2021.9.10

新入社員の転職検討が増えている背景とは? 企業が取り組むべき対策

読了まで約 7

■新社会人の転職サイト利用率は10年で約26倍増

■新社会人の早期転職を促す2つの背景

■新入社員の転職を後押しする根本的な理由

■早期離職を引き起こすミスマッチの4つの原因

■採用活動中に行うべきミスマッチ解消の3つのポイント

■新社会人が入社した後に行うべきミスマッチ解消のたったひとつのポイント

新入社員の転職検討が増えている状況とその背景

人材サービスを展開するパーソルキャリア社は、運営する転職サービス「doda」の新社会人(新卒入社4月時点)登録が、過去10年間で約26倍増加(2021年月時点)したことを発表した。
パーソルキャリア社は、この分析結果により、新社会人は入社直後から中長期的な視野をもって自身のキャリア形成を検討しており、都度自身の市場価値を把握しながら将来の転職も選択肢に入れた情報収集に余念がない傾向が強まったと結論づけている。

また、パーソルキャリア社は2019年に終身雇用終焉を示唆する発言が経済界から多くあらわれたことが、2021年卒学生の就職活動とキャリア観に多大な影響を及ぼしているとしており、終身雇用の崩壊を前提に就職活動を行った「最初の世代」だとしている。

そこで本稿では、キャリア観と働き方が今までになく多様化する中で、早期転職を防ぐ観点から、まずは新入社員の転職検討が増加している背景について見ていこう。

次に、新入社員が入社してから間もない間に転職を検討し始める具体的な要因について確認していく。
最後に、内定を出して自社に入ってもらった新入社員の早期転職を引き起こさないよう、新入社員と自社とのミスマッチを解消するポイントについて見ていきたい。

前述のパーソルキャリア社の調査でも分かる通り、今の新入社員はまさしく「転職ネイティブ世代」であり、入社時から将来の転職を意識しているのが大半と考えてよいだろう。

もともと1990年代後半より、新卒入社後3年以内で離職する割合は30%ほどといわれていて、これら人材をひと括りに「第二新卒」と呼んだ。
しかし近年ではこの離職までの意思決定のペースが2年ないし1年以内へと短期化しつつあるのだが、この動きの背景は2つある。

1つ目は、終身雇用や年功序列に代表される日本型雇用習慣と人事制度の崩壊、そして2つ目に第二新卒を歓迎する企業側の事情が横たわる状態だ。
2つの背景を詳しく見ていこう。

1.変貌を遂げた「働く環境」
過去10年で「働き方改革」を代表するように、日本のはたらく環境は大きく変貌を遂げ始めている。

加えて、過去1年以上にわたって社会全体に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染拡大による、急激に普及したリモートワークによる職場の「仮想化」も考えられる大きな要因のひとつだ。

たとえば営業部門ひとつを取ってみても、出退社や直行直帰が自宅からのリモート勤務となり、出張や接待などがなくなり社外とのやり取りは全てウェブ会議へ移行しつつある。
長らく「当たり前」であった多くの業務活動が変革していることからも、働く環境が大きく変化していることがわかる。

2. 続く人材難による「二卒」の歓迎
かつて「すぐ辞めてしまった頼りない人物」といった印象があった第二新卒は、長期化する空前の若手採用難の中で、魅力的な売り手市場へと変わりつつある。
第二新卒は新卒ではないが、人物本位の採用が行われる点で、一般的な転職とも大きく異なり、いわば新卒採用と中途採用の中間に位置する市場といえよう。

2008年の金融危機、いわゆるリーマン・ショックから回復した労働市場において新卒採用に苦戦する企業を中心に広がりを見せた第二新卒市場は、コロナ禍により一時は後退したかのように思えたが、依然求人数は力強く推移している。

第二新卒をマイナスと捉えない企業数が増加していることが、新社会人の早期離職を後押しする環境を醸成しているのだ。

新入社員が転職を検討する理由とは

本項では、まず若者が早期転職を視野に入れた活動を行ったり、実際に転職する決断を行うにあたっての根本的な理由について、そして具体的な動機について、それぞれ見ていきたい。

前項で説明した日本型雇用慣行の終焉に連動して、昨今では採用戦線においてもジョブ型雇用や通年採用などに多様化し、大きな変革を迎えつつある時期だ。

新卒の一括採用、終身雇用の保障、年功序列による半自動的昇給など、いわゆる「メンバーシップ型」といわれる日本独自の雇用慣習は、もはや限界を迎えているといってよい。
企業側としては、メンバーシップ型を脱却し、職掌を明確にして、年齢や入社年次を問わない「適材適所」を実現できる雇用制度と人事評価システムの構築は、効率化を進めコスト減を図るための重要な施策となっている。

関連記事:メンバーシップ型雇用は薄れゆく?ジョブ型雇用への転換で企業が求められることとは

これに加えてDX(デジタルトランスフォーメーション)により、技術が日進月歩でビジネス環境を変化していると同時に、将来が不透明なVUCA時代において、新卒を一括採用して自社の莫大なリソースをかけて育成するよりも、専門力や即戦力に強みがある中途採用の方が遥かに採用を省力化できる点も、日本企業の雇用制度改革の力強い理由となっている。

企業が根気よく新卒人材の育成に取り組む機会が減少していくということは、新社会人が我慢強く1社目で働き続ける理由が減るということにもつながるわけだ。
これらこそ、新社会人を中心とする20代の若年労働者が、「成長できないと感じていてもまずは3年働く」といった、従来の考えを持たなくなり、早期の転職を検討する要因ともいえるだろう。

次に、若者が早期離職を検討、あるいは決断に至るまでの具体的な動機について見ていこう。
入社後に、入社した企業に対して違和感や不安などを抱く現象、いわゆる「リアリティ・ショック」は、多くの新社会人が経験することだといわれている。

入社前の理想と入社後に直面する現実とのギャップを多かれ少なかれ感じるということは、多くの社会人が一度はあるに違いない。

もうひとつ、若手の早期離職を発生させている理由として、採用活動での「ミスマッチ」があげられる。ミスマッチとは、企業が従業員へ求めることと、働く個人が企業へ求めることの内容に相違がある状態を指す。特に、期待と現実との間に埋まらないギャップが存在した場合に使われることが多く、採用活動でのミスマッチは、次の4つの理由からなることが多い。

関連記事:ミスマッチとは?企業やビジネスにおける定着率の高い組織をつくるための秘訣

1. 選考活動にて良いことだけ伝えている
採用活動の全体を通して入社後のギャップ、ミスマッチなどを生じさせる最も大きな原因とは、求人時に企業の良い面のみを伝えすぎることだ。

求職者を「獲得する」ことが目的となってしまうと、採用活動は入社後のミスマッチを生む原因となりかねない。
自社のネガティブな部分について、ある程度求職者に見えるかたちで提示しない、あるいは採用面接時に質問された場合、うやむやに誤魔化した上で、自社の良い面を強調するなどといった行為は、早期離職のリスクを高める。

2. 求職者に対する情報の提供が足りていない
中途と新卒を問わず、求職者に対する情報の提供不足は、採用段階において、入社後のギャップを生み出す大きな要因となる。
自社への応募者へ適切な情報提供を行わなかった、あるいは極端に情報量が少なかった場合、明らかに求職者が企業を判断する材料に欠くこととなり、入社後のギャップを増長する一因となる。

3. 面接での相互理解が不足している
企業と求職者の相互理解が不足すると、ミスマッチが起きやすい。
これは、企業が応募者に求めるスキルと、求職者が企業において活かしていきたい(または成長させていきたい)スキルに乖離がある場合に発生する。

原因は主に2つあり、まず企業の採用広報における適切な情報提供ができていないこと、次に企業の採用選考基準が「見える化」されていないことだ。

4. 入社後のフォローが十分でない
年間休日、給与、福利厚生や各種制度などについては入社前に情報を提供することが可能だ。しかし職場で接する同僚や上司との人間関係は、入社してみないと分からない。

採用担当による入社後のフォロー体制や、いつでも相談しやすい仕組みづくりが足りていないとミスマッチが発生しても察知ができない。
結果として、さらなるモチベーション低下と早期離職を招く要因となる。

関連記事:エンゲージメントを向上させる具体的な方法、事例とは?|内定者・新入社員2021年度版

新入社員の転職を防ぐには? ミスマッチを防ぐポイント

時代の流れに沿った働く価値観の多様化は逆行しがたい流れであり、既に述べた通り企業による雇用制度や人事評価の改革もこれらを後押ししている理由のひとつだ。

しかし、採用活動におけるミスマッチに起因する早期離職は、せっかく育成し始めた人材がいなくなってしまうことを意味しており、企業にとり大きなリソースの浪費につながる。
採用活動でミスマッチが生じる原因は前項でもみてきたが、根底に共通することは、採用することが目的と化していることだ。

このため、採用活動を通じて企業と求職者のミスマッチを減らしていくため、企業が行うべきことは、あくまでも「採用をもって求人のゴールとしないこと」であり、本項では採用活動でのミスマッチを減らす4つのポイントについてみていきたい。

1. 「RJP」を意識しながら企業情報の提供に努めること
自社のポジティブな面に限らず、ネガティブな面についてもしっかりと情報提供を行っていくことを「RJP(Realistic Job Preview)」と呼称する。
入社後のミスマッチが、自社のネガティブな面を起因とする場合が多いことから、これを最小化していくために、入社前の採用活動において情報を開示していくことを目的としている。
「思っていたものと違った」、「こんなことは聞いていない」などといった声をなくしていき、これらを理由として早期離職に至ることがないよう、ネガティブな面も含めた総合的な企業情報の開示がポイントとなる。

2. より意義のある面接時間を作り上げていくこと
選考活動の面接時、企業と求職者の双方が誤解や齟齬、見えないミスマッチなどを最小化していくため、企業は次の2点を意識することが望ましい。
まず、面接の冒頭で自社が今回採用活動を行っている背景や、企業としての人材ニーズ、そして自社の将来戦略などについて、求職者へ丁寧な説明を行い、応募にあたって誤解などがないか確認すること。
そして、可能な限り現場担当部門と採用担当部門の双方から複数名で面接を行い、採用担当部門も配属予定の現場担当が求職者に求めている能力や経験などをしっかり把握していることだ。

3. リファラル採用などを導入して入社前の相互理解を深めること
既述した「RJP」にも通じるが、採用手法を多様化させていくのもミスマッチを防ぐ上で重要だ。
特に、自社の既存従業員からの紹介で採用活動が行われるリファラル採用は、入社後のミスマッチを減らしていくことが期待できる施策のひとつだといえよう。
既に働いている従業員から直接自社の印象をヒアリングし、良い面やネガティブな面の双方を知りうることで、よりマッチング精度が高くなると同時に、従業員側も自社に関心を抱いている求職者が自社にマッチしているか、時間をかけて確認していくことが可能だ。

関連記事:リファラル採用のメリットとデメリットとは?日本企業の今後の動きについて

4. 入社が確定してからのフォローを欠かさないこと
採用通知を出し、入社の承諾を得られた時点で採用活動が終了するわけではなく、これはあくまで自社の従業員として活躍してもらうスタートに過ぎない。
採用できたとしても、ミスマッチが生じて早期離職になってしまったら元も子もないため、採用担当からは入社して担当部署へ配属されるまで、しっかりフォローを行っていくことが求められる。
入社直前の内定者、あるいは入社後間もない従業員は、最も近い立ち位置で自社を客観視できる貴重な人材に他ならない。
ミスマッチがないかどうかのフォローをしつつ、採用活動や自社の印象全般などをフィードバックしてもらうことで、次回以降の採用活動に活かしていくことも期待できる。

関連記事:フォローアップ面談とは?新入社員のサポートから定着につなげる、面談の進め方・質問内容を解説
関連記事:内定者フォローのポイントとは?コロナ禍でもオンラインで内定者と接点を強める方法

まとめ

・人材サービスのパーソルキャリア社の調査によれば、転職サービス「doda」への新社会人登録者数が過去10年で約26倍増加したと発表した。
これは、全世代での増加率が約5倍増であることと比較すると、著しく新社会人の転職サービス利用者数が増加していることがわかる。
パーソルキャリア社は、分析結果をもとに、2021年卒の求職者が、終身雇用の崩壊を前提に就活を行った「最初の世代」だとしている。

・新社会人が入社間もない時期で転職を視野に入れる背景は主に2つある。
1つ目に、日本型雇用形態である終身雇用や人事制度である年功序列が終焉しつつあることに加え、DXやコロナ禍によるリモートワークなど、働き方が多様化していること。
2つ目に、近年慢性化しつつある採用難により、企業が第二新卒を積極的に採用する動きが活発化していることから、第二新卒はもはや「すぐ辞めた頼りない人物」とは認識されていないこと。

・新卒社員が早期の転職や1社目の離職を考えこれを決断する背景には、「リアリティ・ショック」と呼ばれる、入社後に、入社した企業に対して違和感や不安などを抱く現象があるとされる。
就職・転職プラットフォームを運営するオープンワーク社が行った調査によれば、若手従業員がリアリティ・ショックを感じるポイントは、「仕事内容や配属について」や「組織の特徴や社風」、「環境やキャリア開発」などと多岐にわたる。

・リアリティ・ショックとは別に、新社会人の早期離職を引き起こす原因として、採用活動における「ミスマッチ」が存在する。
ミスマッチの企業側要因としては主に4つある。
1つ目に、選考活動にて良いことだけ伝えていること。
2つ目に、求職者に対する情報の提供が足りていないこと。
3つ目に、面接での相互理解が不足していること。
そして最後に、入社後のフォローが十分でないことだ。

・採用活動中~入社前のミスマッチを減らすポイントは次の3つだ。
1つ目に、自社のポジティブな面に限らず、ネガティブな面についても情報提供していく「RJP(Realistic Job Preview)」に取り組むこと。
2つ目に、求職活動と採用活動の双方に齟齬や誤解がなきよう、より意義のある面接時間を作り上げていく努力を惜しまないこと。
そして3つ目に、既存従業員の声などを活用したリファラル採用を導入することで、入社前から求職者や内定者との相互理解を深めていくことだ。

・新社会人が入社してからのミスマッチが生じないようにするポイントはシンプルで、次の1点だ。
それは、入社が確定してからのフォローを欠かさないこと。
採用通知と入社承諾は決して採用活動の終了を意味しない。
入社後の定期的な人事部門による研修や面談を入れていくことで、リアリティ・ショックや入社前後でのギャップなどないか、丁寧なヒアリングとフォローアップを行うことが望ましい。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

get_field('cf_general_profile_name', 39);

『MarkeTRUNK』編集部

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から
知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。
さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。
独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

関連記事 RELATED POSTS

関連資料ダウンロード RELATED POSTS

メルマガ会員登録で最新マーケティング情報やトレンド情報、セミナーイベント情報をチェック!

メールマガジンのサンプルはこちら