2020.12.23

リファラル採用が上手くいく会社といかない会社の違い

読了まで約 6

■コロナ禍を通して大きく変容しつつある採用市場と一括採用の終焉

■年々続く人材獲得難が促すダイレクトリクルーティングへのパラダイムシフト

■自社で働くメンバーが紹介する「リファラル採用」のメリット

■「リファラル採用」導入にあたっての注意すべき点とは

■リファラル採用成功に向けて踏まえておきたいポイントとは

■クリアな人材像と明確な採用基準でリファラル採用を成功させる

なぜリファラル採用に注目が集まるのか

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年は日本社会が意図せずして社会構造や企業のあり方を再考させられた1年であったことは間違いないだろう。採用市場も例に漏れず、大きな変化があったといえる。緊急事態宣言下で、採用広告メディアが例年4月~6月に催していた大型就活イベントが開催できず、また政府が提唱する新しい生活様式に基づき、採用活動も急激なオンライン化を遂げた。

しかし、これらの一連の変化は、決して新型コロナウイルスの感染拡大だけが原因で発生したということではなく、コロナ禍以前から進んでいた採用トレンドの変化が、コロナ禍で一気に広がったに過ぎない。

従来型の春季一括採用を前提とした就職関連サービス企業のビジネスモデルは、技術が進化するにつれ、かつての就活本から就活ナビへと姿を変え、有償の求職者紹介サービスである新卒紹介エージェントや、大型会議場で行う各種就活イベントなどの付随するサービスとともに長きにわたって、企業の新卒採用と学生の就職活動を支える大きな柱であった。しかし、前述のとおり技術が日々進化する中で、経団連が産学就活協定を廃止したこともあり、もはや企業と学生の双方をつなぐチャネルはこれらにとどまらない時代となったことで、理想とする人材に直接アプローチするダイレクトリクルーティングへのパラダイムシフトが、今まさに起こりつつあるといえる。

ダイレクトリクルーティングにもさまざまな形態があるが、注目されている代表例が、リファラル採用である。リファラルとは、英語で紹介・推薦といった意(=referral)であり、採用におけるリファラル採用は、自社の従業員に人材を紹介・推薦させる採用手法だといえよう。

採用活動を含めた商慣行が日本と大きく異なる北米やヨーロッパにおいて、リファラル採用は人材獲得手法の一つとして普及している。ここにきて、年々激化する人材獲得競争を受けて、日本においてもより早期から優秀な人材との接点を持つことを目指すために導入を進める企業が増えており、大きく注目されている。

リファラル採用は、縁故採用と同一視されがちだが、縁故採用が自社の求める人材像や採用に係る必須条件に合致せずとも、血縁関係を重要視する、いわゆる「コネ採用」であるのに対して、リファラル採用は、自社で必要とされる能力や共有する目標、社風などを熟知した、自社の従業員からの紹介となるため、スキルや人材像の面でミスマッチの確率を最小化することに有効な採用方法である。現在リファラル採用が注目される大きな要因としては、もともと従業員のエンゲージメントは高いが採用に苦慮しており、そのような中で中長期的な採用予算のコスト見直しを進めている企業に魅力的な施策であるからだといえよう。

本稿では、注目されているリファラル採用のメリットや導入にあたっての注意点、そして施策成功の要となるポイントについて考えていく。

リファラル採用のメリットと注意すべきポイント

いわゆるコネを使った「縁故採用」とは違い、自社をよく知っている従業員が紹介する人材だからこそ、ミスマッチが少なく、長く働いてくれることが期待できるリファラル採用だが、ここでは導入にあたってのメリットやデメリットを見ていく。まずは、メリットから紹介していこう。

1.今まで接触できなかった潜在層から、ピンポイントで自社の求める人材を獲得できる
従来の採用メディア利用者や就活イベント来場者へのアプローチは、求職顕在層との接点がメインだったが、リファラル採用での主なターゲット層は、いままで接点が持てなかった求職潜在層を含むことから、優秀な人材との接点を早期から持つことで、今までの採用施策では接触できなかった人材へのピンポイントなアプローチを、早期から行っていくことを実現する。

2.短期的には採用予算の最適化、長期的には離職リスクを低下させ、コスト削減を実現
リファラル採用は、前出のとおり自社の従業員を通した知人や友人の紹介となるため、適切な接点・選考プロセスの管理を行えば、従来の採用媒体掲載やイベントへのブース出展に比べて採用活動における工数と経費の削減につながる。また、自社を熟知した従業員の紹介によって採用におけるミスマッチ防止という観点から、将来的な離職率の低下に資することから、短期から長期にわたって大きなコスト削減が期待できるだろう。

こうした数々のメリットを有するリファラル採用だが、自社で導入するかどうかにあたり、デメリットを検討することも重要だ。以下では、導入において注意すべき点をあげていく。

1.従業員という人的リソースによる継続的なコミットが求められる
従来の採用チャネルと異なり、リファラル実現には経営陣や採用担当のみならず、全従業員の継続的な協力を欠くことができない。そのため、全社で採用課題に取り組む意識醸成のため、リファラル採用を採用するに至った背景や、いつまでに何名採用したいか、または紹介後の選考プロセスなどについて、協力を要請する自社の従業員へ丁寧な説明を行う必要が生じる。また、従業員の本来の業務に支障をきたすことがあっては本末転倒なため、負担の軽減策も検討しなくてはならない。

2.人材が不採用となった場合の従業員への影響を考慮する必要がある
リファラル採用チャネルを通じて選考プロセスに入ったが、最終的に不採用となった、または内定辞退に至った候補者がいると、場合によっては自社の従業員に不利益が生ずることを十分に検討しなければならない。企業と候補者の関係はそこで終了するが、紹介した従業員と候補者の関係は続くため、選考プロセスを通して候補者への誠意ある対応が求められるだろう。

前出のメリットや、導入に際して注意すべき点などがありつつも、総じてリファラル採用に限らない採用活動の前提として重要となるのは、自社の求める人材像のペルソナ設定を明確化することだ。なぜならば、明瞭な求人像なくして、いかなるチャネルを通した採用活動の成功も難しいからである。また、リファラル採用の導入にあたっては、採用手法が自社従業員による紹介という極めて有機的性質を帯びることを十分理解した上で、採用チャネルとしては採用活動が長期化することを念頭においた活動を行うことが求められるだろう。

リファラル採用が成功するためのポイント

ここまで、リファラル採用が注目される背景や、採用チャネルとしてのメリット、また導入にあたっての注意点などを考えてきたが、実際にリファラル採用を導入して社会に普及させるには、制度運用のあり方や従業員への周知方法など、成功させるためのポイントが数多くある。ここでは、採用チャネルとしてのリファラル実現に向けて、企業が取り組むべきポイントについて押さえていきたい。

1.従業員に継続的に協力してもらうための、現場に過負荷をかけない仕組みづくり
リファラル採用は、従業員による協力なくして成立しない。そして従業員の協力にあたってカギとなる前提条件は、「エンゲージメントの高さ」と「継続性」だ。従業員が、採用や自社自体への関心が低いようでは、優れた人材の紹介どころか、自社を紹介したくないという事態になりかねない。そのためには、「自社を発展させるのは自分自身だ」という自律意識を醸成し、従業員のエンゲージメント向上を図りつつ、リファラル採用の浸透を目指すことが妥当だろう。

また、過度な現場従業員への負担も、リファラル採用が浸透しない原因となる。前述のとおり、リファラル採用は従業員が実現する採用チャネルだ。そのため、現場に大きな工数や負担を強いるかたちでは、採用が上手くいかないことはもちろん、就業している従業員の不満が高まる可能性すらあり得る。そのために、持続的で無理のない制度設計が求められてくると同時に、従業員に「自社へ紹介したい」と思ってもらえる採用活動の仕組み作りが求められてくる。

リファラル採用が現場業務への過度な負荷をかけないことに加えて、協力している従業員のモチベーションを保つためにインセンティブを設定することも検討できるかもしれない。実際の企業事例として、紹介者へのインセンティブを用意しているケースも多数存在する。ただし、紹介者へのインセンティブに関しては、他の従業員との間に格差や不公平が生じないようなものにしたり、法令などに抵触しないかをよく検討したうえで規定しておきたいところだ。

2.明瞭な人材要件と採用基準を設けて、他の採用チャネルとの相乗効果を目指す
リファラル採用において、自社の企業文化や募集している職種に適している人材かどうかの見極めは、紹介者となるそれぞれの従業員が、最初に判断することとなる。そのため、明確な人材要件と採用するにあたっての基準を従業員と認識のすり合わせを出来ていない場合、求める人材像と合致しない候補者の母集団を形成することとなってしまい、結果として採用活動の工数が増え、採用側にとって大きな負担となってしまう。

だからこそ、「求める人材像」や「仕事で必要な要件」などをしっかりと検討した上で、採用活動は経営陣と人事部だけではない、全社を挙げた取り組みだということを広く社内に周知しつつ、紹介者となる従業員たちが常に最新の採用情報にアクセスできる仕組みも必要となる。

また、リファラル採用は有機的な性質を帯びた採用チャネルであるため、いつまでにどれくらい集客して、選考プロセスにはこのタイミングで何名入れていくか、といった期限を切った運用が難しい。特に制度導入期では、不安定で見通しの立たない傾向が続くことが予想され、候補者へのイニシャルアプローチから採用(または不採用)に至るまでのプロセスが長期化する可能性が高い。そこで、まずは従来の採用チャネルである程度の母集団を作りつつ、スポットでリファラル用の選考プロセスを回しながら、複数チャネルから集まる情報を一元的に管理・共有できる仕組み作りをしていけば、効率的に採用活動を展開しつつも徐々にリファラル採用を拡大することが可能だ。

まとめ

・新型コロナウイルス感染拡大に伴って、選考プロセスのオンライン化などで様変わりした2020年の採用市場。ここ数年、採用媒体で集客し、その母集団と就活イベントで接点を持ち、自社の選考プロセスに誘導するという従来型の採用活動は、企業規模や知名度で成果差が顕著となっていた。ここに経団連の発表した就活ルール撤廃と相まって、長らく続いた日本独自の採用慣行である春季一括採用が終わりを告げており、新たな採用手法が求められていた。

・近年、進行し続ける人材不足を背景に、優秀な人材の獲得競争がますます激化する中で、より早期から学生との直接的な接点を持つことを目指すダイレクトリクルーティング施策を導入する企業が増えている。その中でも、自社との適性や必要とされるスキルなどをよくわかっている自社で働く従業員が学生を紹介することから、採用におけるミスマッチを防ぐのに効果的なこともあって、「リファラル採用」が大きな注目を集めている。

・自社を熟知した従業員が紹介する人材だからこそ、これまで接点をもってこなかった層へのアプローチも可能となる点は、リファラル採用の大きなメリットだ。ピンポイントで自社の求める人材要件と合致する層と、より早期から接点を持てることは大きな採用上の強みとなるだろう。また、企業とのミスマッチを防ぐ効果が期待できることから、短期的には採用コストの削減に資することはもちろん、長く活躍してくれる可能性も高いため、離職率低下にも効果的だ。

・リファラル採用はメリットも大きいが、導入にあたり注意すべき点もいくつか存在する。従来の採用チャネルと違い、常に全社をあげた取り組みとなるため、採用問題はもはや経営陣と人事部だけのものではなくなる。そのため、成功へのカギとなるのは、従業員ひとりひとりの積極的な働きかけによる地道な活動だ。また、候補者が不採用(または選考辞退)となった時の紹介者に生ずる不利益を最小化するためにも、選考プロセス全体を通した真摯で公正な対応が、採用担当には求められる。

・自社で働く従業員の協力がなくては、リファラル採用は成り立たないため、採用を成功させるためには、従業員による高いエンゲージメントと継続的なコミットメントが欠かせない。そのため、「自社の発展は自分自身が担っていく」という啓蒙活動を行うことや、業務への大きな負担とならないように配慮すること、紹介者へはインセンティブなどを用意することで、リファラル採用への協力にあたってのモチベーション維持に努めることが求められるだろう。

・リファラル採用に限らず、あいまいな人材要件や採用基準で選考プロセスを回していくと、結局のところ離職率の高さにつながる。求めている人材像と採用条件を明確に打ち出しつつ、社内でも広く共有することで、リファラル採用での紹介をしてくれる従業員との認識すり合わせを常に行うことが重要だ。そうすることで、求めている人材獲得に向けてピンポイントの接点を作りだすことが可能となるだろう。また、リファラル採用は時期や人数の予想が立てづらいため、最初は他チャネルと組み合わせて運用していくことが望ましいといえる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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