2021.5.13

複数の職種を「スラッシュ」で区切る「スラッシャー」、「スラッシュキャリア」。副業との違いは

読了まで約 6

■VUCA時代においてスラッシャーが注目される理由

■スラッシュキャリアに関心を持つ「ミレニアル世代」とは

■副業の特徴とスラッシュキャリアとの違い

■パラレルキャリアの特徴とスラッシュキャリアとの違い

■ミレニアル世代とその親世代の間にある働き方に関する考えの違いとは

■スラッシュキャリアを実現する4つのポイントと注意点

スラッシャーとは何か? なぜ今スラッシャーなのか?

従来では当たり前だった終身雇用が困難になり、先の見えない不安定な時代に突入している現代において、新しいキャリアのかたちとして、注目されているのが「スラッシャー(slasher)」という概念だ。
スラッシャーとは、複数の肩書を持ち、幅広い分野においてキャリアを築いて活躍をする「スラッシュキャリア(slash career)」を実践している人のことを指し、自身の職業やプロフィールを紹介する際に「モデル/料理研究家」、「弁護士/ライター」などのように、複数の肩書を「/(スラッシュ)」で区切って記載することから、スラッシャーと呼ばれるようになった。
そもそも、スラッシュキャリアという言葉は2007年にアメリカの作家・ジャーナリストであるMarci Alboher氏の著書One Person/Multiple Careers: A New Model for Work/Life Successの中で登場し、広められたものとされている。
近年、日本でもキャリアアップのための転職が当たり前となり、その過程で培ったさまざまなスキルをSNSなどによってブランド化して将来のキャリアへつなげていこうとする人も増えている。
特に、2000年以降の不安定な時代に成人・社会人となったミレニアル世代は、デジタルの中で生まれ育っているため、従来の働き方の枠組みにとらわれず、多様性や個人主義を尊重する傾向にあり、スラッシャーとして複数の分野で活躍することに関心を持つ人が多い。

関連記事:ミレニアル世代に次ぐZ世代の特徴とは?採用する企業側が知っておくべきこと

多くの経験を積み複数のスキルを身に付けることは、不安定なVUCA時代において、より安定して生き抜くための大きな強みとなる。
新たなキャリアのかたちとして、自身の肩書に「/」を増やすスラッシャーの存在は今後ますます注目され、増加していくだろう。
そこで本稿では、スラッシャーについてその特徴や、副業やパラレルキャリアなど類似している言葉との違い、世代別のスラッシャーへの考え方や実現するためのポイントなどについて解説していこう。

スラッシュキャリアの特徴と副業やパラレルワークとの違い

まず、スラッシュキャリアにおける最も大きな特徴としてあげられるのが、複数の肩書が、生活のために稼ぐ手段である「ライスワーク」ではなく、自分の使命に基づいて仕事をする「ライフワーク」になっていることだ。
つまり、スラッシャーは経済的な事情で兼業をしているわけではない。
加えて、特定の仕事を本業と決めずに、全ての仕事に対して同じ割合で力を注ぎ、複数の肩書やスキルでキャリアを構築することを目的として活動していることも特徴だ。
また、スラッシュキャリアと類似した言葉に「副業」や「パラレルキャリア」などがあげられるが、どのような特徴を持ち、スラッシャーと比べてどのような違いがあるのだろうか。

<副業の特徴とスラッシュキャリアとの違い>
副業は、本業以外にアルバイトや在宅ビジネスなどを行うことで、本業の収入に加えてお金を得るためにする仕事であり、あくまでメインは本業で、副業は本業の傍らで行うという意味合いが強い。
一方スラッシュキャリアは、収入獲得のみを目的とせず、すべてに同じ熱量で取り組み、複数のキャリアを形成するため、その点が違いとしてあげられるだろう。

<パラレルキャリアの特徴とスラッシュキャリアとの違い>
パラレルキャリアは本業を持ちながら、第2のキャリアを築くことであり、第2の活動については、営利活動に限らず、スキルアップや自己実現、社会貢献など収入以外の面でプラスの効果を得ることを目的としている。
収入獲得のみを目的としていない点においては同じであるといえるが、スラッシュキャリアは本業を定めずに複数の肩書や経歴によってキャリアを形成することで新しい価値を創造するため、その点が違いとしてあげられるだろう。

一見似たように感じる言葉であるが、それぞれ整理してみると大きな違いがあることがわかる。
自身の目的に合わせて働き方を考える必要があると言えるだろう。

今後スラッシャーは広まるのか? どうやったらなれるのか?と注意点

先述のとおり、スラッシャーの概念はミレニアル世代を中心に浸透している。
実際に、株式会社ジャパンネット銀⾏(現・PayPay銀行)が行ったミレニアル世代およびその親世代を対象とした、『「仕事・働き⽅」に関する意識・実態調査』[調査期間:2018 年 6 月 25 日〜6 月 26 調査⽅法:インターネット調査 調査対象: ミレニアル世代…18〜25 歳 有職者男⼥ 300 名(性別均等割付)/親世代…18〜25 歳の子どもを持つ 40〜59 歳 有職者男⼥ 300 名(性別均等割付)]の結果を見ても、ミレニアル世代とその親世代の間で働き方に関する考え方に大きな違いがあることが伺える。
まず、キャリアに対する考え方の違いが『「いろいろな会社で経験を積む」と「1つの会社で長く働く」では、どちらが自身の目指す働き方に合致していますか?』という質問の回答から垣間見ることができ、「いろいろな会社で経験を積む」と回答した親世代は25%にとどまったのに対して、ミレニアル世代では40%に上り、世代間で15ポイントの差が生じた。
ミレニアル世代の意見として、「ひとつの会社だと固定観念にとらわれてしまい限定的な経験しか⾝につかないから」(25歳・男性)、「さまざまな職場を経験したほうが、視野が広がり、⾃分のやりたいことや合っていることがわかると思う」(24歳・⼥性)などの声があがっている。
また、「本業以外にもいろいろな活動をしたいと思いますか?」という設問に対しては、「そう思う」と回答した親世代は47%と半数以下であったが、ミレニアル世代は56.7%と半数以上が本業以外の活動に取り組むことへ興味を示しており、ここでも9.7ポイントの差が生じた。
さらに、ミレニアル世代に対して行った「仕事において収入よりも重視していることがありますか?」という設問に「ある」と回答した人は59%にも上り、具体的な内容を見ていくと、「⾃分が好きなことを仕事にできる・活かせること」(48%)、「残業がない/少ないこと」(38%)、「会社の人間関係が良好であること」(36%)などが上位の意見としてあげられ、ミレニアル世代の働き方が多様化していることが伺える。
同じくミレニアル世代に対して行った『「スラッシュキャリア」に興味・関心はありますか?』という設問では約6割が「そう思う」と回答し、『「スラッシュキャリア」という働き⽅は、今後広まっていくと思いますか?』という設問では約7割が「そう思う」と回答している。
この調査結果からも、多くのミレニアル世代がさまざまな経験を積むことや、スラッシュキャリアに対して、高い関心を持っていることが認められた。

参考:株式会社ジャパンネット銀⾏(現・PayPay銀行)「仕事・働き方」に関する意識・実態調査

では、実際にスラッシュキャリアを実現するにはどのようなアプローチがあるのだろうか。
そのために有効な方法を4つのポイントに絞って紹介する。
<スラッシュキャリアを実現する4つのポイント>
1. 人脈を広げる
幅広い分野で活躍し、複数の肩書を持つためには、基本的な経営知識やノウハウが必要となる。
人脈を広げ、同士や仲間を作ることで情報交換や、互いに切磋琢磨していくことが可能となる。
そのために、民間企業や商工会議所などで開催されているセミナーやビジネス塾などに参加したり、SNSを用いて自らの存在を発信し、輪を広げていくと良いだろう。

2. 無償の活動に参加して経験を積む
自身が持っているスキルを活かしたいが、まだ有償で行うまでには達していないと思う場合には、ボランティアやプロボノといった無償で行う地域活動に参加して経験を積むことから始めてみると良いだろう。
特に地方都市では専門的なスキルを持った人材が不足していることも多いため、自身のスキルをさらに高め、活躍することも期待できる。

3. Webサービスを利用する
スラッシャーとしての経験値をあげるために場数を踏みたい場合には、複業のマッチングサイトやクラウドソーシングなどのWebサービスを利用し、プロジェクト単位で参加する方法もある。
取り組みが認められることで、その後の継続的な仕事の依頼につながる可能性も期待できる。

4. 情報発信をしていく
世間に存在を知ってもらうために、SNSなどを駆使して、自身のスラッシュキャリアをアピールすることが必要だ。
キャリアと一緒に、自身のことについて、何者で、何が好きで、何ができるか、具体的な実績などを記載してアカウントを運用すると良いだろう。
SNSにもさまざまな種類があるため、どれが自身に合っているのか試してみることも必要だ。

また、スラッシュキャリアを実現するにあたって注意しなくてはならないことは会社の就業規則の確認だ。
もし、自身がどこかの企業や組織に属している場合は、トラブルを避けるために副業や兼業が禁止されていないかどうかを調べる必要がある。
政府の働き方改革実行計画にある「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の一環として「副業・兼業の推進」が加わり、すでに2018年1月には厚生労働省が発表しているモデル就業規則からは「副業禁止規定」が削除されている。2020年11月版のモデル就業規則には「副業・兼業」関連の解説が追加されてはいるが、まだすべての企業が対応しているわけではない。
場合によっては無償であるボランティアも禁止しているところもあるため、注意が必要だ。

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改定)

ここまでスラッシャーについて解説してきた。
終身雇用制度が崩壊したことで会社に守られる安定した時代は終わりを告げた。
さらに「成功」に対する価値観の多様化や、目まぐるしい市場の変化などもあり、今後ますます不安定な時代を生きていかねばならならい中で、働き方や生き方はより一層、個人に委ねられていく可能性もあるだろう。

まとめ

・VUCA時代に突入している現代において、新たなキャリアのかたちとして注目されているのが「スラッシャー」だ。複数の肩書を持ち、幅広い分野で活躍をする「スラッシュキャリア」を実践している人のことを指し、「モデル/料理研究家」などのように自身が所有する肩書を紹介する際に「/(スラッシュ)」で区切って記載することから、スラッシャーと呼ばれるようになった。

・スラッシュキャリアは2007年にアメリカの作家・ジャーナリストであるMarci Alboher氏の著書で生み出された言葉である。近年では日本でもさまざまなスキルを形成することで自身をブランド化し、将来のキャリアへつなげていく人も増えており、特にデジタルの中で育ったミレニアル世代は、多様性や個人主義を尊重する傾向にあることからも、スラッシャーへの関心が強い。新しいキャリアスタイルとしてスラッシャーは今後ますます注目されていくだろう。

・スラッシュキャリアの大きな特徴としてあげられることは、複数の肩書が「ライスワーク」ではなく「ライフワーク」であることだろう。経済的な事情による兼業ではないことと、本業を定めずにすべての仕事に対して同じ熱量で取り組むという点がスラッシュキャリアを説明するうえでのポイントであるといえる。

・類似している言葉に副業やパラレルキャリアがあげられるが、スラッシュキャリアとの違いを整理すると、【副業】本業の収入に加えて金銭を得るための労働である点、メインである本業の傍らに行う点、【パラレルキャリア】本業を定めたうえで第2のキャリアとして活動を行う点、があげられる。

・スラッシャーは特にミレニアル世代の間で浸透しており、実際に行われた調査でもミレニアル世代とその親世代の間で働き方やキャリアに対する考えや意識の違いがあることがわかった。約4割のミレニアル世代が、固定観念にとらわれることや視野が狭くなることを懸念して、いろいろな会社で経験を積むことに対して前向きな考えを持っており、さらにミレニアル世代の約半数が本業以外の活動に興味を持ち、約6割スラッシュキャリアに関心があり、約7割はスラッシュキャリアが今後広まっていくであろうと考えていることが明らかになった。

・スラッシュキャリアを実現するうえでのアプローチ方法として次の4つがあげられる。1.人脈を広げる、2.無償の活動に参加して経験を積む、3.Webサービスを利用する、4.情報発信をしていく。また注意しておきたいことは、勤めている会社の就業規則で副業や兼業、ボランティアなどが禁止されていないかを確認することだ。今後ますます不安定な時代を生き抜かねばならない中で、複数の肩書を持つスラッシャーになることは多様で力強い働き方を可能にするだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

get_field('cf_general_profile_name', 39);

『MarkeTRUNK』編集部

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から
知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。
さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。
独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

関連記事 RELATED POSTS

関連資料ダウンロード RELATED POSTS

メルマガ会員登録で最新マーケティング情報やトレンド情報、セミナーイベント情報をチェック!

メールマガジンのサンプルはこちら