2023.3.31

団体保険の「GLTD」とは?制度やメリット・デメリットの解説と導入企業事例も紹介

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GLTDとは、長期間働けなくなった従業員に対し所得を補償する保険だ。有給休暇や健康保険だけでは賄えない所得喪失をサポートすることにより、従業員に安心して就労してもらえる。

GLTD導入によるメリットとして、従業員エンゲージメントや企業イメージの向上が挙げられるが、導入するだけでは従業員が活用できない。どうやって従業員に利用してもらうかを考える必要があるのだ。この記事では、GLTDの内容やメリット、デメリットを企業事例とともに解説する。

GLTD(団体長期障害所得補償保険)とは団体保険の一種である

GLTD(団体長期障害所得補償保険)とは、怪我や病気を理由に長期間働けなくなった従業員に対し、所得を補償する企業向けの保険だ。長期にわたり所得補償することにより、有給休暇や健康保険だけでは賄えない所得喪失をサポートする。

GLTDの内容は、どの保険会社でも同じではない。三井住友海上ではGLTDを「長期収入ガード」と呼んでいたり、あいおいニッセイ同和損保では、オプションとして「健康経営支援保険」をつけていたりと、保険会社によって名称や内容が異なる。

ここでは、GLTDの補償対象や期間、普及した背景について解説していく。

GLTDの補償対象や傷病の種類は?

GLTDは、原因を問わず怪我や病気で就業できない状態を補償する。例えば発生原因が業務外や国外であったとしても、補償の対象として認められるのだ。うつ病をはじめとした精神疾患や、自宅療養も補償対象となっている。

GLTDには、全従業員の保険料を会社が負担する「全員加入型」と、希望する従業員だけが加入する「任意加入型」が存在する。

また、保険会社によっては妊娠出産時のリスクを補償する特約を設けている。妊娠や出産だけではなく、早産や流産の影響により生じた障害も補償対象だ。

保険会社によって、対象基準や特約の有無が異なるため、自社に適した保険会社を選択する必要があるだろう。

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GLTDの補償期間は?

GLTDの補償期間は、基本的には定年までとなっている保険会社が多い。保険会社によっては、怪我や病気から復帰した場合でも、障害が残っており復帰後の所得が就業障害発生前の80%未満であれば、喪失率から算出して補償を継続するものもある。

ただし、精神疾患の場合は注意しなければならない。保険会社によっては特約付帯が必要となるケースや、保険期間が2年まで、免責90日間、などといった条件があるため、確認が必要だ。

GLTDの歴史と普及の背景

GLTDは、20世紀初めのアメリカの労働者による共済制度が原型と言われている。1929年に発生した世界大恐慌以降に急速に普及した。アメリカでは従業員数501人〜2000人規模の企業の内、約95%が導入済みという普及率からも、関心の高さがうかがえる。

日本では、1994年から導入がはじまり、従業員のリスクマネジメントとして普及が進んでいる。

GLTD導入で企業と従業員が得られる4つのメリット

GLTD導入によるメリットとして、以下の4つが挙げられる。

1. 従業員のエンゲージメント・満足度の向上
2. 企業イメージの向上
3. 採用力の強化
4. 労使トラブルの回避

どれも、会社に対する安心感や信頼が要因だ。ここでは、4つのメリットについて解説する。

1.従業員のエンゲージメント・満足度の向上

GLTD導入で得られるメリットとして、従業員エンゲージメントや満足度の向上が挙げられる。会社が支援してくれる福利厚生制度があるため、例えケガや病気により就労できなくなっても会社が助けてくれるという安心感を持って働ける。

充実した福利厚生により会社に対する信頼度も上がり、結果としてエンゲージメントや満足度が高まるのだ。

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2.企業イメージの向上

2つ目のメリットは、企業イメージの向上だ。福利厚生が一定の基準をクリアしている会社は「健康経営優良法人」として認められる。GLTDの導入は、安心できる職場環境を与えているというメッセージになり「健康経営優良法人」の基準を満たすのに充分な取り組みだ。

認定された会社は社外からホワイト企業として認識され、企業イメージの向上につながる。

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3.採用力の強化

3つ目のメリットは、採用力の強化だ。充実した福利厚生は、求職者にとって就職先を判断する重要な要素だ。GLTDを導入していれば、福利厚生が手厚い会社と判断される。

福利厚生が手厚い会社と判断されれば、応募者数の増加にも期待できる。応募者数が増加すれば優秀な人材を確保できる可能性も高まるだろう。

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4.労使トラブルの回避

4つ目のメリットは、労使トラブルの回避だ。労災訴訟が発生する原因の一つとして、生活困窮の元となる所得減少が挙げられる。GLTDを導入していれば、就労できない場合に補償がされるため、所得減少のリスクを抑えられる。

就労できなくなっても会社が助けてくれるという安心感があるため、労災訴訟を起こされる可能性が低くなるのだ。

GLTD導入時の2つの注意点

GLTD導入時の注意点として、以下の2つが挙げられる。

1. 従業員に周知する
2. 活用しやすい仕組み作り

制度を導入するだけではなく、どうやって従業員に利用してもらうかを考える必要があるのだ。ここでは、2つの注意点について解説する。

1.従業員に周知する

GLTD導入時の注意点として、従業員への周知が挙げられる。どれだけ素晴らしい福利厚生制度でも、従業員がその存在を知らなければ意味がない。制度の内容を伝えるとともに、導入する目的やメリットを伝えることにより、従業員から正しく認知されるのだ。

エンゲージメント向上や企業イメージの向上につなげるためにも、報告会の開催や社内報を使ってGLTDを従業員に周知しよう。

2.GLTDを活用しやすい仕組み作り

GLTDを活用しやすい仕組み作りもポイントだ。制度を周知していても、「申請方法が複雑である」「複数部署の承認が必要」といった仕組みになっていた場合、労力がかかることを懸念し、従業員がGLTDを利用しないケースが考えられる。

特に、GLTDを利用する従業員は就業できない状態であるため、労力がかかる手続きであれば嫌悪感を持つだろう。活用しやすい仕組みにすることが、従業員の安心につながるのだ。

GLTDの導入企業の事例を紹介

GLTDを導入した事例として、以下の企業が存在する。

● 株式会社松下産業
● 東京ラインプリンタ印刷株式会社
● 株式会社サイバーリンクス
● 日本ビジネスシステムズ株式会社

ここでは、4つの企業事例を紹介する。

株式会社松下産業

「顧客よし、会社・社員よし、世間(地域・環境)よし、協力企業よし」の「四方よし」を経営理念に掲げる松下産業は、従業員の健康管理にも取り組んでいる。従業員の健康管理を重要な経営課題と認識し、従業員や家族の悩みに対応する「ヒューマンリソースセンター」を取締役会直下に設置した。

グループウェアで情報を共有しながら、在宅勤務制度やGLTDを導入し、病気と仕事を両立する従業員や家族をサポートしている。それにより、がん治療を行いながら勤務を続けている従業員もいるそうだ。

従業員やその家族との情報交換を意識することにより、GLTDを利用しやすくした事例だ。

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東京ラインプリンタ印刷株式会社

「社員は会社にとって最大の財産である」を理念とする東京ラインプリンタ印刷は、「TLP共済会」という組織を設立した。この組織は役員と正社員、準社員で構成され、従業員の親睦や福利厚生の利用を推進し、従業員の健康確保に向けた取り組みを進めている。

GLTDの導入は、ひとりの従業員が長期入院治療を行ったことがきっかけだ。それまでの制度では、有給制度や傷病手当金を利用しても、1年半程度しか補償できないことから、GLTDを導入した。

また、従業員が働きやすい環境を目指し、治療や家族の事情により休暇をとる際は、短時間勤務制度や時差出勤制度を組み合わせる取り組みも実施している。

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株式会社サイバーリンクス

サイバーリンクスグループの健康経営事務局であるサイバーリンクス福祉財団は、役職員の健康維持・増進を重要な経営課題と考えていた。サイバーリンクスグループでは、人的資本経営の一環として健康経営を推進しているものの、ケガや病気で働けなくなるリスクは誰もが抱えているものであることから、GLTDの導入に踏み切ったのだ。

導入したGLTDは「全員加入制度」だけではなく、個人で補償を上乗せできる「任意加入制度」を加えた2階建の制度となっている。個別に追加の保険料を払えば、財団補償に上乗せして補償を受けられるのだ。役職員が働けなくなるリスクを、大きな課題と捉えた事例だ。

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日本ビジネスシステムズ株式会社

日本ビジネスシステムズは「従業員が安心して働くことのできる職場づくり」の一環として、GLTDを導入した。

「全員加入」に加え、従業員個人が必要に応じて補償額を買い増しできる「任意加入」も導入。従業員が長期間働けなくなった場合でも、生活の保障が得られる安心感を提供している。

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まとめ

GLTDとは、怪我や病気を理由に長期間働けなくなった従業員に対し、所得を補償する企業向けの保険だ。定年までといった長期間所得補償することにより、有給休暇や健康保険だけでは賄えない所得喪失をサポートする。

GLTDは、保険会社によって対象基準や、特約の有無が異なるため、自社に適した保険会社を選択することが大切だ。

GLTD導入によるメリットとして「従業員エンゲージメントや満足度の向上」「企業イメージの向上」「採用力の強化」「労使トラブルの回避」が挙げられる。ただし、制度を導入するだけではなく、どうやって従業員に利用してもらうかを考える必要がある。従業員に周知し、活用しやすい仕組みをつくることがポイントだ。

GLTDを導入している企業は多数存在し、その内容は企業によって異なっている。従業員やその家族との情報交換を意識することによりGLTDを利用しやすくした事例や、役職員が働けなくなるリスクを大きな課題と捉えて導入に踏み切った事例が存在する。

自社の状況や経営課題を見極めたうえで保険会社を選択するとともに、活用しやすい仕組みをつくり、従業員をサポートしよう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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