2023.1.19

「人的資本経営」時代に企業が取り組むべき人材採用・育成とは?最新調査結果から探る

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日本の経営コンサルティングのパイオニアである株式会社タナベコンサルティングは、2022年11月8日、全国の企業197件を対象として2022年8月17日~2022年8月31日までの期間にインターネット上で実施した「人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査」の結果と、2022年3~4月開催の「新入社員教育実践セミナー」に参加した全国の新入社員1,125名を対象として実施した「新入社員実態アンケート」の結果を発表しました。

参照元:株式会社タナベコンサルティンググループプレスリリースおよび「2022年度 人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査 REPORT」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000058707.html

本記事では、同アンケートの概要を紹介した上で、企業が取り組むこれからの人材採用・育成のポイントについて解説します。

関連記事:人材育成の主な課題、目標設定の考え方とは?マネジメント方法について解説

「採用」求める人材像に基づいた採用戦略・手法の確立を

企業へのアンケート結果によると、新卒採用における課題については「求める人材からの応募が少ない」「母集団形成が不十分」の2項目を合わせて56%と過半数を占めていました。昨今の採用は、厳しい状況に置かれているようです。

グラフ:新卒採用における課題

また新入社員へのアンケート結果によると、学生として就職活動をする上で必要としている情報については、1位が「社風・職場の雰囲気がイメージできた」で33.3%、2位が「仕事内容がイメージできた」29.2%、3位が「休日をしっかり取れる・残業が少ない」で19.9%でした。

グラフ:就職活動をする上で、学生が必要としている情報

就職活動をする上で学生が必要としている情報は、社風・職場の雰囲気、仕事の内容などのリアルな社内環境であるようです。

企業は、採用時には「自社の求める人材像」を明確化した上で、母集団形成をはじめとした採用戦略や採用手法を設計することが課題と言えます。また、学生とのコミュニケーションをしっかりとって、「入社後の自分」をイメージさせることが重要であることがわかります。

採用に関するアンケート結果全体を通じて、昨年度よりも採用活動が早期化していること、コロナの収束化に伴い採用人数が増加したこと、採用の初期プロセスで課題を感じる企業が過半数にも上っていたこと、求める人材像・採用基準が定着していることがわかりました。

また、新入社員の傾向として、就職情報サイトでの情報収集が主流となっているほか、企業の雰囲気や仕事内容等を知る機会が必要であること、「働きやすい・働きたい職場」を重視する傾向が出ていました。

関連記事:OJTとOFF-JTの違いは?人材育成におけるやり方やメリット

「育成・研修」人材育成のあり方をアップデートする時期に来ている

育成・研修についての企業のアンケート結果によると、「今期の人材育成上の課題」は、「教育計画の見直し」と回答した企業が54.3%と最も多い結果となりました。次いで「自発的に学ぶ風土づくり」で53.8%、「OJTのレベルアップ」で46.2%と続きます。

グラフ:現状の人材育成上の課題

また、「今後の育成・研修で注力したい手法」については、社内研修(48.7%)が最も多く、次いでOJT(42.6%)、外部研修(リアル受講)(42.1%)という結果となりました。コロナ禍でリモートワークなどになり、対面による従来の人材育成が各社でストップしていたものが、徐々に再開されているなか、“学び改革”“教え方改革”など人材育成のあり方について、アップデートする必要が出てきていることがわかります。

育成・研修に関する調査結果全体を通じて、リアルのコミュニケーションを重視した研修が求められている点も浮き彫りになりました。

グラフ:今後の育成・研修で注力したい手法

また、OJT・階層別研修の重要性が増し、マネージャーの育成が急務となっています。
「不足している(強化したい)人材」を尋ねたところ、「マネージャー(管理職)」と回答した企業が最も多い結果となりました。過去の同調査結果と比較しても、2020年度は53.2%、2021年度は53.6%だったところ、2022年度は63.5%と増加していました。マネージャーの育成は急務である状況といえます。

グラフ:不足している(強化したい)人材

新入社員へのアンケート結果からは、「社会的承認や成長」などの非金銭的報酬がモチベーション材料となっていることや、諸制度が整っている会社が「働きやすい」と感じる傾向が増加していたこと、職場でのコミュニケーションがエンゲージメントの向上に寄与することが分かっています。

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これからの「人材採用」は「育成・活躍・定着」までも見据えた設計を

アンケート結果から現状や課題が見えてきたなか、企業は人材採用についてどのように舵を切っていけばいいでしょうか。

まず採用強化だけでは、この厳しい状況で成果を出すことは難しいのではないでしょうか。そこでタナベコンサルティングは、「採用」だけでなく、「採用」「育成」「活躍」「定着」の4つをバランスよく取り入れた人事戦略の構築を提案しています。社内において育成や活躍の仕組みがあるからこそ、定着率の高い会社となり、人が集まる会社にアップデートできるというわけです。

人材採用は、採用後の「育成」「活躍」「定着」までも見据え、それぞれを時代に合わせて強化していくことが必要です。そこで、それぞれの主な強化方法をご紹介します。

「採用」強化の方法

自社の求める人材像を再定義

調査結果から、企業は自社の求める人材像を明確化した上で、採用戦略や採用手法の設計が必要であることが分かりました。まず自社の求める人材像を時代と現状ニーズに合わせて再定義することが重要と考えられます。

「人柄」重視の採用を検討する

調査結果の自由回答では、経験・能力よりも人柄を重視した採用に切り替えている企業があるようでした。厳しい採用市場において、ポテンシャルで採用している傾向もありますが、従業員エンゲージメントを向上させるための前提として、自社の価値観や考え方に合う人材かどうかという点も重要視されています。

採用手法の見直し

自社に適した人材を採用する採用手法の仕組みづくりが重要になってきています。採用手法の見直しについては、面接方法を見直したり、SNS採用や従業員の友人・知人を採用するリファラル採用を取り入れるといったことも検討の余地があります。
また、調査結果からは、いかに「入社後の自分」をイメージさせることができるかが大事であり、「働きやすい・働きたい」職場を選ぶ傾向にあることも踏まえて、情報発信や採用コミュニケーションを行っていくことが必要といえそうです。

関連記事:セグメントとは。マーケティングだけでなくビジネス全般で使われる用語の意味

「育成」強化の方法

人的資本経営に即した教育方法を取り入れる

近年、「人的資本経営」が注目されています。人的資本経営とは、人材を「資本」としてとらえ、その資本としての価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法を指します。この経営手法に即した教育方法を取り入れることは、重要な視点といえます。具体的な教育方法については、後述します。

リアルのコミュニケーションを重視した研修

調査結果から、そして人的資本経営を実施するにあたっては、従業員とのリアルなコミュニケーションを重視した研修が時代に合っていると考えられます。直属の上司やチームだけでなく、他部署やロールモデルとなる先輩社員との直接のコミュニケーションの機会を作るなどすることで、自ら「成長したい」という意欲を引き出し、社内コミュニケーションを円滑にする効果も得られます。

従業員エンゲージメントを主眼においた研修

従業員エンゲージメントを主眼に置くことも、時代に即した研修方法といえます。研修において、自社の理念や目標を明確に伝えて、企業が進むべき方向性を従業員と共有することで、従業員の貢献意識が強まり、エンゲージメントの向上につながります。

マネージャー育成方法を見直す

調査結果からは、マネージャーの育成に苦慮している企業が多くありました。通常の座学による研修手法のほかには、「異動」や「越境学習」があります。
異動とは、他部署や支社へ異動させ、各部署でのマネージャー業務を経験させる方法です。さまざまなタイプの部下の育成やチームマネジメント経験を積むことができます。
越境学習とは、在籍している職場以外の場所で経験を積ませることです。他社への出向やプロボノ活動などを利用して、普段接することのない人との交流により、知識や価値観などに刺激を受けることで、成長を加速します。固定概念が解き放たれることも多くあります。

教え方の改善

研修を行う側や上司クラスの層の教える効果を高めるために、コーチングスキルを習得するなどの工夫も求められます。

関連記事:ダイバーシティマネジメントを解説!注目を集める背景、日本企業の事例

「活躍」強化の方法

モチベーション向上の仕組みを作る

従業員の活躍を強化するためには、まず意欲を引き出す必要があります。アンケート結果より、新入社員は、社会的承認や成長などの非金銭的報酬がモチベーションである点、諸制度が整っている会社が「働きやすい」と感じる傾向が強くなっていた点などを考えれば、より効果的なモチベーション向上の仕組みを作ることが大切と言えそうです。
また、評価制度やインセンティブ、福利厚生制度を整えることも、働きたくなる環境作りに役立ちます。

評価基準の明確化・公平化

曖昧もしくは不公平な評価や、望まない評価基準では、活躍は期待できません。評価基準の明確化・公平化を行い、評価基準への不満などについてサーベイなどを通じて全従業員にヒアリングするということも一案です。

ジョブ型人事制度の導入

近年、採用が進んでいるジョブ型雇用・人事は、職務の定義や評価、報酬を明確にして、職務に対する最適な人材の育成と配置を実現する手法です。人事にもジョブ型を取り入れることで、従業員の活躍を促すことができる可能性があります。
職務と報酬、評価を連動させることによって、従業員は報酬や評価に対して納得しやすくなります。また、職務に必要なスキルや要件を明確にすることによって、自律的に学んだり、キャリアを求めたりと、成長を促すことにもつながります。

関連記事:ジョブ型雇用とは? メリットやデメリット、メンバーシップ型雇用との違いや企業事例を解説!

「定着」強化の方法

人事・評価制度の見直し

定着のためには、人事・評価制度を見直すことで、不当な評価や不公平な評価を無くすことが重要です。

社内コミュニケーションが充実する仕組み作り

働きやすさは定着につながります。調査結果では、新入社員は働きやすい職場として、「お互いにサポートしあえる」「信頼できる上司がいる」「仕事を通して会社の役に立てる」ということが上位でした。在籍する部門・部署のメンバーはもちろんのこと、部署をまたいだ社内コミュニケーションがエンゲージメントの向上に寄与することで、離職率を下げ、定着を促します。

多様な働き方の選択肢を用意する・ワークライフバランスの導入

長く安定的に働き続けるためには、多様な働き方の受け皿を用意したり、ワークライフバランスの考え方を導入したりすることも必要です。時短勤務、フレックスタイム制、リモートワーク、育児休業、有給休暇の拡充などさまざまな選択肢を用意することが大切です。

福利厚生の充実

従業員にとって満足度の高い福利厚生を充実させることも重要です。通勤手当や住宅手当、育児や介護と仕事の両立を目指す従業員を手助けするファミリーサポート制度、健康管理・増進支援制度、余暇支援制度、自己啓発支援制度などを導入することで、定着率を上げることができます。

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「人的資本経営」時代に適した人材育成とは

先述の通り、これからの人事戦略は、人的資本経営の考え方を抜きにして進めることはできないと言っても過言ではありません。では、人的資本経営に最適な人材育成方法という視点で考えた場合、どのような方法があるのでしょうか。

まず、人的資本経営についてポイントを押さえた理解を深めることが大切です。

2020年9月に経済産業省が発行したレポート「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」では、企業が人的資本を高めるために意識すべき3つの視点を知ることができます。

それは「経営戦略と人材戦略の連動」「As is / To beギャップの定量把握」「企業文化への定着」の3つです。簡潔に言えば、人材戦略を立てる際には、全体構想となる経営戦略のもとで立案することが重要であること、そして現状の「As is」と理想の「To be」を数値で把握してギャップを認識して方針を決定する方法が重要であること、さらに、人材のもつ能力やスキルをパフォーマンスに生かすためには、企業文化への定着が何より重要であるということです。

これを踏まえた上で人材戦略を立てるとするならば、人材育成は具体的にどのようなアイデアがあるのでしょうか。例えば、次の手法が考えられます。

関連記事:メンバーシップ型雇用は薄れゆく?ジョブ型雇用への転換で企業が求められることとは

人的資本経営における人材育成の手法例

動的な人材ポートフォリオを育成に活かす

人材ポートフォリオとは、経営戦略を効果的に実施するための、人材構成を可視化したものです。組織のどの部署や役職に、どのようなスキルや能力、資格のある人が、どのくらいの人数、どの期間に在籍することで、経営戦略を確実に遂行でき、成果を出せるかをまとめたものです。これを動的に管理して最適化していくことで、育成に生かしていくことができます。人材ポートフォリオがあれば、社員のキャリアやスキルに合った教育機会や経験を適切に提供することができます。

ダイバーシティ&インクルージョン研修を行う

ダイバーシティ&インクルージョンとは、性別や年齢、国籍や価値観、職歴や感性、ライフスタイルなど、多様なバックグラウンドをもつ人材を受入れ、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすという考え方です。社内にダイバーシティ&インクルージョンの考え方を研修等で浸透させることは、人材を資本として活かす考え方と相性が良く、企業文化への定着を促します。

従業員エンゲージメントを高める

先述の活躍や定着の手法でもご紹介したように、人材が自ら意欲的にパフォーマンスを発揮したり、自己成長に踏み出したりするためには、従業員エンゲージメントを高めることが重要です。働きやすい職場環境を整え、企業が目指す方針やビジネスモデルを十分に浸透させることが欠かせません。それによって帰属意識が安定します。

関連記事:エンゲージメントとは! マーケティングにおける意味合いを徹底解説!

まとめ

タナベコンサルティングの調査結果からは、これからの人事の「採用」と「育成」に関する方向性が見えてきました。企業が持続的に成長をしていくためには、人的資本経営へシフトしていく必要があります。また、採用や育成に単独で取り組むのではなく、経営戦略に基づいた人材戦略の流れやバランスを見通して実施することが重要であることがわかりました。自社に最も合った採用・育成戦略の構築を進めましょう。

関連記事:定着率とは?計算方法や業界別平均、5つの改善策を解説

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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