2021.4.12

権限委譲とは?その意味と企業における組織の成長のために適切に行う方法を解説

読了まで約 7

■権限委譲が必要とされる背景

■権限委譲とは何か?

■権限委譲がもたらす3つのメリットとは?

■適切でない権限委譲の2つのデメリットとは?

■権限委譲の環境づくりで役立つ4つのポイント

■権限委譲時に上司が気を付けたい3つのポイント

なぜ今権限委譲が必要とされるのか?

日本企業をとりまく競争環境は、グローバル化や進むIT革命、そしてコロナ禍による社会全体を巻き込んだ影響を受けつつ、いわゆるVUCAと呼称されている、不確実かつ曖昧で、予測不可能な時代へと突入している。

このため、企業にはかつてないほど、変化に対して柔軟に対応する適応力、激化していく市場競争における優位性確保、そしてコロナ禍のような不測の事態に備える組織としての強靭性が求められている。

企業組織における強靭性、つまりレジリエンスとは、「危機に対応しつつ、一度はその危機に飲み込まれたとしても、それをきっかけとして、組織がより創造的に、あるいは強固になり、最終的には成長につなげる力」を意味する。

企業でのレジリエンスのカギとなるポイントは3つあり、自律的に行動できる人材の育成、タレントマネジメントに基づき適切に人材配置していくマネジメント能力、そして上司から部下へのエンパワーメントだ。

権限委譲(エンパワーメント)が重要視される直接的な背景は、やはり人手不足による若手従業員の育成が、喫緊の課題となっていることがあげられる。

VUCA時代では、もはや指示された業務を行うだけでは不十分であり、業務生産性の向上を図るのは難しくなっている。そのため、部分的に権限委譲して一段階難しい意思決定まで含めて業務を遂行させることで、若手従業員を効果的に育成することが期待されているのだ。

また、VUCA時代は変化のスピードが目まぐるしい。このため、フロント部門にいる従業員が顧客対応でスピーディーな意思決定を下せる権限が委譲されていることは、スピードが最重視されるビジネス環境において、強力な市場競争力の確保につながるものだ。 このため、組織がレジリエンス実現を目指していく中で、権限委譲は不可避な社内マネジメントとなっていくと考えられる。

そこで本稿では、企業組織における権限委譲について、適切なかたちで実施された場合に認められる数々のメリット、不適切な実施によって懸念されるデメリット、そして権限委譲に向けた企業の環境整備や実施にあたってのポイントについて確認していく。

まずここでは、権限委譲の基本的な考え方について見ていこう。

そもそもエンパワーメントとは、20世紀のアメリカにおいて、公民権や先住民の権利に係る社会改革運動の高まりを受けて提唱されはじめたもので、「個人が主体的に活躍できるように力を与え、社会の発展に活かす」という考え方だ。

転じてビジネスシーンにおいては、従業員に適切なかたちで権限委譲することにより、主体的かつ自律的に業務にあたり、生産性を向上させつつ企業の業績向上に貢献していくことを指す。

権限委譲とは、上司が持つ業務上の権限を部分的に部下へ委ねることで、部下の自己裁量で業務を行うことを可能となるマネジメント手法の一つだ。

似た言葉として「権限移譲」があるが、権限移譲とは職階を同じくする同僚同士での責任を含めた業務のスライドを意味するのに対して、権限委譲とは、前述の通り責任所在が上司にあることから、両者は似て異なる概念である。

関連記事:組織における社員の自律性を高める方法「エンパワーメント」とは?

権限委譲のメリット・デメリット

企業での勤続年数が物を言うメンバーシップ型のキャリアパスから、ジョブ型雇用へ人材マネジメントの転換が起こりつつある日本企業において、VUCA時代に求められるリーダーとチームメンバーとの関係性は、大きく変化している。

ここでは、業務内容へ権限委譲を取り入れることのメリット、そして導入にあたり懸念されるデメリットや、そもそも導入が難しい場合について見ていく。

まずは、業務への取り組みにあたって、権限委譲を取り入れた場合のメリットから確認していこう。

1. 目的意識の醸成やモチベーションの向上が期待できる
上司の権限であった一部分を委譲されるということは、チームメンバーは、各々が現在抱える業務よりも一段階上の判断を行うこととなる。

裁定を仰いでいた業務内容の一部が自己裁量で行われることになるため、従業員のモチベーションや自尊心を高めることが期待できる。

自己裁量で業務を行うことで、当事者意識の強化や、業務で失敗した時の改善に努めるエンゲージメント率の向上に資するものだといえ、企業にとってメリットであると同時に、働く個人にとっても大きく成長する機会となる。

2. よりスピード感のある意思決定が可能となる
より変化が激しく、より不確実で曖昧なVUCA時代において、適切な権限委譲が行われた職場では、顧客サービスを中心とした企業のフロント部門において、それぞれのプレーヤーが持つ権限が拡大することで、スピーディーな意思決定が可能となる。

社内の稟議が合理化され、スピード感のある顧客対応を可能にできれば、市場競争が激化している現代において、企業の市場競争力を増強していく一つの要素となり得ることから、企業にとってのメリットが大きい。

3. マネージャー層はコア業務に専念できる
プレーヤーであるチームメンバーなどへ適切な権限委譲を行っていくことで、マネージャー層は、より企画戦略などマネジメント業務に専念できる。結果として組織の生産性が向上することが期待でき、部下の仕事をサポートするという上長にありがちな工数削減につながるだろう。

これは、マネージャー層がより一人ひとりのメンバーと向き合う時間も増えることを意味しており、タレントマネジメント手法の活用による人材のより適正配置にも役立つことから、企業にとってメリットだといえる。

このように多くのメリットが認められる権限委譲だが、適切なかたちで実施されない場合や、そもそも権限委譲に適さない業務で実施する場合など、デメリットを生む可能性もある。

無理な権限委譲により懸念される2つのケースについて見ていこう。

1. マネジメントが不適切で部下のモチベーションが下がるケース
権限委譲された従業員の能力が追い付かない場合、適切な業務遂行に支障をきたすデメリットがある。

また、部下が権限委譲されたことで保身や目先の利益を優先してしまい、部門や自社全体の利益を損なう可能性もある。

権限委譲は、「マネジメントを行わないこと」ではなく、「権限委譲自体がマネジメントの一手法」に過ぎない。

権限委譲によって部下を正しく監督することや、そもそも権限委譲に適した人材であるかどうかを見極めることが、マネージャー層に求められる。

2. そもそも権限委譲が適さない業務であるケース
一度の失敗が重大な過失や事故につながりかねない業務は、むやみに権限委譲すべきではなく、業務主体と責任の所在が明確であるべきだ。

また、経営の基幹機能を担う事業戦略や人事評価などについても、十分な検討を重ねた上で、適切な役職付に配置しつつ行われるべきで、その権限委譲の行為自体が慎重に検討された結果であるべきだ。

権限委譲への環境整備と実施のポイント

ここまで、権限委譲が必要とされる背景や、企業での権限委譲がもたらすメリット、そしていくつかのデメリットについて見てきた。本項では、権限委譲に向けた環境づくりでのポイントや、上司が権限委譲を行うにあたって持つべき心構えについて確認していく。

まずは、適切な権限委譲のための環境づくりの実現に向けて、4つのポイントを紹介していこう。

1. 部下の能力を把握して少し難しいレベルの挑戦となる業務を任せること
部下への権限委譲に向けた取り組みとして、最初に行われるべきなのは、部下の業務遂行能力を多面的に把握していくことだ。

これを行うことにより、どのような業務を任せることができて、どれくらい挑戦しがいのある内容なら達成可能で、なお且つ大きく成長することができるかという点について、上司は考慮しながら適切な権限委譲を行っていく必要がある。

従業員としての能力やポテンシャルを正確に把握することは、権限委譲を行うことに加えて、最適な人員配置を実現するタレントマネジメントの観点からも重要な要素となってくる。

2. コンプライアンス上「絶対だめなこと」を伝えておくこと
権限委譲を行う前に、上司と部下で「これだけは決して行ってはならない」などといった事項について、面談を重ねていくべきである。

法人として活動している以上、法令遵守は社会的な責任であり、コンプライアンス上のNG事項について、明確に部下へ伝えた上で、何度も認識のすり合わせを行っておくことが重要となってくる。

万が一、部下と上司が認識の相違を抱えたまま不測の事態に陥った場合、上司は責任を取ることとなり、部下も処罰される可能性が高くなるため、権限委譲を行うにあたって、決して怠ってはならない要素である。

3. 随時報告を受け、必要な助言やサポートを行うこと
権限委譲といっても、業務の立案からクロージングまで一人で行うというのは現実的ではない。

上司の適度なアドバイスやサポートがあることによって、部下も安心して業務を遂行できるものだ。

重要なのは、部下から助言を求められた時のみ、適切なアドバイスをすることである。また、権限委譲時においても、最終的な責任は上司が負うものだとはっきり伝えておくことも重要である。

4. 結果をしっかりと評価して伝えること
権限委譲した業務が終わった際、部下と上司で、まずはポジティブフィードバックを実施することが重要だ。

その上で、業務上の細やかな指摘すべき点や、改善に向けたアイディア出しなどを行っていき、次回以降を想定した面談を行っていくことが望ましい。

次に、権限委譲を行うにあたり、マネジメントを行う側の上司が心得るべき注意点について、3ポイントを見ていこう。

1. マイクロマネジメントは行わないこと
一度権限委譲を行ったら、よほどのことが認められない限り、部下から質問されたり相談される場合を除いて上司の側から口出しを行わないほうが望ましい。

無論、適宜助言やサポートを行うことは上司のマネジメント業務の一環だが、干渉が過ぎる場合、名ばかりの権限委譲となってしまい、却って部下のモチベーション低下につながる恐れがある。

2. 一度の失敗で部下を諦めないこと
権限委譲を行った当初は、部下も上司も慣れないことから、業務でのミスや重過失なども発生する可能性がある。

こういった場合、上司として叱責ありきの反省を促すふり返りを行うのではなく、敢えて長期的な視野で部下を育成するため、ポジティブな言い回しでフィードバックを行うことで、部下の再チャレンジを励ますことも重要だ。

3. 上司としての存在感に固辞しないこと
上司たる者、部下からの信頼と尊敬を集めることに越したことはない。

しかし、せっかく権限委譲を行ったにもかかわらず、依然逐一部下に相談をさせていたり許可を求めさせたりすることは非効率的だ。

部下を信頼し、ある程度上司である自身が介在せずに業務が遂行される環境が整うことは、部下の成長を見守る環境づくりという観点からも望ましい。

まとめ

・VUCA時代に突入しつつある日本企業には、かつてないほど、変化に対して柔軟に対応する適応力、激化していく市場競争における優位性確保、そしてコロナ禍のような不測の事態に備える組織レジリエンスが求められている。

レジリエンスのカギとなるポイントは、自律的に行動できる人材の育成、部下の才能(タレント)に基づき人材配置していくマネジメント能力、そして上司から部下への適切なエンパワーメント(権限委譲)だ。

・エンパワーメントは、元々アメリカで20世紀に起きた公民権運動などに端を発した、個人の主体性を重んじつつ、社会への貢献を促す考え方である。

ビジネスシーンでは、上司から部下へ権限委譲することで、部下が自律的に業務にあたることで、企業の生産性向上に貢献するものとしてとらえられている。

権限委譲とは、上司が持つ業務上の権限を部分的に部下へ委譲することによって、部下がいちいち上司へお伺いを立てるなどの稟議や裁定が減り、従業員自身の裁量で業務を行うことを可能となる、マネジメント手法の一つだ。

・業務内容へ適切なかたちで権限委譲を取り入れることのメリットは、主に3つある。
1つ目は、上司の権限の一部を部下に委ねて自己裁量とすることから、部下の問題意識や責任感が増し、モチベーション向上にもつながること。
2つ目は、VUCA時代において、スピーディーな意思決定が可能になることは、市場競争力の維持と強化に直結すること。
3つ目は、部下のサポート業務における工数を大幅に削減できることで、マネージャー層はよりコア業務である企画戦略などに時間を割くことが可能となることだ。

・適切なかたちで実施されない場合や、そもそも権限委譲に適さない業務で実施する場合などに、懸念される権限委譲のデメリットは2つある。
1つ目は、マネージャー層のマネジメント不足で、部下が適切に業務を遂行できなかったり、保身や目先の利益に走ってしまう可能性があること。
2つ目は、そもそも業務上の過失が人命に関わる内容や、人事関連業務、経営関連業務などは、むやみに権限委譲を行うべきではないこと。

・適切な権限委譲のための環境づくりの実現に向けた4つのポイントは次の通りだ。
1つ目は、部下の能力を把握して少し挑戦となる業務を任せること。
2つ目は、コンプライアンス上「絶対だめなこと」を伝えておくこと。
3つ目は、随時報告を受けて必要な助言を行いつつ、最終責任は上司が負うことを明言すること。
4つ目は、結果をしっかりと評価して次につなげる改善点と共に部下へ伝えること。

・権限委譲を行うにあたり、マネジメントを行う側の上司が心得るべき注意点は、主に3つだ。
1つ目が、一度権限委譲を行ったら、よほどのことが認められない限り、マイクロマネジメントを行わないこと。
2つ目は、権限委譲を行った当初は、部下も上司も慣れないことから、一度の失敗で部下を諦めないこと。
3つ目は、せっかく権限委譲を行ったにもかかわらず、依然逐一部下に相談をさせたり許可を求めさせたりすることは非効率的のため、上司としての存在感に固辞しないことに努めること。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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