2024.2.6

会社の副業禁止規定は違法なのか?就業規則のポイントなどとともに解説

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働き方の多様性が求められる昨今では、副業を許可する企業が増えている。一方、社内業務に集中してもらいたいため、副業を認めない企業も多く存在する。そこで、副業のルールを見直す際に、副業を禁止することは法律違反なのか気になる人も多いだろう。

この記事では、副業禁止は違法なのか、副業を禁止する理由やメリット・リスクに加えて、就業規則との関係などについて解説する。

法律では副業することは違法ではない

法律では、副業をすることは禁止されていない。日本国憲法第22条第1項において、「職業選択の自由」を保障している。そのため、副業を行っても違法ではなく、希望をすれば誰でも自由に行えるのだ。しかし、多くの企業では、副業を禁止する会社の就業規則を設けている。

副業の禁止に関連する主な就業規則と、その内容を以下にまとめた。

競業避止義務 在籍する企業と競合する他社に属したり、競合する業務に携わったりして、同業他社が有利になる行為を行ってはならない
秘密保持義務 業務上で知り得た秘密情報を、不正利用したり外部に漏えいしたりしてはならない
職務専念義務 労働時間中は、所属する企業の命令に従い、その職務に専念しなければならない

就業規則は、法的な効力を有するため、副業禁止の就業規則が定められているにもかかわらず副業を行うと、懲戒処分が科せられる場合がある。

参考:憲法22条に規定する職業選択の自由について

公務員の副業は法律で制限されている

一般的な会社員と異なり、公務員は副業が法律で禁止されている。国家公務員法第103条と第104条では、承認を得ない限り、営利企業の役員や自営の兼業が禁止されている。また、地方公務員法第38条でも、承認を得ない限り副業を禁止している。しかし、承認を得られないケースが多いため、基本的に副業は行えないのだ。

さらに、国家公務員法第99~101条では、副業禁止の三原則と呼ばれる法律が定められている。以下の表に、法律とその内容をまとめた。

信用失墜行為の禁止 職員は、職場や職業の信用を傷つけたり、職全体が不名誉となったりするような行動を取ってはならない
守秘義務 業務上で知り得た情報を、外部に漏らしてはならない
職務専念の義務 勤務時間中はその業務に集中しなければならない

つまり、国家公務員は職務専念や守秘義務を守り、信用を保たなければならないため、副業が禁止されているといえるだろう。

参考:国家公務員の兼業について (概要)
地方公務員法 | e-Gov法令検索

会社が副業を禁止することは違法なのか?

会社が副業を禁止することは、違法ではない。なぜなら、就業規則は会社が独自に定める規則で、法律ではないからだ。また、法律では「会社の就業規則で副業を禁止してはならない」と定めていない。そのため、従業員が就業規則を守らずに副業を行ったり、企業が従業員の副業を禁止したりしても、法律違反とはならないのである。ただし、就業規則で副業が禁止されているにもかかわらず、従業員が副業を行った場合は、企業が定めている罰則を科せられるだろう。

会社は、労働契約法第5条から従業員が命・身体の安全を確保しつつ働けるよう、配慮が義務付けられている。副業が原因で従業員の労働環境が適切に保てない場合、安全配慮の義務から企業は副業の禁止を規則に盛り込むことが可能だ。こういった背景からも、会社による副業禁止は違法にならないことがわかる。

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企業が従業員の副業を禁止する理由

リクルートキャリアが2022年に行った調査「兼業・副業に関する動向調査2022」では、社内副業を認める制度がある企業は27.2%と発表されている。つまり、約7割の企業で副業が禁止されているのだ。ここでは、企業が従業員の副業を禁止する理由をいくつか紹介する。

優秀な従業員の流出防止

副業に興味を持つ従業員の中には、経験やスキルを身につけて、副業を経て独立や転職を目指す人も少なくない。このように目標を持って行動している人材は、視座が高く、向上心や行動力が優れている可能性があるだろう。優秀な従業員であるほど、企業は流出を防ぎたいものだ。このため、副業が企業を離れるきっかけとなり得るのを恐れ、副業を禁止するのである。

過重労働の助長

副業を行うと、過重労働や長時間労働が生じるため、従業員が健康障害を引き起こしたり、疲労により事故を起こしたりするリスクが高まる。労働基準法第5条では、安全配慮義務が定められており、企業は従業員の健康・安全を守らなければならない。しかし、本業以外で行う副業については、配慮どころか把握することも困難だろう。そのため、一律に副業を禁止と定める企業が多く存在するのである。

利益相反につながる恐れ

従業員の副業によって、在籍する企業に不利益をもたらす恐れがある。同業他社で副業を行うことで、従業員の成果により、顧客を奪われたりヒューマンリソースが不足したりして、利益相反が生じるリスクがあるのだ。

企業ブランド価値を毀損する恐れ

従業員に副業を許可すると、副業の種類によっては、本業で所属している企業のブランド価値を大きく毀損する恐れがある。例えば、公序良俗に反するような風俗業やヤミ金融、反社会的な副業がこれに当たる。仮に従業員がこれらの副業に就いていることが明るみになった場合、SNSやウェブニュースなどを通して一気に拡散されるリスクがあり、拡散されてしまうと所属企業のブランド価値に傷が付く可能性がある。

関連記事:レピュテーションリスクとは?意味や原因、事例を分かりやすく解説

従業員の副業を禁止するメリット

ここからは、従業員の副業を禁止するメリットを紹介する。

情報漏えいのリスクを下げる

副業の禁止により、企業が持つ情報やデータの漏えいリスクを低下させることができる。従業員が副業のために同業他社で働くと、自社が保有する知識や技術をその業務で利用する恐れもあるだろう。競合他社に機密情報が漏れてしまうと、事業の参入が不利になりやすく、企業にとってマイナスとなり得る。情報を外部に漏らさないためには、副業を禁止することが重要だ。

生産性を維持する

副業を禁止すると、従業員は自社の業務に集中せざるを得ないため、企業全体の生産性を維持・向上させられる可能性がある。本業の労働時間以外に副業で働くと、長時間労働の原因となりかねない。過度な労働は、疲労や睡眠不足になりやすく、体調を崩しやすいほか、業務効率の低下、生産性の低下につながってしまう。

従業員を適切に管理できる

企業では、従業員の勤務時間や社会保険などの管理業務を行う。従業員が副業をしていると、勤務時間を決める時に、副業の勤務時間も考慮する必要がある。また、雇用保険は一社でのみ加入ができるため、従業員が副業先で雇用保険に加入したいと考えるケースもあるだろう。その場合、本業で雇用保険の被保険者資格喪失の手続きを進めなくてはならない。初めから副業を禁止していれば、雇用保険の管理が行いやすくなる。

副業を禁止する際のリスクや注意点

メリットもある反面、副業の禁止にはリスクや注意点も存在する。ここでは、副業を禁止する際のリスクや注意点を見てみよう。

スキル獲得の機会を逃す

従業員の副業を禁止すると、新たなスキルを獲得する機会を逃す場合がある。本業とは異なる場所で働くことで、通常の業務では得られないスキルやノウハウ、気付きなどが得られる可能性があるからだ。また、従業員が副業で得たスキルを社内で活用すると、企業は新たな技術を手に入れられるだろう。つまり、副業の禁止は、従業員だけでなく企業が成長するチャンスも逃しかねないのである。

事業拡大の機会を逃す

従業員が副業を通して別の企業と関わることで、副業先の企業と新たな契約を結んだり取引を行ったりするケースがある。また、副業先で獲得したアイデアやノウハウを生かし、新しい事業計画に向けて意見を共有できる場合もあるだろう。副業の禁止は、副業によってもたらされる事業拡大の可能性を狭めてしまう恐れがあるのだ。

企業イメージの低下

副業を許可しない企業は、働き方の多様化を認めない「古い考え方をする企業」といったイメージがつく恐れがある。近年では、厚生労働省が積極的に副業を促進しており、様々な企業で副業が解禁されている。「副業にも取り組みながら、自身のスキルアップを目指したい」と考える人は、副業禁止が明記された求人への応募を避けるかもしれない。そのため、副業を認めなければ、優秀な人材が集まりづらくなる上、副業を希望する従業員の離職率も高まるだろう。

従業員の副業を許可するメリット

副業の禁止によるメリットやリスクが理解できたところで、次に従業員の副業を許可するメリットを解説していく。

従業員のスキルアップが見込める

副業を許可すると、従業員がスキルアップする機会を増やせる。社内研修のみでは、獲得できるスキルに限界があるだろう。従業員は、副業を通して新しい知識や技術、経験を身に付けられる。社内にはない知識を従業員に得てもらうことで、企業の利益になる上、他の従業員に刺激を与え、モチベーションアップが期待できる。これによって、組織全体の活性化につながるのだ。

優秀な人材を確保できる

副業を許可すると、優秀な人材の確保や人材不足の解決につながる。短時間労働や業務委託など、副業を希望する従業員を雇用することで、社内の人材不足解消が期待できる。また、企業が多様な働き方を認めることで、従業員が働きやすくなるだろう。その結果、従業員の定着率が高まり、優秀な人材の離職を防げるのだ。

厚生労働省が2021年に出している「副業・兼業に取り組む企業の事例について」で紹介された株式会社LIFULLの事例では、「兼業はスキルアップや人脈形成、退職防止の観点で効果的である」という観点から導入したと記載されている。

事業拡大のチャンスがある

従業員の副業によって得られた人脈や情報は、事業拡大につながる可能性がある。副業のノウハウを社内に活用すれば、新しいアイデアを生み出し、新商品・新サービスの開発が期待できるためだ。新しい事業者とのつながりや新規顧客の獲得がかなえば、ビジネスチャンスはより広がるだろう。

働き方の多様性を担保できる

従業員に副業を許可することは、従業員の多様な働き方を支援する取り組みでもある。昨今従業員の価値観やニーズが多様化している中で、一人ひとりがより良く働ける環境を用意し、自由な時間の過ごし方を選択肢として提供することは、多くの企業が目指す姿だ。

厚生労働省が出している「副業・兼業に取り組む企業の事例について」では、実際にSMBC日興証券株式会社が、同社の経営理念に即した形で「社員一人ひとりがいきいきと働き、能力を最大限に発揮できる組織風土の構築を目指して」副業を解禁したことが示されている。

副業を許可する際のリスクや注意点

ここでは、副業を許可する際のリスクや注意点を見てみよう。

本業に支障をきたす

副業による過重労働や長時間労働で疲労が蓄積すると、本業の労働生産性が低下する恐れがある。本業の勤務時間の後や休日に副業をするケースが多いため、疲労回復や睡眠時間の確保が難しくなるのだ。また、副業ばかりに熱意を持って働き、本業の業務がおろそかになることもあり得るだろう。そのため、従業員の合計勤務時間や体調を、普段から把握することが大切だ。明らかに本業に支障をきたしている場合は、注意喚起や副業の禁止も検討しよう。

情報漏えいのリスク

副業を行う従業員は、業務で他企業と関わりを持つため、自社の機密情報が漏えいするリスクが高まる。特に同業他社へ自社の重要な情報が知られてしまうと、企業の事業戦略や存続に悪影響を及ぼす恐れもあるだろう。そのため、事前に同業他社で副業を行わないように競業避止義務を契約したり、秘密保持契約を締結したりすることが大切だ。自社の重要な情報の取り扱い方を、従業員全員に改めて共有するのも効果的である。

従業員の退職

従業員が副業に力を入れて働くことで、本業の企業を退職して副業に専念するケースがある。知識や技術を持つ人材の離職は、企業にとって不利益となるだろう。副業が離職のきっかけにならないよう、働きやすい環境作りに取り組もう。例えば、副業で取得したスキルを開示できるような場を設定し、自社で生かせるようにポジションやキャリアを設定しておくことも有効だ。

転職の機会が増加する

副業によって働く先の選択肢が増えることは、本業との比較対象を作ってしまうことを意味する。これにより、従来は知り得なかった待遇面、労働環境の差を認識し、副業先に転職する恐れがある。また、出会う人やコミュニティの数も多くなることから、転職を検討する機会そのものも増える可能性がある。本業として働き続けてもらうためにも、副業解禁後はそれまで以上に魅力的な労働環境、職場環境を整備する必要がある。

社内規定の整備が必要

副業の許可により企業に起こり得るリスクを減らすには、副業に関する社内規定を新たに決めて、明確なルールを設ける必要がある。副業の社内規定の例は、以下の通りだ。

・副業を許可しない時間帯
・副業の申請方法、申請先
・副業先の情報を知らせる(勤務時間や業務内容、勤務地、賃金など)
・社内規定に違反した場合の処分、罰則内容

明確なルールを決めると、副業を行う従業員を適切に管理できる。また、従業員も、ルールの範囲内で安心して副業に取り組めるだろう。

労働時間の把握

企業は、本業・副業に限らず、従業員の労働時間を把握し、適切に管理する必要がある。なぜなら、本業の労働時間以外に副業で働くと、時間外労働の扱いとなるからだ。

労働基準法の改正により、2020年4月から、全ての企業で時間外労働の上限規制が定められた。時間外労働を1か月当たり100時間未満、1年当たり720時間以内としなければならない。そのため、本業での時間外労働と副業での労働時間を合算し、上限を超えないように労働時間を決定する必要があるのだ。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

健康状態の把握・管理

企業は、従業員の健康状態を日ごろから確認し、管理することが大切だ。副業が原因で過労や体調不良に陥ると、本業の労働生産性が低下しかねないからである。労働安全衛生法第66条では、従業員が副業・兼業を行っているかにかかわらず、企業は健康診断を実施しなければならないとしている。健康診断に限らず、定期的なストレスチェックや過重労働の防止などを行い、定期的に従業員の健康状態を把握し、問題があれば適切な措置を行おう。

社会保険・労災保険

社会保険に関してはほとんどのケースで本業の企業が保険料を支払うが、副業先の勤務条件などを考慮して健康保険組合に届け出をしなければならない。社会保険と厚生年金保険は、本業・副業のどちらを主とするか決める必要があり、所持できる健康保険証も1枚となる。

また、労災保険は勤務時間とは異なり、実際に勤務していた時間やその収入を合計せずに計算される。副業先で労災に遭い、本業・副業ともに業務を行うのが難しくなった場合は、副業先の収入を対象に労災保険が保障される仕組みだ。社会保険・労災保険の両方について対応を考えておこう。

関連記事:「労働時間」について法律上の定義や制度、事例を基礎から解説

副業を禁止する場合は就業規則によって規定する

副業を禁止する際は、就業規則によって定める必要がある。ここでは、就業規則で規定する際のポイントを紹介する。

副業禁止の規則を明確化する

就業規則で副業を禁止する際は、ルールとして合理的な理由がない限り許可しない旨を明確化することが重要だ。厚生労働省が発表している「モデル就業規則」では、以下のいずれかの項目に該当した場合に、企業は従業員の副業を禁止できるとしている。

・労務提供上の支障がある場合
・企業秘密が漏えいする場合
・会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
・競業により、企業の利益を害する場合

一方、副業の禁止を就業規則で定めていなければ、従業員が副業しても懲戒処分は行えない。そのため、予め副業に関するルールを、就業規則に盛り込んでおこう。

参考:モデル就業規則

規則違反の従業員への対応を決める

副業禁止の規則に違反するような副業を行った従業員に対して、どのような処分や罰則を設けるかについても明確化しよう。例えば、「同業他社で副業をした」という理由で即日解雇をするのは、大きなトラブルになりかねない。規則違反によって、会社にどのような影響が出たのか、処分方法が適切かを慎重に判断する必要がある。

また、労働時間や健康の管理など、細かなルールを設けなければ、副業のルールがわかりづらい場合があるだろう。従業員がきちんと納得できるよう、多様な働き方を尊重した上で、規則を作っていくことが大切だ。

副業を届出制にする

厚生労働省では、労働時間以外の時間をどのように過ごすかは、労働者が自由に決められるとしている。しかし、無制限に副業を許可すると、企業に様々なリスクが発生するだろう。そこで、多数の企業では、副業の申請を許可制ではなく届出制にする動きが見られる。

許可制とは、従業員から副業の申請を受けても、企業が承認しなければ従業員は副業が行えない。一方、届出制とは、従業員が届出を出すことで副業が可能になる仕組みだ。就業規則に届出制であることを記載し、企業が副業を禁止できる事項に当てはまれば制限することを明記しよう。

まとめ

副業をすることは違法ではなく、むしろ法律により職業選択の自由が保障されている。しかし、企業の就業規則により、副業を制限することもできる。また、副業を禁止することも違法ではなく、就業規則に違反した従業員に罰則を科すことも可能だ。

副業を禁止すると、機密情報の情報漏えいや生産性低下などのリスクを抑えられる。しかし、従業員のスキルアップや事業拡大のチャンスを逃す場合があるため、副業のルールは慎重に決定するべきだ。副業を禁止する際は、ルールを明確化し、就業規則にきちんと明記し、トラブルが発生することを未然に防ぐ取り組みが重要だ。

関連記事:複数の職種を「スラッシュ」で区切る「スラッシャー」、「スラッシュキャリア」。副業との違いは

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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