2021.6.1

中途採用者のオンボーディングの成功例とは?テレワーク時代にも即活躍・定着率アップするためのポイント

読了まで約 7

■オンボーディングが注目される背景とは?

■ビジネスシーンにおけるオンボーディングとは何か?

■オンボーディングを実施する4つのメリット

■オンボーディングを3つの課題

■オンボーディング成功に向けた4つのステップ

■ステップ別のオンボーディング実施のポイント

オンボーディングとはなにか? 注目される背景

日本企業における慢性的な人材難が長期化している。
中途採用が一般的であった中小企業のみならず、新卒の総合職採用に偏重する傾向のあった大企業においても、ジョブ型採用などを通じた中途採用を行っており、中途採用市場全体がいつになく活発化している状況だ。

そもそも企業が人材不足という課題を抱える中で、中途採用者を行う動機は、主に新卒採用と比較して、短時間、低コストでの戦力化を見込めることだ。加速度的に変化していく現代のビジネス環境において、いち早く戦力として自社に貢献できる人材を採用することは、まさしく企業の最重要課題のひとつだ。
このため、どうすれば採用した人材をできるだけ早く戦力化するかに対してさまざまな施策を行っている企業は多い。

しかし、その一方で「定着までに要する時間が長い」、あるいは「期待通りのパフォーマンスを発揮できていない」などと頭を抱える人事担当部門も少なくない。
そもそも、即戦力と期待されても、働く個人の視点から見た場合、これまでとは違う業務への取り組み、全く新しい社風など、多様な要素が入り混じる状況下において、入社直後からすぐに十分な業務推進能力を発揮することは容易ではない。

また、周りのチームメンバーから適切な支援が受けられないことにより業務が上手く回らないとなると、期待されるパフォーマンスを発揮できず、早期離職に繋がるリスクもある。
このような事態を防ぐために有効とされ、国外では一般的となりつつあるが、日本ではまだまだ知名度が低いとされる施策が、オンボーディングである。
本稿では、オンボーディングの概念について、また企業において実践するメリット、最後に実践におけるポイントを紹介していく。

オンボーディングが注目される背景についてはすでに述べた通りだが、ここではオンボーディングの基本的な概念について確認していこう。
そもそも、オンボード(onboard)という英単語を直訳すると、「(船、列車、航空機などの移動手段に)乗り込む」という意味となる。
企業の人事部門を中心としたビジネス環境においては、転じて「新規従業員を事業所に配置し、組織の一員として定着させ、戦力となるまで」の受入プロセスの一連を指す。

関連記事:オンボーディングとは?組織の生産性向上と離職防止のためにできること

その他、マーケティングやカスタマーサクセス部門を中心としたビジネス環境においても「オンボーディング」という語を用いる。
これは、ユーザーとなった新規顧客に対して、自社の提供するプロダクトやサービスで得られるユーザーエクスペリエンスを最大限のものとし、プロダクトやサービスの継続利用を促すための一連のプロセスを指すが、本稿では、人事部門を中心としたオンボーディングの語意について解説を行っていく。

次項で詳述する通り、オンボーディングを実践することは、企業と中途入社従業員の双方にとって数々のメリットがあるわけだが、日本におけるオンボーディングの知名度はまだまだ高いとは言えない。
「エン人事のミカタ」会員を対象に人材会社エン・ジャパンが行った「『中途入社者のオンボーディング』と『入社後活躍』 に関する調査・分析」(有効回答数:416社/調査期間:2020年4月22日~2020年5月26日)によれば、回答した企業の過半数(56%)がオンボーディングを「知らない」と回答している。
しかし、同様の調査を外資系企業、日系グローバル企業に行ったエンワールド・ジャパン社による「中途入社者のオンボーディング実態調査」(有効回答数:239社/調査期間:2021年3月29日~2021年4月2日)によると、回答企業の71%がオンボーディングを現状実施しており、内64%が「効果を実感」する旨の回答を行っている。

参考:
エン・ジャパン株式会社「『中途入社者のオンボーディング』と『入社後活躍』 に関する調査・分析」
エンワールド・ジャパン株式会社「中途入社者のオンボーディング実態調査」

この通り、グローバル化が進む企業や外資系企業におけるオンボーディングの浸透は、結果として新卒・中途を問わず優秀な人材のリテンションに繋がるものとなり、オンボーディングを行っていない企業と比べて差がついていく施策のひとつとなるだろう。
次項では、具体的なオンボーディングを実施するメリットについて見ていこう。

オンボーディングを実施するメリットと見えてきた課題

前項にて、中途社員のオンボーディングとは、職場へ配置され、チームの一員として定着し、戦力として自社へ貢献できる状態になるまでのプロセスを指すと説明した。
これを企業として意識しながら実践している場合、どのようなメリットがあるのかについて、本項では見ていきたい。
中途採用者に対するオンボーディングを実施することで得られる具体的なメリットには、主に以下の5つのポイントがある。
重要なことは、それぞれの要素が相互に作用するということだ。

1. より迅速な職場への定着化・戦力化
ボーディングを行うことで得られる最も大きな効果は、何よりもまず中途入社した従業員のいち早い職場への定着と戦力化を実現できることだ。
中途入社した従業員が職場に馴染んでいくことは、その従業員が持ちうるパフォーマンスを早期に発揮するための最大のバックアップとなる。

2. 職場でのストレス緩和
中途入社した従業員は、程度の差はあるが新しい業務へ慣れるまである程度のストレスを抱えることが予想される。
新たな人間関係、新たな業務環境下では当然である。オンボーディングの適切な実施により、これを緩和・軽減することが期待できる。

3. 既存従業員のエンゲージメント向上
オンボーディングが適切に行われている企業組織では、従業員のエンゲージメントが高いことも指摘されている。
エンゲージメントが高く保たれる職場では、働く個人の離職率低下、そしてリファラル採用などへの協力姿勢も期待できる。

4. 中長期的な採用コストダウン効果
上記3点が上手く機能し始めると、結果として採用者のリテンション率が向上しているため、早期離職に起因した追加募集を行う必要がなくなる。
中長期的にみた場合、企業の採用コストが減少することが期待できる。

こうしたメリットが見込める一方、既にオンボーディングを実施している企業においては、オンボーディングの実施を通じて取り組むべき課題も出てきている。
ここでは、コロナ禍により顕著化している可能性のあるものを中心に、以下の3点を紹介していく。

1. 既存従業員との関係構築に時間を要している
前出のエンワールド・ジャパン社調査によれば、オンラインでオンボーディングを行っている企業において、複数回答可とした上で最も多かった回答は、「社員との関係構築に時間がかかる」で、日系企業と外資系の双方で最多回答(日系:54%/外資系:61%)であった。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、さまざまな企業活動がオンライン化へシフトしている中で見えてきている課題のひとつとして、企業による新入社員の教育があげられる典型的な例といえよう。

2. 業務以外の会話を行う機会が少なく、サポート不足が不安
コロナ禍により、新卒・中途を問わず試用期間を在宅や時短出社で行う企業が数多く、従来のような職場でのちょっとした雑談などのコミュニケーションを行う機会が激減している。
事実、前出の調査でも全体の54%の企業が「入社者の日々の様子を見ながらサポートすることができない」と回答しており、同じく全体の51%の企業が「仕事以外の話をする機会が少ない」と答えている。
このため、オンボーディングに取り組んでいても、先輩従業員によるサポートが足りているかが見えづらいという課題や、オンボーディング自体が想定よりも時間を要する原因のひとつとなっている。

3. オンライン研修などによる業務への理解度が低下している
これは2020年卒や2021年卒の新入社員でも大きな企業問題となったものだが、コロナ禍により急激なオンライン化を余儀なくされた企業による研修などは、まさに試行錯誤の状態だ。
このため、従来の研修方法に比べ、その理解度低下を不安視する声が多くあることから、オンラインでの入社後の導入研修への更なる改善が望まれる。

オンボード実施のステップとポイント

2021年4月より、労働施策総合推進法が改正・施行され、301名以上の常時雇用者を擁する企業に対して、中途採用比率の公表が義務化された。
中途採用比率がある程度明確となることで、前述のようなメリットのある中途入社従業員へのオンボーディングは、その重要性が増すばかりだ。
実際、採用決定者へのオンボーディングは入社前から始まることが多い。

そこで、本項では入社前から順を追いながら、成功するオンボーディングに欠かせない4つの施策ステップと、それぞれのポイントについて確認していこう。
まずは、時期で分けた施策ステップについて見ていこう。

1. 採用後~入社前
オンボーディングとは採用決定後から始まっている。採用決定通知書を出してから、定期的に連絡を取り、自社の基礎知識を伝え、自社従業員となる自覚を与えていくことが必要だ。また、業務で担ってもらいたいこと、期待している点など、企業側の熱量なども伝えておくことで、入社前から関心を持って接しているイメージを与えることができる。

2. 入社時
入社オリエンテーションを行っている企業は、いま一度その内容について再確認することが望ましい。中途入社者が定着すること、いち早く戦力化することに資する研修内容となっているかどうか、入社後のモチベーションを高めていくことが可能な内容となっているかという点を中心に、常に見直していく必要がある。

3. 配属後の1週間
配属後の1週間の間に、中途入社者が「入ってよかった」、「暖かい職場」だと感じることができるような職場づくりを普段から心がけることが重要といえる。温かい企業風土は長期間の取り組みの上に成り立つといえ、電話の取次方法やコピーの手順など、マニュアルを渡すだけでなく、口頭で説明していくなど、一つひとつの小さなことの積み重なりでもあるといえる。

4. 入社後の6か月間
入社半年までの間は、定期的な面談を行うことが望ましい。中途入社した新たなメンバーが「何に困っているのか」、「自身の力を発揮しているか」といった点を中心に、所属部門長や人事部門担当で定期的に実施することが重要だ。特に、何かにつけて前職との比較を行うというメンバーの場合、自社に馴染めておらず、何らかの課題を抱えている可能性があることから、解決に向けたフォローが必要かもしれない。

次にそれぞれのステップにおける施策ポイントについて見ていこう。

1. 採用後~入社前のポイント【豊富な情報提供】
採用後から企業への入社前までに、例えば自身が採用された企業の必要な情報にアクセスできていること、詳述すると、従業員専用の社内コミュニケーションネットワークや、社内ウェブサイトなどへ、部分的にアクセスが可能なことなどは、入社者にとって非常に有益なものとなるだろう。また、こうした情報に触れさせておくことは自社についてより詳しく知ることができ、入社前のモチベーションを高めることに資するだろう。

2. 入社時のポイント【万全の準備】
入社当日にすでにメールアドレスや社内ツールのアカウントが発行されており、すぐに業務習得に向けた準備が整っていることは、入社者に対して、自社が高い関心を寄せており、しっかりと当人のために事前準備がなされているという好印象を与えることが可能となる。その他、入社したことを社内報などで広く知らせて、全社をあげて歓迎の意を示すなども大変有効な策だといえよう。

3. 配属後の1週間のポイント【多彩なコミュニケーション】
配属後の1週間では、チーム内の先輩メンバーや上長から歓迎ランチ会や、座談会などのカジュアルな時間を設けてもらうことで、見えるかたちでの歓迎の意を入社者に示していくことがポイントとなってくる。これはコロナ禍で隔地間業務を行っている場合も同じで、オンラインランチミーティングや、場合によってはオンライン歓迎会を終業後に行うことも検討できよう。

4. 入社後の6か月間のポイント【丁寧なフォロー】
定着化と戦力化に重要な入社後の半年間、困ったことがあったらすぐ相談できる先輩メンバーや人事担当を専任でつける、あるいは業務を会得するまでのOJTや座学研修などが充実しているなど、入社者のモチベーションを保ち続けることを念頭に置いた施策がポイントとなるだろう。業務と環境に馴染みやすい土台をしっかり作り上げることで、早期離職の可能性を最大限減らしていくことが望めるからだ。

まとめ

・長期化する慢性的な人材難の中で、せっかく採用した人材が自社に定着せず、早期離職に繋がるリスクを懸念する声は数多い。
また、定着と戦力化に要する時間が想定以上であること、職場への配置後でも期待通りのパフォーマンスを発揮できていないことなどが、人事部門担当にとって頭を抱える課題となっている。
そこで、まだ日本での知名度は低いが、海外では導入されはじめている有効な施策のひとつが「オンボーディング」である。

・元来、オンボーディングとは移動手段に乗り込むことを指す用語であった。
人事部門を中心としたビジネス環境においては、転じて「新規従業員を事業所に配置し、組織の一員として定着させ、戦力となるまで」の受入プロセスを指す。
また、マーケティング部門などでも、新規顧客への自社プロダクト・サービス導入にあたって、その効果を最大限に発揮させるサポートのことをオンボーディングと称する。

・オンボーディングを中途入社した従業員に実施していく主なメリットは次の4点だ。
1つ目に、入社後により迅速な職場への定着化と戦力化が見込めること。
2つ目に、オンボーディングを通じて中途入社した従業員のストレス緩和が期待できること。
3つ目に、既存従業員のエンゲージメント向上が見込めること。
4つ目に、中途入社した従業員の早期離職率が現状し、リテンションの可能性が高まることで、中長期的に企業の採用コスト減に資すること。

・長引くコロナ禍の中で、オンボーディングを実践している企業から出てきた課題もある。
オンラインでボーディングを実践する企業が課題に感じる点は次の3点だ。
1つ目に、既存従業員との関係構築に時間を要してしまうこと。
2つ目に、隔地間コミュニケーションとなるため、業務以外の会話が生まれづらく、先輩従業員によるサポートに不安が残ること。
3つ目に、オンライン研修などによる業務への理解度が低下していることへの懸念だ。

・オンボーディングは入社前から始まっており、次の4ステップに大別できる。
ステップ1は採用決定から入社前まで、ステップ2は入社時、ステップ3は配属後の1週間、ステップ4は入社後の半年間だ。
ステップ1では、企業側の採用決定者への熱量を伝えること。
ステップ2では、研修などを通じてモチベーションを維持・向上していくこと。
ステップ3では、入社者が温かい職場だと感じることができる環境づくりができること。
そしてステップ4では、入社後半年間にわたり、上長や人事担当が丁寧なフォロー面談などを行っていくことで早期離職を防ぎ、いち早い定着化を図ることが望まれる。

・前述のステップ1では、必要に応じて企業内の情報にアクセスできることが望まれる。
例えば、社内コミュニケーションネットワークなどだ。
ステップ2では、入社当日からすぐ活躍する準備が整っていること。
例えば、自身のメールアドレスや社内ツールのアカウントなどがすでに用意されているなどだ。
ステップ3では、配属直後より上長や先輩チームメンバーなどとの歓迎会ランチを、オンラインでもよいから実施すること。
最後にステップ4では、入社後の6ヶ月間にわたって、いち早い環境への適応と戦力化に向けた丁寧なフォロー・サポートを実践していくこと。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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