2020.7.31

ジョブ型雇用はアフターコロナでメンバーシップ型雇用にかわるモデルになるのか

読了まで約 5

・新型コロナウイルス感染拡大防止をきっかけに定着したテレワークがジョブ型雇用を増加させる。

・人に対して仕事を割り当てるメンバーシップ型、仕事に対して人を割り当てるジョブ型。

・多くの日本企業が、移行を加速させているジョブ型雇用のメリットとは?

・企業側にも求職者側にもメリットが多いジョブ型雇用。

・ジョブ型雇用のデメリットとその克服策とは?

・ジョブ型雇用が定着していくことによって、変化が起こる働き方。

ジョブ型とメンバーシップ型とは?

新型コロナウイルス感染拡大防止をきっかけに、建設現場や工場などの一部の職種を除き、テレワークなどの在宅勤務を実行した企業は少なくない。 そしてそのままテレワークを維持し続けるという企業も多く、なかなか感染者数が減らないwithコロナ時代に突入したことで、働き方に大きな変化が起きている。
なるべく通勤しないためのテレワークが普及することによって、フレックスタイム制度の拡充や、週休3日制の検討といった勤務制度そのものについても見直す動きが出てきている。

業務形態や勤務制度の見直しが進むと、企業の雇用における考え方も変わってくる。 先進企業では人材の確保と定着という観点から、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行が急速に進んでいるのだ。

では、そもそもメンバーシップ型とジョブ型の違いとはなんだろう。
メンバーシップ型は、今まで日本に根付いていた「新卒一括採用」「年功序列」といった言葉に象徴される雇用形態だ。
新卒一括採用では職種を限定せずに総合職として採用する場合が多く、職種や仕事内容をローテーションさせることで特性を見極め、本人の希望等も取り入れつつ自社にフィットした人材として長く働いてくれるように育てていく。「人に対して仕事を割り当てる」のでメンバーシップ型と呼ばれる。
早期退職を防止するために、「社歴が伸びるごとに昇給する」「勤続年数が長いほど退職金が多くなる」といった制度を組み合わせて、終身雇用を全うすることを目的とした仕組みだ。高度成長期以降、人材の確保手段として長く用いられてきた。

日本社会に雇用制度を根付かせ、安定した生産力を確保することに一定の功績はあったが、「配置転換や転勤などのため専門職の人材が育ちにくい」、「社歴が評価の中心にあるので能力のある人材でも転職のリスクが高い」といったデメリットもあるため、グローバル化とIT化の進む現代では人材確保の障害となりはじめている。

これに対してジョブ型雇用とは、「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態だ。 評価の基準は「その仕事を遂行するのに必要なスキルがあるか」であるため、職務を明確にして、年齢や年次を問わずに適切な人材を募集すれば、その能力があると自負する人材は応募しやすく、高付加価値人材を求める企業が次々と導入を決めている。

いままで、どちらかといえば海外企業が主流の雇用形態であり、「職務記述書(ジョブディスクリプション)」で職務・勤務地・労働時間・報酬などを明確に定めて雇用契約を締結する必要があるなど、面倒な手順が必要なので、日本企業にはそぐわないと考えられてきたが、グローバル人材や高付加価値人材を獲得するためには有効な雇用形態なので、ここにきて急速に普及しはじめているのだ。

なぜジョブ型への移行が進むのか?そのメリットとデメリット

日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなど大手企業をはじめとして、多くの日本企業が、ジョブ型への移行を加速させている。
前述の通り、世界中で起こっている激しい人材獲得競争の中、ジョブを限定せず、一括採用した人材を現場で教育、自社のカラーに染めあげ、年功序列で昇給・昇格させて行くという、メンバーシップ型のままではスピードに欠け、高付加価値人材を確保することが難しくなっているからだ。 このため、世界基準であるジョブ型に移行する企業が、今後増える可能性がある。

企業側から見たジョブ型雇用のメリットとしては、人材獲得競争における国際競争力の確保、高付加価値人材へのリーチという側面のほか、仕事に必要な能力を持った人材を必要なタイミングで募集するため、欠員が出た際に最適な人材を即座に確保しやすいことがあげられる。

ジョブ型雇用の典型としては、例えば、専門職だった社員が急に辞めてしまったときに、その枠を埋めるため、同等のスキルや資格をもった経験者を募集する場合がイメージしやすいだろう。 この時、メンバーシップ型の発想で、とりあえず人員を確保しておいて、教育や資格取得は入社してから。という方法では、たちまち業務が停滞してしまい、生産性を著しく低下させることになる。

雇用される側も、一度総合職として採用されてしまうと、そこからスキルアップをめざしても、すでに専門分野として学んできた専門職に追いつくのは至難の技だ。 それなら最初から専門職として自分の能力が活かせるジョブ型採用の企業に応募しようとするのは自然な流れだ。

求職者側から見たメリットとしては、専門職の仕事に集中しやすいことで、「スキルを磨きやすい」、「自分の得意分野、学んでいきたい分野に集中しやすい」ということが最大のメリットだ。 自分のスキルを客観的に把握できていれば、報酬や待遇面でそれに見合った条件で交渉しやすいという面もある。

また、最近ではダイバーシティの考え方が浸透してきていて、働き方にも多様性が求められるようになっている。 例えば「子育てや育児と両立しながらの時短勤務」、「介護中の在宅勤務」といった形態が今後ますます増加すると考えられる。 こうした働き方の多様性を受け入れやすい、という面でも、ジョブ型雇用は企業と求職者の双方にメリットをもたらすといえる。

ただし、ジョブ型雇用にもデメリットはある。
まず、企業側からすると、より条件のいい会社に転職されてしまいやすい、ということが最大のデメリットだろう。 この場合、社員のエンゲージメントを高める施策を十分に行うことで離職を防ぐことがポイントとなる。

また、会社側の都合で転勤や異動をさせにくい、という側面もある。この場合も総合職の新卒一括採用を一定量確保してくことなどで対応することが可能だ。
一方、求職者側からすると、その企業が経営方針を転換したり、経済状況が大きく変化した際には、そのジョブ自体が不要となり、契約を解除される可能性が高いというデメリットがある。 これは求職時にジョブディスクリプションをしっかり確認して、契約後に安易な契約解除が行われないよう、企業側と十分な交渉を行っておくことである程度回避することができる。

ジョブ型雇用による働き方の変化

ジョブ型雇用が定着していくことによって、働き方にはどのような変化が起こるだろうか。以下のようなことが考えられる。

1.キャリア形成は自身で行うようになる
一括採用と企業が用意した出世街道という制度が事実上崩壊したことで、働く側は自身のキャリアを将来どう形成していきたいのかを主体的に考えることが必然となった。 このため、転職へのハードルは下がり、自身のキャリアに応じて転職することが主流になる。キャリアは自分自身で築き上げていく時代に入ったといえる。

2.複数社での勤務と副業が増加する
1社に勤めて、週5日フルタイムで勤務する人が一定の割合で存在する一方、複数の企業で勤務するという働き方もさらに増加すると考えられる。 終身雇用の崩壊により、無理して1社に忠誠を尽くす必要がなくなるので、根回しや社内政治といった「不毛な」時間を費やすことなく、自分が遂行すべき仕事(ジョブ)に対して、必要で適切なコミュニケーションだけをメンバーと行うという健全な職場環境が確立していく。 また、フレックスタイム制やコアタイム出勤などが定着すれば、企業側も副業を認める流れとなり、第2第3のスキルを活かすという働き方も可能になる。

3.テレワークが一層定着する
ジョブ型雇用は成果ベースが基本なので、出社する必然性は低下し、代わりにテレワーク制度が定着するとみられる。 すでに新型コロナ対策としてテレワークを経験した企業は多く、そのメリットが浸透したことも大きい。

4.年功序列の給与体系がなくなる
社歴に応じた昇給という体系から、難易度の高い仕事や生産性の高い仕事をしている人に適切な報酬を支払うという体系への移行が加速するだろう。 業界や市場の指標に応じた妥当な給与体系を確立しないと、必要な人材が確保できないことになりかねない。

5.客観的で公平な評価制度になる
従来は上司の主観による「やる気」や「頑張り」といった曖昧な評価軸も存在した。 しかし、ジョブ型雇用では、実際に「どのような成果」を出したのかによって評価が決まる。客観的に計測できる成果に伴って評価される制度を確立しないと、有能な人材が流出するリスクが高まる。
ただし、エンゲージメントを高める施策として、業績やパフォーマンスばかりでなく、ビジョンとバリューに基づいた評価を取り入れる場合もある。

6.中途採用と通年採用が増加する
ジョブ型雇用では、新卒一括採用一辺倒から中途採用と通年採用への移行、およびその併用が増加すると考えられる。 採用活動ではスキルの専門性や希少性、前職での成果の内容や、それが企業の求めるジョブディスクリプションにマッチしているかどうかが問われることになる。 新卒者においてはインターンシップなどによる職業経験を経ての就職がさらに増加すると考えられる。

まとめ

・先進企業では国際的な人材の確保と定着という観点から、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行が急速に進んでいる。

・ジョブ型雇用は、「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態。職務を明確にして、年齢や年次を問わずに適切な人材を募集すれば、その能力があると自負する人材は応募しやすく、高付加価値人材を求める企業が次々と導入している。

・ジョブ型雇用では、仕事に必要な能力を持った人材を必要なタイミングで募集するため、欠員が出た際に最適な人材を即座に確保しやすい。

・ジョブ型雇用にもデメリットは、より条件のいい会社に転職されてしまいやすいことだが、社員のエンゲージメントを高める施策を十分に行うことで離職を防ぐことが可能。

・求職者側は、企業の方針転換や、経済状況の変化により、そのジョブ自体が不要となり、契約解除されるリスクがある。これは契約後に安易な契約解除が行われないよう、企業側と十分な交渉を行っておくことである程度回避することが可能だ。

・ジョブ型雇用が定着することで、1.キャリア形成は自身で行うようになる2.複数社での勤務と副業が増加する3.テレワークが一層定着する4.年功序列の給与体系がなくなる5.客観的で公平な評価制度になる6.中途採用と通年採用が増加する、という変化が起こると考えられる。

 

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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