2023.12.25

介護離職とは?発生する理由や防止対策、助成金などについて解説

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「介護離職」とは、介護と仕事の両立ができず、介護のために会社を辞めることだ。介護離職者の多くは中堅である40~50代であることが多く、企業は経験豊富な従業員が退職するという痛手を負うことになる。また、退職する従業員も退職することで金銭的な不安や介護のストレスと向き合うことになるだろう。

この記事では、企業と従業員の両者が回避したいと考えているであろう介護離職を防ぐための国の制度や、助成金などについて解説する。

介護離職とは

介護離職とは、介護に専念するために仕事を辞めることを指す。介護離職をする者によっては、収入源がなくなるため経済的に困窮することがある。最終的には生活保護に頼らざるを得ないケースも多く、介護離職は社会問題として懸案事項とされている。

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介護離職の現状※1

2017年の離職者735万人の離職理由のうち、「介護・看護」はわずか2%であった。しかし、同年の介護離職者は約9万人となっており、2007年と比較すると約2倍に増えている。

また、以前は非正規労働者の介護離職が正規労働者よりも多かったが、2010年頃からその差は小さくなり、近年では正規労働者の離職者の方が多くなっている。これは、高齢化により介護を必要とする人が増えたためといえる。今後も働き盛りの人が介護によって離職するケースは増えていくだろう。

利用されない介護休業制度※2

育児・介護休業法は、事業主に介護休業の導入を義務付けている。厚生労働省の「平成29年度雇用均等基本調査」によると、介護休業制度の規定がある事業所(30人以上規模)の割合は90.9%となっている。しかし、介護離職者の多くが介護休業制度の規定がある事業所に雇用されていたにもかかわらず、制度を利用せずに離職に至っているのだ。その理由には、「自分の仕事を代わってくれる人がいない」「制度を利用しづらい空気がある」などが挙げられている。

関連記事:男性育休制度の現状と企業の取り組み、最新の改正育児介護休業法を解説

介護離職による経済的損失※3

介護離職者の再就職率は全体の3割程度となっており、年齢が上がるほど厳しくなっている。介護離職は、少子高齢化が進む現代では労働力不足の問題を一層深刻化させる一因にもなり得るのである。経済産業省の「第1回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会(2018年9月21日)」によると、介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は、1年で約6,500億円にものぼると見込まれている。

遅れる介護離職対策※4

政府は、2020年代初頭までに約50万人の介護の受け皿を整備するとしているが、建設費の高騰や介護人材不足の深刻化により、計画が遅れているのが現状だ。在宅ケアを支援するサービスの強化も計画されているが、家庭内でサポートできる人員は常に不足している状態である。

※1~4 参考:介護離職の現状と課題(内閣府)

介護離職が発生する理由

介護離職に至った理由としては、「仕事と手助け・介護の両立が難しい職場だった」という回答が最も多く、全体の約6割を占めている。「自分の心身の健康状態が悪化したため」「自身の希望として手助け・介護に専念したかったため」などの理由を挙げている場合もあるが、勤務先の制度面や環境面が理由として大きいのがわかるだろう

介護離職者を減らすには、職場の就労環境を改善することが重要だ。そのためには、官民が一体となって協力する必要がある。

※参考:令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 報告書(厚生労働省委)

介護離職のメリットとデメリット

デメリットのイメージがつきまとう介護離職だが、もちろんメリットも存在する。ここからは、メリットとデメリットの両面について解説する。

介護離職のメリット

まずは、介護離職のメリットについて見ていこう。

介護に集中でき、精神的負担が減る

フルタイムの仕事をこなしながら介護を並行するというのは、心身の疲弊につながる。仕事中に要介護者が行方不明になることもあれば、仕事の合間に介護サービスの手配や、事業所とのやり取りなどに追われることもあるだろう。介護離職をすることによって介護に集中できるため、心理的、肉体的にも負担が軽くなる。

加えて、要介護者と一緒にいられる安心感や、要介護者が親であれば親孝行しているという実感も湧く。コミュニケーションも円滑になるため、スムーズな介護につながると言えるだろう。

介護費用を削減できる

仕事と介護を両立させるために、訪問介護やデイサービス、ショートステイの他、配達弁当サービスや見守りサービスを利用している人もいるだろう。しかし、プロに任せるということは相応の費用がかかる。時には数百万円という額になることもあるのだ。

介護離職をすれば、介護保険を利用しつつ家族が中心となって介護ができるため、外部の介護サービスにかかる金額を抑えられる。ただし、支出を減らせると同時に収入も減ることは留意しておきたい。

介護離職のデメリット

一方、介護離職のデメリットは次の通りである。

収入が大きく減少する

離職となると、安定した収入が途絶えてしまい、それまでの生活を維持することは困難になるだろう。収入がなくなるため当然貯蓄は難しくなり、場合によっては貯金を食いつぶす形になる。

また、運良く再就職ができたとしても、実情としては年収の大幅な減少につながるケースが多い。介護が終わった後のことを見据え、人生100年時代を意識して準備をすべきだろう。

精神的負荷が大きい

介護と仕事の両立は、体力的・精神的・時間的負担が大きい。その両立から解放されると、介護費用も軽くなり、落ち着いて介護に取り組めると思う人も多いのではないだろうか。しかし、それは少々楽観的に考えすぎかもしれない。離職すれば安定した収入減はなくなり、社会とのかかわりも少なくなる。その結果、孤立し精神的に追い詰められる介護者は少なくないのである。

介護が終わった後の再就職が難しい

介護離職をするということは、キャリアを中断することになる。離職期間が長引くと再就職は難しくなり、収入源がなければ貯金を取り崩すことになる。その人が親の介護をしている場合、親の年金に頼った生活が続く恐れもあるのだ。また、その親が亡くなり介護が終わったとしても、その時には唯一の収入源であった親の年金もなくなる。再就職をと思っても、離職時より年齢を重ね、ブランクがある状態から再就職先を見つけるのは非常に困難だろう。

介護には、紙おむつなどの消耗品代や介護用品代も発生する。介護保険を利用したとしても、介護費用というのは想像以上に家計にダメージを与えるだろう。

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介護離職を防止するための支援制度

2016年6月に閣議決定した「日本一億総活躍プラン」では、「介護離職ゼロ」が明確な目標として掲げられている。政府は介護離職がなくなる状態を目指しており、さまざまな支援制度が用意されているのだ。以下では、その各制度について詳しく解説する。

介護休業制度

介護休業制度とは、従業員が要介護状態にある家族を介護するために取得できる制度だ。育児・介護休業法で企業に対し導入が義務付けられており、条件を満たす従業員が申請した場合には取得させなければならない。

後に解説する介護休暇は、介護を理由とした短期的な休みに活用できるが、介護休業は長期的な休みを取得することを前提としている。休業することで仕事と介護を両立させられる体制づくりをすることが目的だ。

介護休業制度の利用条件

介護休業を取得するための条件は、2週間以上の期間にわたり、常に介護が必要な状態の対象家族を介護していることだ。

対象家族は以下の通りである。

・配偶者(事実婚を含む)
・父母
・祖父母
・子
・兄弟姉妹
・孫
・配偶者の父母

いとこや叔父・叔母は、介護休暇の対象家族の範囲外だ。

なお、介護休業は、取得予定日から93日を経過する日から6ヶ月経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないことを取得条件としている。例えば4月1日に介護休業を開始する場合、7月2日が93日を経過する日となり、そこから6か月後の翌年1月1日が「93日を経過する日から6か月経過する日」となる。

介護休業制度の利用期間

介護休業は、対象家族1人あたり通算93日を限度としており、3回まで分割して取得できる。例を挙げると、一括で93日取得するのはもちろん、入院のために10日間取得し、その後介護施設へ入所する時点で7日取得するといった使い方もできるのだ。自身や対象家族の状況に合わせて柔軟に使えるという特徴がある。

なお、日数は対象家族について通算93日までとなっており、年度が変わっても付与はされない。

介護休業制度利用中の給与

介護休業期間の給与については、企業側に支払い義務がないため、原則無給となる。しかし、給与を支給するかどうかの判断は企業に委ねられており、企業によっては給与を支払う場合もある。

なお、介護休業を取得する場合、従業員には後述する「介護休業給付金」が給付される。企業の担当者は給付のための手続きが必要だ。

介護休業制度の申請方法

介護休業の申請は、原則として休業開始予定日の2週間前までとなっている。なお、申請期限は企業側が就業規則で2週間よりも短くすることができる。

申請方法は、企業ごとに申請書を用意し、従業員が自ら申請する方法が一般的である。また、企業側が申請を承認し、正式に休業を認めた場合には従業員に書面などで通知をする必要がある。

介護休暇制度

介護休暇制度とは、従業員が要介護状態にある家族を介護するために取得できる制度だ。介護休業制度と同様、企業には導入が義務付けられている。介護休暇は直接の介護以外にも、通院の付き添いや各種手続きなど、介護に関わる理由であれば取得できる。

介護休暇制度の利用条件

介護休暇を取得するための条件は、2週間以上の期間にわたり、常に介護が必要な状態の対象家族を介護していることである。ただし、介護をしている全ての従業員が対象となるわけではないことに注意が必要だ。介護休暇制度の対象は、対象の家族を介護している日雇い労働者以外の全ての人になる。

対象家族は以下の通りである。

・配偶者(事実婚を含む)
・父母
・祖父母
・子
・兄弟姉妹
・孫
・配偶者の父母

いとこや叔父・叔母は、介護休暇制度の対象家族の範囲外だ。

また、労使協定を締結すれば、介護休暇制度の対象外とできる従業員は以下の通りだ。

・入社6か月未満の従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員

介護休暇取得の際には取得条件の確認をすべきだろう。

介護休暇制度の利用期間

介護休暇制度を取得できる日数は、対象家族1人あたり年5日、2人以上で年10日である。介護休暇は時間単位での取得ができるため、企業の担当者は残日数と残時間数、両方の管理が必要だ。

また、介護休暇は介護休業とは違い、年単位で付与される。企業は就業規則に規定されている時期に忘れずに付与しなければならない。

介護休暇制度利用中の給与

介護休暇中の給与については、企業側に支払い義務がないため、原則は無給となる。ただし、給与を支給する・しないは企業に判断が委ねられているため、有給とすることもできる。企業側は介護休暇中の給与支給の有無について、就業規則に明記する必要がある。

なお、有給にすることで企業は自社イメージの向上を図れるうえ、助成金の対象となる場合もある。メリット・デメリットの両面を把握したうえで、給与支給の有無を検討することが大切である。

介護休暇制度の申請方法

介護休暇の取得について、法律上は当日に口頭で申請することも認めているため、介護休業のような書面での申請を強制していない。しかし、企業側は取得条件の確認が必要であるなど、管理上の観点から一般的には申請書を作成し、提出を求める運用をしている。万が一、当日に口頭で取得を希望する従業員がいる場合には、後日申請書の提出をしてもらうとよいだろう。

なお、申請書は紙での運用に限定されておらず、電子システムなどを用いた申請も認められている。社内の手続きについては、自社に合う申請方法を選択すべきだろう。

時間外労働の制限

「時間外労働の制限」とは、「育児・介護休業法」で定められているものであり、要介護2級以上の家族を介護する従業員が時間外労働の上限を月24時間、年間150時間以内にするよう企業に申請できる制度である。つまり、介護を行っている従業員の負担を軽減させるための制度だ。仕事と介護の両立を叶えるため、時間外労働に上限を定めることで長時間労働を防ぐ目的がある。

対象となるのは、介護中の従業員(要介護2級以上の家族がいる)と、その従業員が所属する全ての企業だ。なお、企業が時間外労働の制限申請を拒否することは法令違反となる。

関連記事:時短勤務(短時間勤務制度)とは?メリット・デメリットや、いつまで取れるのかを解説

介護休業給付

介護休業の解説で述べた通り、条件を満たせば給付金が支給される。ここでは、介護休業給付金の給付条件や注意点、計算方法について解説する。

介護休業給付金の支給条件

介護休業給付金の支給条件は、介護休業を開始する日から2年前までに11日以上就業した月が12ヶ月以上であることだ。ただし、本人が傷病や出産などによって休業していた場合は、2年を超える期間が対象になる場合がある。

また、有期雇用労働者については、介護休業を開始する日から93日が経過する日から、さらに6ヶ月経過する日までに退職する予定がないことも条件の一つだ。

介護休業給付金の注意点

介護休業期間中は、原則としてその従業員には就労させないことになっているが、臨時で就労しなければならないケースもあるだろう。その場合、介護休業期間中の原則30日の支給単位期間において、10日間は就労しても給付金が支給される。ただし、11日間以上就労した場合には給付金が支給されなくなるため注意が必要だ。

介護休業給付金の計算方法

介護休業給付金の計算方法は以下の通りだ。

休業開始前賃金日額×支給日数×67%

「休業開始前賃金日額」とは、介護休業開始前6ヶ月間の給与を180で割った金額のことだ。また、「支給日数」は、最大93日の休業日数のことを指す。

なお、介護休業中に給与を支払った場合は、休業前賃金額の13%以下であれば給付金は満額支給される。さらに、給与が休業前賃金額の80%以下の場合、給与との差額が支給される。80%を超える場合は給付金は支給されない仕組みとなっている。

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)とは

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)とは、就業と介護の両立を実現する制度を導入し、利用者が生じた場合などに助成する制度である。「介護支援プラン」を策定し、そのプランに基づいてスムーズな介護休業の取得・復帰に取り組んだ中小企業事業主が対象となる。

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)の主な受給要件を見てみよう。

(1)介護両立支援制度の利用について、プランを利用して支援を実施する旨を予め従業員へ周知すること。

(2)記録したうえで介護を担う従業員と面談を実施し、介護状況や今後の働き方の希望などを確認し、プランを作成すること。

(3)作成したプランを基に業務体制の検討をし、以下のいずれか1つ以上の介護両立支援制度を対象の従業員が合計20日以上(下記※1・2を除く)利用する必要がある。また、対象の従業員を制度利用終了後から申請日までの間、雇用保険被保険者として継続雇用していること。

・所定外労働の制限制度
・短時間勤務制度
・時差出勤制度
・深夜業の制限制度
・法を上回る介護休暇制度 ※1
・介護のための在宅勤務制度
・介護のためのフレックスタイム制度
・介護サービス費用補助制度 ※2

原則として、介護支援プランは対象の従業員が介護休業を開始する前、または介護両立支援制度の利用開始前に作成する必要がある。ただし、介護休業を開始した後、または介護両立支援制度の利用期間中に作成することも可能である。しかし、介護休業または介護両立支援制度利用終了後に作成しても支給対象にはならない。

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介護離職を防止するための企業側の対策・解決策

せっかく介護者ための休暇制度があっても、従業員にその存在を周知できていなかったり、休暇を取得する体制が整っていなかったりすれば活用されることはないだろう。ここでは、介護休業と介護休暇を運用するポイントを2点解説する。

必ず従業員のフォローを行う

従業員が安心して介護休業・介護休暇を取得できるよう、業務の属人化をなくし、業務をフォローし合える組織の体制を構築することが重要である。そのためには、制度を利用しない従業員への配慮も大切だ。休暇を取得しない従業員に負担が偏ると不満が募り、休暇の取得自体に罪悪感を覚える人も出てくるだろう。業務が偏らないようバランスを考えて業務を配分し、休業・休暇を取得する人・しない人の両者が納得して働けるような体制を整えるべきである。

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制度の目的を周知する

従業員が介護休業・介護休暇を利用するには、まず制度の目的や条件、申請方法などを社内で周知する必要がある。社内掲示板やポータルサイト、社内報などの従業員の目につきやすい場所に制度の内容を掲示し、制度に対する理解を促進させるべきだ。

まとめ

介護者に対して制度や助成金といった支援があるにもかかわらず、働き盛りである40〜50代の多くが介護離職によって会社を退職している現状がある。これは、高齢化といった社会問題だけでなく、雇用されている企業の介護者への配慮が乏しいことも大きく関係しているといえる。

介護離職を防止するためには、企業が介護休暇や介護休業といった制度を、社内で積極的に推進していく必要がある。そうすれば、企業側は経験豊富な従業員を雇用し続けられ、従業員側としても介護をしながら働き続けられるだろう。

介護離職の問題を抱える企業は、率先して制度の活用を促し、従業員が気兼ねなく制度を活用できる環境を作っていこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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