2023.6.19

出戻り社員とは?採用するメリット・デメリットや、注意すべきポイントを解説

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労働力を強化するために、出戻り社員を積極的に採用する企業が増加傾向にある。しかし、出戻り社員は既に存在する社員との軋轢を生む原因になることがあるのだ。今回は、出戻り社員を受け入れるメリットやデメリット、採用する際のポイントについて解説する。

出戻り社員とは

出戻り社員とは、退社した会社に再入社する社員を指す。転職して他の会社で働いたり、自身で独立開業したりした後に出戻りするなど、再入社に至るまでの経緯は様々だ。また、育児や介護といった理由で退職し、その後転職せずに出戻る人も含まれる。ただし、定年退職後に雇用契約を結ぶ場合は、退職から再雇用までの期間が短いため、出戻り社員に含まれない。

出戻り社員が注目されている背景

以前は出戻り社員の採用に消極的な会社が多かったが、近年は前向きに検討されているのが現状だ。出戻り社員が注目される背景には、以下のことが考えられる。

● 労働人口の減少
● 優秀な人材の確保
● 女性の社会進出
● 働き方の多様化

以下でそれぞれの背景について詳しくチェックしよう。

労働人口の減少

出戻り社員が注目されている背景には、労働人口の減少が考えられる。日本は少子高齢化に伴う労働人口の減少が進んでおり、人材不足に課題を抱える会社も少なくない。

このような状況を打開すべく、即戦力となり得る出戻り社員の採用を前向きに検討する会社が増えているのだ。また、新たに即戦力となる人材を探すより、一度退職した元社員に声をかけるほうが、効率よく優秀な人材を確保できると考える企業も多い。

優秀な人材の確保

人材業界は売り手市場が続いており、採用難に直面する会社が多いのが現状だ。特に、優秀な人材は数が限られており、その希少な人材を獲得すべく、競合他社との間で熾烈な奪い合いが繰り広げられている。

また、優秀な人材を獲得できたとしても、会社が期待する活躍ができるのか、実際に働くまでは未知数なのだ。その点、出戻り社員は業務や会社のやり方を十分に理解しており、即戦力として活躍できる可能性が高いと考えられている。

女性の社会進出

出戻り社員が注目されている背景には、女性の社会進出が進んでいることも挙げられるだろう。以前は、結婚や出産をきっかけに会社を退職して専業主婦となる女性が多く、出戻りを選択する人は少ない傾向にあった。しかし、女性の社会進出に伴い、結婚や出産で一度仕事を離れた人が、生活が落ち着いてから再び働き出すケースが増えているのだ。

働き方の多様化

働き方改革の推進や仕事に対する価値観の変化により、近年は働き方の多様化が進んでいるのが現状だ。以前の社内制度では働き続けるのが困難な状況でも、在宅勤務やリモートワークなどの導入によって再び働く機会を得られるといった事例も見られる。会社側も働き方の選択肢を広げることで再雇用が進み、人材不足の課題を解決できる側面があるのだ。

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出戻り社員を採用するメリット

一度退社した元社員を再雇用するメリットには、以下のことが挙げられる。

● 即戦力が期待できる
● 採用コスト削減になる
● 会社の愛着が生まれる
● ミスマッチが起きにくい

以下でそれぞれのメリットを詳しくチェックしよう。

即戦力が期待できる

出戻り社員には、即戦力としての活躍が期待できるメリットがある。通常、中途採用者は中途採用社員向けの研修に参加してもらわなければならない。

しかしながら、出戻り社員の場合は在籍当時との変更点や留意すべき事項を伝えるだけで、採用後すぐに業務に取りかかれることが多い。出戻り社員は、通常採用よりも教育時間が少なく、再雇用した日から戦力となるまでの期間を短縮できるのだ。

採用コスト削減になる

出戻り社員は、採用コストを削減できるメリットがある。通常、会社が新しい人材を採用するには、多大なコストがかかると言われている。人材紹介会社を利用した場合には、理論年収の20〜30%程度の手数料を支払わなければいけないのだ。

一方、出戻り社員は人材紹介会社や採用媒体を利用する必要がなく、採用コストを大幅に抑えられるメリットがある。

会社の愛着が生まれる

出戻り社員には、以前よりも会社への愛着が深まるメリットがある。特に、他の会社に就職した後に出戻った場合、採用してもらえたことに恩義を感じて会社への愛着が増すのだ。再雇用後は安易に退職を考えず、モチベーションを維持しながら業務に従事してくれる。また、自主的に行動することが多くなり、生産性のある職場を実現できるメリットもあるだろう。

ミスマッチが起きにくい

出戻り社員を採用するメリットとして、会社と社員との間でミスマッチが起きにくいことが挙げられる。以前働いた経験がある出戻り社員は、仕事内容や職場の雰囲気など会社のことを理解しているため、入社後のミスマッチを防げることが多いのだ。結果的に、ミスマッチによる早期退職を軽減でき、採用コストの削減にもつなげられる。

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出戻り社員を採用するデメリット

一度退社した元社員を採用するメリットは多くあるが、いくつかデメリットがあるのも事実だ。主なデメリットには、以下のようなことが挙げられる。

● 転職へのハードルが下がる
● 既存社員から不平不満が出る
● 変化への適応に時間がかかる

以下でそれぞれのデメリットを詳しくチェックしよう。

転職へのハードルが下がる

出戻り社員を積極的に採用することで、既存社員の転職に対する価値観が変わる可能性がある。既存社員は「一度退職しても再雇用してもらえる」と考えるようになり、転職へのハードルが下がる場合があるのだ。転職へのハードルが下がると、既存社員の流出を助長させる場合もあるだろう。人材流出に歯止めが効かず、事態が深刻化することも考えられる。

既存社員から不平不満が出る

出戻り社員が好条件で再雇用された場合、既存社員から不平不満が出る場合がある。会社としては過去の実績と退職後の経験を加味して、出戻り社員を好待遇で迎え入れているかもしれない。

しかし、これまで懸命に努力をしてきた既存社員にとっては、一度退社した元社員が好待遇で歓迎されることに良い印象を持たないのだ。既存社員は会社への不信感が高まり、仕事に対するモチベーションの低下や離職につながることが考えられる。

変化への適応に時間がかかる

会社は常に変化しており、以前と職場環境が変わることがある。過去のやり方が通用しない場合もあり、出戻り社員が変化に適応するまでに時間がかかることがあるのだ。既存社員との連携が乱れ、生産性や業務効率に影響が出る可能性もある。退職してから年数を経た出戻り社員を採用する場合、新しい環境に慣れるためのサポート体制を整えることが必要だ。

出戻り社員として転職できる人の特徴

過去に働いていた会社でも、出戻り転職が上手くいくとは限らない。出戻り社員として転職できる人には、以下のような特徴が挙げられる。

● 人間関係が良好だった
● 円満退社だった
● 在籍時に高い評価を得ていた
● 出戻り理由が明確である
● 勤務年数が長かった

以下でそれぞれの特徴を詳しくチェックしよう。

人間関係が良好だった

退職時に周囲から惜しまれるほど人間関係が良好だった場合は、出戻り社員として転職できる可能性が高い。既存社員にも「また一緒に働きたい」と快く受け入れられ、再雇用後も職場に馴染めることが多いのだ。

逆に、在籍中に成績が優秀で成果を残していたものの、良好な人間関係を築けていなかった場合には、出戻り社員として転職するのが難しいかもしれない。

円満退社だった

出戻り社員として転職できる人の特徴として、円満退社だったことが挙げられる。特に、退職から再雇用までの期間が短い場合、退職時のことを覚えている既存社員が多い。

引き継ぎを行うなど周囲に迷惑をかけずに退職した人であれば、会社も既存社員も快く迎え入れるだろう。しかし、悪い印象を与えて退職した場合には、再雇用が難しくなることがある。

在籍時に高い評価を得ていた

在籍中に活躍が目覚ましく高い評価を得ていた人は、出戻り社員として転職できる可能性が高い。優秀な人材として会社が認めているため、出戻り転職でも快く迎え入れてくれる場合がある。また、退職後に他の会社に転職していた場合は、そこで得た経験やスキル、知識が加味され、地位や給料など好待遇で再雇用されることもあるだろう。

出戻り理由が明確である

出戻り転職を成功させたい場合、明確な転職理由が求められる。例えば、出産や育児のために両立しやすい会社に転職したいという理由で退職したとする。その後、育児が落ち着いてきたため、以前のようにバリバリ働きたいという理由であれば歓迎される可能性が高い。

しかし、転職先の仕事内容が自分に合わなかったなど安易な出戻り理由である場合は、入社後にまた辞める可能性があるため、出戻りが歓迎されないことがある。

勤務年数が長かった

出戻り社員として転職できる人の特徴として、勤務年数が長かったことが挙げられる。企業にとって長く働いてくれた社員は、それだけでも良い印象を与えることが多い。勤務年数の長い元社員が出戻りを希望した場合、採用される確率は高いだろう。

ただし、勤務年数が短くても在籍中に高い評価を得ていた場合には、勤務期間にかかわらず歓迎されることがある。

出戻り社員を採用する際のポイント

出戻り社員を積極的に受け入れる会社は増えているが、注意すべきポイントがある。主なポイントには、以下のようなことが挙げられる。

● 既存社員の理解を深める
● 選考基準を明確化する
● 退職理由となった問題を改善する
● 受け入れ体制を構築する

以下でそれぞれのポイントを詳しくチェックしよう。

既存社員の理解を深める

出戻り社員を採用する場合、既存社員の理解を深めることが重要だ。即戦力になる出戻り社員を好待遇で迎え入れる会社も少なくない。しかし、これまで懸命に努力をしてきた既存社員にとって、元社員が好条件で再雇用されることを好ましく思わない場合がある。

既存社員と出戻り社員との間で軋轢が生まれ、仕事に支障が出る場合もあるだろう。既存社員から嫌われることのないように、出戻り社員の採用に対する理解を得ることが求められる。

選考基準を明確化する

出戻り社員への理解を得るには、選考基準を明確にする必要がある。選考基準を曖昧にすると既存社員の不平不満につながり、会社への不信感を高める原因になる場合があるのだ。会社は常に変化しており、在籍時と現在では成長段階や業務の進め方が変わることも多い。

出戻りを希望する元社員には、退職後の経験や仕事への向き合い方などを確認し、現在の職場に馴染めるのかどうかを総合的に判断することが求められる。

退職理由となった問題を改善する

自社で即戦力として活躍してもらうには、退職理由となった問題を改善する必要がある。元社員が退職した理由によっては、再雇用後に同じ問題が起きるかもしれない。場合によっては職場で居心地の悪さを感じ、再び退職する可能性も考えられるのだ。

会社は元社員の退職理由や問題点を精査して、必要であれば改善することが求められる。より良い職場環境が構築できれば、出戻りを希望する元社員が増える可能性もあるだろう。

受け入れ体制を構築する

出戻り社員に長く働いてもらうには、社内で受け入れ体制を構築することが求められる。出戻り社員が現在の職場に対して居心地の悪さを感じると、パフォーマンスの低下や再退職につながる可能性があるのだ。

出戻り社員に快適に働いてもらうには、職場で出戻りを受け入れて歓迎する雰囲気を作ることが必要になる。受け入れ体制を構築するには、選考基準を明確にするなど、既存社員から不満が出ない状態を作ることが求められるだろう。

関連記事:採用基準の決め方は?設定の流れ・ポイントを解説!

出戻り社員の採用事例

近年、出戻り社員を積極的に採用する企業が増えているのが現状だ。出戻り社員を積極的に採用する企業には、以下のようなものが挙げられる。

● KDDI株式会社
● 富士通株式会社
● トヨタ自動車株式会社
● パナソニック株式会社
● アクセンチュア株式会社

以下でそれぞれの採用事例を詳しくチェックしよう。

KDDI株式会社

KDDI株式会社では、2008年4月に退職者に向けた再雇用制度を導入した。多様化する社員の仕事と家庭の両立支援を強化するために、育児などの一定の理由で退職した社員を、再び正社員として受け入れることを目的としている。

また、2023年3月には中途退職した元社員と企業が交流する「KDDIアルムナイネットワーク」の運用を開始したのだ。KDDIを離職した元社員との継続的な情報交換や交流ができるKDDIアルムナイネットワークを通して、再雇用の機会を創出している。

参考:KDDI株式会社「KDDI退職者の再雇用制度
参考:KDDI株式会社「元社員とつながり続ける「KDDIアルムナイネットワーク」を構築

富士通株式会社

富士通株式会社には、再度富士通で活躍できる場を提供するウェルカムバック制度が導入されている。育児や介護などのやむを得ない事情によって退職した方や、大学院への進学や転職などキャリアアップのために退職した社員に向けた制度だ。

また、富士通株式会社では、退職者と富士通がつながるコミュニティ「FUJITSU Alumni Network」を開設している。退職者同士の交流の場を提供するとともに、イベントやニュース、求人などの情報提供を発信して、退職した元社員に再雇用の機会を創出しているのだ。

参考:富士通株式会社「キャリア採用情報

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社では、2005年8月に事技専門職以上の社員を対象にしたプロキャリア・カムバック制度を導入している。配偶者の転勤や介護によって退社した元社員に再雇用の機会を提供し、仕事に復帰してもらうことを目的とした制度だ。

トヨタ自動車株式会社は、以前から人間性尊重の理念の元、ダイバーシティプロジェクトを立ち上げ、人材の多様化を推進してきた。プロキャリア・カムバック制度の導入により、仕事と家庭のバランスを考慮した働き方の選択肢が増え、人材の多様化が進んでいる。

参考:トヨタ自動車株式会社「『プロキャリア・カムバック制度』導入について

パナソニック株式会社

パナソニック株式会社では、多様な人材が活躍できる風土や働き続けられる環境作りに向けた取り組みを推進している。その取り組みの一つとして、出産・介護などのやむを得ない事情や、キャリアアップを理由に退職した元社員を受け入れる社員再就職制度が導入されたのだ。

社員再就職制度の特徴として、自己都合など退職理由にかかわらず、中途退職した人を積極的に採用していることが挙げられる。経験やスキルが高く評価されれば、再雇用される可能性があるのだ。採用後は3ヵ月間の試用期間があり、その後正社員として登用される。

参考:パナソニック株式会社「A Better Careerの取り組み

アクセンチュア株式会社

アクセンチュア株式会社では、元社員の再雇用を積極的に受け入れている。「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」と呼ばれる特設サイトを設けており、退職した元社員に再雇用の機会を創出しているのだ。この特設サイトは、アクセンチュア出身の卒業生をつなぐポータルであり、30万人以上が在籍する巨大ネットワークである。

特設サイトでは、元社員同士の交流に加え、親睦を深めるために世界78ヵ国で様々なプログラムが開催されている。特設サイトでの交流やプログラムの参加を経て会社に復帰し、以前にも増して活躍する出戻り社員が増えているようだ。

参考:アクセンチュア株式会社「アクセンチュアの卒業生(アルムナイ)

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「アルムナイ制度(企業の退職者を再雇用する制度)」が近年注目を集める理由とは?

まとめ

少子高齢化による労働人口の減少や女性の社会進出など、様々な理由で出戻り社員を積極的に採用する会社が増えつつある。しかし、出戻り社員を受け入れる体制がしっかりと構築されていないと、既存社員との間で軋轢が生まれたり、転職への抵抗が少なくなったりなど、マイナスの影響が出る場合が考えられる。

出戻り社員を採用したい場合、出戻りを歓迎する雰囲気を作り、既存社員の不平不満が出ないように体制を整えることが必要だ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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