2023.2.9

残業の上限規制について時間数や罰則、36協定を取り上げて解説

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近年、ワークライフバランスの改善などを目的として、残業の上限規制が適用された。今回は、残業の上限規制の概要やその目的、違反した場合の罰則の有無、規制が一時猶予される業種などを紹介する。さらに関連する36協定まで解説するため、あわせてチェックしよう。

残業の上限規制とは?

残業の上限規制とはどのようなものかを確認する前に、まずは法定労働時間から理解していこう。

原則として、従業員の労働時間は1日8時間まで、1週間に40時間までと労働基準法で定められている。従業員にこの法定労働時間を超えた労働をさせる場合が、時間外労働(残業)となる。

企業側が従業員に時間外労働や法定休日の休日労働をさせられるようにするためには、労働基準法第36条にもとづく労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出る必要がある。労働基準法第36条にもとづいて締結された労使協定のことを、36(サブロク)協定と呼ぶ。

もしも36協定を結ばずに残業させた場合には違法となってしまうため、企業側は十分に注意が必要だ。この36協定の概要と締結の効果に関する詳細は後述する。

近年、政府は「働き方改革」の推進などを行っている。それに伴い、時間外労働の上限規制が⼤企業では2019年4⽉から、中⼩企業では2020年4⽉から導入された。

時間外労働の上限規制が導入されたことにより、残業の限度時間は原則「月45時間・年間360時間」となった。残業の限度時間は、臨時的な特別の事情がなければ超えられないものだ。この時間外労働の上限規制に、休日労働は含まれない。

また、臨時的な特別の事情があり、労使が合意していたとしても、以下の条件を満たす必要がある。

● 時間外労働が年720時間以内(法定休日労働を除く)
● 時間外労働+法定休日労働が月に100時間未満
● 時間外労働+法定休日労働がどの2〜6ヶ月でも平均して80時間以内
● 月45時間を超えられるのは年に6ヶ月までが限度

ただし、事業や業務によっては、例外的に適用が一時猶予や除外となっているものもある。

関連記事:ワークライフバランスは古い?定義や取り組み事例、リモート時代に適した新たな考え方を解説
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

残業の上限規制を設けた目的とは?

働き方改革の実施に伴って残業の上限規制を設けた主な目的は、以下のとおりだ。

● 女性や高齢者の就業を促進すること
● ワークライフバランスの改善
● 健康の確保
● 生産性の向上

そもそも働き方改革とは、働く人が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を自分で選べるようにするための改革である。これによって一億総活躍社会を実現し、中間層の厚みを増しつつ、成長と分配の好循環を実現することなどが働き方改革を行う目的だ。

残業の上限規制を設けたことにより、長時間労働を回避できるようになった。これによって女性や高齢者なども働きやすくなるため、性別や年齢などを問わない労働参加率の向上が期待できる。また、ワークライフバランスの改善によって男性の家庭参加が促せるうえ、長時間労働によって健康を害することを予防し、過労死のリスク軽減にもつながる。

さらに時間外労働を短縮させ、労働環境を充実させることで、生産性の向上につなげる狙いもある。

関連記事:自社の離職率は高い?低い?日本の業界別離職率と下げる取り組みを解説

残業の上限規制に違反した場合に罰則はあるか?

企業としては、残業時間の上限規制に違反した場合の罰則があるのかどうかも重要なポイントだ。結論からいえば、この場合の罰則ができたため注意しなければならない。

36協定で定める残業時間の上限は、法改正前にも厚生労働大臣告示によって定められていた。しかし、特別条項付きで36協定を締結することで、時間の上限なく残業させたとしても罰則はなく、行政指導のみで終わっていた。

それが近年、時間外労働の上限規制が導入されたことによって規制が厳格化し、違反した場合の罰則が設けられるようになったのだ。時間外労働の上限規制に違反した場合には、「6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」を科されることが、労働基準法第119条で定められている。

時間外労働の上限規制で罰則の対象となるのは、違法な残業を実際に指示した管理職だけではない。違法性を認識しつつ改善措置を怠った事業主に対しての罰則があることにも気を付けなければならない。

違反した場合の罰則が定められたことには、実効性のある残業時間の削減対策を企業側がするように促す目的がある。「残業が年720時間以内であること」「休日労働を含んでも1ヶ月で100時間未満であること」など、時間外労働の規制として明確な上限が設定されたため、これらに違反しないような対策の必要性が高まっている。

関連記事:ES調査(従業員満足度調査)とは?行う目的、アンケート項目例を解説
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049

残業の上限規制が一時猶予される業種

先述したように、特別の事情があって労使が合意していたとしても、基本的には従業員に残業をさせるためには上限規制を超えないようにおさめる必要がある。しかし「建設事業」など、以下のように業種によっては残業の上限規制の適用が一時猶予されるものもあるのだ。

● 建設事業
● 自動車運転の業務
● 医師
● 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業

これらのうち「鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」だけは、2024年3月31日までの猶予期間中にも適用される規制があり、その後は上限規制がすべて適用となる。また、それ以外の一時猶予のある業種は、猶予期間中の適用がなく、その後は業種に応じて適用される。

このように業種によっても適用のされ方が異なるため、自社が一時猶予に該当するのかどうか、該当する場合の対応などをあらかじめ理解しておこう。

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36協定とは?

残業時間に関する決めごとには、2020年から導入された時間外労働の上限規制だけではなく、それ以前から取り決められていた36協定も関わってくる。今後36協定を締結する際には、「1年の総労働時間の上限が720時間以内」といったように、時間外労働の上限規制の定めが変更された部分にも気を付けて内容を取り決める必要がある。最後に、36協定の概要と締結の効果について、詳しくチェックしていこう。

(1) 概要

先述したとおり、36協定とは、法定労働時間を超える労働や休日勤務を命じる場合に必要となるものだ。時間外労働や休日勤務をさせるために、労働基準法第36条にもとづいて労働者の代表と使用者が協定を結び、労働基準監督署に届け出なければならないことを指して36協定といわれている。

36協定の正式な名称は「時間外・休日労働に関する協定届」である。つまり「労働基準法第36条に規定のある協定届」であることを省略し、36協定という通称で呼ばれているのだ。

36協定を締結する労働者の代表と使用者とは、実際にどのような立場の人なのかもチェックしていこう。労働者の代表とは、労働者の過半数が参加する労働組合における代表者、もしくは労働者の過半数の同意によって選出された労働者の代表である。

労働者の過半数が参加する労働組合がない場合、当該事業場の労働者の過半数が同意した代表と協定を締結しなければ、実質要件を満たしていないと労働基準監督署に判断されるかもしれないのだ。そのため、使用者側が労働者の代表を指名することはできない。また、労働基準法41条2号に規定のある管理監督者に該当する社員が、労働者の代表になることもできないことにも注意が必要である。

36協定は、事業所ごとに締結しなければならないことも理解しておこう。複数の事業所がある企業では、それぞれの事業所で作成したうえで、管轄の労働基準監督署に提出する。

ただし電子申請をする場合のみ、2021年3月末日以降は本社が一括して申請することも可能だ。本社が一括して申請する場合でも、各事業所で36協定を締結しておく必要がある。

(2)36協定締結の効果

36協定を締結させる効果は、時間外労働や休日の労働を従業員に命じられるようになることだ。

もともとの法定労働時間として定められているのは、週40時間、1日8時間である。基本的には、これ以上の労働を従業員にさせることは労働基準法違反となる。

法定労働時間を超えて労働させた場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられることが定められている。実際には労働基準監督署から是正勧告が行われる場合が多く、いきなり刑事罰を科せられるケースは少ないものの、対応には注意が必要だ。また、36協定を締結させていなかった場合、未払い残業代を請求されたときに不利になる可能性もある。

週40時間、1日8時間を超える労働をさせる場合には、36協定を締結して所定の手続きを踏むことによって、労働基準法違反による刑事罰を免れる効力を発揮する。これにより、時間外労働や休日の労働が認められるようになるのだ。

働き方改革に伴って労働基準法が改正された際に、36協定で定める残業の限度時間が原則「月45時間・年間360時間」となった。上限内の残業時間で対応しきれない場合には「特別条項付きの36協定」を締結することで、臨時的な特別の事情がある場合の「年間720時間」などの限度時間を適用できるようになる。

なお、36協定を締結させたことによる効果には有効期間が定められており、永続的なものではない。また、協定の開始日よりもあとに届け出た場合には、届け出の日付以降についてのみ効力を発生することにも注意しておこう。

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最後に

原則として、従業員の労働時間は1日8時間まで、1週間に40時間までと定められている。しかし繁忙期には、労働時間の規定どおりでは業務をまわしきれないケースがあるものだ。

そのような場合には、36協定を締結しておくことによって、時間外労働や休日の労働を従業員に命じられるようになる。ただし、労働基準法が改正された際に、36協定で定める残業の限度時間の規定が変更となったことに注意が必要だ。規制の厳格化により、違反した場合の罰則が設けられたため、企業側としては今まで以上に対応に気を付けなければならないだろう。

業種による違いや36協定を締結する労働者の代表者選びなど、違法にならないために企業側で注意すべきポイントをしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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