2023.2.8

経験学習モデルとは?取り入れるメリットや注意点、実践例を具体的に解説

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経験学習モデルは、自発的に学び成長する機会を従業員に与えられるものとして、多くの企業から注目を集める学習プロセスである。今回は、経験学習モデルを取り入れるメリットや注意点を解説する。

実際に実践した企業の成功事例も紹介するため、経験学習モデルの導入を検討しているのならばチェックしよう。

経験学習モデルとは?

終身雇用制度の崩壊や働き方改革など、雇用環境が変わりつつある近年において、人材育成の手法が見直されている。そこで注目されているのが経験学習モデルだ。経験学習モデルとは、アメリカの組織行動学者であるデイビット・コルブ氏が提唱した、経験を通して学んだ知識やスキルを新たな業務で活かす学習プロセスのことである。

経験学習の意味

経験学習とは、経験を通して実践で役立つ知識やスキルを習得することである。貴重な経験を無駄にせず、確実に成長につなげられるため、多くの企業が注目している。とはいうものの、未だ人材育成のために研修を実施して従業員の成長を促す企業も多いだろう。

中には、人材育成研修と経験学習を同じ意味で捉える人がいるかもしれない。人材育成研修は座学で学ぶことが多いが、経験学習は実践で経験を積み重ねて成長を促す手法である。従業員の成長を促す目的は同じではあるが、学習プロセスが大きく異なるため、状況に応じて使い分けることが必要だ。

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経験学習モデルの4つのプロセス

経験学習モデルを提唱したデイビット・コルブ氏は、以下の4つのプロセスを繰り返し実施することで、従業員の成長を促せると指摘している。

● 具体的経験
● 内省的観察
● 抽象的概念化
● 能動的実験

上記4つのプロセスについて、以下で詳しく見ていこう。

1.具体的経験

経験学習モデルの最初のプロセスは具体的経験だ。初めて関わる分野や業務の場合、自分で考えて行動できる人材が求められる。しかし、自分の判断に自信が持てず、上司や先輩の指示待ちになる従業員も少なくない。これでは新しい業務や問題に直面したときに、自分で考えて対処できないだろう。

ビジネスでは柔軟性を求められる場面も多いため、指示を待つのではなく、自分で考えて臨機応変に対応できる能力が必要だ。具体的経験では従業員が自ら考えて行動するように促し、その経験の中から自分で考えて動く重要性を学ぶことが求められる。経験を確実に得るために、現場主義の実践が必要だ。

2.内省的観察

自分で考えて行動した結果、どのような事象が起きたのかを振り返る内省的観察が次のプロセスだ。自分で考えて行動に移せる能力が身についても、相応の結果がついてこなければ意味がない。内省的観察では、結果ではなく行動プロセスに着目し、反省点を自身で整理して振り返る時間を設けるのである。

時には上司を交えて行動プロセスを振り返り、そのフィードバックを行えば、自身では気付けなかった発見も得られるはずだ。ここで重要なのは、良い結果より悪い結果に終わったときの内省である。失敗を繰り返さないためにも、どの判断が悪い結果に影響したのかを多角的に振り返ることが求められる。

3.抽象的概念化

内省的観察で得た気づきを他の場面で活かせないかを検討するのが、抽象的概念化である。業務活動を通して得た経験を個人的なもので終わらせては、組織の成長につながらない。

自分の経験を概念化し、他の状況でも応用可能にすれば、組織全体の能力を底上げできるのだ。また、抽象的概念化は未経験でも理解して活用できるように、情報を体系的に整えて概念化することが求められる。

4.能動的実験

抽象的概念化した概念は、実際に行動するまで仮定に過ぎない。実際に試してみると期待した効果が得られないことも多いのだ。そこで、能動的実験を行うことが大切なのである。過去の成功体験や慣習に囚われると、新しい手法の採用に戸惑う企業も少なくない。

しかし、変化を恐れていては企業が成長することはないだろう。抽象的概念化が上手くいかないこともあるが、躊躇することなく実行して概念を実際に役立つものとして証明することが大切だ。

経験学習モデルを取り入れるメリット

経験学習モデルを実際に取り入れるには、一定の労力や費用がかかるのは間違いない。ただし、経験学習モデルを取り入れれば、以下のメリットを得られる。

● 業務の属人化を防げる
● 学びの機会を与えられる

労働人口の減少により、人材不足に悩む企業は少なくない。人材不足に陥った企業では一人ひとりの業務量が多くなるため、属人化が起こりやすいのだ。属人化を放置すると、業務がブラックホール化して担当者しか対応できない状態になることも多い。経験学習モデルを取り入れれば、他者に業務プロセスを共有できるため属人化を防げるのである。

また年代を問わず、従業員に学びの機会を与えられるのも経験学習モデルを実施するメリットだ。先程も触れた通り、多くの企業が人材不足に課題を抱えているのが現状である。業務効率や生産性を改善できないことも多いはずだ。経験学習モデルを導入すれば学びの機会を与えられるため、効率的に個々の能力を高められるのだ。

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経験学習モデルを取り入れる方法

経験学習モデルの取り入れ方は様々であるが、特におすすめしたい方法は以下の通りである。

● OJT研修を行う
● 1on1ミーティングを設ける
● ジョブローテーション制度を導入する

以下でそれぞれの方法を詳しくチェックしよう。

OJT研修を行う

OJT研修は、現場での実践を通して知識を身につける教育訓練である。On the Job Trainingの略称で、多くの企業で採用されている手法だ。

知識を身につけるだけではなく、研修を通して職場の人間関係を築くことができたり、研修後は即戦力として活躍できたりするなど、多くの効果を得られるのだ。経験学習との相性も良いため、OJT研修に経験学習サイクルを上手く組み込めば、深い学びを得られるはずである。

1on1ミーティングを設ける

経験学習モデルを導入したいものの、大きく環境を変えるのが難しい企業も少なくない。このような場合は、上司との1on1ミーティングを検討するのがおすすめだ。

1on1ミーティングとは上司と部下が1対1で行う対話のことで、人材育成の手段として採用されている手法である。1on1ミーティングで経験学習の評価やフィードバックを行えば、新たな気づきを得られる良い機会になるだろう。

ジョブローテーション制度を導入する

部署異動によって新たな環境で仕事をさせることも、経験学習の良い機会になるはずだ。あらゆる仕事を経験できるジョブローテーション制度を導入して、経験学習モデルに取り組むのも効果的である。

新しい学びの機会が増えるため、従業員は多角的な視点から経験を積めるはずだ。また、部署異動に伴う業務変更であれば、会社や周囲も手厚く支援できるため、安心して経験学習サイクルに集中できるだろう。

関連記事:OJTとOFF-JTの違いは?人材育成におけるやり方やメリット

経験学習モデルを取り入れる際の注意点

多くのメリットがある経験学習モデルだが、実際に取り入れる際には慎重に行うことが必要だ。特に押さえるべき注意点は、以下の通りである。

● 振り返る時間を与える
● 従業員に丸投げしない
● 本人の考えを否定しない
● 失敗を責めずに許容する

以下でそれぞれの注意点を詳しく解説する。

振り返る時間を与える

多忙な職場環境では次々に業務が舞い込むため、経験したことを振り返る時間はないだろう。しかし、落ち着いて振り返る時間がなければ、新たな環境でその経験を活かすことは難しい。

経験を通して従業員を育てたいのならば、業務を任せた後に振り返る時間を与えることが大切である。ただし、従業員に振り返る時間を与えるには周囲の協力が欠かせないため、事前に理解を得ておく必要がある。

従業員に丸投げしない

経験学習を取り入れる上で注意すべきなのは、従業員に丸投げしないことである。経験が大事とはいえ、全てを本人に丸投げすると経験学習が正しく進行しないことも多い。思考プロセスや経験から生み出された結果を確認し、正しく経験学習を行えているのかを見極めることが大切である。経験学習に取り組む従業員も安心して行動できるはずだ。

本人の考えを否定しない

経験学習で1on1ミーティングを行うときは、本人の考えを完全に否定するのは避けるべきだ。一方的に意見を押し付けると自分で考えることをやめてしまい、内省が中途半端に終わる可能性がある。

理解できない意見でもすぐに否定するのではなく、その考えに至った経緯を確認するのが先決だ。相手を理解した上で指摘すれば、異なる意見でもフィードバックに納得してくれるだろう。

失敗を責めずに許容する

経験学習の効果を高めるには、ある程度の失敗を許容することが大切である。なぜなら、失敗を責めると挑戦が恐くなり、自分で考えて行動することをやめてしまう可能性があるためだ。特に、初めての分野や業務で失敗せずに結果を出せる従業員はそれほど多くはないだろう。失敗を過度に責めず、逆に挑戦した姿勢を評価することが大切なのだ。

関連記事:1on1ミーティングとは?テレワーク・在宅勤務だからこその1on1の必要性とは

経験学習モデルの実践例

実際に経験学習モデルを導入するにあたって、成功事例を参考にするのもおすすめだ。機械学習モデルを導入した代表的な企業として、Googleとヤフー株式会社の事例を解説する。

Google

通常業務の経験を通して得られる学習も多いと考えるGoogleでは、従業員同士のフィードバックを重視しているのが特徴だ。上司だけではなく、同僚や後輩など従業員同士で教え合う機会を多く提供し、経験学習モデルに取り組んでいる。その結果、人材育成研修を実施する労力や費用が大幅に削減され、組織パフォーマンスが向上したのだ。

ヤフー株式会社

経験学習モデルに基づいた人材育成を行うヤフー株式会社では、実践を振り返る評価制度を導入しているのが特徴だ。定期的に面談を行い、目標に対してどれだけ到達できたかを確認する。

また、従業員一人ひとりの人材育成カルテを作成し、育成計画を検討する人財開発会議も実施している。短期的に振り返る機会を設けることで従業員は気づきを得られ、今後の業務に活かせるのである。

関連記事:タウンホールミーティングとは?目的や効果と日立、富士通など企業事例

まとめ

経験学習モデルとは、経験を通して学んだ知識やスキルを新たな業務で活かす学習プロセスのことである。経験学習モデルを取り入れれば、業務の属人化を防げたり、学びの機会を与えられたりなど、企業の得られるメリットが多いのが特徴だ。

人材不足が叫ばれる中、個々の能力を高めることは組織パフォーマンスを上げることにも他ならない。経験学習モデルの導入を検討してみてはいかがだろうか。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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