2023.4.3

労働安全衛生法とは?違反しないために企業が守るべき重要事項をわかりやすく解説

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労働安全衛生法とは、労働災害を防止するための基準や、責任体制について定められている法律だ。労働者の安全と健康の確保と共に、快適な職場環境の形成を目的としている。

労働安全衛生法において、企業が遵守すべき事項は多数存在する。その全てが人の命に関わるものであることを理解しなければならない。この記事では、労働安全衛生法の目的や背景、企業が守るべき事項について解説する。

労働安全衛生法とは

労働安全衛生法とは、1972年に制定された法律だ。労働災害を防止するための基準や、責任体制について定められている。ここでは、労働安全衛生法の目的や制定された背景について解説する。

労働安全衛生法の目的

労働安全衛生法の目的は、労働者の安全と健康の確保と、快適な職場環境を形成することだ。労働安全衛生法では、危険物や有害物、機械や安全衛生教育といった労働災害を防止するための事項が定められている。

ほかにも、職場における責任者の選任や、委員会の設置などの責任体制や自主的活動を促進する事項についても定められている。つまり、労働者の安全と健康の確保や快適な職場環境の形成を仕組み化することが目的なのだ。

労働安全衛生法成立の背景

1960年頃、日本は高度経済成長期を迎えた。製造業界は生産力を高めるため、操作が不慣れな機械が導入されるといった労働環境の変化が起こった。1965年頃には、過酷な労働環境が広まり、労働災害による死亡者が毎年約6,000人を超えるようになったのだ。

しかし、当時は労働安全衛生関連の規定については「労働基準法」に含まれており、適切な労働環境かどうかを判断するルールは存在していない。労働災害の増加を問題と捉えた当時の労働者たちが、専門家と共に労働安全衛生法令の整備に取り組んだのだ。

そして、1972年に労働安全衛生法が制定された。この法律が施行され、約10年で事故件数が半分以下まで減少したことからも、その効果の大きさがわかるだろう。

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労働安全衛生法の対象者

労働安全衛生法を理解する上では、対象者の定義を理解しなければならない。ここでは、労働安全衛生法の対象者となる事業者と労働者の定義について解説する。

事業者

事業者とは、事業を行うものであり、労働者を使用するものだ。法人であれば法人そのもの、個人事業主であれば事業主本人を指す。法人の場合、経営者を指すのではなく、企業そのものを指している。

労働者を使用している事業者は、例外なく労働安全衛生法の対象となる。法令違反が発覚した場合、事業者だけではなく、現場の責任者も罰せられることがあるため注意が必要だ。

労働者

労働者とは、事業または事業所に使用され、賃金を支払われる者だ。労働安全衛生法は労働基準法から派生したため、労働者の定義は労働基準法の定義と同様になっている。

ただし、同居の親族のみを使用している事業主に使用される労働者や家事支配人、船員については労働者には含まれない。

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労働安全衛生法施行令と労働安全衛生規則の違い

労働安全衛生を定めるルールとして、労働安全衛生法施行令と労働安全衛生規則が存在する。この2つの違いは、定めた機関と法的拘束力の強さだ。

労働安全衛生法施行令は、内閣が法律を基にルールを定めた「政令」であり、労働安全衛生法と比べると法的拘束力は強くない。一方、労働安全衛生規則は、厚生労働省が労働の安全衛生についての基準を定めた「省令」だ。

政令と省令には以下のような違いがある。

● 政令:内閣の命令として、法律の原則を定めたもの
● 省令:各省の大臣の命令として、政令を具体的に定めたもの

つまり、政令のほうが省令より法的拘束力が強く「法律・施行令・省令」の順に具体的な内容が定められているのだ。

労働安全衛生法では、労働安全衛生法施行令で適用範囲や用語の定義といった原則を定め、労働安全衛生規則で具体的な事項を定めている。

労働安全衛生法で企業が守るべき重要事項

労働安全衛生法で企業が守るべき事項は多数存在する。労働者の健康保持やストレスチェック、労働者への安全衛生教育といったものから、労働災害の防止措置やリスクアセスメントの実施も対象だ。

ここでは、企業が守るべき重要事項について解説する。

労働者の健康保持

労働安全衛生法では、常時使用する労働者に対し、雇い入れ時と1年以内に1回の定期健康診断を受けさせる義務が課せられている。受診項目についても定められており「特定業務従事者」については、特定業務への配置替え時と6カ月以内に1回健康診断を受けなければならない。

ストレスチェックの義務

2015年からは、ストレスチェックも義務化された。ストレスチェックの実施により、高ストレス状態にある労働者を早期発見することを目的としている。常時雇用する労働者の人数が50人以上の事業所の場合は完全義務で、その結果を労働基準監督署へ報告することまで義務づけられている。一方、50人以下の事業所の場合は努力義務となっている。

ストレスチェックの方法としては、事業所の衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者が実施計画を策定し、医師や保健師などにストレスチェックの実施を依頼する。

労働者への安全衛生教育

事業者は労働者に対し安全や衛生のための教育をすることも義務づけられている。就業中の安全や健康を守るためには、労働者の理解も重要だ。

「整理・整頓・清潔」といった基本的な内容から、業務で発生する可能性のある疫病の原因や予防措置、事故発生時の対応について教育する必要がある。労働者を新たに雇い入れたときや、配置転換により業務内容が変更した際に実施する。

労働災害の防止

事業者は、労働災害の防止措置を講じることも求められている。 機械の動作範囲に柵を設けるといった、労働者の作業行動から生ずる労働災害防止の措置を施す必要があるのだ。

労働災害発生の危険がある場合は、直ちに作業を中止して労働者を作業場から退避させるといった、危険発生時の措置についても講じなければならない。

リスクアセスメントの実施

特に製造業や建設業の事業所に対し、努力義務としてリスクアセスメントの実施を課している。リスクアセスメントとは、事業所にある危険性や有害性の特定と共に、リスクの低減措置に対する優先順位を設定することだ。

事業所は、リスクアセスメント結果に基づき、適切な労働災害の防止策を講じなければならない。優先順位の設定基準としては、法定事項が最も優先順位が高い。その次に優先されるのが、危険な作業の廃止や変更といった本質対策だ。

危険業務の就業制限

危険業務については、就業制限が存在する。特定の業務においては、免許保有者や技能講習修了者などの資格を保持している者のみが就業できることが定められているのだ。具体的には、労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則で定められている。

例えば、最大荷重1トン以上のフォークリフトを運転する場合は、フォークリフト運転技能講習の修了が必要だ。

安全衛生委員会の設置

常時50人以上の労働者を雇用する全ての事業場においては「衛生委員会」の設置が義務づけられている。特定の業種については「安全委員会」の設置も義務となっており、「安全委員会」「衛生委員会」を統合した「安全衛生委員会」の設置も認められている。

安全衛生委員会の目的は、労働者の健康保持対策や、職場の労働災害の防止に関する取り組みを協議し、適切な策を講じることだ。

スタッフの配置

事業所の安全や健康を管理するため、事業所の規模と業種によって配置するスタッフの種類が定められている。例えば、50人以上の規模の事業所であれば、必ず産業医を配置する必要がある。毎月1回以上訪問してもらい、労働者の健康管理について指導してもらう必要があるのだ。

危険な場所での作業や危険物取り扱いの届出

事業者に対し、一定の規模や種類の建設工事といった危険な場所での作業や、危険物取り扱い時には、計画を届け出ることが義務づけられている。工事開始30日前までに、労働基準監督署長に届け出なければならない。

3.5メートル以上の「型枠支保工」や10メートル以上の「架設通路」などが届け出る対象だ。

危険物・有害物の取扱とラベル表示

危険物や有害物などを入れている容器や包装に、以下の事項をラベル表示することが義務づけられている。

● 名称
● 成分
● 人体に及ぼす作用
● 貯蔵または取扱上の注意
● 表示する者の氏名

容器が存在しない場合は、これらの事項を記載した文書を交付しなければならない。

快適な職場環境の形成

快適な職場環境の形成も求められている。快適な職場環境とは「仕事による疲労やストレスが少ない働きやすい職場」のことだ。厚生労働大臣から公表された快適職場指針では、以下の措置を講じることが推奨されている。

● 作業環境の管理
● 作業方法の改善
● 労働者の心身疲労回復を図るための施設・設備の設置・整備
● その他の施設・設備の維持管理

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労働安全衛生法違反の罰則例

労働安全衛生法違反の罰則例として、以下の4つが挙げられる。

● 作業主任者選任義務違反
● 安全衛生教育実施違反
● 無資格運転
● 労災報告義務違反

それぞれの罰則例について解説する。

作業主任者選任義務違反(法第14条)

作業主任者選任義務違反は、一定の危険作業があるにもかかわらず作業主任者を選任しなかった場合や、作業主任者が作業者の監視を怠っていた場合に該当する。違反が発覚した場合「6カ月以上の懲役」または「50万円以下の罰金」を課せられる可能性がある。

安全衛生教育実施違反(第59条第1項)

安全衛生教育実施違反は、適切な時期に労働者への安全衛生教育を実施しなかった場合に該当する。労働安全衛生法では教育時期についても定められており、教育を実施していたとしても、その時期が適切ではなかった場合は違反対象となるのだ。

違反が発覚した場合「50万円以下の罰金」を課せられる可能性がある。

無資格運転(第61条第1項)

無資格運転は、クレーン運転といった運転資格が必要な業務を、無資格の労働者が実施した場合に該当する。労働安全衛生法では、業務に対して必要な資格が定められている。

違反が発覚した場合「6カ月以上の懲役」または「50万円以下の罰金」を課せられる可能性があるため、注意が必要だ。

労災報告義務違反(虚偽報告)(第100条第1項)

労災報告義務違反は、労災発生時に「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなかった場合や虚偽の内容で提出した場合に該当する。

違反が発覚した場合「50万円以下の罰金」を課せられる可能性がある。

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まとめ

労働縁全衛生法とは1972年に制定された法律で、労働災害を防止するための基準や、責任体制について定められている。労働者の安全と健康の確保や、快適な職場環境の形成を仕組み化することを目的としている。

高度経済成長期を迎えた日本において、労働災害の増加を問題と捉えた当時の労働者たちが、専門家と共に労働安全衛生法令の整備に取り組んだことから制定された。

労働安全衛生法で企業が守るべき事項は多数存在する。労働者の健康保持やストレスチェック、労働者への安全衛生教育だけではなく、労働災害の防止措置やリスクアセスメントの実施も守るべき事項の対象だ。

労働安全衛生法は守るべき事項が多いものの、全てが人の命に関わるものだ。重要さを理解した上で、自社の取り組みを見直すことが求められている。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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