2023.3.7

役職定年制度の現状を解説。社員のモチベーションを活性化するためのポイントとは?

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シニア世代の人事施策として役職定年制度がある。少子高齢化で労働人口が減少するなか、シニア世代を活用する有効な手段として注目を集めている。今回は、役職定年制度の概要や導入するメリット・デメリットを解説する。社員のモチベーションを活性化させるポイントも紹介するため、役職定年制度の導入を検討するのであればチェックしよう。

役職定年制度とは?

役職定年制度とは、一定の年齢を基準として管理職社員を役職から外す人事制度である。一度役職から退くものの、一般的な定年退職とは異なるため、雇用契約は継続されるのが特徴だ。ただし、役職からは外れるため、他部署への異動を命じられたり未経験の業務を任せられることがある。

2017年に実施された勤務条件制度等調査によると、役職定年制度は50代後半〜60歳までの社員を対象とする企業が多い。役職定年制度を導入する企業でもっとも割合が高い年齢は55歳で、次に57歳が多い結果となった。ただし、企業規模や定年退職の年齢で変動することが多い。

役職定年制度と似た制度に役職任期制がある。役職任期制は一定期間の任期を設け、その期間において社員に役職を登用する制度だ。役職期間中の実績を査定したうえで、次の処遇が決まる実力主義を基本にした厳しい人事制度といえる。役職定年制度に比べると導入する企業が少ないのが現状だ。

一方、役職定年制度の導入割合は23.8%と高い。企業規模で見ると、500人以上では36.6%、100〜499人では25.5%、50〜99人では17.1%で、企業規模が大きくなるほど導入比率も高くなる。役職別で見ると、部長級を役職定年の対象とする企業は83.7%、課長級は88.3%にのぼる。

参考:人事院「民間企業における役職定年制・役職任期制の実態」           関連記事:キャリア形成とは?重要性や社員のキャリア形成の進め方を人事視点で解説!

役職定年制度導入の背景とは?

役職定年制度が注目される背景には、以下のことが挙げられる。

● 年功序列や終身雇用制度の崩壊
● 定年延長による人件費の負担

近年、入社から定年まで特定の会社で働き続ける終身雇用や、年齢・社歴に応じて昇進・昇給する年功序列の考え方が変わりつつある。働き方が多様化するなかで転職が活発化しており、特定の会社で定年まで働き続ける社員が減少しているのが現状だ。また実力主義を採用する企業が増え、年功序列や終身雇用制度が崩壊しつつある。

こうした現状を踏まえて、勤続年数が長い管理職の社員と契約し続けることに多くの企業が疑問を持ち始めている。そこで注目されたのが、役職定年制度だ。勤続年数が長い管理職を役職から外して中途採用を増やし、組織として健全な新陳代謝を促す方向へと大きく舵を切ったのである。

役職定年制度が注目を集めるもうひとつの背景は、定年延長による人件費の負担だ。定年退職の対象となるのは60歳が一般的だったが、2013年の法改正により2025年4月から65歳に引き上げられる。60歳定年で給料や退職金を計算していたにもかかわらず、雇用期間を5年延長しなければならない。

雇用期間の延長により人件費の負担が増え、従来のように社員を横並びで処遇していくことが難しいのが現状だ。人件費の負担を軽減するための対応策として導入されたのが、役職定年制度である。若手・中堅社員に比べると役職者の人件費は高いため、制度の導入により費用削減が実現できるのだ。

関連記事:終身雇用は崩壊したのか?背景と原因、転職市場で必要なスキルを解説

役職定年制度のメリットとは?

役職定年制度を導入する企業のメリットとして、以下の点が挙げられる。

● 組織の若返り
● 中高年社員のキャリアシフト期間となる

以下でそれぞれのメリットを詳しくチェックしよう。

(1)組織の若返り

役職定年制度を導入することにより、組織の若返りが期待できる。これまで多くの企業で採用されていた年功序列の考え方は、年齢や勤続年数が長いほど優遇される仕組みである。一度役職に就くと、余程の問題を起こさない限り降格されることはない。その結果、定年退職するまで同じ社員がその椅子に座り続けることが多く見られた。

これでは年齢や勤続年数が低い若手社員が役職に就く機会は訪れない。また、人材が固定化することにより、組織運営が硬直化したり新しいアイデアが生まれにくいという問題も浮上したのだ。このような悪循環を断ち切るために導入されたのが、組織内の若返り効果を期待できる役職定年制度である。

役職定年制度の導入によりシニア世代の役職者が退き、優秀な若手社員に昇給・昇格する機会を与えられる。また、組織内における人材の新陳代謝も図れるため、組織運営の活性化やアイデアの創出などの効果も期待できる。新しい視点や感性を経営に取り入れられ、企業の成長につなげられるのだ。

(2)中高年社員のキャリアシフト期間となる

役職定年制度を導入するメリットは、若手社員にチャンスを与え、活躍の場を広めるだけではない。中高年社員のキャリアシフト期間となることも役職定年制度を導入する大きなメリットだといえる。2013年の法改正により、2025年4月から中高年社員の定年は65歳まで引き上げられるのだ。

また、日本人の健康寿命は延びており、世界一の長寿社会を迎えている。健康寿命の変化に伴い、人生100年時代を見据えた定年後のキャリアプランを考える必要性が増している。特定の企業で長く働くと役職に就くことが目標になりがちだが、定年後に新しいキャリアを築かなければならない。

定年を迎えたあとは、再雇用や再就職、フリーランスなど多くの選択肢が用意されている。どのような道に進むとしても今までのキャリアを捨てて、再出発せざるを得ない。役職定年制度で役職から外れることにより仕事の負担や責任が軽減され、気持ちに余裕が生まれる社員も多い。退職するまで定年後の働き方を考える時間にあてられるのだ。

関連記事:ジョブローテーションとは?目的やメリット、無駄にならないやり方を解説

役職定年制度のデメリットとは?

役職定年制度の導入で考えられるデメリットには、役職定年の対象となる社員のモチベーション低下を招くリスクがある。独立行政法人である高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると、役職定年制度で役職を外されたあと、仕事に対するモチベーションが下がったと答えた社員は59.2%にのぼることが報告されている。

また、会社に対して貢献したい意欲が下がったと答えた社員は59.2%もいるのだ。この調査から、役職定年したあとに仕事へのモチベーションや貢献意欲が低下した社員はかなり多いことがわかる。さらに、仕事へのモチベーションや貢献意欲が低下する原因は、単に役職から外されたことだけではなく、ほかにも以下のような点が考えられる。

● 大幅に年収が減少した
● 人間関係の構築が難しい
● 今までの経験を活かせない

仕事へのモチベーションや貢献意欲の原因に大きく影響を与えているのは、年収の減少である。役職定年により役職手当が支給されないうえに、基本給が下がるため年収が大幅に減少する。実際に役職定年制で9割以上の対象者の年収が減少している。

また、役職定年で役職を退いたあと同じ部署で働く場合、元部下が新しい上司になることもある。立場が逆転するため、仕事のやりづらさや居心地の悪さを感じる社員も少なくない。プライドが傷ついて仕事に前向きに取り組めない社員もいるのだ。

さらに、役職定年したあと必ずしも同じ部署で働けるわけではない。部署異動を命じられ、業務の変更を余儀なくされる場合もある。これまで培った経験や知識を活かせないため、仕事へのやりがいを感じられなくなる社員も少なくない。

関連記事:アルムナイとは?その意味や採用・制度事例を解説

参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「第2章「役職定年制」・「役職の任期制」の機能とキャリア意識の醸成

参考:公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団「50 代・60 代の働き方に関する調査

役職定年制度後の社員のモチベーション低下を防ぐための施策とは?

役職定年後に仕事へのモチベーションが低下する社員が多くいるのが現状だ。このような課題を解決する施策には、以下のようなものが挙げられる。

● トータルリワードの推進
● キャリア研修の実施
● キャリアコース制度の設置

以下でそれぞれの施策を詳しくチェックしよう。

(1)トータルリワードの推進

役職定年した社員のモチベーションを向上させたいなら、トータルリワードの推進が重要である。トータルリワードとは、金銭的報酬だけでなく、非金銭的報酬を組み合わせて仕事へのモチベーション向上を促す施策のことだ。非金銭的報酬には、名誉や成長、対人関係、財務などが含まれる。

たとえば、役職定年した社員に積極的に話しかけ、顧客が褒めてくれたことを本人に伝えるなど、新しい業務に挑戦する機会を与えることが大切だ。たとえ収入が減少しても非金銭的な報酬を与え続けることで、仕事への意欲向上を期待できる。

(2)キャリア研修の実施

役職定年すると、職業人生の目標を見失う社員もいる。職業人生の目標を見失うと何を生きがいに働けばいいのかわからなくなり、仕事に対する価値を感じなくなってしまう。。このような社員にはキャリア研修への参加を促し、自分自身でキャリアを描ける主体的な人材育成を図ることが求められる。

キャリア研修では、会社からの期待や役割を再確認してもらい、定年後を見据えた人生設計を考えるのだ。キャリア研修で新しい目標が見つかると、業務に対するモチベーションが向上する社員も多い。役職定年した社員の活躍は職場の活性化につながり、生産性の向上も期待できるはずだ。

(3)キャリアコース制度の設置

役職定年した社員に対して、補佐的な業務を任せる企業もある。仕事に意欲がある役職定年者でも、本人の意思とは関係ない業務を押し付けられるとモチベーションは下がる一方である。役職定年後に専門性をいかせる職務を選択できるように、社内でキャリアコース制度を設置するのも有効だ。

たとえば、若手社員の指導役を担うメンターコースや経営層や管理職の相談相手になるアドバイザーコース、専門技能を習得するスペシャリストコースなどがある。幅広い選択肢から自分でキャリアを決めることで、自己決定感による意欲向上も期待できる

関連記事:キャリア自律とは?ジョブ型雇用の高まりで注目される理由

まとめ

役職定年制度は若手社員や企業に多くの利点がある一方、慎重に進めないと役職定年者の仕事に対する意欲低下を招きかねない。また、役職定年制度が若手社員と役職定年者の関係性に悪影響が及ぶと、会社全体の生産性低下につながってしまうリスクもある。

役職定年制度の効果を高めるには、トータルリワードの推進やキャリア研修の実施、キャリアコース制度を設置するなど、役職定年者の仕事に対するモチベーションの低下を防ぐための施策の実施が大切だ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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