2021.10.8

新卒一括採用とは?日本特有の制度ができたきっかけやメリット、デメリット

読了まで約 6

■新卒採用とは?

■その歴史と見直されている理由

■新卒一括採用のメリット

■新卒一括採用のデメリット

■通年採用とは?

■今後の各企業の動きとは?

新卒一括採用とは? その歴史と役割

新卒採用、新卒一括採用とは、「毎年決まった期間で新卒学生を対象として在学中に採用選考を行い、卒業後にすぐ入社する」といった日本独自の採用システムだ。
いままで50年以上もの長きに渡って「終身雇用」とともにほとんどの企業で採用されてきた歴史ある仕組みでもある。
しかしこの新卒一括採用の是非については、これまでも幾度となく議論されてきた。
そこで、なぜ日本で新卒一括採用が定着してきたのか、その役割と問題点について、また通年採用との比較、メリット・デメリットなどを解説しよう。

新卒一括採用が社会に浸透したのは第2次世界大戦後のことで、大学の数と学生数の増加とともに、高度経済成長期において大卒を安定して採用する仕組みとして、大手だけでなく中小企業も取り入れはじめたことがきっかけだ。
また、新卒一括採用は、「終身雇用」「年功序列」といった日本社会に定着した人事制度とも相性がよく、社員は一括採用で入社し、その後は日本型人事制度の仕組みに沿って、それぞれの組織に馴染んだ人材として長く活躍することで、安定したキャリアと生活を保障されていた。
しかし、多様化やグローバル化を進める流れが強くなった現在の日本社会においては、新卒一括採用が合わなくなってきているという問題点も出てきた。
たとえば、毎年の採用スケジュールが決められており、期間も限られていることから、海外の大学に通っていて卒業時期が4月入社に間に合わない学生や、病気や留学などの理由から決められた期間の就職活動ができない学生など、いくら優秀であったとしても、年に1度のタイミングに合わなかっただけで応募すらできないこともある。
また、最近ではキャリアアップのために数年で転職をすることも珍しくなく、そうなると長期的な教育を前提とした新卒一括採用は機能しなくなってくる。
このように、社会の急速な変化によって、その是非が問われている新卒一括採用であるが、単純にやめるか、続けるか、という選択をするのではなく、メリットとデメリットを把握したうえで自社に合ったかたちで見直す必要があるだろう。

新卒一括採用のメリット・デメリット

新卒一括採用には企業と学生の双方にメリットとデメリットがあるので、それぞれを整理しておこう。

【企業側のメリット】
1. 優秀な人材を囲い込むことができる
企業における新卒一括採用最大のメリットといえるのが優秀な人材の囲い込みができることだろう。
企業は一定の期間内に多くの学生からの応募を受け付け、その中から自社が求める人物像に近い学生を探し、採用する。
他社よりも採用時期が遅くなると、優秀な人材は他社に先に確保されてしまう可能性が高いが、一括採用の場合は、他の企業も同時期に採用活動をするため、人材が他社へ流れる可能性が低い。

2. コストと手間の削減ができる
新卒一括採用では、決められた期間に一括で選考作業を行うことで、募集から内定までの期間を短縮できるため、採用コストを抑えられる。
また、ポテンシャル採用がメインである新卒一括採用の場合、新入社員にスキルや経験の差がないことから、入社後の研修や教育も一括して行えるため、教育コストや手間の削減もできる。

【学生側のメリット】
1. 経験やスキルが求められない
新卒一括採用において、ほとんどの場合具体的なスキルや経験を求められることはない。
学生時代に頑張ったことや、入社したらどんな風に活躍したいかなどを企業にアピールして、そのポテンシャルを見込まれれば採用につながる可能性がある。

2. 大手企業に就職できるチャンスが訪れやすい
新卒一括採用では、新卒を大量に採用するため、大手企業にも入りやすい傾向がある。
「新卒カード」という言葉のとおり、新卒時は、スキルや経験を持ち合わせていなくても有名企業や大手企業に就職できる最大のチャンスなのだ。

【企業側のデメリット】
1. 中途採用市場が発展しにくくなる
即戦力を求めている場合には、すでに社会に出てスキルと経験を積んでいる人材を採用するために中途採用を行うことが一般的だ。
しかし、新卒一括採用の歴史が長い日本では、転職が良い印象を与えるとは限らず、転職市場が発達しにくい傾向が見られる。
そうなると、即戦力となる優秀な人材を採用することが困難になるため、企業にとっては大きなデメリットになり得るだろう。

2. 多様な人材を得られにくい
冒頭でも触れたが、新卒一括採用では、留学などの理由で決められた期間に活動できない学生は対象者から外れてしまうことがある。
グローバルな視点や多様な考え方を持つ学生を採用したいと思っていても、時期が合わないという理由だけで出会えない可能性すら出てくるのだ。

3. 内定辞退のダメージが大きい
活動期間が限定される新卒一括採用では、学生は他社の選考も同時に受けている場合が多く、内定を出しても辞退される確率が高い。
特に中小企業にとって、内定辞退はかなりのダメージとなり、採用計画自体を見直さなければならないケースもある。

【学生側のデメリット】
1. 自分のペースで就活できない
限られた期間で就職活動を行わなければならないため、学生は学業や自分のやりたいことを同時進行で進めなくてはならず、そのバランスがうまくとれないことで大きな負担がかかる可能性がある。

2. プレッシャーがかかりやすい
大チャンスである新卒カードだが、それが逆に大きなプレッシャーとなってしまうケースも見られる。
同学年の友人も一斉に就職活動を行うためその状況や結果を自分と比べてしまったり、家族からの過度な期待に応えることができていない、などの理由から深く悩んでしまう学生もいる。

通年採用との比較、各企業の動きは?

決められた採用スケジュールのもとで行われる新卒一括採用に対して、時期を問わずに採用活動を行うことを「通年採用」と呼ぶ。
欧米では以前から一般的に用いられてきた採用方法であるが、新卒一括採用が浸透している日本では、新しいやり方であると言える。
通年採用を導入することにより採用時期を多様化させることができるため、留学生や海外の大学に通っている学生など、幅広い学生へアプローチをすることが可能だ。
最近の留学生や帰国子女の増加、少子化による新卒人口の減少などを受けて、通年採用を導入する企業は増加している。
また、かつて経団連が、2021年卒からは政府が主導で決めている「就活ルール」が形骸化し、採用活動の早期化が進んでいることも、通年採用を行う企業が増えている理由の1つだ。
しかし、新卒一括採用には一定のメリットもあるので、まだ一気に通年採用に移行するわけではない。

関連記事:通年採用とは?「新卒一括採用」との違いや近年広まる背景

では、企業はどのような採用活動にシフトしていくのだろうか。
企業の動きとして、現状では2パターンに分けることができる。
それぞれの企業について、これから予想される動きを見ていこう。

1. 元から新卒一括採用以外の採用活動も実施している企業
経団連に加盟していない外資系企業やIT企業、新興企業などは、元からルールに縛られない採用活動を実施していたところもあり、そういった企業は大きな影響を受けないようにも思える。
しかし、これまでは定められた選考スケジュールや大手企業の採用スケジュールなど一定の目安があったため、それを基準として本格的な採用を開始する時期や選考のタイミングを検討できたといえる。
また、大手企業の中には、すでに一部の職種で通年採用を実施しているところもあり、様子を見て総合職へも広げていくことが予想される。

2. 新卒一括採用のみを実施している企業
今まで採用活動を新卒一括採用のみで実施してきた企業は、通年採用が浸透していった場合に、多様な採用時期への対応を検討する必要がある。

I. 通年採用を検討する場合
現在の新卒採用市場の特徴として、採用活動の早期化と長期化があげられる。
他社よりもできだけ早い段階で学生にアプローチすることを目的として、大多数の企業がインターンシップを導入し、冬のインターンを実施する企業が増加すると、それに伴い、さらに早い夏に実施する企業も増えた。

関連記事:人事が今押さえるべき!採用直結型のインターンシップに対する、学生の生の声や経団連の立場を解説

しかし、単純に早期に活動すれば求めている学生を採用できるのではなく、企業は「新卒一括採用のみを実施するのではなく、それに加えて採用時期を多様化する通年採用も検討するべきか、他にライバル企業と差を付けられる手法はないか」と模索しているのだ。

II. 新卒一括採用を続ける場合
今後も変わらずに新卒一括採用を続けるとしている企業もあり、それはさらに2パターンに分けられる。

・就活ルールに則った現在の新卒一括採用がうまくいっていて、毎年必要な人数を採用できている企業
・リソースの関係上、通年採用を実施できない企業

現状うまくいっているものに変化を与えたくないという前者に対し、後者は本音では通年採用も実施したいが、採用に割けるリソースを考えるとしばらくは新卒一括採用のみを行っていくしかないという企業だ。
特に中小企業は、人事担当者が他の業務を兼務している場合も少なくなく、リソースの都合がつきにくいという苦労が垣間見える。

ここまで新卒一括採用について解説をしてきた。
新卒一括採用の是非についての議論は長年にわたって続けられてきたことであるが、単純に新卒一括採用を善か悪かで考えるのではなく、問題視されていることや課題はどこにあるのか、自社にとって最適な採用活動を実施するにはどうしたら良いのかをまず整理することが重要であろう。

まとめ

・新卒一括採用とは、「毎年決まった期間で新卒学生を対象として在学中に採用選考を行い、卒業後にすぐ入社する」といった日本独自の採用システムである。50年以上もの長きに渡ってほとんどの企業で採用されてきた歴史ある仕組みでもあるが、新卒一括採用の是非については、これまでも幾度となく議論がされてきた。

・新卒一括採用は、高度経済成長期において大卒を安定して採用する仕組みとして、大手だけでなく中小企業も取り入れはじめたことがきっかけで浸透した。また、「終身雇用」「年功序列」といった日本独自の人事制度とも相性がよく、社員は一括採用で入社し、その後は日本型人事制度の仕組みに沿って長く活躍することで、安定したキャリアと生活を保障されていた。しかし、多様化やグローバル化の流れが訪れ、スキルアップのための転職も一般的になりつつある現在の日本社会においては、新卒一括採用が合わなくなってきている点も出てきた。

・新卒一括採用には企業と学生の双方にメリットがある。それは次のとおりだ。【企業側のメリット】1.優秀な人材を囲い込むことができる:他の企業も同時期に採用活動をするため、遅れをとることなく、人材が他社へ流れる可能性が低い。2.コストと手間の削減ができる:選考作業や入社後の研修や教育をそれぞれ一括して行えるため、コストや手間の削減ができる。【学生側のメリット】1.経験やスキルが求められない:ポテンシャルを見込まれれば採用につながる可能性がある。2.大企業に就職できるチャンスが訪れやすい:新卒を大量に採用するシステムであるため、スキルや経験を持ち合わせていなくても大手企業に就職できるチャンスである。

・新卒一括採用にはデメリットも存在する。それは次のとおりだ。【企業側のデメリット】1.中途採用市場が発展しにくくなる:新卒一括市場の歴史が長い日本では、即戦力の採用に欠かせない転職市場が発達しにくい傾向が見られる。2.多様な人材を得られにくい:留学などの理由で決められた期間に活動できない学生は対象者から外れてしまうことがある。3.内定辞退のダメージが大きい:新卒一括採用では、学生は他社の選考も同時に受けている場合が多く、内定を出しても辞退される確率が高い。【学生側のデメリット】1.自分のペースで就活できない:学業や自分のやりたいことと就職活動を同時進行で進めなくてはならず負担になりやすい。2.プレッシャーがかかりやすい:大きなチャンスであるがゆえに周囲からのプレッシャーを受けやすい。

・通年採用とは、時期を問わずに行われる採用活動で、欧米では以前から一般的に用いられてきた採用方法であるが、新卒一括採用が浸透している日本では、新しいやり方であると言える。通年採用の導入によって採用時期の多様化が実現し、幅広い学生へアプローチをすることが可能となる。留学生や帰国子女の増加、少子化による新卒人口の減少、就活ルールの形骸化などを受けて、通年採用を導入する企業は増加している。

・今後、企業はどのような採用活動にシフトしていくのだろうか。企業の動きとして、現状では2パターンに分けることができる。1.元から新卒一括採用以外の採用活動も実施している企業:スケジュール調整に影響が出る可能性がある。2.新卒一括採用のみを実施している企業:通年採用を検討する企業と新卒一括採用を続ける企業に分かれる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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