2020.12.8

ティール組織(進化型組織)とは?次世代型の組織づくりの考え方

読了まで約 6

・不確実な時代といわれる今、注目される「新しい組織のカタチ」とは?

・加速しつつ変化するビジネス環境に強いティール組織とホラクラシー組織

・ティール組織のメリットは、ピラミッド型組織の弊害から見えてくる

・多様な「理想」が難しくするティール実現への壁とリスクとは?

・ヒエラルキー組織とティール組織との人事制度に見える違いとは?

・ティール実現によって変わる「人事制度」のこれからとは?

自律型組織として注目を集めるティール型組織とホラクラシー型組織

ここ数年、ティール組織やホラクラシー組織といった、「自律分散型」の新しい組織形態が注目を集めている。これら組織の特徴としてあげられるのは、従来の組織運営に必須とされているヒエラルキー型、ピラミッド型の指揮・命令系統や意思決定のプロセスを持たず、替わりに組織の構成員ひとりひとりが自ら思考することで、その行動を最適化していくための選択をすることだ。

自律型の組織と常々比べられるのが、管理型の組織だ。「管理型組織」は、上長の命令に従事する部下という関係を前提に、日本の急速な戦後復興から高度成長期を長きにわたって支えてきた。しかし、バブル崩壊、グローバリゼーション、デジタル化など、企業を取り巻く環境が高速に変化していく「VUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の頭文字をとった略語)」と呼ばれる時代に入って久しい現代においては、上長の指揮・命令を待つのではなく、メンバーが能動的に思考・行動する力が、組織単位で求められている。そのような中で登場してきたのが、ティールやホラクラシーといった「自律型組織」である。

他方で、自律型の組織をつくるために、ティールやホラクラシーの導入が必須なわけではない。しかし、組織としての「自律」に鑑みた場合、組織のメンバーひとりひとりが組織の目指す方向性と行動する上での規範を正しく理解し、必要な情報と権限が与えられた環境の下で適切な行動をとるためには、組織立って自律的な行動を促進していく「ルールづくり」(環境整備)が要となってくる。

その中でも「ティール組織」は、組織運営スタイルで最も進化した組織の形だといわれる。メンバーそれぞれが「経営の視点や所感」を行動に移すことに加えて、組織としてみたときに、あたかも生命体であるかのように、アジャイル(自立した「個」が有機的なつながりを持つ状態)であることを特徴とする。そのため、前提として必要となることは、全員が経営者に等しいため完全な互いへの情報開示と、相互への努力認知・フィードバック・感謝に基づく評価軸、自己実現の面において金銭報酬を超越し心身の健康を最優先することだ。十分な情報と業務遂行に要する権限を持つことで、メンバーが能動的に行動する機会を増やし、「より関わりたい」「より貢献したい」という、組織としての事業推進に資する思考を醸成することができる。

また、ティールを実現するための形態のひとつに「ホラクラシー組織」がある。ホラクラシー組織の特徴としては、「組織の全意思決定プロセスにおいて、ホラクラシー憲法というルールが適用される」点があげられ、権限が個人(役職)ではなく「ロール(役割)」に委ねられている。「ティール組織」が明確なビジネスモデルではなく、企業が生き残るために変化を繰り返す進化形の組織体であるとしたら、「ホラクラシー組織」とは、厳密なルールのもとに運営される実践的な経営手法であるといえよう。

本稿では、変化に強い「自律型組織」への移行という流れを見据え、ティール型組織の長点や課題点、そしてティール組織における人事制度のあり方などを考えていく。

ティール型組織のメリットとデメリット

日本経済新聞社の記事(2020年10月16日電子版「大企業も「進化型」に関心」)によると、三菱総合研究所が5月に実施したコロナ禍を受けた企業調査において、レジリエンスが高い組織づくりで必須となる項目として、「フラットな組織づくり」という回答が54%に達した。これは既存業務のデジタル化推進などに続き、全体で4番目に多い回答であり、同研究所によると、産業革命以来続いてきた工場労働者の管理を原型とする「上意下達」「時間管理」などといった手法は、知識労働が大多数を占める社会においてもはや陳腐化しており、その役割の限界を迎えていると指摘。「ティールなど抜本的な組織変更を目指す動きはさらに加速するだろう」と予測している。

では、多くの企業が注目する「ティール型組織」にはどのようなメリットがあるのだろうか。ティール型組織のメリットを考えるには、ヒエラルキー型組織の弊害を考えると明快だ。

ヒエラルキー型組織では、経営陣を筆頭とした上下関係で、経営戦略や事業目的などが策定される。その目的を達成するために、徐々に下方部署へ具体的目標と役割が与えられていく。そのため必ず「管理」が存在し、上長が部下を管理し、部下は上長に評価されるために職務を遂行するという関係性で成立する組織形態だ。前述のとおり「上意下達」で成り立つヒエラルキー型組織は、時として部下に対して「望まない仕事」「適正ではない職務」を委ねる場合がある。それらは部下の「昇進できないかもしれない」「評価されないかもしれない」という恐れを生むことになるが、ヒエラルキー型組織では上層部による「情報の独占」と、この「部下からの恐れ」を原動力として組織を動かしている側面があるため、様々な変化への適応が弱く、従業員の本来の力を十分発揮できない環境自体が、顧客や社会に対して十分な貢献をできないことにつながる複合的弊害を生ずる。

その点、ティール組織では、階層、序列、管理業務、売上目標が存在しない。セルフマネジメント、つまり自律的な働き方の管理を可能にする裁量を相互付与することで、「組織としての目標」や、そのために行うアクションなどについては共有をしつつも、目標達成に向けては「従業員の主体的な力を発揮させること」を重要視することが最大の特徴だ。「組織としての存在意義」を個々のメンバーが常に問い続けることで、その目的の実現に必要なあらゆる重要な意思決定(役割、業務、目標など)は、メンバー同士の意思疎通で決定されていく。また、ヒエラルキー型の組織と違い、意思決定に要する情報は全て平等にオープンでアクセス可能となっている点も、各メンバーの当事者意識を高め、自律性とエンゲージメント向上に資するものだ。

他方、ティール実現におけるデメリットとして挙げられる点は、2つある。一つ目は、ティール体現の難しさであり、二つ目は、ホラクラシー組織で見受けられる弊害だ。

まず、ティール型の組織を実現させる難しさについてだが、これはティール自体が、組織自体をある種の生命体として扱うことによって、常に共通の目的のために変化と進化をしていくことを求めているため、ティール組織には「明確な定義」やビジネスモデルにおける金科玉条が存在しない。また、組織の成立背景や変化の軌跡がそれぞれに異なるため、一方で成功したモデルが他方で成功するとは限らず、他組織での再現性が非常に低い。

次にあげられるのは、ホラクラシー組織での弊害に起因するティール組織でのデメリットだ。前出のとおりホラクラシー型を含むティール実現において、自律性は非常に重要視される。従来型組織の「管理」に相当する部分がなくなるため、たとえば組織変容の過渡期においては、「従業員の行動が把握できない」といった不安の声も生じてくる。また、情報をオープンにすることがカギとなるため、「機密情報の漏洩リスク」ということも常に考慮する必要が出てくる。

ティール組織の人事制度

このように組織の形態はさまざまに変化していくが、組織の根幹は「人」であるということだけは不変である。ヒエラルキー型組織であってもティールなどの自律型組織であっても、それは変わらない。また、組織の事業目的や経営戦略を実行に移していく上での要は「人事制度」にある。そして人事制度での重要な軸となってくるのは3つあり、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」だ。

従来のピラミッド型の組織などでは、業務を遂行する能力によって職務と役割を序列することで、組織内での権限と責任、並びに目標の策定を行い、権限と責任の大小に紐づくように報酬が正比例、そして目標へのコミットに応じて評価もこれにほぼ等しいものだった。そして、評価結果に応じて昇給や昇進(または時として減給や降格)などの賞罰が検討され、等級に応じて評価基準が変化するという、人事制度がメンバーの行動の多くを指針によって管理・制限する中で、顧客や社会への価値提供を行っていた。

一方で、ティール型の組織での人事制度は、組織のあり方が大きく異なるため、従来型のそれとは違ってくる。まず、人事制度の根幹のひとつである「等級制度」が存在しない。また、メンバー同士がプロジェクト単位、チーム単位で動いていく点に特色があり、たとえばチームの「まとめ役(ファシリテーター)」などの役割が存在することはあるが、これは上下関係を前提とする「役職」のそれとは異なり、あくまで横(平等)のつながりである。また、ティール型組織の特徴であるメンバー間の合意をもとにルールを策定していくのが前提となるため、メンバーの「報酬」や「評価」についても例に漏れることなく、360度評価などの合議制に基づく「評価制度」を採っている。

近年では、「人事制度」においてさまざまな企業が、それぞれにとってのティール実現に向けて取り組みを行っている。社員のランク付け、年度単位での評価をやめるノーレイティングを採用したり、従業員の自己研鑽を奨励する休職制度、社内で「やりたい仕事」を実現する社内公募制度、個人のモチベーションを高めるワーケーション制度など、実に多種多様な取り組みがある。

これらの取り組みの根幹にある、「働く個人の自律性を高めることによって、仕事へのやる気・意欲の向上を目指す」という動きこそが、今後も速度を増しながら絶えず変化していくビジネス環境における、企業の生存と競争力強化に資するティール実現への第一歩となるに違いない。

まとめ

・近年注目を集めるティールやホラクラシーといった「自律分散型組織」は、従来型のヒエラルキー型・ピラミッド型の組織と違い「指揮命令」の系統を持たない。長い間日本の成長を支えた従来型組織では、もはや変化するビジネス環境に適応することが難しく、替わりに組織のメンバーひとりひとりが自律的に思考し行動することで、組織としての一体の目標を目指していく「自律型の組織」実現が求められている。

・ホラクラシー組織は、ティール実現のための一つの組織経営手法といえ、両者は「上下関係がなく、意思決定権が分散され、自律的な自主経営と完全な情報公開」といった共通点があるが、いくつか違いもある。ティールは明確なモデルが存在せず、組織内に従来型の組織構造があってもある程度機能するが、ホラクラシー組織は厳密なルールが存在し、役職ではなく役割(ロール)によって運営され、そのモデルに再現性があることが重要視される。

・ティールのような自律型組織の利点は、ヒエラルキー構造をもつ従来型組織の弊害から明瞭となる。従来型組織では、経営層や管理層による「情報の独占」と「上意下達」を用いることで、部下の一挙一動が昇進や昇給に障る「恐怖心」を利用した組織運営を行うが、自律分散型組織では、全ての情報をオープンとし、重要な決定はメンバー同士の合議で成立させることで、個々の当事者意識と仕事への意欲向上に資する点でメリットが大きい。

・「ティール」の定義は曖昧で、組織によって目指すべき実現が異なり、一方の組織の成功モデルが他方で実現するとは限らない点において、再現性に難がある。また、ティール実現を目指す上で、ホラクラシー組織から見えてくる課題として、1.高い自律性という前提によって従業員の行動把握が難しくなっていく、2.情報を全メンバーへオープンとすることによる情報漏洩のリスク、などがある。

・従来型組織では「人事制度」において、役職や役割と紐づく「等級制度」、等級によって変化する「評価制度」、等級を基にした評価軸に正比例する「報酬制度」という仕組みが、組織における「人」を司る人事制度の根幹であった。自律性を重んじる分散型の「ティール型組織」では、それぞれが上下関係などの等級を有さない「横につながる」チームで動き、人事制度における報酬や評価も360度評価などの合議制が重んじられる。

・加速度的に変容しつつ、曖昧で不確実性を帯びた現代社会において、組織の競争力維持と更なる強化に向けて、その根幹を成す「人事制度」は、働く個人の「自律性」を重んじること、そして産業革命期に成立した工場労働管理を前提とする、前時代的な上意下達体制からの抜本的な変革が求められている。すでに一部企業では、人事評価でのノーレイティング採用や、従業員のワーケーションを奨励するなど、ティール実現に向けた多様な試みが始まっている。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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