カルチャーフィットとは、企業文化や理念、社風といった社内全体の雰囲気と、そこに新卒採用や中途採用で入った社員とがどれだけマッチしているかを表す言葉である。社員の定着率や業績を上げるために注目されているキーワードの一つだ。この記事では、カルチャーフィットの基礎知識や注目を集めている理由、カルチャーフィットを念頭に置いた採用活動のポイントなどをわかりやすく説明する。
目次
カルチャーフィットとは?
まずカルチャーフィットとは一体どのようなものなのか、基本的な知識や情報を押さえておこう。
カルチャーフィットを一言で説明すると、そこで働いている社員が、企業の社風や文化といったものになじめているか、である。英語の「Culture(文化)」と「Fit(合う、沿う)」が組み合わさってできていることからもわかるように、「社員が会社になじむ」という意味を表す言葉だ。
どのような会社にも、その会社独特の社風やカラーといったものが存在している。その「会社全体の雰囲気」になじめるかどうかにより、新入社員や中途入社社員の定着率や会社への貢献度、引いては会社の業績までもが影響を受けるのだ。
つまり、カルチャーフィットを意識した採用や人事考察をすることは、会社組織全体の問題であると言っても過言ではないだろう。
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カルチャーフィットが注目を集める理由
次に、カルチャーフィットが、今、なぜ注目を集めているのか、その背景や理由について詳しく見てみよう。
人手不足が加速する中、入社後の定着率を高めるため
カルチャーフィットが注目を集めている理由として、まずあげられるのが、新卒や中途採用で入社してきた社員の定着率を高めるためだ。
現代の社会状況における人材不足の背景として、早期退職率が高くなっていることがあげられる。 早期退職率とは、新卒、中途採用を問わず、入社してから3年以内に退職する社員の割合を示す数値のことだ。
この早期退職率の割合が、現在、平均すると3割以上という非常に高い数値になっていると言われている。入社した社員のうち、3割もが3年以内に退職してしまうと、人材不足問題が解消されないばかりか、逆に悪化する原因にもなってしまう。
早期退職率が高い原因はさまざまだが、その一つとして考えられているのが、新しく入った社員と企業とのカルチャーフィットがうまくいっていないことだ。
そのため、入社後の定着率を高めて早期退職率の割合を減らし、人材不足問題を解消するための手段として、今、カルチャーフィットが注目を集めているのである。
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在籍している社員との連携がスムーズに行える可能性が高まる
カルチャーフィットが注目されている理由は、新しく入社した社員の定着率のためだけではない。
新しく入社した社員と会社との間にカルチャーフィットのズレがあると、既存の社員との連携など、オンボーディングをスムーズに行えない状況に陥り、仕事の進捗や企業の業績に悪影響を与えることになってしまう恐れがある。
企業文化にマッチした社員、つまり、カルチャーフィットしている社員が多ければ多いほど、似たような考え方や価値観を共有することができるため、仕事を進めていくうえでのチーム間や部門間の連携は取りやすくなるだろう。
しかし、いくらスキルが高く経験豊富な人材が入社したとしても、企業文化に合っていない、すなわちカルチャーフィットしていなければ、その人が力を存分に発揮することができないだけでなく、社内全体のチームワークを乱したり業務の停滞を引き起こしたりしかねない。
例えば、会社全体がチームで仕事をする社風であるにもかかわらず、スタンドプレイを好む社員が入ってきたら、どちらにとってもやりにくい状況になってしまうだろう。
在籍している社員との連携をスムーズにし、業務成績や効率などをアップさせるためにも、新しく入社してくる社員のカルチャーフィットが注目を集めているのである。
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採用のミスマッチを防止できる
採用におけるミスマッチとは、新卒採用や中途採用などにおいて、企業と求職者との間で生じる価値観や条件などのズレのことである。
この採用ミスマッチは、企業側が求めている人物像を明確に定義できていない、面接で正しく人物を見定められていない、応募条件の認識に齟齬があったなど、さまざまな原因によって生じる。その一つとしてあげられるのが、カルチャーフィットの違いやズレだ。
企業文化や社風に求職者がマッチしなければ、企業側と求職者、両者ともに「こんなはずではなかった」という採用になりかねない。しかし、逆の見方をすれば、カルチャーフィットを意識した採用を行えば、少なくともこのような不幸な事態に陥ることが避けられると言えるであろう。
採用時のミスマッチを防止し、企業側と求職者、両者が満足、納得する結果を導き出すためにも、カルチャーフィットを意識することは非常に有益だと言える。
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採用後にミスマッチが生じた時のリスク
カルチャーフィットの違いやズレをはじめ、さまざまな原因によって採用後にミスマッチが生じると、どのようなリスクが考えられるのだろうか。
採用後のミスマッチによるリスクにどのようなものがあるかを理解しておかなければ、それを回避するための対策を立てることがむずかしくなることは当然のことである。
また、カルチャーフィットを意識した採用を実践するためにも、採用後にミスマッチが生じた時のリスクを把握しておくことは非常に大切だと言えるだろう。
ここでは、採用後にミスマッチが生じた際のリスクについて、詳しく見てみよう。
採用した人材の能力を最大限引き出せない
ミスマッチが生じた時のリスクとして、まずあげられるのが、せっかく採用した人材の能力や資質を最大限に引き出すことができないことだ。新しく入社した人が兼ね備えている能力を存分に活かせないということは、会社の業績にとってもマイナスである。
せっかく能力や資質に長けている新入社員が加わっても、カルチャーフィットしていなければ、いざ現場で仕事を始めた際に、周囲の社員から「使えない」「役に立たない」といった意見が噴出することになりかねない。
当事者である新入社員にとっても、「仕事がやりにくい」「周囲とコミュニケーションが取りにくい」などといったことになり、能力を十分に活かすことができないだろう。
採用後のミスマッチは、このように既存の社員にとっても新しく入社した社員にとっても、好ましくない環境を生み出すことになりかねないのである。
ミスマッチによる退職は採用費用が損失となる
採用時のミスマッチによるリスクは、既存の社員や新入社員だけに及ぶものではない。企業にとっても、能力のある人材を失うリスクに加えて、大きな費用面での損失を被ることになるリスクが発生する。
採用にはさまざまな費用がかかる。一般的には、求人サイトの利用や採用試験、面接、入社から退職するまでの間に給与や諸経費、さらに新入社員教育や研修等の費用が必要だと言われている。当然、特別な募集方法や研修サービスなどを利用した場合は、損失額はさらに増えるだろう。
せっかく多額の費用をかけて採用したにもかかわらず、費用回収ができないうちに社員がミスマッチによって早期退職してしまうことは、企業側にとっても大きな損失となることは間違いない。このようなリスクを回避するためにも、採用ミスマッチは避けるべき事案なのである。
カルチャーフィットを念頭に置いた、採用活動のポイント
新卒採用、中途採用にかかわらず、新しい社員を採用する際にはカルチャーフィットを意識し、採用のミスマッチを防ぐことが大切なことがわかった。しかし、具体的にどのようなことに注意すれば良いのかわからない方も多いだろう。
そこで、最後にカルチャーフィットを念頭に置いた採用活動のポイントについて説明する。これらのポイントを参考にして、ミスマッチを減少させた有意義な採用の実現を目指そう。
自社の理念や風土など、内的環境を明らかにする
まず、自社の社風や雰囲気といったものを明確にすることが必要である。これがなされていないと、カルチャーフィットを意識した採用がむずかしくなるのに加え、面接をする人の感覚や経験に頼った公平性の低い採用になる可能性がある。
ほとんどの会社で企業理念や社訓、モットーなどが掲げられているが、それだけでは不十分だ。社風や社内の雰囲気など、明確化しにくい内的環境を明確にすることが大切なのである。
組織の雰囲気や文化といった明確化しにくいものを測るには、いくつかの方法がある。その中でも良く用いられているのが、ホフステードの6次元モデルだ。
ホフステードの6次元モデルとは、社内の環境を次のような6つの指標を基準にして判断し、偏りを測定する方法である。
権力の格差
…組織の中で権力の格差がどれくらいあるか、どれくらい受け入れられているか
個人主義か集団主義か
…個人活動を好む風潮か集団活動を好む風潮か
達成志向か育成志向か
…達成や報酬、競争などをどの程度優先するか、協力や育成、他人への配慮・気配りなどをどの程度優先するか
不確実性の回避
…はっきりしていない不確実な状況や未来の出来事などのリスクについて、どの程度回避するか。リスクに対して、どの程度許容があるのか
長期志向か短期志向か
…先のことを見据えて倹約したり努力したりすることを重視するのか、今を重視して伝統や社会的義務を重視するのか
抑制的か充足的か
…個人の欲求を社会からコントロールされている(抑制的)と感じるか、自らがコントロールしている(充足的)と感じるか
このホフステードの6次元モデルなどを用いることで、社内の文化や風潮を可視化していくことが大切である。
どんな人材を採用したいかペルソナを作る
自社の社風や雰囲気といったカルチャーフィットにおける定義が明確になれば、次に、それに見合ったどのような人材を採用したいかというペルソナの作成が必要となる。
採用する人材のペルソナを作成する際、重要となるポイントは、今、すでに社内で活躍し、周囲の社員から信頼されている人物の分析だ。
そのような人物の行動や発言など、まず気質をしっかりと観察し、そこで得られたデータを基にして共通の特性を見出し、どのような人材を使用するかといったペルソナを作成していくのである。
社内の文化や風潮を明確にするだけでなく、この採用ペルソナを作り込む作業もしっかりと行わなければならない。カルチャーフィットを意識するのであれば、企業側と人材、両方について明確に把握しておくことが重要なポイントであると言えるだろう。
関連記事:採用マーケティングで重要な「ペルソナ」とは?その設計方法や具体例を解説
カルチャーフィットを採用判断の大きな軸とはしない
採用後のミスマッチを防ぐ手段として、カルチャーフィットを意識することは非常に有効である。しかし、カルチャーフィットを重視しすぎると、思わぬ弊害を招くこともあるため注意が必要だ。
カルチャーフィットを重視しすぎるデメリットとしてあげられるのが、組織の多様性が減少することである。
社内の文化や風潮にマッチした人物ばかりを採用すると、社内全体が新しいものを拒むといった守りの体制に入ってしまいがちになる。企業にとって守りの姿勢は大切だが、一方で新しい風が入ることも成長に必要な刺激であることは言うまでもない。
企業全体の文化や雰囲気が停滞してしまわないようにするためにも、カルチャーフィットの基準をあまり高くするのは一考の余地があると言えるだろう。
カルチャーフィットと一緒に用いられることが多い言葉として、「スキルフィット」があげられる。スキルフィットは「Skill(能力)」と「Fit(合う)」の組み合わせの通り、新しく入る社員が保有している技術やスキルが、企業のニーズとマッチしているかどうかを表すものだ。
特に中途採用においては、カルチャーフィットよりもスキルフィットの方が重視される場合が多い。なぜなら、中途採用の場合、すでにいくつかの現場でスキルや技術を獲得し、それをすぐに活かして業績に貢献できる人材を得ることが目的の場合が多いからである。
カルチャーフィットとスキルフィットは、どちらかに偏り過ぎることなくバランス良く見極めることが大切だ。目安としては、カルチャーフィットとスキルフィットとの割合が、3対7程度が一般的とされている。採用時にこのバランスを意識してみても良いだろう。
まとめ
カルチャーフィットとは、企業文化や社風と新しく入った社員とがマッチしているかどうかを表す言葉だ。カルチャーフィットがズレていると、採用のミスマッチが起こりやすくなるため、採用する企業側にとっても採用される人にとっても好ましくない状況に陥ってしまう。
そのような不幸な事態を回避するためにも、カルチャーフィットを意識した採用の実施が注目されている。企業の社風や文化と採用すべき人物のペルソナを明確にしたうえで、スキルフィットとのバランスも鑑みながら判断することが大切である。