内定とは一種の労働契約であり、取り消すと違法となるケースがあるため注意が必要だ。この記事では、内定取消の定義とともに内々定との違いや関連する法律を紹介する。内定取消が違法にならないケースや会社側で注意すべきポイントまで解説するため、あわせてチェックしよう。
目次
内定取消について
そもそも内定とは、採用や就任を予定した人材に対し、先んじて入社の約束をすることである。在学中や就業中であるなどの理由があり、すぐには働けないものの、就職を希望する人材の採用が決定した場合に出されるものだ。
また、企業内で正式な手続きをおこなう前に、なんらかの役職への就任が内々に決定している場合など、就職に限らず内定という言葉を使うケースもある。今回は、就職に関して内々に人材の採用が決定しているとの意味で用いる場合の内定について解説していく。
内定は、公に発表するものではない。実際に勤務しているわけではないものの、今後会社で働くことを企業と就職希望者の双方が合意している状態である。そのため、一般的には内定によって雇用を保障する一種の労働契約が成立すると認識されている。
新卒学生の就職に関する選考をおこなう場合には、6月に選考が解禁され、内定を出すことによって早めに入社の約束をする。就職を希望する人材に内定を通知する際は、口頭だけではなく書面で伝えることが多い。一般的な流れとして、内定通知が来てから求職者が誓約書の提出などで承諾すると内定が成立する。
この内定通知書に法的な発行義務はない。そのため、とくに転職者の場合には発行せず、口頭で伝えて入社手続きをしていく場合がある。
それでは、内定の取り消しは可能なのだろうか。内定取消とはどのようなものか、また内定と内々定の違いについて、それぞれ詳しくチェックしていこう。
内定取消とは?
企業が採用するつもりであったとしても、なんらかの理由で入社の予定を取りやめたい場合があるものだ。内定取消とは、いったん採用すると決めて内定している状態であるにもかかわらず、その決定を取り消すことである。
内定取消自体は、合法的にできるものだ。ただし先述のとおり、内定とは一種の労働契約が成立したものであると認識されている。内定取消とは労働契約を取り消すことになるため、法律上は「解雇」と同義である。
内定者になにも落ち度がないにもかかわらず内定を取り消すことは、通常であれば許されることではない。しかし、内定通知を出したあとに予期せぬ事情から企業の業績が低迷してしまうなど、取り消さざるを得ないケースもある。
このような客観的に合理的と認められる場合であれば、過去の判例でも内定取消が認められている。ただし内定取消が企業にもたらすリスクには、違法かどうかだけではなく、以下のようなものがある。
・ 企業のイメージダウンにつながる恐れがあること
・ 厚生労働省のホームページ上で企業名が公表されること
また、SNS上で内定取消の話題が出た場合、背景が語られないままに感情的な声によって炎上につながってしまう恐れがあるため注意が必要である。
内定と内々定の違い
内定と似た言葉に「内々定」がある。内定と内々定の大きな違いは、労働契約が成立した状態かどうかだ。
内々定とは内定の前におこなうものであり、内々でのみ決定した口約束に相当する。応募者に対して事前に採用するつもりがあるという事実を伝えて、入社意思を固めてもらうために実施している施策だ。経団連が内定日を原則として10月1日以降と定めたことで、内定通知が遅れて、人材を逃してしまわないようにしようと考える企業が増え、内々定が広まった。
内々定がある企業では、新卒採用予定者に対して内々定の連絡後に、採用通知と内定承諾書を送る。その後、企業側が求職者から内定承諾書を受け取った時点で採用が決定する。内定の前におこなう内々定の段階では労働契約が成立しておらず、法的な効力がないため企業側と学生側ともに取り消しやすい状態だ。
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内定取消に関する法律をチェック
先述のとおり、内々定であれば法的な効力がなく、法的には容易に取り消せる状態だが、内定が決定している場合には労働契約が成立しているため取り消しにくい状態である。
内定取消は法律上の解雇と同義であるため、一方的に内定を取り消すと未払い給料や慰謝料の請求、損害賠償といった訴訟問題に発展してしまうケースがあり、注意が必要だ。
「労働契約法」は、労働契約の基本的事項を定めた法律である。この法律の第16条では、解雇について以下のように定めている。
“解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする”
引用:労働契約法第16条
社会の常識に照らして納得できる理由がない場合には、企業側の内定取り消しが違法であるとして認められない可能性があるため注意を要する。実際に、内定者の雇用契約上の地位保全を目的として、内定取消の無効を認めた判例がある。
また「労働基準法第20条」では、30日前に解雇の予告がなかった場合に、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めている。
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内定取消が違法にならないケース
内定取消が違法にならないケースには、内定者都合と会社都合とがある。それぞれのケースで内定取消が認められる条件は、大きく分けると以下のとおりだ。
・ 内定者都合のケース……病気やケガ、犯罪や不適切な言動など
・ 企業都合のケース……経済状況の悪化
内定を取り消すだけの合理的な理由が必要となるため、内定取消を考えている企業は注意すべきである。それぞれのケースにおける条件を詳しくチェックしていこう。
内定者都合のケース
内定者都合によって内定取消が違法にならないケースには、以下のような例がある。
・ 最終学歴の詐称など、虚偽の内容を申告していた
・ 重大な病気やケガによって、勤務に耐えられないと予測される健康状態となった
・ 学校を卒業できないなど、入社の前提条件を満たさなくなった
・ 犯罪を犯した
・ 不適切な言動をした
上記のケースであっても、該当したからといってすべて内定者都合として内定を取り消せるわけではない。
たとえば、選考時の申告では健康だとされていたものの、実際には健康状態を偽っていたケースで見てみよう。この場合、比較的早期に入社できる程度の症状であれば、内定取り消しが認められない可能性がある。
このように条件だけではなく、内容の重大さなどを慎重に検討する必要があることに注意しよう。
会社都合のケース
企業側の都合によって内定を取り消す場合には、内定者都合のケースよりもさらに慎重な対応を求められる。企業側の都合による取り消しの場合には、原則として整理解雇の要件を満たす必要がある。経済情勢の悪化や大災害の発生によって企業が経営難におちいってしまったなど、やむを得ず雇用できなくなったために内定取消に至ったのだという理由が必要である。
会社都合による内定取消が違法にならないケースでは、以下のような4つの条件をすべて満たさなければならないことに気を付けよう。
・ 人員を削減する必要性がある
・ 人員削減を回避するための努力を尽くしていた
・ 説明をしっかりとおこない、妥当な手段により解雇の手続きをした
・ 合理的な基準に基づいて解雇対象者の選定を行っている
つまり、企業側都合の場合には、内定を取り消す必要性があり、内定取消を回避する努力を尽くしていてもほかに手段がないような、やむを得ない場合に限って内定取消が認められるのである。
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内定取り消しが違法にならないために会社側で注意するポイント
このように、もしも内定を取り消す場合には、違法だと判断されないようにさまざまなポイントに着目しなければならない。違法にならないために会社側で注意すべきポイントは、以下のとおりだ。
・ 労働契約法16条
・ 労働基準法第20条
・ 整理解雇の4要件
・ 労働省発職第134号
労働契約法16条と労働基準法第20条、整理解雇の4要件については先述したとおりである。また「労働省発職第134号」では、どうしても内定取消などを検討しなければならない場合、事前に公共職業安定所に通知し、公共職業安定所からの指導を尊重することなどを定めている。
このように、もしも内定を取り消す場合には、さまざまな法律や取り決めに注意が必要だ。また、法律だけではなく、採用予定者への対応にも注意しなければならない。
会社の業績が低迷したことによって、今後破綻するかもしれない状態になる場合もあるだろう。入社してもらったとしても活躍の場が与えられないとわかっているようなケースであれば、内定を取り消したほうがお互いのためになる可能性がある。会社側で注意すべきポイントにはさまざまなものがあるものの、必要であれば対応を検討してみると良いだろう。
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まとめ
そもそも内定とは、採用や就任を予定した人材に対し、先んじて入社の約束をすることである。実際に勤務しているわけではないものの、今後会社で働くことを企業と就職希望者の双方が合意している状態だ。
そのため、一般的には内定によって雇用を保障する一種の労働契約が成立すると認識されている。内定取消が企業にもたらすリスクには、以下のようなものがある。
・ 企業のイメージダウンにつながる恐れがあること
・ 厚生労働省のホームページ上で企業名が公表されること
内定取消は、法律上の解雇と同義である。一方的に内定を取り消すと、未払い給料や慰謝料の請求、損害賠償といった訴訟問題に発展してしまうケースがあるため注意が必要だ。
もしも内定を取り消す場合には、違法だと判断されないように内定を取り消すだけの合理的な理由を要する。違法にならないために会社側で注意すべきポイントなどもしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。