2021.4.6

コロナで変わった人事業務の最新情報。問われるリモートワークでの生産性向上

読了まで約 7

■新型コロナウイルス感染拡大とリモートワーク普及

■進むリモートワークの普及、見えてきた課題とは?

■コロナ禍の影響を大きく受けた人事関連業務

■リモートワークで見えてきた新たな人事部門の課題とは?

■メリットがありつつも多くの課題を残すリモートワークの今

■コロナ禍をきっかけに加速していく企業の変革

コロナ禍で普及が加速したリモートワーク

中国武漢で感染が確認され、世界中に広がりを見せた新型コロナウイルス感染症。

2020年3月頃から日本でも感染拡大が止まらず、第一次緊急事態宣言下において「命を守る取り組み」としてリモートワークを取り入れる企業が急激に増加した。

緊急事態宣言解除後、オフィス出勤への部分的回帰の動きを見せたが、社会全体として引き続きリモートワークや時差出勤が推奨される状況にある。

2021年に入り、未だ感染収束の見通しが立たない中で、もはや日本での働き方は、コロナ禍の前と後では様変わりしはじめたといえる。

本稿では、コロナ禍で変わった人事業務について、リモートワークと生産性の向上をキーワードに考えていきたい。

まず、コロナ禍で加速していったリモートワークについて解説しつつ、次に、普及が進んだリモートワークでの勤怠管理などを中心とした人事業務の大変革について、そして、今後のリモートワークと企業に求められる変化について確認していく。

まずここでは、コロナ禍の前と後でどのように「働き方」が変化を見せているかについて、複数の調査データから見ていこう。

パーソル総合研究所が発表した「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(調査期間:2020年11月18日~2020年11月23日/調査対象者:就業者、人事担当や経営層、失業者、休業者など計15,603名)によると、「職場に出勤したときの仕事の生産性を100%としたとき、テレワークしたときの生産性がどのくらいになるか」という設問に対して、回答者である正社員の平均値が84.1%であった。

「100%」以上と回答した割合は全体の4割未満(35.2%)であり、「100%」未満である旨の回答が64.7%となった。

また、同調査ではコロナ禍により「副業・兼業を行いたい」意思が強まったかという設問において、副業や兼業を行いたいとの「思いが強まった」との回答が4人に1人以上の28.3%にのぼる。

リモートワーク頻度別でみた場合、「1ヶ月に2~3日以下」の場合24.1%が「思いが強まった」と回答しており、「1週間に1~2日」の場合で27.8%、「1週間に3日~4日」あるいは「1週間に5日」の場合で31.1%であることから、リモートワークの頻度が高いほど、副業や兼業に関心を示していることが分かる。

同調査結果を踏まえて、パーソル総合研究所では、リモートワークにおける主観的な生産性は、出社時と比べて低下という結果がありつつも、企業カルチャーや組織風土、マネジメント次第で生産性は高められるとの分析を示している。

また、コロナ禍が落ち着いた後もリモートワークを継続希望している正社員の割合が78.6%である調査事例も紹介しながら、企業が働き方の選択肢としてリモートワークを定着させていきつつ、リモート環境下での生産性向上の工夫と模索が求められていくとの分析結果も示している。

公益財団法人日本生産性本部が発表している「働く人の意識調査」の第1回調査(調査期間:2020年5月11日~2020年5月13日/回答者数:1,100名)では企業のリモートワーク実施率を31.5%として、第2回調査(調査期間:2020年7月6日~2020年7月7日/回答者数:1,100名)では20.2%、第3回調査(2020年10月5日~2020年10月7日/回答者数:1,100名)では18.9%との結果が出ている。

このことから、コロナ禍をきっかけに普及しはじめたリモートワークは、5月以降一時減少しつつも7月から10月にかけて、ある程度の定着をみせていることが分かる。

さまざまな変化への適応と生存を求められるVUCA時代と呼ばれる現代において、日本企業ではリモートワークを含むさまざまな働き方を許容しつつも、生産性の向上にも努めていくことが求められているといえる。

関連記事:コロナ禍でのリモートワーク。生産性向上のためのポイントとは

特に大きな変化が生じた人事関連業務

前出の通り、新型コロナウイルス感染拡大による影響で、それまで緩やかな変化を遂げていた日本の「働き方」は、急速的かつ強制的な変革を迫られることになった。

コロナ禍により、企業の外回り営業パーソンなど、限定的な職種が事業場外で働く以外は、管理部門などを含む多くの従業員がリモートワークを行う必要が出てきた。

これは、人事関連業務を担当する従業員も例にもれず、コロナ禍の影響によって、特に採用活動や研修活動などに影響が出ているようだ。

新型コロナウイルス感染拡大防止をきっかけとして、人事部門も多くが在宅勤務をはじめとするリモートワークを経験していることから、企業の「人事」が対応すべき課題や求められている役割など、人事業務のあり方自体が大きく変化している。

リモートワークが続く中での従業員のエンゲージメント希薄化への対応や、若手従業員のモチベーション維持、採用戦略の抜本的改革やオンライン化への適応など、人事部門が抱える課題は過去になく山積する状況だ。

ここでは、人事業務の実態調査データに基づき、コロナ禍で変化した人事業務領域について見ていこう。

HR総研が行った「コロナで変わった人事業務の実態調査」(調査期間:2020年11月16日~2020年11月24日/有効回答数:231件)によると、「新型コロナウイルスの感染拡大の前後で変化があったと思う人事関連業務」について、最多回答が「採用」の77%で、次に多かった回答が「教育」の65%である。

「最も変化が大きかった人事関連業務」も同じく「採用」が57%で最多、次に多かった回答は「教育」(20%)であった。

「コロナ禍を機にオンライン化した業務」においても「採用」が最多の60%との回答、次が「教育」の54%であったことから、企業の人事関連業務では、採用と研修などが最も影響を受け、変革が起きている業務であることが分かる。

同調査では、「コロナ禍を機に発生・深刻化した人事課題」についてもアンケートを行っており、最多回答となったのは「組織内のコミュニケーションの減少」で43%、次いで「従業員のモチベーション維持・向上」と、従業員の「労務管理」で、同じく32%であった。

その他にもリモート環境下での従業員の心の健康や、リモートワークでの従業員のデジタルリテラシー不足を懸念する声も上がっており、コロナ禍とリモートワーク環境が人事部門の業務に大きな影響を与えていることが分かる。

また、上記の通り多くの必要な変化への対応や制度の検討などが求められる中で問われる「人事関連の業務量(業務時間)の変化」について、47%が「変わらない」と回答しているが、「大きく増加した」(6%)と「やや増加した」(32%)をあわせた4割近くの人事担当者が増加の認識を示している。

このことから、業務のオンライン化やリモートワーク環境が続く中での労務管理や評価のあり方など、社内制度の見直しに人事部門の業務量が増加していることが予想できよう。

そんな人事部門だが、週にどれくらいリモートワークをしているかを問う「人事部門における勤務形態(最も近いものを選択) 」では、1001名以上の大企業では週の半分以上(「週3在宅+週2出社」、「週4在宅+週1出社」、「週5在宅」の合計)との回答が52%であった。

中堅企業(301名~1000名)が33%、中小企業(300名以下)が28%であることを考えると、人事部門でのリモートワークの実施率は、企業規模にも左右されることが分かる。(ProFuture株式会社/HR総研

リモートワークのこれからと企業に求められていく変革

ここまで、コロナ禍が日本の「働き方」の及ぼした影響を、リモートワークを中心に見てきた。そこからは、企業の人事部門が採用や研修を中心とした広範な社内課題解決の必要性を認識しており、これに取り組んでいる状況が調査データをもとに読み取ることができる。

本項では、調査データをもとに「生産性の向上」という観点から、リモートワークという働き方が抱える課題や今後について考えていく。

新型コロナウイルス感染拡大初期に国土交通省が行った「新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査」(調査期間:2020年3月9日~2020年3月10日/有効回答者数:4,532名)では、「感染症対策の一環としてテレワークを実施した」回答者の72.2%が、リモートワーク実施において「何らかの問題があった」と回答している。

問題と感じたことにおける最多回答は「会社でないと閲覧・参照ができない資料やデータなどがあった」で26.8%、次いで「同僚や上司などとの連絡・意思疎通に苦労した」で9.7%、そして「営業・取引先等との連絡・意思疎通に苦労した」(9.2%)と続く。

みずほ情報総研は、「コロナ後”も継続する働き方の変革」というオピニオンにおいて、国土交通省が行った上記調査結果を引用しつつ、リモートワークを行うにあたり、社内書類などのペーパーレス化や文書をクラウドで管理する重要性、そして従業員間のコミュニケーションを隔地間でも円滑にしていく工夫が必須だと総括する。

リモートワークにおける生産性の向上という課題は、新型コロナウイルス感染拡大に伴いリモートワークが普及したことから顕在化しているのだ。

国土交通省の同調査では「雇用型テレワーカー」でのリモートワークの実施効果について問う項目にて、「全体的にプラス効果があった」と回答した人が過半数の54.7%となっており、リモートワーク自体はある程度評価されているものといえよう。

しかし、複数回答可でのリモートワークのマイナス効果の内容についての設問では「仕事時間(残業時間)が増えた」(28.7%)という回答が最多となり、「業務の効率が下がった」(27.0%)や、職場の人との意思疎通や出勤している人に気兼ねするなどの回答が目立っている。

HR総研が行った「コロナで変わった人事業務の実態調査」(調査期間:2020年11月16日~2020年11月24日/有効回答数:231件)においても、企業の人事部門がコロナ禍において「現在優先的に取り組むべき人事課題」での最も多かった回答は、「在宅勤務での生産性の向上」と「新しいコミュニケーションスタイルの確立」で、共に24%であった。(ProFuture株式会社/HR総研

このことから、長引くコロナ禍を受けてリモートワークを中心とする働き方の変革が進んでいることから、企業には主に次の2つの大きな変化が求められていると考えられる。

1. 働く場所と働き方を見直すこと
一部企業ではすでに取り組みが進んでいるが、アフター・コロナ時代における多様化する働き方として、リモートワークを含む多様な働き方を許容する動きは、これからの日本企業に求められる基本的な要件となるだろう。

無論、全ての業種や職種で導入できるものではないが、コロナ禍収束後もフルフレックス勤務やリモートワークなどは、「いつでも、どこでも業務を遂行できる」という点で必須となってくる。

前提となるのは、オフィス勤務時と変わらない生産性を確保するため、企業がしっかりとDX化に取り組んでいくことだ。

このため、働き方の多様化と企業のDX化は両輪で前進させていかなければならない。

関連記事:HRDXとは?企業が採用DXをコロナ禍でも推進するために必要なこと

2. 働き手のあり方を見直すこと
働く場所が見直されることで、リモートワークやサテライトオフィスなどの活用が進むことが予想される。このような変革が進んでいく場合、従業員のモチベーションやエンゲージメント、能率などの維持と向上を目指すため、働く個人一人ひとりの職務内容や責任所在を明確化させることが必要となってくる。

これまでの日本企業は「総合職」として採用し、数年ごとに企業内で部署や勤務地を移動させる、辞令に基づく「メンバーシップ型」が主流だった。

リモートワークという働き方が定着していく日本企業では、これから「ジョブ型」へと雇用のあり方を変えていくことが不可避だといえよう。

関連記事:
ジョブ型雇用はアフターコロナでメンバーシップ型雇用にかわるモデルになるのか
メンバーシップ型雇用は薄れゆく?ジョブ型雇用への転換で企業が求められることとは

まとめ

・政府の要請に基づき、「命を守る取り組み」として始まったリモートワーク。
第一次緊急事態宣言の発令後急激な普及をみせ、2020年夏に一旦実施率が減少しつつも、企業における働き方の一つとして、日本企業において一定の市民権を得たといえる。
2021年に入ってもコロナ禍が収束を見せない中で、もはや日本の「働き方」は、コロナ禍の前後では様変わりの様子を見せている状況だ。

・普及が進むリモートワークだが、一方で課題も見え隠れしはじめている。
最も大きな懸念点は、さまざまな要因によるリモートワーク環境での生産性の低下だ。
従業員視点での生産性低下を感じるという調査データもある中で、他方、リモートワーク頻度が高いほど副業や兼業に関心を示すデータも出ている。
このことから、これからの企業には、柔軟な働き方を許容しつつもリモートワークでの生産性向上が課題となる。

・新型コロナの感染拡大防止をきっかけに、企業の人事部門も多くがリモートワークを経験した。
コロナ禍の影響を受けて企業の人事が対応すべき新たな課題も出てきており、問題が山積する現状だ。
HR総研の調査データでは、コロナ禍前後で変化のあった人事関連業務、もっとも変化が多かった同業務、コロナ禍を機にオンライン化した同業務の3設問で、最多回答が採用業務、次いで研修などの教育業務となっており、主要業務で急激な変化を遂げていることが分かる調査結果だ。

・コロナ禍に対応するため、HR総研の調査データでは4割近くの人事担当が「人事関連業務量が増大した」と回答している。
また、コロナ禍をきっかけに発生した課題や、深刻となっている問題について、最多回答が「組織内のコミュニケーションの減少」(43%)で、次いで「従業員のモチベーション維持・向上」と「労務管理」の32%となっている。
これらはリモートワーク実施により顕著化した課題と概ね一致することから、リモートワーク環境下での生産性向上と隔地間コミュニケーションの円滑化は待ったなしの状況だと分かる。

・新型コロナ拡大防止の観点からリモートワークを実施した経験者の7割以上が、リモートワーク中に何らかの問題が生じたと回答している。
最多回答は、社内データなどが閲覧できない(26.8%)などのDX化の遅れによる生産性低下だ。
次に多かったのは、同僚や上長(9.7%)、あるいは取引先やクライアントなど(9.2%)とのコミュニケーションのあり方についてだ。
これらは、コロナ禍で人事部門が改善に取り組んでいる社内課題の上位とも一致している。

・長引くコロナ禍を受け、働き方の変革が進んでいることから、企業には生産性を維持・向上させるため、次の2つの大きな変化が求められている。
まずは、働く場所と働き方を見直し、コロナ禍収束後もフルフレックス勤務やリモートワークなどを定着させること。
次に、働き手のあり方を見直し、働く個人一人ひとりの職務内容や責任所在を明確化させること。
これらを実現するため、企業にはDX化の推進やジョブ型雇用への転換などが求められることとなる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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