2021.8.2

ESGとSDGsとの違いとは?意味や背景、人事として取り組めることを解説

読了まで約 6

■企業投資判断における世界的なトレンド「ESG」とは

■「ESG」と「SDGs」、「SRI」、「CSR」との違い

■ESGが経営にもたらす4つのメリット

■人事部門がESGに貢献できる5つのアプローチ方法

■ESGは企業が持続的な成長をするために必要不可欠な取り組み

最近注目されているESGとは何か?

ESGとは企業投資の新しい判断基準である。
従来、投資家が企業価値を測る際に着目していたのは、業務や財務状況の分析などが主流であったが、企業が経済活動を追究しすぎることによる環境や社会への悪影響により「持続可能性」が懸念されはじめた。
利益追求型の経営によって一時的な利益の向上は成し得たとしても、それによって環境や社会に悪影響を及ぼせば、企業の持続的な成長は見込めないからだ。
そうして、企業が長期的に成長するための要素として、環境、社会問題への取り組み、ガバナンスが重要であるという考えが広まり、現在ではESG投資が世界的なトレンドとなっている。
しかし、ESGの明確な定義というものが存在していないのも事実だ。
そこで、ESGの構成要素を確認し、似た言葉であるSDGsやSRI、CSRなどとの違いからESGとは何かを考えてみよう。
まず、「ESG」とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)、3要素の頭文字を取った言葉である。
それぞれを少し詳しく見ていこう。
「環境(E)」は、CO2排出の削減や排水による水質汚染の改善など、自然環境に配慮する施策を指す。
「社会(S)」は、職場での人権対策や地域社会への貢献など、社会への影響を考えることを指す。
「ガバナンス(G)」は、不祥事の回避やリスク管理のための情報開示や法令順守など、企業経営における管理体制を指す。
先述したように、現状ではESGについての明確な定義や法令に定められた基準は存在しておらず、評価基準も評価機関によって異なっており、「世界共通の判断基準がない」というのが一般的な認識である。
では、似た言葉としてあげられるSDGsやSRI、CSRとの違いはどこにあるのだろうか。
順番に解説していこう。
まず、SDGsとESGの違いとしてあげられるのは、取り組みの規模の違いである。
SDGsへの取り組みの対象は地球上に住むすべての人であり、SDGsとは持続可能な社会を目指すために掲げられた世界の共通目標、世界中の人々が目指すべきゴールである。
一方でESGは、企業や投資家目線で行う取り組みであり、ビジネスにおけるステークホルダーへの配慮として考えられ、企業の持続的な成長のために重要な要素であるという考え方がされている。
SDGsが掲げる目標を経営戦略に取り入れることで、持続的な企業価値の向上が見込め、また、企業がESGを意識して事業活動を行っていくことで、結果としてSDGsの目標達成につながっていくという関係性にある。

次は、SRI(社会的責任投資)とESGとの違いについて見ていこう。
基本的な概念は同じであるが、SRIはより倫理的な価値観を重視して投資する方法であり、1900年代前半に宗教投資家がアルコールやタバコ、ギャンブルや武器など、宗教の教えに反する企業を投資対象から除外し、自らが持っている正義の観点から、より良い企業に投資をしようという流れから発展した概念である。
SRI投資では明確な要望を示していないのに対し、ESG投資では近年の社会問題に対して求められていることが3つの要素にまとめられていること、SRIは倫理性を重視しているのに対して、ESG投資では社会や環境への取り組みや管理体制が企業の利益を向上させると考えられている点に違いがあるだろう。

最後にCSR(企業の社会的責任)とESGの違いについて見てみよう。
CSRは、その日本語訳にあるとおり、企業は顧客や株主、労働者のことだけでなく、社会全体の価値提供にも目を向ける「責任」があるという考え方で、企業が企業の目線で取り組んでいくイメージであるのに対し、ESGは企業がより成長するためにリスクや機会を承知のうえで「戦略」的に社会の課題に取り組む考え方で、ステークホルダーからの要請が強いという側面が違いとしてあげられる。
このように、ESGの特徴としてステークホルダーに配慮して取り組む点、近年の社会問題への要望が3つにまとめられている点などがあげられるだろう。
多くの投資家がESGを意識するようになっている現状で、ESGに取り組んでいない企業は安定した株主を得ることは難しいと言える。
そこで本稿では、ESGが経営に及ぼす影響とメリットや人事部門からアプローチできるESGの取り組みについて解説していこう。

ESGが経営にもたらすメリット

では、ESG経営を行う事で企業にはどのようなメリットがあるのだろうか。
企業にとってESG経営がどのような影響を及ぼすのかについて具体的に紹介していこう。

<ESGが経営にもたらす4つのメリット>
1. 資本市場における企業評価の向上
企業は常に資本市場、つまり投資家たちからの評価を受けている。
その評価基準は高度経済成長期の頃まではP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)など目に見える財務情報であったが、2006年の国連による「責任投資原則」の表明や2008年のリーマンショックによって、現状の財務情報での判断が困難となり、企業の成長性に重きを置く非財務的な情報に注目する流れが生まれた。
ESG投資は、2014年からの2年間で約70倍に増加し、いまや世界の資本市場の30%を占めているとされる。
今後もESG経営に注力する企業は、投資家たちから経営資源を活かして成長できるポテンシャルがある、と高い評価を得られることが予想され、資金調達の難易度も下がると考えられる。
2. ブランド力の強化
情報化社会の急速な発展を受けて、環境問題や人権問題、労働問題など、数々の社会問題に対しての人々の関心が高まったことにより、消費者のニーズや労働者の価値観の多様化が進み、同時にESGやSDGsへの認知度も向上した。
そのような世の中において、企業がESG経営を掲げることは、多くの人々の関心を集めている問題に配慮や貢献をし、健全な経営をしている企業としてのイメージを定着させることができ、結果として企業のブランド力強化につながる。
3. 経営リスクの減少
ESGの3要素を無視して経営を行うことはいずれも企業にとって大きなリスクへとつながる可能性がある。
自然環境破壊による原材料の高騰、労働環境の悪化による人手不足、管理体制の不備による不祥事などが起こることによって、企業の生産性を低下させてしまうだけでなく、市場においても「信用できない企業」というレッテルを貼られてしまうリスクもあるだろう。
ESG経営を推進することでリスク管理の強化につながり、結果的に様々な経営リスクが減少する。
4. 従業員エンゲージメントの向上
ESG経営の、「S(社会)」では、職場での労働環境の向上や改善も大きなテーマとして扱われる。
適正な労働条件の整備や男女平等などの人権対策、ワーク・ライフ・バランスの確保などの取り組みを行うことは労働者にとっての大きなメリットとなり得る。
さらに、労働者の価値観も多様化しているため、環境問題や社会問題に配慮や貢献をしている会社で働くことは、会社に対するエンゲージメント向上につなげることが期待できる。

関連記事:エンゲージメントとは?従業員の定着率をあげるためにできるエンゲージメント向上の施策

人事部門からアプローチできるESGの取り組み

ESG経営やESGについては、人事部門が中心となってアプローチできる施策も少なくない。
ここでは主に人事部門がメインとなってESGに貢献できる取り組みを紹介しよう。

<人事部門がESGに貢献できる5つのアプローチ方法>
1. 多様性への適応
先述したように労働者の価値観が多様化している現代において、人材の多様性を認め、性別・人種・年齢・宗教・障がいなどに関係なく活躍できる労働環境作りはESG推進にあたって重大なテーマであると言える。
たとえば、産休・育休・時短勤務や介護休暇などの社内制度を整備することがあげられるだろう。
一定のルールはもちろん必要であるが、それと共にできるだけ不平等さや格差を感じさせず、多様な考え方や人材を企業全体の価値として活かすための取り組みを行うことが必要だ。
2. 労働安全衛生の確保
けがの防止や疾病予防など労働者の健康や安全を確保できる職場作りを行うこともESGにおいて人事部門が大きく貢献できる部分であるだろう。
定期的な防災訓練や健康診断の実施、またメンタルへルスに関する社内相談窓口の設置など、事故や不正の起こらない制度や体制を人事部門でも考え、整えていくことが重要だ。
3. 人材育成への取り組み
人材育成の部分では、労働者の能力を適切に判断し、個々に見合った育成カリキュラムを作成することなどがあげられる。
投資家の企業への評価指標として、Off-JT(職場外研修)への取り組みがあげられているケースもある。
また、適切な人材育成によって労働者の働きがいを向上させることも、企業価値を高めるうえでの重要な要素である。
労働者が高いモチベーションの中で業務を行うことができる環境が整っている企業は、選ばれる企業となることに結びつき、それは結果として利益につながるのだ。
4. 雇用の確保
雇用の確保において、風通しの良い労使関係を維持することも人事部門における大切な役割だ。
また、正規・非正規雇用者の割合を計算してESGの評価指標とする投資家も存在する。
5. 自発的な情報開示
法令順守や情報開示などの面においてオープンにすることによって、クリーンな起業として企業のイメージアップを狙うことができる。
また、人材育成への投資金額や研修期間・充実度など人材価値を高めるための非財務的な情報を積極的に開示することによって、ステークホルダーや求職者などさまざまな人たちから「労働者を大切にする企業」という評価を得ることができ、新たな人材確保を助けるだけでなく、さらなる企業価値の向上にもつながる。

ここまでESGについて解説をしてきた。
ESGはステークホルダーに配慮した新たな企業投資の判断基準であり、今後企業が持続的な成長をしていくために無視することのできない取り組みであると言えるだろう。
しかし、ESGは短期間で成果が出る取り組みではないため、長期的な目標を掲げて、地道に活動をしていく必要がある。

まとめ

・ESGとは企業投資の新しい判断基準であり、従来の財務状況の分析などによる評価ではなく、企業の持続的な成長性に重きを置いて評価するという投資方法である。企業の持続的な成長のためには、環境、社会問題への取り組み、ガバナンスが重要であるという考えが広まり、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)、それぞれの頭文字を取った「ESG」という言葉が生まれ、現在ではESG投資は世界的なトレンドとなっている。しかし、ESGの明確な定義は存在しておらず、評価基準も評価機関によって異なっており、「世界共通の判断基準がない」というのが一般的な認識である。

・似ている言葉としてSDGsやSRI、CSRがあげられるが、ESGとそれらの違いはどこにあるのだろうか。次のような部分が考えられる。SDGsとESG:取り組みの規模の違い/SRIとESG:問題への要望の明確さ、自分の倫理観を重視するか企業の成長性を重視するか/CSRとESG:社会問題に対して「責任」として取り組むのか、「戦略」として取り組むのか。ESGの特徴としてステークホルダーに配慮して取り組む点、近年の社会問題への要望が3つにまとめられている点などがあげられる。

・ESG経営が企業にもたらすメリットとして次の4つがあげられる。1.資本市場における企業評価の向上、2.ブランド力の強化、3.経営リスクの減少、4.従業員エンゲージメントの向上。ESG経営を推進することはリスク管理の強化への直結や、企業の成長性に重きを置く投資家たちから高い評価を得られることが予想される。

・人事部門がメインとなってESGに貢献できる取り組みとして次の5つのようなことが考えられる。1.多様性への適応、2.労働安全衛生の確保、3.人材育成への取り組み、4.雇用の確保、5.自発的な情報開示。特に情報開示については企業の透明性もアピールできるだけでなく、人材価値向上のための情報を積極的に開示することによって、ステークホルダーや求職者などさまざまな人たちから良い評価を得ることができ、新たな人材確保を助けるだけでなく、さらなる企業価値の向上へもつながる。

・ESGは企業が持続的な成長をしていくために今後無視することのできない取り組みであると言えるが、短期間で成果が出る取り組みではないため、長期的な目標を掲げて、地道に活動をしていく必要がある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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