる人物、場所や方法、タイミングなど運用にあたっての規準や方法を明確化すること、4.レコグニション導入にあたって説明会の開催や資料の配布を行い、社員への周知を徹底すること、5.制度の形骸化を防ぐために、運用開始後の効果検証や問題点の改善に取り組むこと。

・レコグニションの導入によって、社内コミュニケーションを活性化させることで社員の意識やモチベーション向上、離職率の低下などの効果が見込める。また、経営的な観点においても、金銭的な報酬に重きを置かない人事戦略は合理的であると言える。新規採用による人材確保が困難となっている現代において、既存社員のエンゲージメントを向上させるレコグニションの制度はますます注目されていくだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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