2021.10.4

通年採用とは?「新卒一括採用」との違いや近年広まる背景

読了まで約 6

■通年採用とは?

■なぜ通年採用が必要とされているのか?

■通年採用のメリット

■通年採用のデメリット

■通年採用の導入事例

日本でも広まり始めた通年採用とは?

通年採用とは、必要に応じ、1年を通して新卒・中途を問わず採用活動を行うことであり、いままで欧米や外資系企業では当たり前の採用方法だった。
一方日本では従来、春に新卒者を一括採用する企業がほとんどだった。
これは、採用活動が学業の妨げとならないようにと、経団連(日本経済団体連合)が就職協定によって採用活動解禁時期や手法などに制限を設けてきたためである。
しかし、このような戦前から続いている日本独特の雇用慣行は、大きな転機を迎えている。
近年では、帰国子女や留学生の増加により、大学がそのような学生を受け入れるために秋入学制度を導入することも多くなり、これに対応する形で企業側の採用時期や対象も多様化しているのだ。
また、新卒の採用が予定数に届かないだけでなく、内定辞退者の発生に備えて補てんすることが必要になるなどの理由から、継続的に採用活動を行う企業も増加している。
さらに、新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて、採用活動においても3密の回避や不要不急外出自粛などが求められることとなり、説明会やセミナー、グループワーク、面接など、それまで当たり前に行われていた顔を合わせての採用活動が困難になった。
そのような状況で政府からの要請を受けた経団連は、「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた採用選考活動に関するお願い」として、企業側に、学生との間で雇用のミスマッチを起こさないこと、第2の就職氷河期を作らないと固い決意をもって臨むことが重要であると示し、その中で行うべき取り組みの1つとして通年採用をあげている。
このように、採用の多様化とコロナ禍がもたらす影響が相まって、企業側でも求職者側でも通年採用を求める声が急速に高まってきている。
そこで本稿では、通年採用について、その特徴やメリット・デメリット、導入している企業の実例などを解説しよう。

通年採用のメリット・デメリット

通年採用は導入する企業側だけでなく、求職者側にとってもメリットが大きい。
また、もちろんデメリットもあるので、メリット・デメリットそれぞれを企業側、求職者側から見てみよう。

【企業側のメリット】
1. 一括採用では出会いにくい学生と接点を持てる
活動時期が決まっている一括採用では時間が限られているため、学生側も志望する企業に優先順位をつけて就職活動を行うことになり、企業が出会える学生の数は限定される。
その一方で、通年採用の場合は決められたリミットがない分、学生と出会う機会が多くなるため、接触人数が増えることはもちろん、一括採用では出会いにくいような学生とも接触の機会を持てる可能性が広がる。

2. 多様な人材の採用に対応できる
新卒の春の一括採用では、指定時期に応募があった学生としか接触することができず、多様な人材と出会いにくかった。
その点、時期を限定せず採用活動を行う通年採用は、既卒者や留学生、帰国子女など従来の選考方法では取りこぼしがちだった多様な人材への対応が可能となり、即戦力やグローバル人材を求める企業にとって大きなメリットとなる。

3. 企業のタイミングで採用できる
就活ルールに則って行う一括採用に対して、自社の必要に応じて、自社のタイミングで自由に採用活動を行うことができることは企業にとって大きなメリットとなるだろう。
求めている人材に近い求職者に出会ったら、すぐに採用に向けて動くことができるため、他社より早く優秀な人材を確保できる可能性が高くなる。
また、万が一内定辞退者が発生した場合にも、すぐに補充の対応をすることができる。

4. 余裕をもって選考を進めることができる
通年採用では、締め切りや期間などのスケジュールに追われることがないため、一括採用よりも余裕をもって選考することができる。
求職者1人ひとりとじっくり向き合えることで、自社にマッチした人材なのかを見極めたり、相互理解を深めることが可能となり、採用後のミスマッチの防止にもつながる。

【求職者側のメリット】
1. 応募する企業の選択肢が増える
一括採用では、説明会や面接の日程が被ってしまうことがあり、応募できる企業の数が限られてしまう。
しかし、通年採用では、採用時期が分散していることから、より多くの業種・企業へアプローチすることが可能となる。

2. 自分のペースで就職活動ができる
短期決戦である一括採用では、毎日のように案内がくる説明会や面接日の調整をしなくてはならず、そのハードなスケジュールは学生にとっても負担になりやすい。
その点、応募期間が限定されない通年採用では、時間的・心理的な余裕をもって就職活動を行うことができるだろう。
また、部活や病気などで就職活動を一時的に離れなければならない場合や、在学中は長期インターンでスキルを磨いて卒業後に即戦力として働きたい場合など、学生のペースや考えに合わせた就職活動が可能となる。

3. 1社ごとの選考に集中できる
複数企業の選考を並行して進める必要がある一括採用では、1社1社の企業分析に十分な時間をかけることができず、中途半端な知識のまま選考に挑まざる負えないケースも見られる。
一方で、通年採用であれば時期が分散されるため、1社ごとに十分な準備をしたうえで集中して選考を進めることができるため、実力を発揮しやすくなる。

関連記事:通年採用のメリットとは?関心が高まる通年採用の最新トレンド

【企業側のデメリット】
1. 採用担当者の負担が増える
年間を通して採用活動を続ける通年採用は、短期決戦である一括採用に比べ、募集や選考などが長期化しやすく採用担当者の負担は大きくなる。
特に他の業務と兼任している場合などは、人員の確保、スケジュール管理など相応の準備が必要となるだろう。

2. 全体的な採用コストが高くなる
常時採用活動を行う通年採用は、短期間で決着をつける一括採用に比べて、各媒体への広告掲載や採用広報、イベント出展などの機会が多くなり、総合的な採用コストが高くなる可能性がある。また、入社時期が分散することによって研修を複数回実施する必要があり、教育面のコストも増加すると考えられる。

3. 一括採用の時期に影響を受ける
これからも通年採用を取り入れる企業は増える、とは言っても、一括採用が一切なくなるわけではなく、一括採用の時期に採用活動を強化していないと、むしろ機会損失の発生につながる可能性がある。
また、通年採用を実施することで、求職者から「いつでも応募できる会社」、「人気がないから採用枠が埋まらない会社」だと思われ、第1志望に選ばれにくくなるリスクもある。

【求職者側のデメリット】
1. 採用の基準が高くなる
一般的に一括採用は、通年採用よりも採用枠が大きく、ポテンシャルを重視して採用活動を行っている企業も多い。
しかし、通年採用では企業側が応募者1人ひとりを慎重に見極め、比較することができるため、選考基準が厳しくなり、採用される壁が高くなる可能性がある。

2. 自主的に行動しなければならない
一括採用では、決められた日に一斉に就活がスタートし、周りの学生も同じようなスケジュールで活動していくため、流れに乗って行動することで結果を得ることもできるだろう。
一方で通年採用では、企業ごとに独自の採用スケジュールが展開されるため、常にアンテナを張って情報を収集し、自主的に就職活動を行うことができるかどうかで、結果に差がつく可能性が高い。

通年採用の導入事例

HR総研が2020年3月に実施した、2020年&2021年新卒採用動向調査では、大企業の8割近くが「今後、通年採用の導入意向」を示していた。(ProFuture株式会社/HR総研

グラフ:通年採用の導入事例

しかし、ひとくちに通年採用といっても、実施の仕方はさまざまである。
応募を常時受け付けるという形態もあれば、必要に応じて募集をかける形態、年間で複数回の採用を行うことを通年採用と呼称する場合もある。
実際に導入した企業はどのように取り入れているのだろうか。

1. ソフトバンク
情報・通信業界大手のソフトバンクでは2015年から通年採用として「ユニバーサル採用」を実施している。
ユニバーサル採用は、新卒・既卒は不問、入社時点で30歳未満という条件さえ満たせば誰でも応募することが可能で、入社時期も4月、7月、10月から選ぶことができる。
また、選考プログラムもアカデミックやスポーツなどの分野でNo.1の実績をもってエントリーする「No.1採用」や就労体験型のインターンシップなど多岐にわたり、最適なアピール方法で選考に挑める。

2. ユニクロ(ファーストリテイリンググループ)
海外展開も積極的に行っているファーストリテイリンググループ傘下のユニクロでは、学年不問で随時応募を受け付けており、大学1年生に内定を出した実績もある。
また、応募者は不採用となっても期が変われば再チャレンジをすることが可能であったり、一定の選考フロー通過者は3年以内であればいつでも最終面接を受けることができるなど、応募者の成長や短期間では気づかなかった長所などを見極めることができる制度を設けている。

3. 楽天
社内公用語英語化をはじめとしたグローバル化を進めている楽天では、2015年から新卒エンジニア職で通年採用を導入している。
応募の時点で希望の職種やサービスを選択し、各ポジション別で通年採用を実施している。
毎月入社が可能で、採用から入社までの流れに柔軟性があるため、日本とは卒業時期が異なる海外の学生も応募しやすく、多様な人材を募ることができる。

4. リクルート
人材業界大手のリクルートでは、国内9社の新卒採用窓口を株式会社リクルートに統合し、採用プロセスを簡略化した。
これに伴い、もともとリクルートライフスタイルで実施していた365日通年エントリーや、リクルートホールディングスで実施していた30歳まで応募可能である採用方法が9社全体で継承されることとなり、内定後の配属先についても各グループ会社の枠にとらわれることのない配属や異動が可能となった。

5. 良品計画
無印良品を展開する良品計画は2021年9月から在学中の学生や30歳未満の既卒者を対象にした通年採用を開始した。募集コースは、学年問わず専門・短大・大学・大学院に在学中の人を対象に、卒業年度の4月1日に入社する「定時入社コース」と、30歳未満の既卒者を対象とした「既卒者随時入社コース」の2種類。ともに、常時エントリー可能とし、毎月月末までに本エントリーを完了した人に対して、翌月に選考を実施し、最短でエントリーから1カ月後に入社が可能となる。

ここまで、通年採用について解説をしてきた。
人材の多様化促進や急速に変化する世の中に適応するために通年採用は有効な手段であるといえる。
実際に多くの大企業が通年採用を実施しており、今後もこの流れは拡大していくと見られる。
しかし、重要なことはただ通年採用を実施するのではなく、「どのような人材にアプローチしたいのか」を明確にして採用戦略を練ることである。
通年採用で自社が求める人材をより多く獲得するためにも、目的を明確化し、効果的で効率的な戦略を検討する必要があるだろう。

まとめ

・必要に応じ、1年を通して新卒・中途を問わず採用活動を行う「通年採用」。欧米や外資系企業では当たり前に用いられてきた採用方法であるが、日本においては、経団連が就職協定によって制限を設けていたため、春に新卒者を一括採用する企業がほとんどであった。しかし、このような日本独特の雇用慣行は、大きな転機を迎えている。

・通年採用が注目されている背景として、近年の帰国子女や留学生の増加を受けて秋入学制度を導入する大学も多くなり、これに対応する形で企業側の採用時期や対象も多様化していることがあげられる。また、新卒の採用が予定数に届かない、内定辞退者の発生に備えて補てんすることが必要になるなどの理由から継続的な採用活動を行う企業も多い。さらに、コロナ禍によって顔を合わせた採用活動が困難となったことも、採用の多様化に拍車をかけている。

・通年採用は導入する企業側だけでなく、求職者側にとってもメリットが大きい。それぞれの視点から見ていくと次のようなことがあげられる。【企業側のメリット】1.一括採用では出会いにくい学生と接点を持てる、2.多様な人材の採用に対応できる、3.企業のタイミングで採用できる、4.余裕をもって選考を進めることができる、【求職者側のメリット】1.応募する企業の選択肢が増える、2.自分のペースで就職活動ができる、3.1社ごとの選考に集中できる。

・企業側にも求職者側にも多くのメリットがある通年採用だが、もちろんデメリットも存在する。これを双方の視点からみると次のようなことがあげられる。【企業側のデメリット】1.採用担当者の負担が増える、2.全体的な採用コストが高くなる、3.一括採用の時期に影響を受ける。【求職者側のデメリット】1.採用の基準が高くなる、2.自主的に行動しなければならない。

・ひとくちに通年採用といっても、実施の仕方はさまざまである。実際に導入した企業の事例は次のとおりだ。1.ソフトバンク:入社時点で30歳未満という条件さえ満たせば誰でも応募可能な通年採用を導入。2.ユニクロ:学年不問で随時応募可能な通年採用を導入。3.楽天:新卒エンジニア職で毎月入社可能な通年採用を導入。4.リクルート:国内9社で新卒採用窓口を統合し採用プロセスを簡略化。30歳まで応募可能で、365日エントリーを受け付ける通年採用を導入。5.良品企画:在学中の学生や30歳未満の既卒者を対象にした通年採用を開始。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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