2025.8.18

アンダーマイニング効果の意味は?どのような現象か、具体例と防ぐ方法は

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自発的に取り組んでいた行動に対して報酬を与えることで、やる気や意欲の低下が引き起こされる現象は「アンダーマイニング効果」と呼ばれています。この効果は、モチベーションマネジメントにおいて重要な概念であり、部下や従業員の意欲を適切に管理する上で理解しておくべき現象です。

アンダーマイニング効果は、内発的動機づけによって行動していた個人に外発的な報酬を与えることで、その行動の目的が変化し、結果的にモチベーションが低下するというメカニズムを指します。例えば、趣味で絵を描いていた人に報酬を与えると、絵を描く目的が「楽しみのため」から「報酬を得るため」に変わり、報酬がない状況では意欲が低下してしまう可能性があります。

この効果を防ぐためには、内発的動機づけを高め、エンハンシング効果を意識することが有効です。エンハンシング効果とは、適切な言語的報酬によって内発的動機づけが強化される現象のこと。具体的には、金銭的報酬ではなく言葉で褒めること、結果ではなく過程や努力を評価すること、そして個別ではなく人前で褒めることなどが効果的な方法として挙げられます。

モチベーションマネジメントを実践する上では、アンダーマイニング効果を理解し、適切に対処することが重要です。同時に、エンハンシング効果を活用して部下のやる気をコントロールすることで、組織全体の生産性向上につながる可能性があります。

アンダーマイニング効果とは?なぜモチベーション低下が起こるのか

アンダーマイニング効果は、ビジネスシーンで頻繁に登場する重要な概念です。日本語では抑制効果や過正当化効果とも呼ばれ、社員のモチベーション管理において理解しておくべき現象です。

この効果を正しく把握することは、組織の生産性維持に不可欠です。また、アンダーマイニング効果と対をなすエンハンシング効果についても理解を深めることが重要です。

本セクションでは、アンダーマイニング効果とエンハンシング効果の意味、そしてモチベーションに関連する2つの動機づけについて詳細に解説します。これらの知識は、効果的な人材マネジメントを行う上で欠かせません。

モチベーションの維持・向上は、組織の成功に直結する要素です。アンダーマイニング効果を理解し、適切に対処することで、社員の自発的な意欲を引き出し、組織全体の活力を高めることができるでしょう。

アンダーマイニング効果とは?

それまではやりがいや好奇心(内発的動機づけ)を原動力として行動していたのに、評価やご褒美などの報酬をもらった途端、報酬をもらうこと(外発的動機づけ)が行動の目的になります。その結果、報酬をもらえない状態ではやる気になれず、モチベーションが低下することがあります。

このように、内発的動機づけに基づく行動に対して外発的動機づけを行い、結果的にモチベーションが下がる現象をアンダーマイニング効果と呼びます。

例えば、子どもが家事の手伝いをするシーンを想像してみましょう。大人と同じように家事ができるのが嬉しくて手伝いを続けていたが、ある日お礼としてお小遣いをもらったとします。すると、子どもにとって手伝いの目的が「できなかった家事ができるようになること」から「お小遣いをもらうこと」に変化します。

次第に「ご褒美なしでは手伝いたくない」という意識が芽生え、お小遣いをもらわなければ手伝う気が起きなくなるのです。子どもの頃を思い返すと、このような経験をした人は多いでしょう。

アンダーマイニング効果が引き起こされるのは、自己決定感や有能感の低下が原因だと考えられています。自己決定感や有能感は内発的動機づけを支える要素で、前者は「自分のことは自分で決定している」という感情、後者は「頑張れば自分でもできる」という感情を指します。

「物質的な報酬を与える」以外では、「締め切りを定める」や「罰を与える」なども自己決定感や有能感に影響を及ぼし、アンダーマイニング効果につながるとされています。

モチベーションとは?

アンダーマイニング効果を正確に理解するためには、モチベーションに影響を与える2つの動機づけについて理解することが不可欠です。これらは「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」と呼ばれ、それぞれが人間の行動や意欲に異なる影響を及ぼします。

モチベーションは、ある目標に向かって行動を起こす際の原動力や意欲を指します。それは単なる気分の高揚ではなく、具体的な行動を引き起こす心理的なメカニズムです。職場や日常生活において、私たちの行動の多くはこのモチベーションによって支えられています。

モチベーションの源泉は多様で、個人の価値観や環境、状況によって大きく異なります。たとえば、仕事における成功欲求、自己実現への願望、他者からの承認欲求などが挙げられます。これらの要因が複雑に絡み合い、個人のモチベーションを形成しているのです。

以下では、モチベーションを生み出す2つの主要な動機づけについて詳しく解説します。これらを理解することで、アンダーマイニング効果がなぜ起こるのか、そしてどのようにしてモチベーションを適切に管理できるのかが明らかになるでしょう。

内発的動機づけ

モチベーションを生み出す動機づけのうち、好奇心や向上心などの個人的な満足感に起因するものを内発的動機づけと呼びます。内発的動機づけに基づく行動は外的要因の影響を受けておらず、やりがいや興味などの内面的な欲求によってモチベーションが向上するのが特徴です。

例えば「人の役に立つ仕事がしたい」、「自ら設定した目標を達成したい」などは、内発的動機づけに基づく行動といえます。この種の動機づけは、個人の自律性や自己実現欲求と密接に関連しており、長期的な成長や持続的な取り組みを支える重要な要素となります。

外発的動機づけ

内面から生じる内発的動機づけとは対照的に、外的要因によって引き起こされるものを外発的動機づけと呼びます。外的要因には、報酬や評価、懲罰などが含まれます。

「成果を上げれば報酬がもらえる」、「〇〇をすれば褒めてもらえる」といったように、外発的動機づけには他者の存在が関わっています。内発的動機づけが自発的な意欲から生まれるのに対し、外発的動機づけは評価や罰など他者の介入によって生じるものだと理解しておくとよいでしょう。

外発的動機づけは短期的には効果的な場合もありますが、長期的には内発的動機づけほど持続しにくい傾向があります。そのため、モチベーション管理においては両者のバランスを考慮することが重要です。

反対にモチベーションが上がるのはエンハンシング効果

モチベーションが低下する現象であるアンダーマイニング効果に対し、モチベーションが上昇する現象はエンハンシング効果と呼ばれます。エンハンシングは英語の「enhancing」に由来しており、「強化すること」や「高めること」を意味します。

エンハンシング効果が引き起こされる仕組みは、言語的な報酬(外発的動機づけ)によって内発的動機づけが高められることです。例えば信頼している上司に褒められると、部下は「もっと評価されたい」という気持ちが強くなりやすいでしょう。その結果、モチベーションがアップして求められた以上の結果を残すこともあります。

モチベーションアップや生産性の向上のためにエンハンシング効果を取り入れたいのならば、人員配置において上司と部下の相性や関係性を考慮すべきです。また、適切なタイミングと方法で言語的な報酬を与えることが重要です。具体的には、部下の努力や進歩を具体的に認め、真摯な態度で伝えることが効果的だと言われています。

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アンダーマイニング効果を防ぐには

アンダーマイニング効果は、社員の意欲や生産性を低下させる要因となるため、企業やチームの業績に大きな影響を与える可能性があります。しかし、ビジネスの世界では報酬や評価が不可欠な要素であるため、完全にアンダーマイニング効果を排除することは困難です。そのため、経営者や管理職は、この効果を最小限に抑えつつ、社員のモチベーションを維持・向上させる方法を模索する必要があります。

アンダーマイニング効果を防ぐためには、社員の内発的動機づけを尊重し、それを強化するアプローチが効果的です。具体的には、金銭的な報酬に過度に依存せず、言葉による評価や称賛を積極的に活用することが重要です。また、エンハンシング効果を意識した褒め方を実践することで、社員の自己決定感や有能感を高めることができます。

さらに、社員の成長や学習を促進する環境づくりも、アンダーマイニング効果の防止に役立ちます。例えば、チャレンジングな業務の機会を提供したり、スキルアップのための研修を実施したりすることで、社員の内発的動機づけを刺激し、仕事への興味や熱意を維持することができるでしょう。

また、組織の目標や価値観を明確に示し、社員一人ひとりの役割や貢献を可視化することも重要です。これにより、社員は自分の仕事の意義を理解し、より大きな目的意識を持って業務に取り組むことができます。

最後に、定期的なフィードバックや面談を通じて、社員の意欲や満足度を把握し、必要に応じて適切なサポートを提供することも、アンダーマイニング効果を防ぐ上で効果的な方策といえるでしょう。

内発的動機づけを高め、エンハンシング効果を意識する

社員のモチベーションを持続させるためには、内発的動機づけを高めることが重要です。同時に、エンハンシング効果を意識することで、より効果的にモチベーションを維持・向上させることができます。以下の3つのポイントを意識することが、アンダーマイニング効果を防ぎ、社員の自発的な意欲を刺激するために有効です。

  1. 金銭的報酬ではなく、言葉で褒める
  2. 褒める際は結果ではなく、過程や努力を褒める
  3. 個別ではなく、人前で褒める

これらのポイントを実践することで、社員の自己決定感や有能感を尊重しつつ、内発的動機づけを高めることができます。また、適切な言語的報酬を与えることで、エンハンシング効果を促進し、モチベーションの維持や向上につなげることが可能となります。

報酬の与え方や評価の仕方を工夫することは、単に社員の意欲を刺激するだけでなく、組織全体の生産性向上にも寄与します。これらのアプローチを日々の管理業務に取り入れることで、より活力のある職場環境を作り出すことができるでしょう。

金銭的報酬ではなく、言葉で褒める

アンダーマイニング効果を防止するための重要な要素は、「言葉による評価」です。金銭的な報酬に頼りすぎると、部下は「管理されている」「仕事をやらされている」という意識に陥りやすくなります。これは自己決定感や有能感の低下につながり、仕事への意欲的な態度を維持することが困難になります。

部下の意欲を維持するためには、自己決定感と有能感を尊重することが不可欠です。そのための効果的な方法が、賞賛や期待の気持ちを言葉で伝えることです。研究によると、金銭などの物質的報酬と比較して、言葉による報酬のほうが自己決定感や有能感を保ちやすいことが明らかになっています。特に、尊敬する上司や先輩からの言葉による評価は、エンハンシング効果を大きく促進し、モチベーションの維持に極めて有効です。

内発的動機づけに基づいて行動している社員に対しては、その行動を正当に評価することが重要です。その際、金銭的な報酬ではなく、「高く評価していること」や「能力を認めていること」を具体的な言葉で伝えることが推奨されます。このアプローチにより、部下の内発的動機づけがさらに強化され、持続的なやりがいと意欲を維持しながら仕事に取り組むことが期待できます。

言葉による評価を行う際は、具体的かつ明確な表現を用いることが大切です。例えば、「よくやった」という漠然とした褒め方よりも、「この提案は非常に創造的で、顧客のニーズを的確に捉えていますね」というように、具体的な行動や成果を指摘して褒めることで、より効果的な評価となります。

褒める際は、結果ではなく、過程や努力を褒める

エンハンシング効果を実践する際には言葉による評価が重要だが、「何を褒めるか」にも気を配りたい。効果的とされているのは、結果ではなく結果に至るまでの過程や努力を褒めることです。

例えば、部下が頑張って進めていた企画を成功させたとします。その際に「よくできたね」と褒めるよりも、「大変なこともあっただろうに、たくさん努力したから成功したんだね」と褒めるほうが相手の心に響きやすくなります。

言語的報酬を活用して部下のモチベーションを向上させるのならば、部下が頑張ってきたことや努力してきたことを具体的に褒めるように意識します。例えば、「困難な状況でも粘り強く取り組んでいたね」「新しいアイデアを積極的に提案していたのが印象的だった」といった具体的な言葉かけが効果的です。

また部下を高く評価していても、心からの称賛だと伝わらなければエンハンシング効果は期待できません。部下を褒める際は言葉の抑揚や仕草などにも気を配り、本心で褒めていることが伝わるように工夫すべきです。アイコンタクトを取りながら、笑顔で褒めることで、より効果的に伝わるでしょう。

さらに、褒める際には部下の個性や性格を考慮することも大切です。内向的な性格の部下であれば、人前で大々的に褒めるよりも、個別に丁寧に褒める方が効果的な場合もあります。部下一人ひとりの特性を理解し、適切な褒め方を選択することで、より強力なエンハンシング効果を生み出すことができるのです。

個別ではなく人前で褒める

一般的には、アンダーマイニング効果を防止するためには、部下と1対1のシチュエーションで褒めるのではなく、ほかの社員がいるときに褒めるのが有効です。

例えば、他者に見られている中で叱責や注意を受けると、心理的に大きなダメージを受けることは想像しやすいでしょう。「怒られている姿を他者に見られている」という事実に自尊心が傷つき、モチベーションを保ちにくくなります。

反対にエンハンシング効果では、「他者に見られていること」を自尊心の向上に活用します。周囲にほかの社員がいる環境で褒めることで、部下の自尊心や褒められる喜びを刺激します。自尊心が満たされるとモチベーションが上がり、やりがいや意欲の高まりが期待できるでしょう。

この方法は、褒められた本人だけでなく、周囲の社員にも良い影響を与える可能性があります。他の社員が褒められる場面を目にすることで、自分も頑張ろうという気持ちが生まれやすくなります。また、組織全体の雰囲気も前向きになります。ただし、個人のプライバシーに関わる内容や、他の社員との比較を含む褒め方は避けるべきです。適切な場面と内容を選んで実践することが重要になります。

まとめ

アンダーマイニング効果は、内発的動機づけに基づく行動に対して外的な報酬を与えることで、行動の目的がすり替わり、モチベーションが低下する現象を指します。この効果の主な要因としては、金銭的な報酬の付与、締め切りの設定、罰則の導入などが挙げられます。

企業やチームの生産性向上のためには、アンダーマイニング効果を防止することが重要です。そのための有効な方策として、エンハンシング効果を活用し、社員のモチベーションを維持・向上させることが挙げられます。

エンハンシング効果を促進するためには、以下の点に注意を払うことが大切です。

  1. 金銭的報酬よりも、言葉による評価を重視する
  2. 結果だけでなく、過程や努力を具体的に褒める
  3. 個別ではなく、他の社員の前で褒める

これらの方法を実践することで、社員の自己決定感や有能感を高め、内発的動機づけを強化することができます。

モチベーションマネジメントを効果的に行うためには、アンダーマイニング効果とエンハンシング効果の両方について正しく理解し、適切に対応することが求められます。これらの知識を活用することで、社員のやる気や意欲を持続させ、組織全体の生産性向上につなげることができるでしょう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

古宮 大志

マーケトランク編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から、知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。 さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。 独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

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