2023.8.31

内々定とは?その後の流れ、内定との違い、なんのためにあるのかを解説

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企業の採用活動において、内々定を導入する企業が増えている。内々定は内定と異なり、応募者に対する拘束権は認められていないため、注意が必要だ。

この記事では、内定と内々定との違いや、国内企業の採用活動状況、契約における注意点について解説する。

「内々定」とは何か。内々定から内定までの流れ

内々定とは、企業が応募者に対し、内定の意思表示を示すものだ。日本経済団体連合会(以下、経団連)により、内定日は10月1日以降にすることが定められていることから、導入する企業が増えてきた。

内定と内々定との違いは、労働契約が成立した状態かどうかといえる。ここでは内定と内々定の概要と、内定決定までの流れについて解説する。

内定とは

内定とは、応募者と企業とで入社する約束を交わし、労働契約が成立した状態だ。応募者が企業から採用通知と内定承諾書を受け取り、サインと捺印をした内定承諾書を企業に提出すれば、内定が成立する。

採用通知には、就業開始日や就業場所といった条件や、内定を取り消す場合の事由が記載されており、応募者はその内容を承諾したうえでサインをしなければならない。

経団連の「採用選考に関する指針」では、内定日を卒業・修了年度の10月1日以降にすることが定められている。そのため、10月に内定式を実施するのが一般的だ。

内々定とは

内々定とは内定の事前約束のことで、いわば口約束に相当する。応募者に対し内定前に採用の意思表示をすることで、入社への意思を固めてもらう施策だ。内々定が広まったのは、経団連が内定日を10月1日以降と定めたことが影響している。

優秀な人材の場合、ほかの企業から内定をもらうことが推測できる。もし内定通知が遅れた場合、優秀な人材を逃してしまうかもしれないことから、内定前にアクションをかける手段として内々定を導入する企業が出てきたのだ。

経団連の「採用選考に関する指針」では、採用選考活動開始を6月1日以降と定めていることから、内々定は6月1日以降に出されるのが一般的になっている。

内々定から内定通知までの流れ

内々定から内定までの流れは以下になる。

1. 応募者に内々定の連絡
2. 10月1日以降、応募者に採用通知と内定承諾書を送る
3. 応募者が内定承諾書にサインと捺印をする
4. 応募者が内定承諾書を提出する
5. 内定承諾書を受け取り、採用が決定する

採用通知を送っただけでは、採用決定にはならない。応募者が入社する意思表示をして、入社が決まる。入社の意志を確認するのが内定承諾書だ。内定承諾書にサインと捺印をし、それを企業が受け取った時点で採用が決定する。

内定や内々定を出す時期はあくまでも原則である

内定や内々定を出す時期は、法律で決まっているものではなく、あくまでも原則だ。経団連が定めている「採用活動に関する指針」は法律ではないため、企業が自主的に守るルールといえる。

そのため、定められた日よりも早く内々定や内定を通知している企業が存在するのも事実だ。ただし、法律ではないからといってルールを破っていては意味がない。

「採用活動に関する指針」は、学生の勉強時間を確保するため定められたルールだ。なぜルールがあるのかを理解したうえで、採用活動に取り組む必要がある。

24卒採用における内々定率の動向

株式会社学情の「2024年卒 内々定率調査 2023年8月度」によると、24卒の7月末時点の内々定率の動向としては以下のようになっている。

● 7月末時点の内々定率は86.1%
● 理系文系共に8割以上の内々定率
● 3人に2人は就職活動を終了

7月末時点の内々定率は86.1%

株式会社学情の調査によると、2024年卒学生の7月末時点の内々定率は86.1%だった。前年同時期を5.1ポイント上回った。これは企業による内々定出しの早期化が顕著になっているということだ。

理系文系共に8割以上の内々定率

文系と理系に分けても共に8割以上の内々定率がある。文系学生の内々定率が81.4%で、理系学生は95.2%といずれも高い水準の内々定率を出している。

文系については、前月比で2.0ポイント、前年同時期比で2.2 ポイントの上昇となった。理系については、理系については、前月比で1.1 ポイント、前年同期比で10.7 ポイント上がった。

こういった統計からも企業は優秀な人材獲得に向け、積極的に動いていることが想像に難くないのだ。

3人に2人は就職活動を終了

就職活動をしている”学生は「31.1%」と前月から11.8ポイント減り、内々定を獲得し、就活を終了した学生は「67.4%」になった。3人に2人は就職活動を終了していることになる。コロナ禍においても企業が優秀な人材確保に向け意欲的に動いていることを示唆しているのだ。

これはかつてないぐらいのハイペースで内定及び内々定が進んでいるとされ、戸惑いが見える学生も多いという。

24卒の内々定率が伸びているマクロ的要因

これまでの解説のように、内々定率が伸びている背景には、経団連の就活ルールの廃止や新型コロナウイルスの流行といったマクロ的要因があるとされる。就活の早期化や自由化が進み、例年より早い時期から内々定を出す企業が増えている側面があるのだ。

また一見、コロナによって就活生には厳しい現状と世間では思われがちだが、企業側としてはコロナによって他社が新卒採用を控えている今だからこそ、逆に優秀な人材を確保できるチャンスと捉えている。企業のこうした人材確保戦略を成功させる観点からも、内々定を早期に出すことは企業側としては当然といえば当然の施策なのである。

内々定は労働契約が成立していない

内々定は、労働契約を交わした状態ではないため、内々定が決まったあとでも解消することが可能だ。しかし、内定は労働契約を交わした状態だ。契約締結後の取り消しは解雇にあたるため、企業側からは簡単に取り消しを判断できない。

内定後に取り消す場合は、正当な理由が必要だ。ここでは、内々定と内定での取り消しの可否と、企業側から取り消すときの条件について解説する。

内々定は企業側、学生側双方取り消し可能

内々定は、企業側と学生側の双方から解消できる。内々定はあくまでも口約束に相当するものであり、正式な契約を交わしたものではないためだ。応募者の意思を強固にするため「内々定承諾書」の提出を求めるケースも存在する。

しかし、内々定承諾書には法的効力は存在しない。仮にサインや捺印された承諾書があった場合でも、取り消すことが可能だ。そのため、学生は内々定獲得後も志望企業への就活を続けられる。

企業側としても、内々定を出したとしても必ずしも採用する必要はない。あくまでも正式な契約ではないことを理解しておく必要がある。

企業側の内定取り消しは「解雇」にあたる

内定の場合、学生側からは内定辞退が認められている。しかし、企業側からは理由なく取り消すことを認められていない。

前述したように、内定とは労働契約を交わした状態だ。そのため、契約締結後の内定取り消しは企業側にとって「解雇」を意味するのだ。

正答な理由がない場合、取り消しは違法になる。仮に正当な理由があった場合でも、助成金をもらえないといった影響も出てくるため、簡単に判断できない。

内定取り消しをしたい場合は、取り消した後の影響まで考えたうえで判断する必要がある。

関連記事:内定辞退とは?学生が辞退する理由、入社意欲を高める取り組みを解説

企業側の内定取り消しが認められる条件

対象となるのは、内定当時にはわからなかった情報や事実が発覚した場合だ。その情報や事実が、客観的、合理的かつ社会通念上相当である場合にはじめて取り消しが認められる。

具体的には、以下が挙げられる。

● 契約条件を満たさなかった場合
● 働けなくなった場合
● 虚偽申告をしていた場合
● 反社会的行為が発覚した場合
● 企業の業績悪化により人員整理が必要な場合

「卒業できなかった」「資格を取得できなかった」といった、入社するうえでの前提条件を満たせない場合は、取り消しできる。傷病で業務に就けない場合も同様だ。

ただし、業務に差支えがない程度の傷病や、内定前から疾病があることを知っていた場合は、正当な理由とは認められない可能性がある。

学歴や資格などの合否に影響する情報において、重大な虚偽報告があった場合も対象になる。これは、契約条件を満たさなかった場合と同様に、入社するうえでの前提条件を満たさなかったかどうかが判断基準だ。

そのため、程度によっては重大な虚偽報告とは認められない可能性もある。どこまでが合否に影響したのかがポイントになるため、注意が必要だ。

犯罪や反社会勢力とのかかわりが発覚した場合も対象だ。近年では、SNSでの迷惑行為や誹謗中傷が理由で、取り消しとなる事例も存在する。

業績が悪化し、人員の整理解雇が必要になった場合も取り消しが認められる。ただし、十分な理由や解雇回避のための努力が証明できなければ、正当な理由とは認められない。あくまでも最終手段であることを理解する必要がある。

内定及び内々定における事例

以下では実際にあった内定及び内々定における事例について解説する。

・内定取消が認められた事例
・内定取消が認められなかった事例
・内々定を取り消した事例

内定取消が認められた事例

過去内定取消が認められた判例としては、昭和48年10月の日本電信電話公社の事例がある。日本電信電話公社の内定が決定した学生が入社する直前にデモに参加し、座り込みを行うなどして不退去罪で警察に逮捕されたのである。

事態を重く見た日本電信電話公社はこの学生の内定を取り消した。しかし学生は逮捕されたものの、その後起訴猶予処分で済んでおり、内定の取消までは無効だとして地位確認請求及び賃金の支払いを求めてきたのだ。

だがこの争いにおいて、内定を取り消した企業が公共性の高い公社であることや職員として働いたときに秩序を乱し業務が阻害される危険があると判断されたことなどから、公社社員としては適格性に欠けるとして、内定取消が認められたのだ。

通常、起訴猶予処分ぐらいでは内定を取り消すことは難しいとも思えるが、企業が公社であったことがポイントとなった判例といえるだろう。

内定取消が認められなかった事例

一方、内定取消が認められなかったのが昭和54年7月の大日本印刷の事例だ。大日本印刷は学生の応募に対して採用内定通知を出し、その学生の内定が決定した。

ところが大学卒業間際になって、その学生がグルーミー(陰気)な印象があったとの理由から大日本印刷側は内定取消を一方的に通達してきたのだ。

この処遇に対して学生は提訴に踏み切った。結果、大日本印刷の労働契約解約権の乱用という判決となり、内定取消は無効となったのである。

この件に関しては、入社直前になって企業側の気が変わっただけとも受け取れるが、やはりきちんとした根拠と理由を示せなければ、内定取消はできないものだと改めて再確認できた事例だ。

内々定を取り消した事例

最近では2021年に某大手IT企業が学生21名に対して内々定を取り消した事例があった。2021年4月から9月の5ヶ月間の間に50人程度の学生に内々定を出し、その後26人を内定、残りの21人に対しては内々定を取り消したのだ。

これに関しては企業側からの説明はなく、21人もの学生がないがしろにされる結果となってしまった。内々定は労働契約が成立しておらず、いわば口約束の段階で取り消してもそもそも違法性はないが、学生にしてみればあまりいい気分はしないだろう。

就活ではこのようなことも普通に起こり得る前提で、気を抜かず行っていく必要があるのだ。

まとめ

内々定とは、企業側が応募者に対し内定の意思表示を示すものを指す。経団連により、内定日は10月1日以降にすることが定められたため、内々定を導入する企業が増えてきた。内定開始よりも前に採用の意思表示を伝えることで、優秀な人材を確保するのが狙いだ。内々定率は上昇傾向にあり、内定開始時期が定められたこととは裏腹に、採用活動自体は早まっている。

ただし、内々定はあくまで口約束であり、法的効力は発生していない。内々定を出した後に取り消すことも可能だ。一方、内定は労働契約を交わしたものであり、企業側からは正当な理由がなければ取り消しできない。

内々定と内定との違いを理解し、ルールに則った採用活動をすることが、企業と応募者双方の負担軽減につながるだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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