2022.11.15

EVPとは?設定するメリット、項目を検討する流れを解説

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EVPとは「企業が従業員に対して提供できる価値」を表す言葉であり、労働力確保のために重要なポイントのひとつだ。今回は、EVPの概要や目的、メリットを紹介する。実際に設計する際の流れも解説するのであわせてチェックしよう。

EVP(Employee Value Proposition )とは?

EVPとは、英語の「Employee Value Proposition」に由来する言葉である。「Employee」は従業員や労働者を、「Value」は価値や進化を、「Proposition」は提案や計画を意味する。

「Employee Value Proposition」を日本語に直訳すると「従業員に向けた価値提案」となる。つまり、企業が従業員に対してどのような価値を提供できるのかを意味する。

これまで採用活動は、「従業員が企業にどのような利益をもたらせるのか」という視点で行われていた。しかし、EVPはこのような視点を根底から覆す考え方であり、特徴として従来の採用活動における企業と従業員の立場を逆転させる概念であることを指摘できる。

EVPでフォーカスされるのは「従業員もしくは求職者に対して、企業が給料や福利厚生などの利益をどれほど提供できるのか」という点である。企業が適切にEVPを設定できれば従業員のエンゲージメントを向上できるうえに、採用活動におけるライバル企業との競争を優位に進められる。

EVPを通じて「自社らしさ」をわかりやすく言語化し、あるいは見える化して企業カルチャーとして浸透させることで、求職者から選んでもらえる企業づくりが実現できる。

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注目される背景やメリット

EVPが注目されるようになった背景には労働人口の減少がある。急激な少子高齢化が進行した結果、働き手を確保することはどの企業にとっても深刻な経営課題になっている。

さらに、EVPの広まりは日本型経営システムの衰退ともリンクする。1990年代後半から年功序列制度や終身雇用制度の維持が難しくなっており、結果的に多くの従業員は同じ企業で働き続けることにメリットを感じなくなっている。このように働き方に対する意識が変わったことで転職活動をおこなう人が増え、人材の流動性が高まっている。

特に2011年以降は、転職者の増加に拍車がかかっている。これは企業側からみると不本意な人材流出が多くなっている状態ともいえる。

労働人口の減少と日本型経営システムの衰退という要因から労働力が確保しにくくなっている。この結果、採用の現場では企業側が求職者を選ぶ時代は終わり、逆に求職者が企業を選ぶ時代へと変化していったのである。企業は優秀な人材に選ばれるためにEVPの設計について積極的に取り組むケースが増えている。

企業としては、従業員や求職者に対して提供できる自社独自の価値を発信し、「この企業で働きたい」と思ってもらえるようにすることの重要性が高まっているのだ。

EVPの導入によるメリットは、以下のとおりである。

<企業ブランドや採用競争力の向上>
採用活動において自社らしさを明確にすることで、企業ブランドが高まる。競合他社との差別化を図ることにもなり、求職者に向けて企業の価値をアピールでき、採用競争力の向上につなげられる。優秀な人材を確保しやすくなるというメリットもある。

<企業理念などの浸透>
EVPは企業理念や行動指針にもとづいて設計し、価値を提供していく。どのような従業員に対して価値を提供できるのか明確化することで、企業が求める成果を従業員からあげてもらいやすくもなる。すなわち、企業の掲げる理念やビジョンを従業員と共有することで、従業員と企業の双方が価値を提供しあえる効果を期待できるのだ。

<従業員の満足度や定着率の向上>
企業が高い価値を提供できれば従業員の満足度が高まり、自社に対する共感や誇りを持てるようになる。結果的に仕事に対するモチベーションも高まり、従業員の定着率向上につながるだろう。

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EVPで代表的な検討項目

それでは、EVPを導入する際にどのような項目を設定すると良いのかも確認したい。EVPの導入に際して企業が検討すべき代表的な項目は、以下のとおりである。

・ ミッション
・ 企業風土
・ キャリア開発
・ 給与
・ 休暇や福利厚生等の社内制度

EVPの設計においてどのような点を検討するといいのか、それぞれの項目を詳しく解説していく。

ミッション

ミッションとは、企業が社会で果たす責任や目標などのことを指す。ミッションを達成できるように、組織のなかで共通する価値観や考え方といったバリューを設定する。

ミッションとバリューを設定することで、自分の仕事によって社会がどのようによくなるのかを明確化できる。そのため、EVPにおいてミッションとバリューを設定することは、仕事や組織への誇りにつながる。

企業風土

企業の風土や文化とは、たとえば「経営者がトップダウンでスピーディーに決定をくだして、事業を進めていく」「社員一人ひとりがプロジェクトに対して自由に意見を言える」などの企業が持つ特徴のことであり、これを明文化することで企業の施策や人事制度に反映できるようになる。

また、企業の風土や文化を採用ページなどで発信すると、働く姿を求職者がイメージしやすくなり、採用のミスマッチを防ぐ効果も期待できるだろう。

キャリア開発

キャリア開発も、EVPにおいて検討すべき項目のひとつだ。キャリア開発について設定する際は、企業が従業員のキャリアをサポートできるように、研修の実施や業務機会の確保を積極的に行っていきたい。

社員のキャリアアップやキャリアチェンジについて企業がしっかりとバックアップするようにしていけば、中長期的な人材育成や生産性向上にもつながっていく。

実際に新卒3年以内に勤務先を退職した人の離職理由には「企業でのキャリア形成が望めないため」というものの割合が大きいといわれている。キャリアパスを明確にできれば、求職者や従業員からの高い評価につながるだろう。

給与

EVPにおいて検討すべき代表的な項目には、給与もある。従業員が働く最大の目的はお金を稼ぐことだ。そのため、EVPの設計において即効性がとくに高い項目は、手当や昇給に関するものだといわれている。

また、成果をあげた従業員の表彰や評価も検討しておくといいだろう。正当に評価される環境をつくることで、本人だけではなく周りの従業員もモチベーションを高められる。採用活動時のPR材料にもなるためおすすめだ。

休暇や福利厚生等の社内制度

EVPの設計では、休暇や福利厚生等の社内制度についても検討しておこう。新卒3年以内に勤務先を退職した人の離職理由では、待遇や福利厚生に対する不満も大きな割合を占める。休暇制度の見直しや副業の解禁、フレックスタイム制・短時間勤務体制・テレワークの導入など社内制度の見直しを考えるといいだろう。

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EVPを検討する流れ

EVPを設計する際の基本的な流れは、以下のとおりである。

・ 現状把握
・ 事例をリサーチする
・ EVPの検討~設定
・ 社内展開~運用開始

設計の際には、従業員にも企業にもメリットとなるような施策を検討するのがおすすめだ。相乗効果が期待できるうえに、雇用関係の良好化にもつながる。

最後にEVPを設計する際の流れを確認したい。

現状把握

まずは、企業の現状を把握することが重要だ。従業員アンケートなどをおこない、従業員や求職者のニーズを分析する。自社の強みや弱み、共感を得られるポイントを確認することがEVPの設定には欠かせない。

自社が提供する価値にはどのようなものがあるのか、給与や待遇、キャリアパス、やりがいなども分析していく。企業の事業内容や経営方針、長期的なビジョンを洗い出し、今後の展望についても分析を進めるといいだろう。

事例をリサーチする

次に、競合他社の事例をリサーチして、自社で採り入れられるものや差別化を図れるものを考えていく。他社ではどのようなEVPを提供しているのかを確認することで、自社でも従業員への付加価値提案のために採り入れられる案を具体的にイメージできるようになるだろう。EVPを設計する際は、人事制度や就業形態、ワークライフバランスなどをチェックするのがおすすめだ。

EVPの検討~設定

続いてEVPを検討して具体的に設計していく。先述のとおり、EVPで設定すべき項目は多岐にわたる。自社の特徴や他社の事例といった分析結果をもとにして、会議やミーティングを通じてアイデアを絞り込んでいく。

EVPを検討する際は、人事や経営層以外にマネジメント層も交えたディスカッションがおすすめだ。会社の経営方針や中長期的なビジョンに沿ったアイデアを考えていこう。

社内展開~運用開始

EVPを設計できたならば、決定した内容を社内外に広く周知し、実際に運用を開始する。採用ページや社内制度、評価、SNSなど、さまざまことに反映させていこう。

運営してからは、PDCAサイクルを意識することが重要だ。従業員の満足度調査などを定期的に実施し、継続的に改善していくことによって、EVPを時代に即した内容へとアップデートしていけるのだ。

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まとめ

EVPとは「従業員に対して、その企業がどれほどの利益を提供できるのか」を指す言葉である。特徴としては、従来の採用活動における考え方の企業と従業員の立場を逆転させた点にある。EVPの設計によって従業員のエンゲージメントを向上できるうえに、採用競争力の強化にもつながるといわれている。

EVPの導入によるメリットは、以下のとおりである。

・ 企業ブランドの向上
・ 企業理念などの浸透
・ 従業員エンゲージメントや定着率の向上

EVPにおいて設定すべき代表的な項目や、EVPを設計する際の基本的な流れなどをしっかりと理解して、実際の企業活動で活用していこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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