2020.11.5

パラレルワークやギグパートナーという働き方。現在のトレンドと今後

読了まで約 6

・労働基準法のモデル就業規則で追加された副業・兼業についての規定とは?

・企業側にもメリットが大きい副業解禁。

・増加するパラレルワークとは?

・パラレルワークの具体例。

・全く新しい働き方ギグパートナーとは?

・ギグパートナーの具体例。

働き方改革とコロナ禍で強まる副業志向の今とは

政府主導の「働き方改革」が叫ばれ、企業側でも正規労働者至上主義の考えが見直される中で、多様な働き方に魅力を感じる労働者が増加してきたことにより、ここ数年で従来の労働環境は大きく変化している。

昨年3月には、厚生労働省による労働基準法のモデル就業規則の中で、労働者の遵守事項における「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定を削除し、副業・兼業についての規定が追加されたこともこの動きを後押しすることになった。

さらに、今年に入ってからの新型コロナウイルスの拡大によって、テレワークなどの新しい働き方を経験することによって、自身の働き方をさまざまな形にシフトする事例が加速度的に増えてきた。緊急事態宣言による外出自粛の中で出社することができず、一つの会社、一つの職種で定年退職まで仕事を続けるという既存の労働形態に不安が生じたことも大きな要因となっている。

統計としての裏付けが、今年5月に発表された、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が実施した「コロナ禍でのフリーランス・会社員の意識変容調査結果」※だ。新型コロナウイルス感染拡大により87.3%のフリーランスが業務に「影響あった」と回答しているがその理由として、「取引先の業務自粛による取引停止(53.9%)」「自身の業務粛(35.7%)」「客数の減少(32.4%)」の順に多くなっている。一方、会社員においてもコロナショック前に比べ「働く時間が減った」は40.6%、「収入が減った」は32.1%にのぼり、会社員であっても大きな影響を避けられなかった実態が浮かぶ。

また、コロナ禍の影響を受けた会社員に聞いた「今の仕事や働き方の問題を解消する、または満足度を高めるための取り組みとして考えていることはありますか」という設問に対して、「現在行っている」「具体的に考えている」「いつかはしたいと考えている」という前向きな回答の合計が最も多かったのは「副業」の66.0%となっている。この数字はコロナ前の同調査(2019年10月〜11月実施)の結果である51.3%と比べると15ポイント近く増加していて、コロナ禍が会社員の副業志向を後押しする一因となっていることがわかる。

さらに、副業について前向きな会社員に聞いた「実際に副業をしようと思った場合、何が障壁になりますかという設問に対し、コロナ前は「収入」が一番多く38.7%、ついで「勤務先が副業を禁止している」が30.9%だったが、コロナ後は「収入」が32.5%と微減だったのに対して、「副業の禁止」は20.1%へと10ポイント以上減少しているのが特徴的だ。

これは厚生労働省によってモデル就業規則が改定されたこととあわせ、コロナで仕事量が減り、先行きが見通せない中で、副業を禁止して離職されるよりも、副業を認めて空いた時間を有効に使ってもらえる方が双方にとって価値があるという企業側の判断もある。

しかしそれよりも、企業の側に副業解禁のメリットが大きいことが理解されてきたという理由が大きい。

企業が副業を解禁することには、中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言 ~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~」※によると「従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得し、それを社 内で活かすことで労働生産性が高まる」や「優秀な人材が退職することなく 会社に留まり、本業で活躍し続ける可能性が高まる」、「従業員が社外から新しい知識・情報、人脈などを持ち帰ることで事業機会の拡大、イノベーション創出につながる」などのメリットがあるのだ。

スタートアップやベンチャーの中には、積極的に副業を推奨する企業もある。

なお、同調査では「副業」と表現されているが、こうした正規雇用以外に仕事やキャリアを持つ労働者のことは、副業に限らず、以前から兼業、あるいはサイドビジネスなど、さまざまに呼び分けられていた。最近ではパラレルワーク(複業)やダブルワーク(Wワーク)、ギグワーク、ギグパートナーなど新しい働き方の選択肢が次々と増加している。

そこで以下の章では、それぞれに似ていて定義も曖昧なこれらの働き方について、違いを整理しながら、中でも新しい働き方として注目を集めているパラレルワークとギグパートナーを中心に見ていきたい。

※出典:一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「コロナ禍でのフリーランス・会社員の意識変容調査結果」(実施期間:2020年4月22日〜5月9日 調査方法:インターネット調査 有効回答数:1723名)

※参考:中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言 ~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~」

増加するパラレルワークと副業との違い

複数の仕事をこなすのがパラレルワークであり、新型コロナウイルスの拡大によって、今もっとも注目されている働き方のひとつだ。副業は本業より小規模で、収入を補填するために行なう仕事といえるが、パラレルワークは複数の本業を並行して活動するもの。そのため副業ではなく「複業」という字があてられることもある。

パラレル(parallel)は「平行の、並列の」を意味していることは直訳そのままだが、一方、「仕事」と訳されることが多いワーク(work)は、実際には「研究、作業、勉強」など複数の意味を持ち、必ずしも営利目的のビジネスばかりを指すわけではない。つまり、パラレルワークはビジネスだけでなくボランティア活動や非営利団体(NPO)活動などの社会貢献、学術的な研究・調査活動、アーティストの創作活動といったさまざまなアクティビティーを複数平行して継続するものといえる。もちろん、本業としてビジネスを複数持つこともパラレルワークといえるが、明確なのは本業として会社に所属(主)しながら、副業(従)としての活動を行うという関係でなく、どれも対等な比重で手掛ける点が副業とは異なるということだ。

例えば、収入増を目指すなら株式投資や外国為替保証金取引(FX)などを手がける個人投資は、他の本業と両立しやすく始めやすいパラレルワークの代表格といえる。

この他、大学教授や研究員として研究や教育に励みながら、著述家として書籍も発行するというのもパラレルワークであり、時間と体力が許すなら、会社員をしながら飲食店を経営するというスタイル、さらには会社員、主婦、漫画家という3つを等分にこなす、といったパラレルワークも存在する。俳優業の傍ら社会活動や慈善事業などに力をいれる著名人などもパラレルワークだといえるだろう。

似たような言葉に「兼業」があるが、明確に定義が定まっているわけではない。厚生労働省でも「副業・兼業」と併記していて、どう異なるかについては明記していない。

ただ、兼業という言葉は現代ではあまり使われなくなっているという傾向はある。例えば近年のインターネット環境の充実によって生まれてきたアフィリエイター、ブログ運営者、ユーチューバー、ソーシャルメディアで活躍するインフルエンサーなど、マーケティングやプロモーション関連の仕事を同時に行うこと兼業と呼ぶことはほとんどなく、やはりパラレルワークの一種とみなすことが妥当だろう。

ますます注目されるギグパートナーという働き方

現在、パラレルワークよりも新しい働き方として注目を集めているのが「ギグワーク」「ギグパートナー」だ。ギグワーク、ギグパートナーとはどのような労働形態か、またギグパートナーに関する最新事情はどうなっているのだろうか。

ギグワークという言葉は、英語の「ギグ(gig)」と「ワーク(work)」とを合わせた造語であり、ギグとは、アメリカにおいてミュージシャンが、気の置けない仲間と単発で即興演奏することを意味していた。そこから派生して、細切れの単発した仕事をギグと呼ぶようになった。つまりギグワークとは、単発の仕事をこなす働き方を指し、ギグワークの担い手となる労働者は「ギグワーカー」と呼ばれる。これは全く新しい働き方、概念であり、他に類似する言葉は見当たらない。

もっとも身近でわかりやすいギグワーカーの事例がUber Eats (ウーバー・イーツ)のデリバリー員だろう。

アメリカのUber Technology(ウーバーテクノロジー)が運営するインターネットを活用した配車サービスであるUber (ウーバー)が、配車ビジネスを応用して始めた料理の宅配サービスがUber Eats (ウーバー・イーツ)だ。

出前サービスに対応していない料理店でも、Uber Eatsのアプリからなら注文することができるため、外出自粛時の「巣ごもり需要」で日本でも瞬く間に広がり、最近ではUber Eatsのバッグを背負った配達員を街のあちこちで見かけるようになった。

こうしたデリバリーを担当するのは、Uber Eatsとはなんの関わりも持たない一般人だ。 Uber Eatsでは宅配要員を抱えておらず、宅配業者と契約している訳でもない。彼らが空いた時間を利用して、料理をユーザーまで届けるのが同社のビジネスモデルであり、同社では彼らを「配達パートナー」と呼んでいる。まさにギグパートナーの代名詞といえる。

他の事例としては、ヤフー株式会社がギグパートナーを募集していることでも話題になっている。

ヤフー株式会社)では採用情報サイトの中に「ギグパートナー募集」ページを設け、広くギグパートナーを募っているが、このページの内容がギグパートナーの一つの典型を示しているので引用してみたい。

ここでは冒頭、「ヤフーの働き方が変わります。」と呼びかけ、ヤフーの考える「ギグパートナー」を以下のように定義する。

「時間や場所の制約を取りはらい、組織や企業の垣根を越えて、従来では交わることのできなかった人たちと、わたしたちはこれからたくさん出会い、ともにオープンイノベーションを創出する未来を思い描いています。」

「より創造的な便利」を一緒に生み出していきませんか、そんな思いをこめた「ギグパートナー」です。」

さらに、こうした働き方を求める背景として、働く環境をオンラインに引っ越したことで、これからはどこで働いてもいい、いつ働いてもいい環境が整ったことをあげ、「みなさんの才能を重ね合わせ、協奏していきませんか」と呼びかけている。

そして、募集対象者は
・「より創造的な便利を生み出す」ために、自律自走して業務を進められる方
・「より創造的な便利を生み出す」ためのスキルや経験をお持ちの方
となっている。

つまり、インターネットにつながる環境があり、自律的に業務を遂行できる能力と同社の求めるスキルや経験があれば、だれでも応募できるよう、門戸が開かれているのだ。

これは、道路上を自転車やバイクで疾走して料理を届けるというUber Eatsの「配達パートナー」よりも自由度が高く、より創造的な仕事がしたいという応募者のニーズにマッチした「ギグパートナー」だといえる。

ただし、自分の好きな時間に自分の裁量で働ける反面、収入が不安定であったり、保険や社会保障をしっかり確認していないと対象外となることがあるなど、マイナスや注意すべき点があることも忘れないでおきたい。さらに、日本では依然として正規雇用信仰が根強く、ギグワークが浸透するまでには、まだまだ時間を要すると考えられる。ヤフージャパンのような先進的な取り組みで求められるスキルや経験はかなり高度なものとなり、採用までのハードルが高いことも考慮しておきたい。

しかし、今後も労使ともに副業志向が高まり続けるなかで、ギグワークへの注目はますます集まるに違いない。なぜなら、ギグワークのように柔軟な働き方が選択できる会社には、海外を含めたあらゆる地域からの高付加価値人材が集まりやすく、採用市場での価値が高まっていくからだ。これからも、ギグワークという新しい働き方がどう浸透していくのかに着目していきたい。

参考:ヤフー株式会社

まとめ

・厚生労働省による労働基準法のモデル就業規則の中で、労働者の遵守事項における「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定を削除し、副業・兼業についての規定が追加されたことにより、企業の副業解禁の流れが加速した。

・企業が副業を解禁することには、社員が個人事業(自営)や会社経営に携われば、経営者視点を醸成するとともに、リーダーシップ・マネジメントスキルを鍛錬することができる、や自立した社員を増やすこと(自社内でしか通用しない従業員を減らすこと)ができる、などのメリットがある。

・パラレルワークはボランティア活動や非営利団体(NPO)活動などの社会貢献、学術的な研究・調査活動、アーティストの創作活動といったさまざまなアクティビティーを複数平行して継続するもの。

・パラレルワークと似たような言葉に「兼業」があるが、明確に定義が定まっているわけではない。厚生労働省でも「副業・兼業」と併記していて、どう異なるかについては明記していない。

・ギグワークとは、単発の仕事をこなす働き方を指し、ギグワークの担い手となる労働者は「ギグワーカー」と呼ばれる。これは全く新しい働き方、概念である。

・もっとも身近でわかりやすいギグワーカーの事例がUber Eats (ウーバー・イーツ)のデリバリー員であり、最近ではヤフージャパンもギグパートナーを募集している。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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