2023.11.28

メンター制度とは?目的やメリット・デメリット、成功事例などについて解説

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メンター制度は、人材流出の防止や従業員のメンタルケアに際して効果を期待できるものである。本記事では、メンター制度の特徴やメリットとデメリット、および厚生労働省発表の成功事例などについて解説する。メンター制度についてその大枠を知りたいという人はもちろん、導入を検討している人事担当者もぜひ参考にしてほしい。

はじめに

厚生労働省が令和5年8月22日に公開した「令和4年度雇用動向調査結果の概況」によると、令和4年の1年間における常用労働者(期間を定めずに雇用されている者、または1カ月以上の期間を定めて雇用されている者)の離職率は15.0%であり、数にして約765万6,700人となっている。前年比では1.1%の増加(令和3年は13.9%で、約717万2,500人)という結果だ。離職理由別の離職率としては、「個人的理由」が11.0%で最多となっている。

さらに、厚生労働省が令和3年10月22日に公開した、令和2年度の新規学卒就職者の離職状況に関する資料を見ると、新入社員の就職後3年以内における離職率は当時時点で「高卒就職者は36.9%」「大卒就職者は31.2%」となっており、入社して3年以内に3割から4割の離職者が発生していることがわかる。この時期は、コロナ禍の始まりに伴う働き方の変動や、少子高齢化に伴う人材不足の継続などが問題となっていた時期でもあり、令和5年現在においてもこうした問題は解決したとは言い難い。そして、その影響が離職率の増加や離職理由の一部につながっていることは間違いないだろう。

このように多くの企業で人材の流出が大きな課題となっているが、その状況を改善するものとして、今回取り上げる「メンター制度」が注目されている。

参考
令和4年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省
新規学卒就職者の離職状況を公表します|厚生労働省

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メンター制度とは?

メンター制度の概要について解説していこう。メンター制度とは、「所属する部署の上司とは異なる社員が、新入・中途社員や後輩社員を指導し、相談に乗るサポートシステム」のことである。単に業務上の指導に限らず、人間関係・キャリアに関する悩みの相談や、メンタルヘルスのケアなども含まれるのが特徴だ。こうしたサポートはメンタリングとも呼ばれる。

メンターとは

メンタリングの対象者をサポートする側の社員をメンターと言う。直属の上司ではなく、歳の近い先輩社員がメンターとなるのが一般的とされている。また、多くの場合は他部署の先輩社員がメンターの役割を担う。

特定非営利活動法人日本メンター協会が掲げている「メンターのイメージ」を引用すると、以下の6点が挙げられる。

① 仕事の面でも、プライベートの面でも安心して相談できる人
② どのような相談でも、共に悩み、考え、支え、称えてくれる人
③ できる範囲で、有形無形問わず、力になってくれる人
④ 特別に振る舞うことはせず、ありのままの態度で接してくれる人
⑤ 同じ目線で、フラット(対等)な立場で対話してくれる人
⑥ メンティーと共に、成長する人

出典:メンターとは?|日本メンター協会

つまり、メンターには指導者としての経験や相談役としての手腕、業務における専門的なスキルが必要なのではなく、相手に対して思いやりを持ち、素直に共感できる能力が必要ということになる。

また、日本メンター協会では、メンターを2つの類型に分類している。1つは「話しやすいメンター」で、もう1つは「学びのあるメンター」だ。

前者は、年齢や性別、価値観などの属性が似ていることでコミュニケーションが取りやすいメンターと言える。対象となる社員を職場に定着させたい場合は、こちらのメンター像を取り入れるのが適切だろう。

後者については、属性が異なる、またはメンティーにはない知識やスキルを有している社員が当てはまる。こちらのメンターがメンタリングを行うことで、メンティーの成長につながることはもちろん、メンターとメンティー間における学び合いにもつながることが期待できるだろう。

メンティーとは

メンターから指導を受けたり、相談に乗ってもらったりする社員がメンティーだ。一般的に、メンティーとなる社員は新入社員や中途入社の社員となり、メンターから見て後輩の立場にあたる。また、メンターとは異なる部署の社員であることが多い点も特徴のひとつと言えるだろう。

メンティーとなる社員を選定する際には、当該社員がどのような課題を抱えているのか、あるいはどのような目的でメンタリングを行うのかを明確にしておく必要がある。なぜなら、会社組織におけるメンターとメンティーの関係性は希薄な状態から始まることが多く、最初の段階では信頼関係が十分に構築されていないため、メンタリングが成立しない恐れがあるからだ。

両者の関係構築期間を設けることを前提とし、目的・課題を1つか2つ程度まで絞ったうえでメンティーおよびメンターを選定すれば、効果的なメンタリングが期待できるだろう。

関連記事:メンターとメンティーとは?制度として導入する目的や注意点

メンターの語源について

メンターという用語が使用されたのは、17世紀フランスのカンブレー大司教フランソワ・フェヌロンによる小説『テレマクの冒険(Les Aventures de Télémaque)』が最初とされている。その由来は、古代ギリシアの吟遊詩人ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』にまでさかのぼる。

物語の主人公であるオデュッセウスにはテーレマコスという若年の息子がおり、オデュッセウスがトロイア戦争に出征するにあたって、彼は友人である賢者メントールに息子の養育を任せた。この過程には、女神アテーナーがメントールに姿を変えてテーレマコスに助言を与えた、という部分もあるが、結果としてテーレマコスは立派な人物に成長し、その成長に大きく貢献したメントールは「良き指導者にして理解者」として知られるようになる。この賢者メントールこそが、メンターという言葉の語源として広く認識されているのである。

メンターとメンティーは「斜めの関係」

メンターに選ばれる社員は、メンティーにとって直属の上司ではなく、また同部署の先輩でもない他部署の先輩が望ましいという前提がある。同部署の上司や先輩は、メンティーにとっては「縦の関係」にあたる存在であり、業務上の指導や報連相が主たるコミュニケーションになることは必然だ。そこには利害関係が発生するため、直接的には業務に関係のない相談事をするのは気が引ける、という人は多いだろう。では、誰に相談すればよいのかとなると、「斜めの関係」にあたるメンターが最適と言える。

「斜めの関係」とは、業務上の利害関係が発生しない他部署の先輩社員との間で成立する関係性を指す。この関係性においては、部署内での雰囲気が悪化する恐れや評価が下がる恐れが少ないため、メンティーは気楽に雑談や悩み事の相談をしたり、社内における身の振り方などを教えてもらえたりということが期待できる。また、メンターとしても、相手が他部署の後輩社員という性質上、フラットな立場で指導者・理解者・助言者の役割を担うことが可能だ。

メンターになる社員と、メンティーとなる社員を選定する際には、「斜めの関係」の重要性を確実に理解しておこう。

メンター制度と似ているその他の制度や用語

メンター制度の基本的な内容についてはご理解いただけただろうか。続いては、メンター制度と似ているものの厳密には異なる制度や用語、合わせて5点について解説していく。

OJT制度

OJT制度とは、「On the Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」の略語で、先輩社員が後輩社員(主として新入社員)に対して実務領域の指導を行う制度を指す。その歴史は古く、第一次世界大戦時のアメリカで生まれた「4段階職業指導法」を起源に、それを発展させた「TWI研修(監督者のための企業内訓練)」が高度経済成長期の日本に輸入され、現在のOJT制度になった経緯がある。

一般的には、1人の社員に対して1人の先輩社員が付き添い、実務を通して業務遂行に必要なスキルや知識を教える制度とされている。先輩社員が後輩社員のサポートを行うという点ではメンター制度と似ているが、「指導する立場の先輩社員が同部署である」「サポート内容が実務領域に特化している」という点において、メンター制度とは明確に異なっているのが特徴だ。

関連記事:OJTとOFF-JTの違いは?人材育成におけるやり方やメリット

エルダー制度

OJTの一環として行われるのがエルダー制度だ。「エルダー(年長者、先輩)」という名の通り、対象となる社員に対して数年程度先輩にあたる社員が実務領域に関して指導を行う制度である。企業によっては、「OJTリーダー制度」や、後述する「ブラザーシスター制度」と呼ぶケースもあるようだ。

原則として、マンツーマンで指導を行い、社員が戦力として活躍できるように育成することを目的としている。このため、指導側の社員と指導を受ける社員の相性が悪いと効果が期待できない。適切に運用できれば、エルダーのマネジメントスキル向上につながり、社員の戦力化が期待できるだろう。

メンター制度とは、OJTの一環であるという性質上、「同部署の先輩が指導を行う」「指導内容が業務領域に特化している」という点で異なっている。

ブラザーシスター制度

指導役となる先輩社員をブラザー(兄)およびシスター(姉)として、実務指導や職場における生活指導を行うのがブラザーシスター制度だ。企業によってはシスターブラザー制度と呼ばれる場合もある。指導役となる社員は、指導対象となる社員と歳が近いことが特徴の1つである。

メンター制度との違いは、指導役となる社員が同部署の先輩である点や、指導内容が実務領域の枠(業務上の職場生活も含む)を超えないという点である。

コーチング

一般社団法人日本コーチ連盟が定義するところによると、コーチングとは、

「答えはその人の中にある」という原則のもと、相手が状況に応じて自ら考え、行動した実感から学ぶことを支援し、相手が本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようサポートするためのコミュニケーション技術

とされている。つまり、企業においては上司や先輩からの一方的な指導ではなく、コーチング対象となる社員の自発的な成長を促す指導法と言えるだろう。

出典:コーチングとは | 一般社団法人日本コーチ連盟

メンター制度も、一方的な指導というよりは両者間のコミュニケーションと自発性を重要視しているため、似た要素を含んでいると言える。なお、コーチングにおいては、あらかじめ定められている目標達成が最終的な到達点となるため、メンタルケアが主となるメンタリングとはその点で異なると言えるだろう。

ティーチング

ティーチングとは、知識やスキルが豊富なベテランによる一方的な指導方法を指す。ティーチングでは指導者側で既に目的が定まっており、それに向けてノウハウを伝授するという点が特徴だ。この特徴ゆえに、マンツーマンだけでなく1対多数の状況下でもスムーズに指導を行えるメリットがあると言えるだろう。

実務上の指導を一方的に指導するという性質上、メンター制度とは明確に異なる指導方法である。

関連記事:コーチング・ティーチングとは?それぞれのやり方やメリットを解説

メンター制度が注目される理由

メンター制度が注目される理由としては、端的に述べると、「近年における労働環境の急速な変化(および変化への対応が急務である点)」があるだろう。労働環境の変化とは、主に以下の3点が挙げられる。

働き方の多様化

フレックスタイム制や時差出勤、ジョブ型雇用など多様な働き方が浸透してきているが、その中でもテレワークの普及によって、社員同士のコミュニケーション不足に伴う課題が発生していることは事実だ。

令和2年、厚生労働省によって発表された「第1回『これからのテレワークでの働き方に関する検討会』資料」によれば、テレワークに伴う課題は「コミュニケーション・仕事とプライベートの区別」「労働時間」「環境整備・社内制度」「心理面」の4項目に分類されている。

この中でも、メンター制度に関連しているのは「コミュニケーション・仕事とプライベートの区別」と「心理面」だろう。前者について、厚生労働省は3つの企業・機関による労働者調査の結果を開示しており、いずれの調査でも「社内コミュニケーションの減少」と「仕事とプライベートの区別ができない」という問題がおよそ3割から4割を占める結果となった。また、後者については、2社による労働者調査の結果を公開しており、「社内評価・キャリアへの不安」と「非対面でのやり取りに伴う不安・寂しさ」が問題となっていることが明らかになっている。

このように、働き方の多様化に伴う心的課題が表面化している現在において、メンター制度が注目されることは当然と言えるだろう。

参考:テレワークを巡る現状について|厚生労働省

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新卒離職者の状況

本記事冒頭でも紹介したが、新卒就職者の3年以内における離職率は、令和2年度時点で3割から4割となっており決して少ない数値ではない。また、令和4年の1年間における常用雇用者の離職理由は、「個人的理由」が73.5%で第1位(令和4年1年間の離職者数を100%とした割合)であり、うち、「結婚・出産・育児・介護・看護」が2.4%であるのに対して、「その他の個人的理由」が71.1%という結果になっている。若年者に絞ってもう少し詳しく見てみると、以下のようになる。

  その他の個人的理由(離職理由)
19歳以下(男性) 95.5%
20~24歳(男性) 84.1%
19歳以下(女性) 95.2%
20~24歳(女性) 84.9%

※各年代の離職者数を100%とした割合

明記はされていないものの、「その他の個人的理由」にはさまざまな理由が含まれており、中には労働環境に起因する離職理由もあるだろう。環境起因で離職する新卒就職者対策として、先輩社員に気楽に悩み事や相談事を持ちかけられるメンター制度は効果的と考えられる。

参考
新規学卒就職者の離職状況を公表します|厚生労働省
令和4年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

ジェンダーの平等

「SDGs(持続可能な開発目標)」のうち、5つ目の目標である「ジェンダー平等の実現」において、「政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画および平等なリーダーシップの機会を確保する」という目標が設定されている。

また、内閣府男女共同参画局が発行している「みんなで目指す!SDGs×ジェンダー平等」によれば、日本における「就業者および管理的職業従事者に占める女性の割合」は、就業者で44.5%、管理的職業従事者で13.3%となっており(令和2年時点)、他国(フランス・スウェーデン・アメリカ・イギリス・ドイツ・オーストラリア)と比較すると若干低い数値となっている。

なお、令和4年に同じく内閣府男女共同参画局によって公開された「女性活躍に関する基礎データ」によれば、統計的には、男女ともに近年の就業率は上昇傾向にあり、非正規雇用労働者の割合は減少傾向にある。しかし、「有配偶者の女性における就業調整」「既婚女性と男性・未婚女性の所得格差」「男女間の賃金格差」が課題として挙げられており、女性の経済参画状態は諸外国と比較すると低い状態だ。

経済参画における女性の活躍を後押しするという側面でも、メンター制度は重要な位置づけにあると言えるだろう。

参考
みんなで目指す! SDGs × ジェンダー平等|内閣府男女共同参画局
⼥性活躍に関する基礎データ|内閣府男女共同参画局

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メンター制度導入の目的

メンター制度を導入する場合、その主たる目的は「社員の定着率向上(離職率の低下)」と「社員の成長」の2点となるだろう。それぞれについて解説していく。

社員の定着率向上(離職率の低下)

本記事中で複数回述べているように、新入社員の3年以内における離職率が3割から4割であることは企業にとって大きな課題である。この課題を未然に防ぐためには、社員が職場に定着できるよう積極的に働きかけることが重要だ。そのための制度として、メンター制度は効果的である。

日本労働組合総連合会が令和4年4月28日に発表した、「入社前後のトラブルに関する調査2022」によると、「卒業後に最初に就職した会社で、入社後、新入社員研修や、上司・先輩からの業務についての指導・アドバイスはあったか」というアンケート調査(全回答者数1,000名)に対して、「あまりなかった」と回答したのが14.9%、「まったくなかった」と回答したのが6.1%で、合計すると約2割の割合で指導やアドバイスが十分に行われていないことが判明している。

一方で、同調査の「勤め先における不安や悩みを相談したい場合、どこに相談するか(複数回答形式)」(全回答者数1,000名)では、「家族・友人」と回答したのが79.6%であるのに対して、「勤務先の上司・同僚」が34.4%、「勤務先の相談窓口(総務・人事)」が6.8%と、両者間で明確な差がある。

参考:入社前後のトラブルに関する調査2022|日本労働組合総連合会

新入社員の目線から見て、上司や先輩からの指導やアドバイスが行き届いていない場合や、積極的に職場内で相談ができない場合、最悪のケースだと離職につながってしまう可能性がある。業務上のアドバイスには適していないものの、別部署で歳が近い先輩であるという性質上、メンターによるメンタリングは新入社員の職場定着率に大きく貢献する可能性が高いと言えるだろう。

社員の成長

メンター制度は、単に社員の定着率向上だけを目的とはしていない。後輩の育成によるメンターのマネジメント能力向上や、メンティーの自発性向上と、それに伴う能力の向上も期待できるのだ。メンターとメンティー双方にとって、会社組織の人材としての成長に貢献できる制度であるため、メンター制度は積極的に導入すべきと言えるだろう。

メンター制度導入によって企業が期待できる効果

メンター制度を導入することで、企業というマクロな視点では主に次のような効果が期待できる。1つは「良質な労働環境の構築」、2つ目は「採用への好影響」だ。

良質な労働環境の構築

メンターとメンティーというミクロな関係性における効果が発揮され続けていけば、部署として、部門としての労働環境は徐々に改善されていくと考えられる。そして最終的には、「人材を大切にする企業風土」として、その環境は企業全体に根付いていくことが期待できるだろう。

採用への好影響

厚生労働省が公開している「職場情報の提供制度」によれば、企業は新卒者の雇用にあたって複数の項目を情報提供することになっている。その中には、「職業能力の開発・向上に関する状況」として、「メンター制度の有無」も項目化されている。つまり、新規学卒者は求人を探す際に、メンター制度があるかどうかも判断材料としていることが想定できるだろう。メンター制度が導入されている企業であれば、求職者の増加につながるという効果が期待できる。

参考:職場情報の提供制度|厚生労働省

メンター制度のメリット

続いて、メンター制度のメリットとデメリットについて解説していこう。まずは、メンターとメンティーそれぞれにとってのメリットについて紹介する。

メンターにとってのメリット

メンターにとってのメンター制度最大のメリットは、メンターがマネジメント能力を得られるというところにあるだろう。もちろん必ずとは言えないが、マネジメント能力の育成に少なからず寄与することは間違いない。また、メンティーへの指導や助言を通して、メンター自身の責任感や自発性も培われるだろう。

関連記事:マネジメントとは?定義や役割、マーケティングにおけるKPIマネジメントについて解説します

メンティーにとってのメリット

メンティーにとってのメンター制度のメリットは、やはり精神的安定を得られることだろう。メンティーからすると、慣れない職場環境ではなかなか言い出せない不安や悩みを素直に吐き出せる環境が設けられていることは、精神的な安定につながり得る。先述した、日本労働組合総連合会の調査結果にもある通り、職場における悩みを相談できる相手が家族や友人である割合は約8割となっており、メンター制度がない、またはうまく機能していない環境下では新入社員のメンタルケアが適切に行われていないことが想定できるだろう。メンター制度が適切に運用されている職場では、メンティーの安心感や職場へのなじみやすさは大きく増幅すると期待できる。

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メンター制度のデメリット

次に、メンターとメンティー双方にとってのメンター制度のデメリットについて解説していく。

メンターにとってのデメリット

メンターにとっては、他業務に加えて「メンタリングという業務」を行うことになるため、業務負担の増加がデメリットになり得る。とりわけ、繁忙期にメンタリング業務を行うことになった場合、通常業務もメンタリングも十分にこなせない恐れが出てくる。そのため、メンタリングを行う場合は繁忙期を避けたり、周囲のサポートありきで行ったりすることが重要だ。

メンティーにとってのデメリット

メンターの質と、メンター・メンティー間の相性が悪い場合、メンティーにとってはメンタリングそのものが悪い影響を及ぼす要因になり得る。本来、両者間の信頼関係を前提として成立するのがメンタリングであるため、質の悪いメンター、あるいは相性の悪いメンターとメンタリングを重ねたところで効果は期待できないだろう。むしろ、メンタリングによって居所が悪くなり、離職につながるかもしれない。このような事態を防止するためにも、メンターの教育、およびメンター・メンティーのマッチングは慎重に行う必要がある。

メンター制度導入にあたっての流れ

実際にメンター制度を導入するにあたっての流れは、おおむね以下のようになる。ぜひ参考にしていただきたい。

1. メンター制度の理解

大前提として、メンター制度を導入する担当者が制度について理解を深めておくことが重要だ。特に理解すべきなのは、「メンタリングとは何か」「メンターの在り方とは何か」という2点である。しかし、ただ制度について調べるだけでは実感がわかないかもしれないため、導入担当者は研修を受けたり、他社における導入成功事例を調査したりするとよいだろう。

2. メンター制度導入の目的設定

メンター制度の導入において、目的となるのは「新入社員の定着」「女性社員の活躍」「メンター社員のマネジメント能力向上」「全社的な労働環境の改善」などが主たるものとして挙げられるだろう。これらの目的を明確化しておかないと、制度の導入が失敗に終わる確率は高まるかもしれない。そのような事態を未然に防ぐためにも、自社にとってどのような人事的課題があるのかを把握しておくことが重要だ。

また、メンター制度の運用におけるルールや注意事項、および運用開始後に効果測定するための方法も設定しておくとなお良い。

3. メンター制度の構築

目的を明確化できたら、制度の内容を自社に合わせて作成していこう。「メンターとメンティーの選定」「メンタリングの期間や回数」「メンタリングの実施場所や教材の整備」「メンターとメンティーへの研修」が主たる骨格となる。

なお、制度構築にあたって、「メンター制度という人材育成におけるアプローチ方法」が自社の方針と合っているかどうか、経営層や人事部、自部署の部長に確認し、合意を得ることも必要だ。そして、メンター制度を全部署で実施するのか、一部の部署において実施するのかも確立しておこう。

4. 全社的な周知

メンター制度の運用が決定したら、経営層から一般社員に至るまで、全社的に周知を行おう。「なぜ制度を導入するのか」「導入に至った背景は何か」「導入することでどのような効果が期待できるのか」を社内全体に浸透させることが必要だ。中には、メンター制度について懐疑的な態度を示す経営陣、管理職、一般社員がいるかもしれない。そのような人々にも制度導入の重要性を理解してもらえるように、説明会を開催したり、勉強会を開いて疑似体験をしてもらったりするとよいだろう。

5. メンターの選定と教育

ここまでの段階でメンター制度自体の構築は完了するが、最も重要なのがメンターおよびメンティーの選定と教育である。選定に際しては、メンター希望者が人事部に申し出たうえで人事部がメンティーを選ぶ「ドラフト方式」と、メンティーの属性(年齢や性別など)に近しい人物をメンターに選定する「アサイン方式」がある。

メンターとメンティーのマッチングが決定したら、メンターに対しての教育を行おう。メンティーとペアになっての研修や、開始時だけでなくフォロー研修・エンディング研修を行うことも効果的な場合があるだろう。

6. 運用・分析・改善

制度の運用後は、定期的に効果測定を行って現状を分析しよう。もし、メンターとメンティー間の相性が悪かったり、マンネリ化したりしている場合は、メンターを変更したりサポート環境を強めたりすることが必要になる。

メンターに求められる能力とは

メンター制度を実施するにあたり、メンターに求められる「特殊な能力」というものはない。これは、専門的なスキルや豊富な知識と実績がなくても、要点を押さえておけば誰でもメンターたり得るという意味だ。

実際のところ、「メンティーとの対等な目線」「相手の話を聞き理解するコミュニケーション能力」「会社組織についての十分な理解」「メンティーにとってロールモデルたり得るある程度の実績と経験」「別部署の先輩社員」といった能力・属性が求められるが、これは言い換えれば、その点を押さえている人材であれば、特別な資格や経験などは必要ない、ということである。

メンター制度を実施・運用するときのポイントと注意点

制度運用後は、メンターへのケアは怠らないようにしよう。また、メンターは通常業務に加えてメンタリング業務を行っているため、何らかの形で評価することも重要だ。

また、就業規則にメンター制度について明記しておくことで、全社的な認識が可能になるため、この点も忘れずに実施しておこう。

そして、メンティーが不公平さを感じたり、実務に関する指導を受けづらくなったりしないように、全メンターの質を向上させること、および実務領域における上司や先輩社員からの指導も確実に実施させることが大切だ。

厚生労働省の資料に見られる成功事例

最後に、厚生労働省が公開している「人材確保等支援助成金 雇用管理制度助成コース(メンター制度) 助成金の活用事例集」に基づき、2社の成功事例についてご紹介しよう。

介護事業を展開するM社の成功事例

介護事業を営んでいるM社は、「求人内容と応募者のマッチングが難しく、速やかな人材確保が困難」という課題を抱えており、また、「職場に長く定着してもらうために、従業員への積極的なヒアリングを行っている」という現状があった。

メンター制度の導入にあたって、「年1回のメンタリング」「メンターは外部メンター(日本メンター協会公認事業者の中から選定)、メンティーは社員」「メンターとメンティーに対して制度の事前説明を実施」「制度運用後は、雇用管理責任者が報告書の内容に基づき問題解決のために対策設定」「制度運用にかかる費用は全額事業主が負担」という体制を構築した。

その結果、以下のような効果が生まれている。

● 日頃の悩みや課題をメンターに相談することで、従業員の気持ちが楽になり、自分の考えを整理するよい機会となった
● 従業員はさまざまな事柄に対して前向きな解釈ができるようになった
● 資格取得への関心が高まり、有資格者はさらなるステップアップに向けた資格取得の関心が高まった
● メンタリングによって早期の問題解決を図ることが可能となり、職場への定着が実現した

参考:助成金の活用事例集|厚生労働省

卸・小売業を展開するN社の成功事例

卸・小売業を営んでいるN社は、「事業拡大や人材育成などさまざまな面で土台作りの段階であるという認識」のもと、「当面は若い世代の思考などを取り入れつつ、会社として成長を図っていきたい」という思いがあった。そして、「そのような若い世代の採用・定着を実現するためにも創意工夫と実行の継続が、雇用管理上必要である」ことが課題だった。

メンター制度の導入に際しては、「社員のキャリア形成上の個別課題や、職場における課題解決を図るための措置が必要であり、職場への定着と組織としての成長」を目的として制度の導入を決定している。それにあたって、「外部の専門的なメンターによる正社員対象のメンタリング実施」「毎年4月から6月の期間で、日程やテーマ設定などについてメンター・メンティー間で調整と面談の実施」「制度の実施にかかる費用は全額会社負担」という体制構築を行った。

その結果、以下のような効果が生まれている。

● 既存の正社員全員が定着している(有期雇用社員1名を除く)
● 社内ミーティングにて、データに基づく主体的な発言や提案が増加した
● 各自がキャリア形成や職場における課題への向き合い方などについて明確に認識し始め、労働生産性の向上が期待できる
● 職場環境や福利厚生の充実が重要であるという認識が事業主を含めて強まるきっかけとなった
● 男性社員の育児休暇取得の実現と、そのための全社的なフォローがスムーズに行われた
● 社員の声に基づき、パーソナルトレーナーと契約し、週に1回、終業後に1時間程度の姿勢改善(肩こり・腰痛予防)やストレッチなどを行う講習会を実施(費用は会社負担)

参考:助成金の活用事例集|厚生労働省

なお、ここでご紹介した「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」については、令和4年4月1日より受付を停止しているため、ご注意いただきたい。

参考:人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース) |厚生労働省

まとめ

メンター制度は、社員の定着(離職防止)や雇用管理上の課題解決、メンター社員とメンティー社員双方の成長が期待できるため、企業は積極的に導入していくべきと言えるだろう。

制度の導入に際しては、本記事でご紹介した注意点やポイント、他の制度との誤った認識などに気を付けつつ、全社的に周知して体制を構築していくことが重要である。

会社の成長や環境改善につながり得るメンター制度について、本記事が少しでも参考になれば幸いだ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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