2023.2.6

バランススコアカード(BSC)とは?経営戦略に活用できる4つの視点を紹介

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企業の経営戦略や業績などを適切に評価し、経営戦略の立案や実行に役立てるには、バランススコアカード(BSC)を活用すると良いだろう。今回は、バランススコアカードの意味やその歴史と背景、主な効果、構成する4つの視点などを紹介する。さらに導入手順も解説するため、併せてチェックしよう。

バランススコアカード(BSC)とは?

そもそもバランススコアカードとは、企業の経営戦略や業績などを評価するフレームワークである。これによって評価された内容は、KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)の策定の際に活用していく。バランススコアカードは、BSC(Balanced Scorecard)と呼ばれることもある。

経営戦略の評価をする際、企業の成長を確認するためには利益率などを見るのが一般的な手法だろう。しかし、企業の成長は、利益率などだけでは判断しきれない複雑なものだ。

バランススコアカードは、4つの要素で経営管理の情報をまとめられるツールであり、その活用によって複数の視点から経営のバランスを評価できるようになる。より適切で効果的な経営戦略の立案や実行を行っていくためには、バランススコアカードの活用がおすすめだ。

バランススコアカードの4つの要素とは、「財務」「顧客価値」「業務プロセス」「(人材に対する)学習・育成」のことである。これらの要素について、詳しくはまた後述する。

歴史と背景

バランススコアカードは、企業の業績の評価を目的とするツールとして、1992年に雑誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」の中で発表された。発表したのは、ハーバード・ビジネススクールのロバート・S・キャプラン教授や、コンサルタント会社のデビット・P・ノートン社長だ。

より高度に、より複雑になった経営環境に対応するために開発されたフレームワークであり、発表から30年以上経っても使用され続けている。欧米企業で積極的に採用されるようになった上、日本でも2001年頃から取り上げられるようになり、大企業を中心に採用されている。

従来、企業業績の評価は売上や利益などの財務指標が基準となっていた。しかし、売上や利益などの金額だけが、プロジェクトの成果や企業の業績を表すわけではない。「人材の成長」「ファンにできた顧客の数」「業務の無駄の変化」など、売上や利益以外の部分にも、企業にとって重要視すべき経営品質の変化が現れている。

バランススコアカードは、これらの様々な視点から、分かりやすく業績をチェックできるように作られたのだ。

バランススコアカードが作られた背景は、アメリカのビジネス環境の高度化・複雑化によって、経営環境が大きく様変わりしたことに由来する。近年はVUCA時代だと言われているように、世界的にビジネス環境が複雑化し、目まぐるしい変化があることで、将来が予測できない時代になってきている。ITやテクノロジーの進化によって新興勢力や競合が増え、ビジネスの不確実性が高まったことで、漫然と経営を進めていては淘汰される時代になったのだ。

なお、VUCAとは以下の4つを表している言葉だ。

● Volatility:変動性
● Uncertainty:不確実性
● Complexity:複雑性
● Ambiguity:曖昧性

これらの変化によって、1つの事業や部門にリソースを集中させることはリスクが大きいと判断されるようになった。事業の多角化を推進する企業が増え、財務指標以外にも様々な角度から経営品質を評価することで、バランスの取れた経営を進めていく重要性が増したのである。そのため、様々な角度から経営を分析・評価する手法の1つとして、バランススコアカードが注目を集めるようになったのだ。

関連記事:アンゾフの成長マトリクスとは?「経営戦略の父」アンゾフの戦略フレームワークを解説

バランススコアカードの効果

バランススコアカードの効果には、以下のような特徴や有効性がある。

<ビジョンと戦略の明確化>
4つの視点で経営を評価・分析できるため、多角的に経営を見られるようになり、企業の業績やビジョン、戦略などが明確にできる。様々なものが浮き彫りになり、強みや課題がはっきりする。

<売上・収益の向上>
バランススコアカードによって強みや課題がはっきりすることで、具体的かつ適切な戦略目標や施策を設計でき、社内のPDCAを適切に回せるようになる。客観的に4つの視点の因果関係や相互関係を把握できるようになることもあり、売上・収益の向上につながっていく。

<顧客満足度の向上>
顧客の視点で有益な製品・サービスかどうかを判断しつつ、会社の視点からも収益と顧客満足度とのバランスを確認する。顧客を知る現場の声も取り入れられれば、顧客満足度の向上につながる効果が期待できる。

<業務改善による生産性向上>
多角的な視点でコストダウンの見直しや業務フローの改善などができること、社内のPDCAを適切に回せるようになることなどから、生産性向上につなげられる。

<人材育成による組織強化>
バランス・スコアカードには、人材育成による組織の強化に関する視点も作られている。基本的には会社の売上や収益向上を目的とした戦略作りに活用されるものの、人材育成方法についても客観的な判断が可能である。

関連記事:人材育成の主な課題、目標設定の考え方とは?マネジメント方法について解説

バランススコアカードを構成する4つの視点

バランススコアカードを構成している4つの視点は、以下の通りだ。

● 財務の視点……企業や事業の業績
● 顧客の視点……取引先やターゲットとする市場
● 業務プロセスの視点……製品開発やマネジメント
● 学習と成長の視点……組織の体制や人材育成

バランススコアカードでは、このように多角的な視点に基づいて、業績の評価や経営戦略、事業計画の整理を行っていく。

それでは、これらの視点について、それぞれ詳しくチェックしていこう。

財務

収益性の向上など、財務業績における成功を目的とする項目である。「財務に関する目標の達成のためにはどのような行動をすべきか」という視点で、指標を設定する。

財務に関するKPIの例は、「営業利益」「純売上高」「株主資本利益率(ROE)」「キャッシュフロー」「投資収益率(ROI)」「純資産額」などだ。売上高だけではなく、コストを下げることも重要視される。

業績評価をする際は、自社が「成長期」「維持期」「収穫期」のうち、どの時期に該当するかによっても評価内容を変える。

顧客

利益を追求するだけではなく、顧客価値も経営の質に重要な要素である。「顧客にサービスや製品を継続的に利用してもらい、ビジネスの成果を出すためにはどのような行動をすべきか」という視点で、指標を設定する。

項目は、顧客の立場から見た指標である「顧客志向指標」と、企業の立場から見た指標である「顧客収益性指標」の両面を設定する。例えば、以下のようなKPIだ。

● 顧客の立場:顧客満足度、リピート率
● 企業の立場:顧客当たりの売上高、顧客当たりの費用

顧客価値を確認する際は、「4P分析」や「4C分析」のフレームワークが役に立つだろう。

業務プロセス

業務の効率化や顧客対応力の向上などを目的とする項目である。「財務的目標の達成や顧客満足度向上には、どのような業務プロセスを構築すべきか」という視点で、指標を設定する。

業務プロセスでは、以下の3つの視点に分け、それぞれに対してKPIを設定する。

● イノベーション・プロセス……市場や顧客のニーズにあう製品やサービスの開発
● オペレーション・プロセス……サービスや製品の生産・販売
● アフターサービス……提供後のアフターフォロー

業務プロセスに関連するKPIは、「生産リードタイム」「納期遵守率」「不良品発生率」「訪問顧客数」などだ。

学習と成長

中長期的に見た企業の変革や改善能力の向上を目的とする項目である。「ビジョン達成に向けて組織や個人をどのように育成し、成長させていくべきか」という視点で、指標を設定するものだ。

学習と成長に関しては、人材育成や組織の活性化などを「社員の意義」「能力開発」「ナレッジマネジメント」の視点で確認する。また、具体的に設定するには、一人ひとりの従業員の「量の成果」「質の成果」「資格の取得数」「リーダーシップ指標」「稼働時間」を把握する必要がある。

学習と成長のKPIは、「能力向上率」「資格取得率」「従業員満足度」「社員定着率」などだ。

関連記事:ES調査(従業員満足度調査)とは?行う目的、アンケート項目例を解説

バランススコアカードの導入手順

バランススコアカードの導入手順は、以下のように5つのプロセスで行っていく。

<ミッション・ビジョン・バリューの設定>
はじめに、企業や新規事業のミッションやビジョン、バリューを明確化する。企業における組織の存続理由や将来的な目標、企業の存在価値について改めて検討していく。

<BSCの4要素やKGIの設定>
それらを踏まえ、財務・顧客・業務プロセス・学習・育成というBSCの4つの視点から、社内外の強みや弱みなどを分析して戦略マップを作成する。また、これら4つの要素に基づいて「KGI」を設定する。

<KFSの設定>
ビジネスの成功や事業戦略のキーとなる「重要成功要因(KFS)」を設定する。KFSは、事業を成功させる重要な要因のことだ。KFSの設定には、社内外の状況の分析や、商品・コスト管理・チャネル(集客経路)のチェックなどが重要である。

<KPIの設定>
「KPI」とは、KGIを達成する過程における中間目標のことだ。ビジョンと戦略の実現に向けて、BSCの4要素それぞれにKPIを複数設定する。

<具体的なアクションプランの設定>
KPIの達成に向けて、具体的なアクションプランを設定していく。「どのような行動をいつまで行うのか」などを考えておくことで、目標を立てるだけで終わらずに行動につなげられるようになる。

関連記事:ミッションとは?ビジョンとの違いやなぜ必要なのかを解説

まとめ

企業の経営戦略や業績などを評価するフレームワークが、バランススコアカードだ。これによって多角的な視点で業績などを判断できるようになり、KGIやKPIの策定の際に役立てられる。

バランススコアカードを活用する効果には、ビジョンと戦略の明確化や売上・収益の向上、顧客満足度の向上、業務改善による生産性向上などがある。バランススコアカードを構成する4つの視点や導入手順などを理解し、実際の企業活動で役立てていこう。

関連記事:経営理念とは?企業理念との違いや企業例とともにわかりやすく解説

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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