2021.3.19

組織における社員の自律性を高める方法「エンパワーメント」とは?

読了まで約 7

■VUCA 時代における求められるリーダー像の変化

■新たな価値創造が要求される時代における組織運営のあり方

■組織のパフォーマンスを最大化させるマネジメント方法

■エンパワーメントのもたらす3つのメリット

■エンパワーメント導入の4つのステップ

■エンパワーメントで注意すべき5つのポイント

エンパワーメントとは何か? 注目される背景は?

現代は、VUCAという言葉に象徴されるように予測不可能で不確実な時代に突入している。依然として新型コロナウイルスの終息の見通しがつかない現状は、まさにあらゆる事柄が予測できない不安定なものとなっている。

なかでも、ビジネスを取り巻く経営環境の不確実性はますます高まる一方だ。

通勤スタイルの変化や売り上げの低迷だけでなく、コロナ禍での生き残りを懸けて想定していなかった業界へ進出した企業もある。

こうした経営環境や時代の変化に伴って、企業が求めるリーダー像や人材像も大きく変化しつつある。

先の見通しが立ちにくい状況のなか、経営トップやマネジメント層がそれまで積み上げてきた知識や経験で正解を示して引っ張っていくという従来型の運営がそのまま通用するとは限らないからだ。

こうした不確実性の高いビジネス環境で、新たな価値創造が要求される今の時代、トップや上司の意見をそのまま下に伝えるタイプの人材よりも、年齢や実績に関係なく1人ひとりのメンバーと向き合うことで能力を引き出し、主体的・自律的な行動を促すことのできる人材が求められている。

そうした組織運営のあり方として注目されているのが「エンパワーメント」だ。

エンパワーメント(empowerment)とは、ビジネスシーンにおいて「能力開花」や「権限委譲」と訳され、組織にいる1人ひとりが抑圧されることなく力をつけていき、能力を発揮できるように権限を与えるマネジメントスタイルのことを意味する。

もともとエンパワーメントという概念は、社会的に抑圧されている人々に対し、一個人としての権利を認めるべきであるという指摘が発端で誕生したとされている。

1950年代頃からアメリカで展開された公民権運動で提唱され、1980年代のウーマンリブなどの女性の権利獲得運動のなかで広く知られることとなる。その後、社会福祉分野、ビジネス分野などでも使われるようになった。

特にビジネスシーンにおけるエンパワーメントとは「1人ひとりに力を付けさせる」「権限を与えていく」組織運営のことを指す。自分だけでなく、自身を取り巻く環境もコントロールできるまでに成長させることを目指すマネジメントスタイルだ。

エンパワーメントのもたらすメリット

エンパワーメントは、権限を委譲することで、現場で働くメンバーの自主性や自律性を促進させ、組織のパフォーマンスを最大化させることを目指す「支援活動」に他ならない。

例えば、従来ではリーダーの指示の下で行っていた業務の段取りをメンバーに任せることで、メンバーが自らの力で考えて自主的な業務が遂行できるように促すこと、解決方法をいきなり与えたり、具体的な指示を出すのではなく、部下が自律的に仕事に取り組める環境を整え、解決に向けての考え方を提示して部下が自らの力で解決策を見出すことができるよう支援する、など、現場で働くメンバーの自主性と自律性を重んじた行動、マネジメント方法がエンパワーメントである。

では、エンパワーメントに取り組むメリットにはどのようなものがあるだろう。

<エンパワーメントのもたらす3つのメリット>
1.対応の迅速化
AIなどの技術の発展やグローバル化の影響もあり、日本のビジネスを取り巻く環境は日々 目まぐるしく急速な変化を続け、それと同時に迅速な判断や行動が求められている。

その渦中にあって、ひとつひとつの事柄についてリーダーの許可を取っているのでは変化に即応することはできない。

エンパワーメントによって権限を委譲し、与えられた範囲内でメンバーが自律的に意思決定できるようになれば業務のスピードが上がり生産性の向上をも期待することができる。

また、日常的にメンバー自身が考えて行動をするスキルを身につけることで、トラブルが発生した際にも解決策を自ら導き出すなど、さまざまな事態に迅速に対応することができるようになる。

対応速度が上がれば、顧客満足度の向上や競合他社とのアドバンテージなどにもつなげることが期待できるのだ。

2.主体性を持った人材の育成
エンパワーメントによって1人ひとりに権限を与え、自身で意思決定を行うことによって、メンバーには当事者意識が生まれる。

仕事を「自分ごと」と捉え、自身で責任を持つことより、同じ業務であっても、その行為の背景を考えたり、より良い方策はないかを模索したりする習慣が身につく。

また、メンバーが当事者意識と責任感を持って業務を行うことによって現場の意見や状況も積極的に発信され、新たな課題の発見にもつながる。

権限を与えることにより視野が広がり、主体的な創意工夫も生まれてくるのだ。

3.メンバーの潜在能力を開発しやすくなる
組織にエンパワーメントが浸透すれば、それまで本人も気が付かなかった能力が見いだされることもある。

与えられた裁量の中で自主的に考えて行動することにより、メンバー個人の潜在的な強みや能力が表面化され、それらを早期に発見し適した場所や方法で成長させることで、次期リーダーや戦力となる優秀な人材の育成につながる。

また、メンバー本人も今まで気が付かなかった自分の能力を知ることで自信を持ち、より業務に意力的に取り組むことができるようになる。

エンパワーメント導入のポイントと注意点

ここまで、エンパワーメントが現代において注目されている背景、またエンパワーメントを 導入することによって得られるメリットを紹介してきた。

では実際に、エンパワーメントを導入するにはどのようなポイントに気をつければいいのか?

まずは導入のステップを見てみよう。

<エンパワーメント導入の4つのステップ>
1. エンパワーメント導入の宣言
はじめに、組織のリーダーがメンバー全員の前で、今後エンパワーメント導入を目標とする ことを宣言する。

その際には組織におけるエンパワーメントの重要性、導入する理由、得られるメリット、メンバーへの影響や今までと比較して何が変わるのか、をメンバーにしっかりと説明し、理解や協力を得ることが必要となる。

2. 目標への合意と共感
宣言によって目標を周知した後には早々にエンパワーメント導入ついての勉強会やディスカッションの場などを設ける。

その際に重要なことは、一方的に宣言を押しつけるのではなく、メンバーが不安や疑問など、エンパワーメント導入あたっての率直な想いを述べられるよう意識することだ。

目標を達成するためにはメンバー全員の合意と共感を得て、組織が一体となりエンパワーメント導入に取り組むことが必要となる。

3. 情報公開と権限の委譲
権限の委譲にあたって、必要なものは情報だ。 各現場で的確な判断を行うために正確な情報を公開し、共有する。

それまでは組織内の一部の人間しか把握していなかった重要な情報も、メンバーが自主的に意思決定をするために公開する必要がある。

重要な情報を共有することにより、組織はメンバーを信頼しているという姿勢を見せることができ、メンバーは今後自らが下す判断に対しての責任意識を高めることができる。

また、権限を委譲する際に注意すべきことは、権限を与える裁量範囲を明確にすることだ。 後々のトラブルを避けるためにも、メンバー自らが自身で意思決定をできる範囲をしっかりと理解しているかの確認をすることが重要となる。

4. 権限委譲後の行動の自由を守る
権限の委譲後は、目標を達成するためにメンバーが自ら考えて下した判断や行動の自由を守る必要がある。

エンパワーメント導入によってメンバーがミスを起こした場合には、責めたり、むやみに口を出すのではなく、メンバーの意見や考えを尊重したうえでリーダーや組織が解決への考え方の提示をするなど、メンバーが自主的に考え、解決策を導き出し、成長できるように支援をする。

また、エンパワーメントを導入するには注意すべき点もある。

<エンパワーメントへの取り組みで注意すべき5つのポイント>
1. メンバーの能力を正確に把握する

一定の権限を与えられ、決められた裁量の範囲で自由な行動が許される状況の中で、必ずしも全員が成果を上げられるとは限らない。

メンバーが権限に見合う能力を身につけていない場合、重大なミス、損失が発生する可能性が考えられる。また、権限を与えられることに必要以上のプレッシャーを感じて自身のキャパシティを超えてしまうような場合は与える権限を制限するなどの対応も必要となってくるだろう。

効果的にエンパワーメントを導入するために、まずはメンバーの人柄や能力を正しく把握し、適切な権限の範囲を与えることが重要となる。

2. 責任は丸投げしない
権限を与えるといっても、メンバーに責任を丸投げすることは単なるリーダーの責任放棄であり、エンパワーメントの本質である権限の委譲とは異なる。

メンバーの自律性・自主性は尊重しつつ、目標に向けて確実に行動しているか?深刻なトラブルの要因を抱えていないか?など、定期的なチェックが必要だ。

常に眼を離すことなく、メンバーに寄り添いながら支援する姿勢が求められる。

3. ビジョンや方向性について常に確認する
エンパワーメントの大きな特徴としてメンバー自らが権限を持って業務を行っていることが挙げられるが、その反面、メンバー間での判断基準にズレが生じることや、組織の目指すビジョンとメンバーの行動が連動しなくなる可能性もあり得る。

こういった事態を防ぐために、組織の目指すビジョンや方向性について日頃から確認をし、共通の目標に向かって進むことへの認識を深めることと、判断や行動について、どこまでを個人の裁量に任せているのかを明確にすることが極めて重要だといえる。

4. こまめにフォローを行う
エンパワーメントを導入するうえで重要となるのが、組織やリーダーとメンバーの間の 信頼関係だ。

与えた権限の行使について不要な干渉はせず、自主性・自律性を尊重し業務を任せることで、メンバーは「組織やリーダーから信頼されている」という充足感を得ることができ、さらなる意欲向上につながる。

そうして成長していく過程では多少のミスは生じるものと想定し、いつでもフォローができる体制を整えていることが必要だ。

困難な状況に陥った際に、自身の力で解決できるよう支援してくれる信頼できるリーダーが存在することで、メンバーも安心して自由に業務を行うことができるだろう。

5. 成果を短期間で要求しすぎない
今までリーダーの指示に従って行動していたメンバーが、権限を委譲されてすぐにリーダーと同等の判断をすることや、成果を上げることは容易ではない。

短期間で成果をあげることを要求したり、失敗を許さない環境の中では、権限を移譲された メンバーの自主性や積極性が損なわれてしまうため、組織として、ある程度のミスやトラブルが生じることは想定したうえで、成果が出るまでのプロセスを中長期的に見守ることが、エンパワーメントへの成功へとつながる。

VUCA時代に突入し、変化に対して迅速かつ柔軟な対応が求められる現代において、組織の成長を持続させ生き残っていくためには、エンパワーメントは重要な鍵となる。

メンバー1人ひとりが主体性を持って行動し、能力を最大限に開花させるために、組織全体で支援する体制を整えてバックアップしていくことが必要不可欠だ。

まとめ

・VUCA時代に突入している今、ビジネスを取り巻く経営環境の見通しが立ちにくい状況下で、求められるリーダー像や人材像も大きな変化をしつつある。新たな価値創造が要求される現代において、リーダー層の指示をそのまま伝達するのではなく、現場のメンバーの主体的・自律的な行動を促し能力を引き出すことのできる人材が求められている。

・不確実な現代の組織運営において、注目されているのが「エンパワーメント」だ。ビジネスシーンにおいて、エンパワーメントは「能力開花」や「権限委譲」と訳され、現場のメンバーに権限を与えることで、自主的・自律的な成長を促し、自身を取り巻く環境もコントロールできるような人材を育てることを目的としたマネジメントスタイルだ。

・エンパワーメントとは、権限を与えることにより現場で働くメンバーの自主性・自律性を促し、組織全体を成長させるための「支援活動」である。リーダーが解決策や細かな指示を与えるのではなく、メンバーが自らの力で考え、業務を遂行できるように支援をする。

・エンパワーメントを導入することで得られる3つのメリットは次のとおりだ。【対応速度の迅速化が見込める】メンバーが意思決定を行うことによりリーダーへの許可を取る時間を短縮できる。常にメンバー自身が考える習慣をつけることでさまざまな事態に迅速に対応できるようになる。【主体性を持った人材の育成ができる】メンバーに権限を与えることで業務に対しての責任意識や当事者意識が生まれ、より良い方策や新たな課題を発見するために考える習慣が身につき、主体的な創意工夫ができる人材を育成することにつながる。【メンバーの潜在能力を開発しやすくなる】自主的に考え行動する中で、今まで気が付かなかった潜在的な能力を見いだすことも期待できる。早期に能力を発見し、開発することで戦力となる人材の育成につながる。

・エンパワーメントを導入するにあたっての4つのステップは次のとおりだ。1.目標としてエンパワーメント導入に取り組む旨をメンバー全員に対して宣言すること、2.目標に対してメンバーから合意と共感を得られるよう説明や話し合いの場を設けること、3.意思決定の権限を与える裁量の範囲を明確化してメンバーが的確な判断を行うために必要な情報を公開すること、そして4.権限の委譲後はメンバーが自主的に考えて下した判断や行動の自由を守ること。

・エンパワーメントに取り組むうえでの注意点は5つある。1.メンバーの能力・人柄・キャパシティを正確に把握すること、2.責任を丸投げしないこと、3.共通の目標へ向かうためにビジョンや方向性について常に確認すること、4.こまめにフォローを行うこと、5.成果を短期間で要求しすぎないことである。

・変化に対して柔軟な対応が求められる現代の組織運営において、エンパワーメントは重要な鍵となる。メンバー1人ひとりが自身の能力を最大限に発揮できるような支援や環境づくりを組織全体で行うことが必要となるだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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