2020.11.27

HRDXとは?企業が採用DXをコロナ禍でも推進するために必要なこと

読了まで約 6

・慢性的な人手不足を背景に変革を続ける企業での取り組みはDXの推進につながるのか

・個人情報などを取り扱うため慎重論も多いHRDXは企業にどのような変革をもたらすのか

・DXへの取り組みは概ね管理、認識、分析、創出の4段階に分けて考えることができる

・HRDX推進を試みる取り組みから見えてくるHR領域ならではの課題とは

・それぞれ現状や成長段階の異なる組織や企業がDX推進のためにすべきこととは

・HRDXを推進する際のロードマップ策定で気を付けるべき4つのポイントとは

デジタル化の波はHRにも

近年、慢性的に叫ばれてきた企業における人手不足を背景に、多くの企業では従業員の労働生産性向上を目指し、「働き方改革」や「健康経営」に向けた取り組みが急ピッチで行われている。人事マネジメント領域では、人工知能(AI)やビッグデータを活用することで、従業員の効率的な業務遂行を実現している。また、エンゲージメント向上などを実現するHRテックを導入する企業が増えており、HRテックという言葉自体も定着しつつある。

企業におけるテクノロジー活用は、人事マネジメント領域にとどまらない。ヘルステック(HealthTech)は、従業員のメンタルヘルス(心の健康)や、コロナ禍中の感染防止ソリューションの提供などを通じて、企業の健康経営を支えている。また、新しい学びのかたちを実現するエドテック(EdTech)の活用も、企業での従業員研修や福利厚生の自己研鑽プログラムなどで導入が進んでいる。

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「第4次産業革命」とも呼ばれる、AIやビッグデータ、IoTなどを活用していく一連の動きは、企業活動のあらゆる場面に影響を与え、デジタル化を伴う変革(DX=Digital Transformation/デジタル・トランスフォーメーション)を企業にもたらしていくであろう。企業のDXへの取り組みは、第3波到来とされている新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、来るべきアフターコロナに向けて、加速しつづけている。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という概念は、2004年にスウェーデンはウメオ大学のエリック・ストルターマン教授により唱えられたものである。その意味するところは、「進化しつづけるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」ことだ。

ビジネスの側面からみていくと、経済産業省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0」では、政府のDXの定義として「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とある。つまりDXとは、あらゆる産業のあらゆる業務において、競争優位性を保ちつづけるために、欠かすことのできない取り組みとなっていくものと考えられているのだ。

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一方、HR領域では取り扱うデータに個人のプライバシーにかかわる情報が多いため、各分野のDXへの取り組みにくらべても、特に慎重を期す声が多く聞かれる。しかし、あらゆる業務でのDX推進というからには、HRの領域も例外ではない。先の経済産業省によるDXの定義にもあったように、企業文化や社風、組織そのものなどは、元来HR領域が担う要素が多いことから、HRでのDX(=HRDX)をうまく推進した企業がDXに成功するといっても過言ではない。

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対照的に、HR以外の領域でのDXがどれだけ進んだとしても、組織の根幹であるHRDXが遅れている組織では、DXは全社的な取り組みとはならず、真の意味でDX化した組織を実現できない。コロナ禍で社会が大きな変革を迎えている今だからこそ、第4次産業革命とアフターコロナを見据えた「Transformation(トランスフォーメーション)=大変革」の取り組みを推進することで、スピードの著しい変化によって今までのビジネスモデルが崩壊していくなかで、持続的な競争力の強化に乗り出しておくべきなのだ。

HRDXを導入するには4つの段階がある
業務が多様化している現代では、いかなる企業にもあてはまる、DXの定石というものはないが、HRを含めDXを推進しているすべての企業に共通する特徴を紐解くと、DXは大きく「管理」「認識」「分析」「創出」という4つの段階に分類して考えることができる。それぞれの段階の概要を見てみよう。

「管理」は、変革にむけた管理のために情報を収集する段階だ。HR領域での具体的な例をあげると、人材採用における求職者の履歴書やWEB適性検査などの情報や、従業員の勤怠情報や賃金台帳、福利厚生などの情報が当てはまる。

「認識」はDX化に必要となる膨大な情報を可視化することによって、管理しやすくする段階だ。例えば、タレントマネジメントツールで人材に関する情報を一元的に集約したり、ダッシュボードを活用し人事情報や残業時間などを可視化することなどがこの段階での取り組みである。

「分析」は複数の情報から課題解決のための主要素を探ることで、より効果的な組織の施策展開へとつなげていく段階だ。「認識」のように情報を電子化するだけではDXへとつなげることはできない。ファクト(事実)の示すところをしっかりと分析することで課題や改善点を見つけ、次の打ち手につなげていく。

ここまでの3段階で得た仮説を繰り返し検証することで、新たな価値を生み出していくのが「創出」の段階だ。
どの企業も取り組み途上であり、事例も少ないためまだ発展途中にある段階であるが、DXのキーであるといえる。

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HRDXのロードマップ策定時のポイント

HR領域に限らないが、DXは企業単位や組織単位で異なる目的意識をもって推進するものである。そのため、各企業、組織の現況や成長段階に即したDX推進へのロードマップ策定が欠かせない。単なるインフラやツールの導入スケジュールや、業務の限定的なデジタル化(Digitalisation=デジタライゼーション)は、DX推進における手段であって、目的とはなり得ないからだ。

経済産業省の定義通り、DXとはデジタル化を推し進めるだけでなく、組織の仕組みから従業員の意識にいたるまで、業務と関連する多くのエレメントの変革を目指す。だからこそ、経営トップが明確な目的や目標を打ち出し、その変革に向けたロードマップを計画し、的確に管理するチェンジマネジメントが必要となる。ここでは、HRDXにおいて押さえておきたいポイントを4つ見ていく。

1. 明確なビジョンを策定する

HRDXを推進する前提は、ビジョンが明確であることだ。HRDXに取り組むことによって目指したいビジョンの策定と、その目的を組織内で共有しておくことがマストだ。そのために重要なのは、現状と理想を繰り返し比べることで、その差分を埋める計画を立案し実行することである。他方で、HRDXには未だに確実な金科玉条や王道があるわけではないため、見切り発車をしてHRDXに取り組んでいる企業も多く存在する。ビジョンが明確でないと課題に対して対症療法的なアプローチしかできないため、意識改革や職場環境の変化が進まず、従来の働き方とそぐわないなどと不満のみが募る結果となってしまう。だからこそ、明確なビジョンの策定に時間を費やすことが重要だ。

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2. ステークホルダー分析を行う

HRDXのロードマップ策定において上必要不可欠なのが、ステークホルダー分析だ。
従来のやり方は一切認めず変革を早急に進めていこう、という意見を持つ人はHRDXを進めていくにあたって欠かせない役割を果たすが、一方でこのような考え方のみでは、組織内に取り残される人が多く出てきてしまい、限られた数の担当者や部署のみでDXを推進し「タコツボ化」「サイロ化」を起こしてしまう原因となる。変革には必ず、賛成する人と反対する人、または中立な人がいて、反対または中立な人がなぜそうであるのかを明らかにし、どうしたら賛成側に回ってくれるのかを考慮しつつロードマップを策定していく必要がある。

3. 目標とする成果を設定する

HRDXに取り組むからには、目標とする成果について基準を設定する必要がある。また、中長期的な成果以外にも、微調整を重ねるシステム環境開発にあわせて、短期的な目標値の設定も有用性がある。

目標を設定する際には、抽象的なものではなく、「SMART(=Specific, Measurable, Assignable, Realistic, Time-bond)」に基準を置いたものにすべきだ。例えば、「従業員の満足度」を指標に設定した場合、何をしたいのかははっきりしていても、数値化するとなるとそこで行き詰まることが多い。これを解決するには業務プロセスの変更もありうる、という視点が必要だ。これを前提に考えなおせば、「満足度のアンケートを取る」といったプロセスを追加するだけで定量化が可能となることも多い。

4. 個人情報を含めた情報管理の強化

DXの最初の2段階「管理」と「認識」ではさまざまな情報を電子化して社内でやり取りすることになるため、情報管理を強化することは必然となる。
さらに、HR領域におけるDXでは人事や勤怠管理に関する個人情報、機密情報を扱うことになる。個人情報保護法に沿った管理はもちろん、万が一にも情報が漏洩したり盗まれたりしないよう、堅牢な管理・運用体制を構築することが求められる。

また、組織としてシステム上のセキュリティを強化するだけでなく、従業員個々の意識を改革することも重要なポイントとなる。経営層や人事担当だけが情報管理に腐心していても、従業員のうち一人でも自覚のない行動をすれば情報管理に隙間ができてしまうことを、しっかりと教育しておきたい。

まとめ

・急速に変化するビジネス環境において、企業活動でのテクノロジー活用やデジタル化は進んでいる。DXとは「進化しつづけるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」ことを指すが、HR分野では、HRテックという用語が浸透してきたと同時に、企業全体と関わりのあるHRDXへの取り組みがみられるようになっている。

・機微なプライバシーに係る個人情報を多く取り扱うため、慎重論も多いHRDXの推進だが、企業文化や社風など、「組織と人」を扱うHR領域だからこそ、HRDXが後れをとると、他部署でいくらDX化が進もうとも、それは全社的な取り組みとはならない。

・DXへの取り組みは次のように説明することができる。「管理」すべき情報を収集し、これらを「認識」できるよう可視化を行った上で、複数の情報から相関性や因果関係を「分析」することで、課題解決に向けた主要素を仮説として検証し続け、新たな発見とともに企業にとってこれまでにない価値の「創出」を目指すことだ。

・HRDXを推進していくにあたって課題として顕在化する課題として、データの分析と活用が進んでも「処遇」に結び付く可能性から執拗にデータの「正確性」を問われてしまうことや、目的が明確でない場合に個人情報の取り扱いに関して合意の取得や形成が難しくなるため新たな発見があっても活用につながらない、などがあげられる。

・企業や組織単位で異なる目標意識をもつため、それぞれの企業や組織ごとの状況に沿ったDX推進のためのロードマップ策定が重要となる。また、DXは単にデジタル化するだけでなく、組織そのものに大きな変革をもたらすため、経営トップが明確な目的設定を行い、現状との差分を埋めるロードマップを設定し、これを管理することが欠かせない。

・HRDXを推進する上で気を付けるべきなのは、①ビジョンを設定することで、HRDXを通して何を実現したいのか明瞭にしておくこと、②HRDX推進にあたり、反対(または中立)者がいることを認識し、なぜ反対(または中立)なのかを明らかにし、どうしたら賛成するかを考えていくこと、③目標や指標は、業務プロセス自体も変革することを念頭に具体的に設定すること、④個人情報を含めた情報管理の強化の4ポイントとなる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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