2022.8.23

ターンアラウンドとは?ビジネスでの意味と事例、ターンアラウンドマネージャーの役割

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ターンアラウンドとは、「事業再生」や「経営改革」を意味するビジネス用語だ。経営困難に陥った際に、さまざまな観点から戦略を立案して事業を立て直すことを意味する。この記事では、多様化する現代において注目を集めるターンアラウンドの意味や、企業の事例などを解説する。

ターンアラウンドとは?ビジネス用語としての意味

多様化する現代においては、大企業でも経営危機に追い込まれることが珍しくない。経営のピンチを解決する方法として、ターンアラウンドによる企業の立て直しが求められている。ここでは、ターンアラウンドのビジネス用語としての意味や、似ている企業再生との違いなどを解説する。

ターンアラウンドとは

まずはターンアラウンドの語源を理解しよう。ターンアラウンドとは、「turn around」に由来するカタカナ語だ。本来は「方向転換」を意味しており、進む方向や方針の変更を表す。方向転換以外では、以下のような意味でも用いられる。

・ 意見を変える
・ 回転する
・ 事態が好転する
・ 政策を転向する など

ビジネス用語としての意味。企業再生との違い

ターンアラウンドはビジネスシーンでも頻出する言葉であり、主に「事業再生」や「経営改革」を指す。具体的な意味は、業績不振の事業を抜本的に改革し、収益を上げられるように立て直すことだ。営業や財務などの部門を問わず、事業に関わるさまざまな面を改善するために中長期的なプランを打ち出す。

ターンアラウンドに似ている言葉として、「企業再生」が挙げられる。企業再生とは、財政面などのトラブルによって経営困難に陥った際に、存続を脅かす原因を排除して企業を再生することだ。

ターンアラウンドと企業再生に明確な違いはなく、同義で捉えられることが多い。一般的に、事業にフォーカスする際はターンアラウンドが、企業を主語とする場合は企業再生が使われると理解しておこう。

ちなみに、事業の再生においては、ターンアラウンドと対照的な「ワークアウト」が用いられることもある。ワークアウトは短期的なプランで経営の再建を図ることであり、主な戦略にはリストラや資産売却などが挙げられる。

ターンアラウンドと併せて、企業再生やワークアウトなど経営再建に関わる用語をおさえておこう。

IT用語としての意味

ITの世界では、システムなどに処理要求を送った時点から処理が完了するまでの時間を「ターンアラウンドタイム(TAT)」という。また、データやコマンドの入力後に処理結果が出力され、次の要求を受け入れ可能な状態になるまでの時間を指すこともある。

似ている用語に「レスポンスタイム」が挙げられるが、レスポンスタイムは処理要求に対して何らかの反応が起こるまでの時間を表す。

このように、ターンアラウンドは状況によって意味が異なるため、場面ごとにどのような意味で使われているのかを判断する必要があるだろう。

ターンアラウンドの事例

ターンアラウンドの具体的な戦略が知りたいのであれば、企業の事例を参考にするのが有効だ。以下に示す3つの企業の事例を元に、ターンアラウンドによる経営再建の効果を見てみよう。

・ 日本航空株式会社
・ カネボウ株式会社
・ 日本マクドナルドホールディングス株式会社

日本航空株式会社

日本航空株式会社は、航空業界の2大巨塔の1つである。2008年のリーマンショックにより、日本航空株式会社は経営破綻の危機に瀕していた。経営困難な状態を脱するべく、当時の国土交通大臣である前原誠司氏と、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏によってターンアラウンド戦略が実施された。

具体的な施策には以下が挙げられる。

・ 金融危機へのリスク耐性が低い企業体質の改善
・ 大型機とそれに伴う機材の売却、中型機を主体とする編成への転換
・ 供給座席数の適正化
・ 就航路線の見直し
・ 従業員の意識改革
・ 部門間の連携性の向上 など

上記に加えて、リストラなどのワークアウト戦略の実施や、給与水準の切り下げなどに関する労働環境の改革にも注力した。

これらの施策は組織改革に好影響を与え、508億円の営業赤字(2009年3月期)の状態から、2,049億円の営業黒字(2012年3月期)を計上するほどに回復した。経営危機からの再生後の2012年9月には、東京証券取引所市場第一部の再上場も果たしている。

参考:
日本航空株式会社「平成21年3月期決算」
日本航空株式会社「JALグループ 平成24年3月期連結業績の概況」

カネボウ株式会社

化粧品の製造や販売を手がけるカネボウ株式会社も、ターンアラウンドによって経営危機を乗り越えた企業の1つである。1960年代後半、カネボウ株式会社は化粧品以外の事業にも新規参入し、多角化経営に乗り出した。

しかし新規事業の経営は芳しくなく、赤字経営の状態が続いた。その際に9期連続で粉飾決算を繰り返し、日本の経済界に衝撃を与えたことは有名な話である。

経営に行き詰まったカネボウ株式会社は、採算性の高い化粧品部門を本社から分離して独立させ、株式会社カネボウ化粧品として別会社に編入させるターンアラウンド戦略を実行した。同様に繊維事業も本社から切り離し、複数の企業に引き継がせた。両事業は、現在も別会社として存続している。

本体であるカネボウ株式会社自体も、経営体制の刷新やガバナンスの修復、人員削減などのワークアウト戦略を行い、経営再建に見事成功したのだ。現在はクラシエホールディングス株式会社に社名を変え、ホーユー株式会社の完全子会社として再スタートしている。

日本マクドナルドホールディングス株式会社

日本マクドナルドホールディングス株式会社は、日本のファストフード業界を牽引する企業である。飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けていたが、中国の期限切れ食肉使用問題をきっかけとして、長らく業績不振に陥った。

日本マクドナルドホールディングス株式会社を低迷状態から救い出したのは、新社長のサラ・サカノバ氏と、ターンアラウンドマネージャーの足立光氏である。両者が行ったターンアラウンド戦略として、主に以下が挙げられる。

・ 新店建設の厳選
・ 既存店舗の改装の加速
・ 戦略的閉店による投資資金の確保
・ 地域や店舗に根ざした経営の促進
・ 店舗人員の最適化
・ フランチャイズオーナーに対する財務施策の継続 など

上記以外の戦略では、話題性の高いマーケティングも特徴的だ。人気商品を再販したり、有名アプリゲームとコラボしたりするなど、人々の注目を集めるマーケティング戦略を次々に実施した。

さまざまな戦略が功を奏し、既存店舗の前年同月比の売上高は23ヶ月連続でプラスを記録した。2017年には第四半期における累計全店売上の前年度比もプラスに転じており、ターンアラウンド戦略が経営再建に大きく寄与したことがうかがえるだろう。

参考:日本マクドナルドホールディングス株式会社「財務指標サマリー」

「再生請負人」ターンアラウンドマネージャーとは

企業の再生を専門的に行う人物は、ターンアラウンドマネージャー(TAM)と呼ばれる。ターンアラウンドマネージャーは再生請負人ともいい、特に海外で広く浸透している。ターンアラウンドマネージャーの特徴や仕事内容、関連する資格を見ていこう。

ターンアラウンドマネージャーとは

ターンアラウンドマネージャーとは、経営破綻の危機に直面している、またはすでに経営が破綻している企業の再生を請け負う人物を指す。企業の経営者として登用され、さまざまな観点から戦略を立案・実行して経営の再建を図るのが特徴だ。

ターンアラウンドマネージャーが注目される背景

日本では、2003年ごろからターンアラウンドマネージャーが注目されるようになった。日本で浸透した背景として、以下の3つが挙げられる。

● バブル崩壊や経営の複雑化
● 事業再生ファンドビジネスの急増
● コロナ禍による影響

バブル崩壊や経営の複雑化

1990年のバブル崩壊後は、倒産に追い込まれる企業が後を絶たず、早急な経営再建が進められた。一方で、インターネットの普及やグローバル化が進み、経営はさらに複雑化した。

経営の複雑化が事業再生に歯止めをかけたことによって、従来の再建案の枠組みを超えるスキルをもち、企業を的確に再生できる人物の需要が高まったと考えられる。

事業再生ファンドビジネスの急増

事業再生ファンドビジネスの急増も、ターンアラウンドマネージャーが注目された要因の1つだ。事業再生ファンドビジネスとは、経営再建の計画立案やファイナンスの実行を担う組織である。

従来、事業再生は銀行などが主に取り組んでいたが、事業再生の動きが加速したことにより、専門的なスキルを有するターンアラウンドマネージャーが必要とされるようになったのだ。

コロナ禍による影響

ターンアラウンドマネージャーが普及した背景には、新型コロナウイルスの感染拡大も関係している。混乱を極めるコロナ禍においては、これまでの経営戦略が通用しなくなり、存続を危ぶまれる企業が増加した。

経営改革をうまく進められず、経営破綻に陥った企業も少なくないだろう。コロナ禍のように前例のない危機に直面した企業を再生する人材として、ターンアラウンドマネージャーに注目が集まっているのだ。

仕事内容

ターンアラウンドマネージャーの主な仕事内容は、債権放棄や資産売却など財務面の改革である。専門的な知識と経験を活かし、収益の改善に向けたさまざまな戦略を実行する。

財務に関する改革以外では、組織改変や企業文化の再構築もターンアラウンドマネージャーの専門領域だ。過剰人員の削減や不採算部門の廃止などを行い、組織力の向上を図る。

さらにターンアラウンドマネージャーは、事業活動の抜本的な改革を実行する役割も担う。経営戦略の刷新や取引条件の改善など、事業における課題を炙り出し、経営の再建につながる戦略へと落とし込む。

関連する資格

ターンアラウンドマネージャーとして活躍するためには、以下の関連資格の取得が有効だ。

・ ターンアラウンドマネージャー(TAM)
・ 中小企業診断士
・ 事業再生アドバイザー(TAA)
・ 認定事業再生士(CTP)

ターンアラウンドマネージャー(TAM)はNPO法人金融検定協会が認定する資格であり、養成講座の受講と試験の合格によって取得できる。養成講座にはターンアラウンドの基礎知識やケーススタディ、ディスカッションなどが含まれ、実務に近い知識を学習できる。

ターンアラウンドマネージャーの中には、国家資格の中小企業診断士を取得している人も多い。そのほか、日本ターンアラウンド・マネジメント協会認定の認定事業再生士(CTP)や、金融検定協会が実施する事業再生アドバイザー(TAA)を取得しておくと、ターンアラウンドマネージャーとしての活躍の幅が広がるだろう。

まとめ

ビジネスシーンにおけるターンアラウンドの意味は、「事業再生」や「経営改革」である。企業が経営破綻した際や、経営破綻の危機に直面している際に、中長期的な戦略を立てて事業の再生を目指すことを意味する。

また、ターンアラウンドを専門的に行う職種はターンアラウンドマネージャーと呼ばれる。経営の複雑化やコロナ禍の影響などが広がる現代において、ターンアラウンドマネージャーの需要はさらに高まっていくだろう。

事業が行き詰まっている際や、資金繰りに困っている際は、ターンアラウンドの実行を検討してみてはいかがだろうか。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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