2020.10.1

メンバーシップ型雇用は薄れゆく?ジョブ型雇用への転換で企業が求められることとは

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・日本ではなぜ長期にわたりメンバーシップ型雇用が実施されていたのか?
・日本の雇用制度はどこに向かうのか?
・メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いとは?
・新型コロナはジョブ型雇用が加速する大きなきっかけ。
・日本型雇用の特徴である、3つの無制限・無制約とは?
・ジョブ型で仕事をするための業務の細分化とKGIとKPIの設定とは?

役割を終えたメンバーシップ雇用

日本では雇用のあり方が大きく変わってきている。これまで当たり前だった新卒一括採用とは別の新しい雇用が広まり始めているからだ。そこで、新しい雇用のあり方を深く理解するために、まずはこれまで日本で広く行われていたメンバーシップ型雇用についておさらいしておこう。

メンバーシップ型雇用とは、新卒一括採用に代表される日本独特の雇用システムだ。新入社員の多くがまずは総合職として雇用され、入社段階では何の仕事をするか決まっていない。そして入社後になんのスキルもない状態で研修を通じて教育し、適性を見て配属が決定される。その後転勤や異動、ジョブローテーションを繰りかえしながら、会社を支える人材として長期的に育成していくことが基本となる。

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これは会社のために人を適合させていく「会社を基準とした」雇用スタイルだともいえる。そのため、1つのスキルを磨き、専門性を追求していくというよりも、幅広くさまざまな知識を身につけさせ、会社のことをより俯瞰的に見られるように育て、その中から幹部候補を選択していくことになる。

こうしてジョブローテーションなどでの異動、部署をまたいでさまざまな経験を積ませるには、長い時間が必要となる。だからこそ、早期離職をしないよう長期的に働くほど一律で昇給する年齢給を採用したり、さらに多額の退職金が受け取れる「年功序列型賃金体系」をセットにして離職を防ぐようにしているのだ。

これは定年まで雇用の安定を約束する「終身雇用」でもあり、第二次大戦後の日本が復興していくにはこの雇用方法がもっとも合理的だった。1954年から1970年までの高度経済成長期を支えたのが、まさにこのメンバーシップ型雇用だったといえる。

高度経済成長期から安定成長期を支えたメンバーシップ型雇用は、「年功序列」に加え、「職能資格制度」がもう1つの柱である。

「職能資格制度」は、「職能」つまり業務遂行レベルに応じて等級を分け、等級ごとに賃金を当てはめる制度だ。これには、勤続年数が長いほど業務遂行レベルは上がるという前提がある。

バブル崩壊以前は、1つの会社に新卒から定年まで勤めるのが正社員の一般的な働き方であったから、勤続年数が長いほど業務遂行レベルが上がる制度とは、終身雇用を前提に、年齢が上がるほど賃金が上がることを意味する。

「職能資格制度」の下では、企業は終身雇用を約束する代わりに、スキルのない若者を安く使用することができる。スキルのない状態で入社した若者の方も、長く働けば自然に幅広いスキルが身につき、同時に賃金も上がって元が取れるという期待を持つことができた。

その後、バブル崩壊からデフレ期には、「年功序列制」と「職能資格制度」は行き詰まり見せる。経済の成長が止まる中で少子高齢化が進んだ結果、賃金の高い中高年労働者の割合が増えた企業は、その賃金負担に苦しむことになった。また、デフレが続き、長く働いても賃金が上昇しないため、若い世代ほど年功序列の恩恵を実感しにくくなっていく。

そこで、成果主義やコンピテンシーなど新たな人事制度が次々に提唱され、導入する企業が相次いだ。しかし、長く日本企業に馴染んだメンバーシップ型雇用を根本から作り直すようなシステムはなかなか受け入れられず、広く定着することはなかった。

2000年代に入ると、少子高齢化はますます鮮明となり、労働者の価値観も多様化した。若年者の早期離職が年々増加し、若年層以外の世代でも転職が当たり前となるなど、労働者が企業を選ぶ時代に入ったのである。

2013年度からは公的年金の受給開始年齢の引き上げも始まり、これに合わせて65歳までの雇用が義務化されたこともあり、中高年齢層の「学び直し(リスキリング)」やキャリアチェンジを支援する必要性も高まった。

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そして2020年の年頭、日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長(当時)が、「1つの会社でキャリアを積んでいく日本型の雇用を見直すべき」と提言することになる。

これまで長らく日本型雇用を進めてきた経団連がこのように提言したのは、日本の雇用システムが大きく変容していく象徴的な出来事といえる。つまり、メンバーシップ型の雇用システム自体が時代にマッチしなくなってきたことを経済界が認めたことに他ならない。

こうして、日本の雇用制度はジョブ型雇用へと大きくかじを切ることになる。

新型コロナをきっかけに加速する「ジョブ型雇用」

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いを一言でいうなら、人を仕事に当てはめる日本のメンバーシップ型雇用に対し、仕事を人に当てはめる欧米のジョブ型雇用ということになるだろう。

メンバーシップ型雇用では、会社のメンバーであることが何よりも重視される。そのため、「働く時間」「働く場所」「仕事内容」に制約のない「無制約社員」であることが、日本企業の正社員の特徴とされてきた。

働く時間に制約がないとは、フルタイムかつ残業や休日出勤も含めて無制限に働くということだ。働き方改革により労働基準法が改正され、労働時間の上限が規制されることになったが、それまでは事実上、労働時間に上限はなかったといえる。社内の調和や結束のため、メンバーは常に行動を共にすることが良いとされ、付き合い残業や、所定時間外の社内行事や飲み会など、労働時間であるか否かの境目が曖昧になる実態もあった。

働く場所に制約がないとは、転勤を受け入れるいう働き方である。転居を伴う転勤や通勤時間が大幅に長くなる勤務場所への異動であっても、辞令1本でどこへでも行くことになる。現在では、労働契約法や育児・介護休業法によって、配転に当たっては育児や介護など家庭の事情に配慮しなければならないとされているが、逆に言えば、育児や介護など特に配慮が必要な事情がない限り、転勤を拒否することは懲戒処分の対象になるということだ。

仕事内容に制約がないとは、正社員はゼネラリストであるということだ。数年ごとのジョブローテーションによりさまざまな部署を経験し、その会社の業務であればどんな仕事でもこなすことができる人材に育てるというのが大方の日本企業の方針であった。これは企業にとって効率よく人事管理ができる反面、スペシャリストが育たないという弱点を持つ。

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これらは特に大企業で顕著な傾向であり、モーレツ社員と呼ばれるような仕事とプライベートタイムとの区別がない働き方や、転勤を含め、多くの部署を渡り歩くことが出世への道であると考えていたため、従業員も企業の方針に従ってきたという一面もある。

しかし、こうした働き方はすでに現状にそぐわないものとなったため、多くの企業は今、「ジョブ型雇用」へとシフトしようとしているのだ。

仕事の内容を定めないメンバーシップ型に対して、業務を細分化し、担当する業務内容や範囲、難易度、必要なスキルなどがまとめられた「職務記述書」(ジョブディスクリプション)に落とし込むことで、どのような能力を持つ人が必要かということを明確にし、その能力にマッチした人を採用し、合意を取り、仕事に取り組むという雇用形態が「ジョブ型雇用」だ。

ジョブ型雇用は雇用契約書をベースとした契約であり、目標管理と報酬制度の中で「私はこれをやる人である」という目標設定を明確に定めているのが最大の特徴だ。これは、専門を任せることで、その人材の持つスキルや強みをさらに伸ばしていこうという考え方でもある。

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ITエンジニアのように分業化とテレワークが進んだ業種では、一人ひとりの仕事が細分化され、なおかつパソコンとスマートフォンがあれば仕事場所を選ばないテレワークという働き方が生まれた。また、プロジェクトごとのチーム制によるワークスタイルを採用している企業も多く、ジョブ型雇用の方がより生産性を上げられるという考え方が浸透してきているのだ。

こうしてジョブ型雇用が広まってきたところに、新型コロナウイルス感染防止対策として、政府による緊急事態宣言を受けて多くの企業がテレワークを導入することになった。そのため、テレワークを経験した多くの経営者とオフィスワーカーがそのメリットを知ったことでジョブ型雇用への機運は大きく高まったといえる。

また、震災や豪雨といった自然災害やセキュリティインシデント(セキュリティ上の脅威)に備えてBCP(事業継続計画)を策定するなど、すでにテレワークや在宅勤務の環境を整えてきた企業も多いことが、非常事態宣言下においても大きな混乱もなく業務を継続できた要因となっている。

さらに、テレワークにおける公平な人事評価のためには、業務を細分化して目標を設定し、数字による客観的な判断が可能となるジョブ型による評価が不可欠となっている点もジョブ型雇用が拡大する一因となっている。

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ジョブ型雇用で働き方改革が加速

ジョブ型雇用への転換を促す動きは、政策面からも見て取れる。働き方改革関連法は、2016年に働き方改革実現会議が発足したことから議論がスタートした。

同会議がまとめた「働き方改革実行計画」によれば、働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段であるとし、長時間労働、正規・非正規の待遇格差、単線型の日本のキャリアパスの3つが日本の労働制度と働き方の課題であると指摘した。

そこで、労働時間の上限規制や、同一労働同一賃金が働き方改革関連法として法制化されるとともに、テレワークや副業・兼業の推進、個人の学び直し支援など、働き方の課題を解決し、労働生産性を高めるための複数の政策が10年間のロードマップ付きで整備されていくこととなった。

なお、これらの政策の中に「ジョブ型雇用」という文言はないが、同一労働同一賃金にしても、テレワークにしても、それぞれの政策がジョブ型雇用を促していることが読み取れるだろう。

働き方改革関連法が2018年に成立し、改正労働基準法やテレワークガイドライン、学び直し支援などの政策が順次施行されていくのが2019年である。

こうして制度面で日本型雇用の改革が進む中、2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まり、前述のとおりテレワークの緊急避難的な導入が広まったことで、働き方改革が後押しされる形となった。

特に人事などのオフィス業務においては、クラウド環境の整備や業務システム・ツールの進化といった要因もあり、働き方改革は一気に進んだといえる。

また、ジョブ型で仕事を進めていくにはジョブディスクリプションの策定による業務の細分化・明文化とこれを実現するための目標管理、KGIとKPIの設定など、メンバーシップ型にはなかった概念と施策が欠かせないことも見逃してはならない。

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特にメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ移行しようとする企業にはいくつかのハードルがある。

まず、そもそもきちんと機能するジョブディスクリプション(職務記述書)を作成できるかという課題がある。既存の社員が「うまくこなしていた職務」の「なんとなく」な部分を「明確に」定義して、求める業務内容と与える責任の範囲を明文化することは、そう簡単ではない。

さらには、評価の公平・透明性とそれに対する従業員の納得がなければ、能力のある若い社員のモチベーションが上がる一方で、既存の社員に拒否反応が起きるというリスクもある。

こうした問題を解決するには、企業が従業員の能力や経験を十分に把握し評価する施策を行うことが重要だ。

まず行いたいのがMBO(目標管理制度:Management by objectives)による目標管理だ。
MBOは、従業員が個人の目標を設定し、その達成度合いを評価するのが基本的な流れとなる。目標設定に当たっては、組織の目標と方向性を合わせるために上司とのすり合わせが欠かせない。

MBOは、日本では90年代以降、生産性向上や公正な評価のためのツールとして導入が進んだ。元々は、モチベーションアップや主体性の向上を目的とした人材育成の手法として提唱されており、上司と部下が密なコミュニケーションを行う運用に成功すれば、目標達成のために従業員が主体的に課題に取り組むという効果が期待される。

また、上司だけでなく同僚や部下からも評価を行う「360度評価」や、ランク付けよりも評価に対してのフィードバックや次の課題設定に時間を割くことで、コミュニケーションの活性化と個々のモチベーション向上を図る「ノーレイティング」を取り入れるなど、自社の業態や組織の現状にあわせ、制度そのものを変化させる、リスクへの柔軟な対応策を準備しておくことも必要である。

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そして目標管理をKGIとKPIの設定へと落とし込んでいくことになる。

KGI(Key Goal Indicator)は「重要目標達成指標」であり、企業が達成すべき最終目標のことである。この目標を達成するためにKPI(Key Performance Indicator)「重要業績評価指標」を設定し、「そのために・そのために」と行動の要素を分解し、地道に結果を積み重ねた先にKGIの達成がある。

例えば、最終目標のKGIを「○○円の売り上げ」と設定すると、その下層となるKPIは「商談件数×成約率×単価」と設定することができる。この場合、単に数字だけを設定しても意味はなく、「まずは商談件数の倍増を目的とし、そのためには新規を開拓しよう、そのためにセミナーを開催しよう、そのために他社とタイアップしよう、そのために広告を強化しよう」という、「そのために」という行動を細かく積み重ねていくことが重要だ。こうして業務を細分化することで、ジョブ型の仕事は進んでいく。「そのために・そのために」というアクションプランの積み重ねによって、会社の最終的な目標が部署の目標に盛り込まれ、部署の目標が自分たちのチームの目標に盛り込まれ、そのチームの目標を達成するために一人ひとりの個人の目標がリンクしていくのだ。

これは別の見方をすれば、KPIとKGIを達成できるのであれば働き方に制約はないということになる。まったく残業をしなくても、在宅であっても設定した目標をクリアできるのであれば問題ない。

目の前の目標と自分が果たすべき責任がはっきり見えるからこそ、どんな仕事スタイルであっても、自発的に目標に対する行動が生まれ、スキルアップや協業などへのモチベーションも高まってくる。その結果が、自分のライフスタイルに合わせた多様な働き方を選択でき、なおかつ生産性も上げることができるという働き方改革を加速させていくのだ。

まとめ

・メンバーシップ型雇用とは、新卒一括採用で、総合職として雇用され、入社段階では何の仕事をするか決まっていない。そして入社後に研修を通じて教育し、適性を見て配属が決定され、転勤や異動を繰りかえしながら、会社を支える人材として長期的に育成していくシステム。

・日本型雇用を進めてきた経団連が、メンバーシップ型の雇用システム自体が時代にマッチしなくなってきたことを認め、ジョブ型雇用への転換を提言している。

・メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いを一言でいえば、人を仕事に当てはめる日本のメンバーシップ型雇用に対し、仕事を人に当てはめる欧米のジョブ型雇用ということになる

・日本型雇用のもう一つの特徴として3つの無制約雇用があり、それは時間、場所、仕事内容の3つである。それぞれに会社側が決定して、従業員は無制約でこれに応じていた。

・コロナ禍によっていきなりジョブ型雇用が急拡大したかのように見られがちだが、実際はそうではない。そもそもの課題と、長い時間をかけた議論があり、これらを踏まえた法整備と、企業が行っていた事業継続へのリスク管理がその背景にある。

・ジョブ型雇用では目の前の目標と自分が果たすべき責任がはっきり見えるので、自発的に目標に対する行動が生まれ、モチベーションも高まってくる。その結果、多様な働き方を選択でき、なおかつ生産性も上げることができるという働き方改革を加速させていく。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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