2020.8.24

テレワーク・在宅勤務での人事評価制度はどのように変わる?評価の軸はプロセスから成果へ

読了まで約 6

・テレワーク時に管理職が感じる管理上の不安とは?
・テレワークに適した人事制度とは?
・成果主義が日本の企業に定着しきれなかった理由とは?
・成果主義での人事評価に対して一般社員が感じる不安とは?
・年功序列、結果主義、成果主義の違いとは?
・成果主義のメリットとデメリット、運用のポイント。

テレワーク時代に適応できない? 従来の人事制度

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにテレワークによる在宅勤務が増加したことにより、人事評価システムの変革を進める企業が増加している。「協調性やリーダーシップ」「勤務時間の長さや勤務態度」などを評価するには、オフィスで向かい合っているわけではないため、どう働いているかが周囲から見えにくく、従来の評価基準では実態を捉えることが難しいためだ。一部の企業ではこうした事態を打開するため、成果主義を徹底するなどの措置を講じている。

関連記事:テレワークとは?課題や調査から見る多様化が進む働き方を解説

人事評価クラウドを提供するあしたのチームが4月21日に発表した、「テレワークと人事評価に関する調査」(調査実施日:2020年3月31日~年4月1日 有効回答数:一般社員:150人、管理職:150人)の結果を見ると、テレワーク時代の人事評価の難しさが見えてくる。

この調査は、従業員5人以上の企業に勤め、直近1カ月以内に週1日以上テレワークをした一般社員と、テレワークをした部下がいる管理職を対象に行われたもの。

このうち、管理職に対して「自身または部下がテレワークをしている際に部下に関して不安を感じること」を聞いた設問に対して、最も多かった回答は「生産性が下がっているのではないか」の48.0%であり、テレワークによって生産性が低下することを不安に感じる管理職が多いことがわかる。また、「報連相をすべき時にできないのではないか」の32.7%、「仕事をサボっているのではないか」が32.7%と同率で続き、オフィスに出社している時と異なり、部下の勤務態度を直接見ることができないため、部下の仕事ぶりについて心配したり疑念を抱いたりする管理職も多い。

続いて、「仕事ぶりが見えない期間の人事評価をしにくいこと」という回答も30.0%あり、3割の管理職がテレワーク中は仕事ぶりが見えないことから、人事評価をしにくいと感じていることがわかった。これを裏付けるように、管理職に対する「テレワーク時の人事評価の難しさについて」という設問では73.7%が「オフィス出社時と比べて難しい」と回答。7割以上の管理職がテレワーク時の人事評価について難しさを感じている実態がわかる。

さらに、「テレワークに適していると思われる人事評価制度」に関する設問では「成果(数値結果)をもとにした評価制度」という回答がもっとも多く77.0%となっていて、もっとも少なかった「仕事ぶりや協調性などの仕事ぶりをもとにした評価制度」の23.0%を大きく上回る結果となっている。年功序列を基本とする日本企業では、その重要性を指摘されながらも、いまひとつ浸透しきれなかった成果主義だが、新型コロナウイルス対策としてのテレワークの増加によって、今後拡大していくと考えられる。

なぜ根付かなかった?成果主義の変遷

前述の調査結果を見てもわかる通り、成果主義が人事評価として有効なことは多くの管理職が知っている。しかし、日本の人事制度の背景には、いまだに根強く年功的な考え方があるのも事実だ。

実は成果主義が日本で注目を浴びるのは、最近のことではない。例えば、1990年代にも、多くの企業で導入を検討する動きが起きたことがある。しかしこれは根付かなかった。その原因はいくつか考えられるが、一番の要因は日本の企業文化と相容れなかった点だろう。

例えば多くの会社では、40代や50代よりも新入社員や20代社員の給料が低いし、それを当然とする風潮もある。この裏側には、日本独特の文化である、年齢や在籍年数を基準とした「年功序列」という考え方が横たわっている。

こうした年齢や在職年数を優先する文化を背景としたまま、欧米の模倣をして成果主義を取り入れた日本企業も多かった。しかし、成果主義による人事評価制度は、導入当初こそパフォーマンスを上げることに一定の効果を発揮するものの、なかなかそれが根付くには至らず、年功序列的な評価制度に戻ってしまう企業もまた多かった。

結局、これまでの日本企業では、制度上は成果主義と銘打っていても、年功序列的な運用を続けたことで、成果による評価が正しく機能せず、形骸化していることが大半だったといえる。

そして、日本では未だに年功序列的な定期昇給制度のある企業の数が圧倒的に多いことがこれを裏付けている。

厚生労働省の「令和元年 賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、「定期昇給制度がある企業」は83.5%に及び、前年の85.1%からはいくらか少なくなっているものの、大半の企業では、未だ成果に関わらず、定期昇給制度を採用していることがわかる。

これは、日本企業の多くが年度ごとに人事評価する制度を取り入れていることとも深く関わっている。年度初めに1年間の目標を発表し、上半期が終わるころ中間評価を行い、年度末に評価を確定するという仕組みだ。これでは経済を取り巻く環境の変化が激しい今の時代には即応できない。

年度はじめの状況は2~3ヵ月も経てば大きく変化するし、目標設定も短期間で変更していかざるをえない。そもそも目標としていたことがなくなってしまうことすらありえる。年度ごとの目標設定とその評価というサイクルでは、納得感のある、妥当な人事評価制度を構築することは困難だ。

「テレワークと人事評価に関する調査」にある「テレワークを前提とした場合、現在の人事評価制度の見直し・改定すべき点」という設問に寄せられた意見(自由回答)では、今よりも成果主義を推進し、生産性を数値化していく必要があると回答する管理職が多く、「生産性の高さを数値化できるようにする。成果を重視するような評価制度に改める」(38歳男性/大阪府)といった回答もあるなど、テレワークで見えなくなってしまう人事評価の要素を成果主義で見える化しよう、という流れが見えてくる。

一方で、極端な成果主義を全面的に導入してしまうことについては、「数字以外の評価について何か別の基準を策定しなければならない」(48歳男性/福岡県)など、数字だけを見ていると、その成果を出すために行われた挑戦やプロセスを評価できなくなることから、結果だけの評価制度になることについては不安も浮き彫りになる。

結局、「成果の測り方に工夫が必要」(57歳男性/東京都)という意見に集約される通り、テレワーク時には自社の実情にフィットした成果主義による人事評価へと見直し・改善を図り、改めて自社の評価基準となる“成果”の定義を明確にすることが求められているといえよう。

参考:株式会社あしたのチーム「テレワークと人事評価に関する調査」

これからの成果主義運用のポイント

テレワーク下では、仕事の成果物と納期を決め、それに応じて評価することが最適だが、先ほどの調査にもあるとおり、成果主義をいきなり導入しても混乱が生じる可能性もある。 では、これからの評価制度はどう運用していくべきなのか。

成果主義とは何か、そのメリットとデメリットを整理しながら見てみよう。

そもそも成果主義とは、業務の成果や成績、そこに至るまでの過程を評価し、昇進や昇給を決めていく制度である。つまり、仕事で成果を上げることで、在職年数や年齢、学歴などは一切関係なく、役職や給与が上がっていく仕組みのことだ。もちろん設定された成果に達していない場合、降格や減給なども発生する。

これに対して年功序列は、在職年数や年齢に伴って、昇進や昇給が行われる。そのため、高い成果を出した場合でも、直接的には、役職や給与の上昇には結びつかないことが多いし、反対に思わしい成果を出せなくても、「定期昇給」の恩恵に預かれる、という制度でもある。

また、成果主義と混同されがちな評価制度に結果主義がある。前述の調査に寄せられた意見にも、結果主義と同じ意味で成果主義について語られたものが散見された。

成果主義と結果主義の違いとは、最終的な結果のみを評価対象にする(結果主義)か、プロセスまで含めて評価対象にする(成果主義)か、にある。

例えば、業績があまり上がらなかった社員に対して、結果主義では最終的な数字だけで評価するため、その社員の評価は高くならない。

一方、同じ社員に対して成果主義で評価した場合、もちろん最終的な業績結果は評価対象になるが、そこに至るまでのプロセスも評価対象とする。プロセスとは、業績の目標を達成するために、どのような計画を立てて、どのように行動をしたのか、という要素だ。そのため、成果主義では、業績があまり上がらなくても、プロセスが認められれば、よい評価を受けることも十分にありうるのだ。

では成果主義で評価することによるメリットをいかにあげてみよう。

モチベーションアップにつながる

年功序列では特に業績優秀な若手社員に不満が出る可能性がある。これに対して成果主義では、社歴や年齢などに関係なく、結果とプロセスを評価して報酬が上がるため、やればやっただけ評価されるのでモチベーションを上げることができる。

関連記事:モチベーションとは?意味やアップさせる方法を分かりやすく解説

生産性の向上が期待できる

成果を出さなくても在籍年数が増えれば定期昇給により給与が増加して制度では、成果を目指して一生懸命働くためのモチベーションが低下し、生産性が向上しないといわれている。 これに対して成果主義では、目標を立てて成果を出すことが評価に直結する。成果を出せば評価されるし、逆に成果が出なければ給与や役職は上がらないため、生産性の向上が期待できる。

関連記事:コロナで変わった人事業務の最新情報。問われるリモートワークでの生産性向上

採用に強い会社になる

若くて優秀な人材、あるいは特別なスキルを持った高付加価値人材にとって、年齢や勤続年数に関係なく、自分の能力や仕事の成果を正しく評価してくれる環境が整っている企業は非常に魅力的に映る。
そのため、評価制度をしっかりと整備したうえで、採用の場で成果主義を取り入れていることをアピールすれば、優秀な人材から注目されやすくなり、採用に強い会社となることができるのだ。

人件費を抑えられる

年功序列では、年齢が高いというだけの理由で、高額の給与を払うことも多いので無駄に人件費を高騰させることになる。これに対して成果主義では、成果に応じた報酬の最適化が可能となるため、結果として人件費を抑えることができる。

このように多くのメリットのある成果主義だが、デメリットもある。

実は、デメリットを見極めてこれに対応し、自社にフィットした制度にすることが成果主義による評価を運用する上で大切なので、そのポイントとあわせて紹介しよう。

チームワークの低下

成果主義では成果が評価に直結するため、どうしても自分個人の評価を優先する社員が増えていくことになる。個人での動きが活発になり、年功序列や終身雇用では重視されていたチームワークが弱くなりがちなのだ。

これを解決するポイントは、個人に対する評価よりも、チームに対する評価を重視して制度を運用することにある。特にテレワーク下ではオフィスという物理的な空間でのつながりが薄れるため、あえてチームとしての目標を設定し一体感を高める施策が有効と考えられる。

評価の対象にされない仕事に消極的になる

高い評価を出すことだけにこだわると、評価に直結する仕事だけを全力でこなし、他の仕事には消極的なる、ということも起こる。組織である以上、成果に直結はしないものの、重要な仕事はいくらでもあるのだが、これに取り組む社員が損をするということにもなりかねない。

これを解決するポイントは、評価対象の細分化と明確化にある。ジョブディスクリプションの策定と同様に、複雑で負荷の高い作業となるが、評価の対象となる仕事を多角的に検討してこれを明文化することで評価の仕組みを社員と共有し、さまざまな仕事に意義と評価を与えることが大切だ。

目先の結果を追求しすぎる

結果さえ出せばよい、という考えに陥ると、プロセスを無視して、無理な業務を行うことで同僚や顧客に迷惑をかけたり、迷惑にならないまでも浮いた存在となり、離職につながることも懸念される。

これを解決するポイントは、プロセス管理とエンゲージメントの強化にある。テレワーク下では、成果さえ出せばいつどのように働いてもよいという自由な働き方が容認されるため、社員のプロセス管理はさらに難しくなる。また、自分さえ成果を出せればよい、という考え方は自社に対する愛着が薄まっている結果だともいえる。このため、プロセス管理をしっかりと行い、1on1ミーティングなどを活用してエンゲージメントを高める施策が重要となる。

まとめ

・テレワークではオフィスに出社している時と異なり、部下の勤務態度を直接見ることができないため、部下の仕事ぶりについて心配したり疑念を抱いたりする管理職が多い。

・テレワークに適していると思われる人事評価制度に関するアンケートに対して、77.0%の管理職が「成果(数値結果)をもとにした評価制度」と回答している。

・これまでの日本企業では、制度上は成果主義と銘打っていても、年功序列的な運用を続けたことで、成果による評価が正しく機能せず、形骸化していることが大半だった。

・テレワーク時には自社の実情にフィットした成果主義による人事評価へと見直し・改善を図り、改めて自社の評価基準となる“成果”の定義を明確にすることが求められている。

・成果主義のメリットは、1.モチベーションアップにつながる、2.生産性の向上が期待できる、3.優秀な人材の獲得に結びつく、4.人件費を抑えられる、など。

・成果主義を上手に運用するポイントは、デメリットを見極めてこれに対応し、自社にフィットした制度にすること。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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