2023.5.25

ジタハラ(時短ハラスメント)の放置はなぜまずい?労務が知っておきたい対策方法

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ジタハラをはじめとするハラスメントは、社内周知や対策が遅れると従業員のモチベーション低下や退職につながる可能性がある。この記事では、ジタハラの意味や働き方改革との関係性、具体的な事例、企業が放置するとどうなるのかなどをわかりやすく紹介する。さらにジタハラ予防対策もあわせてチェックしよう。

ジタハラとは「時短ハラスメント」の略

ジタハラとは、時短ハラスメントを省略した言葉である。この言葉が表す時短とは、「労働時間の短縮」のことだ。つまりジタハラは、長時間労働を抑制することに関連して起こるハラスメントである。

また、ハラスメント(Harassment)とは、さまざまなシーンでの嫌がらせやいじめのことだ。相手を不快にさせる、尊厳を傷つける、などのことが起こった場合、その言動をおこなった本人の意図とは無関係にハラスメントになりうる。

ジタハラについては誰でも被害者や加害者になる可能性がある。不快に感じる言動は人によって異なることに配慮し、他者に対して思いやりのある言動や行動をするように気をつけることが重要である。

近年、ジタハラの問題が注目されている。実際に「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞では、2018年の流行語として「高プロ(高度プロフェッショナル制度)」などとともにジタハラがノミネートされた。

ちなみに高プロは、労働時間の規制から一部の専門職を外す制度のことだ。高プロの制度が適用された場合には、収入額が一定額を超える専門職の人々の残業や休日出勤の割増賃金が支払われなくなる。

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ジタハラと働き方改革の関係性

ジタハラの問題が注目を集めるようになった背景には、政府が推進する「働き方改革」による社会の変化がある。働き方改革は、「ワークライフバランスの実現」や「労働力の確保」を目的に進められている。

働き方改革の大きな柱は、「時間外労働時間の上限規制」と「同一労働同一賃金」の2つだ。これらのうち、とくに時間外労働時間の上限規制は、労働者のワークライフバランスへの影響が大きい。

かつての日本社会では、長時間働いている人が評価される傾向にあった。しかし近年は、短時間で成果を生み出せる人が評価される傾向に変わっている。

その影響もあって、近年では「残業禁止」や「ノー残業デー」などを宣言し、残業時間の削減に取り組む企業が増えた。ただし、一見働きやすい環境づくりに取り組んでいるようであっても、ジタハラへの配慮がないと逆効果になりうる。短時間で成果を生み出せるような仕組みにしていないにもかかわらず、残業時間をなくして以前と同じ仕事の量をこなすことを強要するなどの恐れがあるのだ。

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ジタハラの具体例

実際に、ジタハラの具体例を確認していこう。たとえば「ノー残業デー」の悪影響や、残業時間の削減に取り組むことによるマネージャーの負担増、などに注意すべきだろう。

長時間労働を抑制すること自体は、従業員が心身ともに健康な状態でいるために必要な取り組みだ。しかし、企業側が対策をとらずに従業員側にのみ「定時で退社するように」などと対応を求めていては、ジタハラになりかねないのである。

それでは、どのようなことがジタハラになってしまうのか、事例を確認していこう。

案外デメリットの多い「ノー残業デー」

ノー残業デーは、従業員のオフの時間を充実させることと、仕事の無駄をなくす努力を促すことという2つの目的で実施されることが多い。しかし、安易な実施はジタハラにつながってしまうことがあるため注意が必要だ。

ノー残業デーによって起こりやすいデメリットは、以下のとおりである。

● 強制的に定時で上がらせてしまうことで、かえって翌日以降の負担が増えてしまう
● ほかの曜日にノー残業デーのしわ寄せがくる
● 定時以降に取引先への連絡やアポイントを入れにくい

これらのデメリットがあるため、実際にはノー残業デーを実施しても十分な効果を感じにくいようだ。具体的な対策がないまま残業を禁止しても、記録に残らない「持ち帰り残業」が増えてしまったり、業務が遅延する原因になったり、などの問題が発生しやすくなるだろう。

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マネージャーの負担増

ジタハラは、役職のない従業員だけではなく、マネージャーなどへの負担増にもつながってしまう。

あるマネージャーは、現場の実状を把握しない企業側から、従業員を早く帰して残業時間をなくすようにいわれたうえで、「仕事を早く終わらせるように」ともプレッシャーをかけられて板挟みになっていた。これにより、部下の仕事を自分で引き受けて、自宅でこなさなければならなくなった。このことが原因でうつ病に罹患したマネージャーは、企業から懲戒解雇されてしまい、労働審判を申し立てたものの、その後自殺してしまったという痛ましい事件が実際に起こっている。

このような悲劇を起こさないためにも、ジタハラの対応には慎重に取り組まなければならない。

企業がジタハラを放置するとどうなる?

企業がジタハラを放置してしまった場合、以下のようなネガティブな事象が起こりえる。

● 労基法違反のリスクが増える
● 情報漏洩などのセキュリティリスクも増える
● 業務品質の低下を招く
● 退職原因・離職率上昇にもつながる

企業が一方的に残業を禁止した場合は、ジタハラに該当する可能性が高くなる。ジタハラを放置してしまうことで、どのような危険性があるのかを詳しく確認していこう。

労基法違反のリスクが増える

企業がジタハラを放置してしまうと、労基法違反になるリスクが増える。労働時間を削減できるような対策を講じないままで無理に残業を減らそうとすると、残業時間の過少申告や隠れ残業が増えてしまい、残業代の不払いや法定労働時間の超過による労基法違反のリスクが増加するのだ。

法令によって、残業を許可制にすること自体は認められている。しかし、残業をせざるをえない状態での残業は、未許可であっても事業主の責任となるため注意しなければならない。

また、仕事を持ち帰らなければならないなどの隠れ残業が増えてしまうことで、従業員エンゲージメントやモチベーション低下にもつながってしまう。

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情報漏洩などのセキュリティリスクも増える

企業がジタハラを放置して仕事の持ち帰りが増えると、従業員の負担が増加するだけではなく、セキュリティの面でも問題が発生しやすくなる。

近年、サイバーセキュリティ事件が多発しているが、その影響で情報漏洩などを防止するために、業務用ノートパソコンの社外への持ち出しやUSBメモリの利用を禁止している企業が多い。

しかし、業務に対して労働時間が足りない場合、自宅のパソコンで仕事を進めようとする従業員が出てくる可能性がある。この状態は大変危険で、家庭で使っているパソコンに危険なマルウェアが入り込んでいると、顧客情報などを含めたさまざまなファイルが抜き取られてしまうのだ。

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業務品質の低下を招く

業務品質が低下する可能性があることも、企業がジタハラを放置することによって起こる問題である。業務時間の短縮が強要されている状態だと、本来必要となる作業時間が十分に取れない状態で仕事を進めることになるため、なんとか早く終わらせようとして焦りを招いてしまう。その結果、対応が雑になってしまい、従来のパフォーマンスを発揮できずに業務品質が落ちてしまうのだ。

業務品質が落ちてしまうと、企業のブランド力が低下する恐れもある。また、十分な時間が取れないことで、人材育成を阻む要因にもなりうるだろう。

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退職原因・離職率上昇にもつながる

企業がジタハラを放置すると、退職の原因となり、離職率の上昇にもつながるかもしれない。ジタハラによって従業員への負担が増加し、改善されないままでいると、従業員のモチベーションは低下し、休職や退職につながる可能性が高まってしまうのだ。

従業員は、ジタハラによってモチベーションが低下するだけでなく、心身に不調をきたしてしまうこともある。企業にとっても生産力を失うことになるため、ジタハラの対策を講じるべきなのだ。

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企業が取り組むべきジタハラ予防対策は?

それでは、ジタハラを予防するために企業がどのような対策を講ずるべきなのかを確認していこう。ジタハラ予防のために企業が対策すべき内容は、以下のとおりである。

● 現場業務の見える化・把握に努める
● 勤怠管理の徹底
● 業務効率化の推進
● 労働力の確保やアウトソーシングの活用

ジタハラ予防にはどのような対策を講ずるべきなのか、それぞれ見ていこう。

現場業務の見える化・把握に務める

ジタハラを防止するには、実際の現場の状況を把握することが大切だ。たとえば、従業員とのコミュニケーションを充実させると、実際の現場を理解しやすくなるだろう。従業員の能力や適正な業務量、現場での課題、アイデア、人員配置の見直しの必要性などをくみ取っていくのだ。

従業員一人ひとりの業務を見直してみることも重要だ。業務の量が適切ではなく、一人の従業員が仕事を抱え込んでしまっている場合には、対応のために長時間の残業が必要になることがある。業務の見直しによって、周りのプロジェクトメンバーなどに業務を振り分けられたならば、長時間労働の防止につなげられるだろう。

また、時間外労働の申請方法を見直すことなどでも、従業員ごとの作業負担を把握しやすくできる。

勤怠管理の徹底

ジタハラの予防のために、企業は勤怠管理に関する対策も講じるべきである。企業が出社・退社時間の記録方法や時間外労働の申請方法などを見直すと、正確な労働時間の記録と従業員の作業負担を把握できるようになる。勤怠の管理は、賃金管理と従業員の健康管理にもなるため、とても重要だ。

勤怠管理システムを導入すると、管理業務の効率化が図れるだろう。勤怠管理に時間がかかってしまう場合には、ICタイムカードやクラウド型勤怠管理システムなどを活用すれば、短時間で効率的に管理できる体制を整えられる。

ICタイムカードを使うと、ICカードで読み取ったデータを勤怠管理システムに簡単に集約しやすくなる。クラウド型勤怠管理システムは、Excelによる勤怠管理と違って入力ミスが起こりにくい。ICタイムカードとクラウド型勤怠管理システムを連動すると、有給休暇や時間外労働などの申請や承認の作業がスムーズにできるのでおすすめだ。

業務効率化の推進

ジタハラ予防で企業が対策すべきことには、業務効率化の推進も含まれる。単純に労働時間を抑制しようとするだけではなく、労働時間が短くなっても従業員が無理なく対応できるように、生産性向上のための取り組みをしていこう。不要不急なものがないかなど、業務に優先順位をつけ、現在の仕事のなかで削減できるところを見つけていくのだ。

さらに、部署や企業全体で最適化できるように業務を仕分けして、社員間や部門間がうまく連携しやすくしておくと良い。社員一人ひとりで講じられる対策と、プロジェクト内などのチーム単位の対策と、両方を検討することも必要だ。

業務効率化のためには、各種のシステムやツールをうまく活用すると良い。たとえば、マーケティング活動をするのであればMAツールの活用がおすすめだ。

関連記事:MA(マーケティングオートメーション)とは?MAツールの導入ステップや選び方を解説

なお、MAツールのSwitch Plusには、Webマーケティングに必要なものがすべてまとめられていて、Webサイトの制作や更新が簡単になる。さらに、専任担当による手厚いサポートが受けられる、見込み顧客を可視化できる、強固なセキュリティ対策がなされているなどのメリットがあるので、ぜひ活用しよう。

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労働力の確保やアウトソーシングの活用

必要な労働力の確保やアウトソーシングの活用も、ジタハラ予防として有効だ。割り振りや必要な業務を見直しても、慢性的な人手不足によって労働時間を抑制できない場合がある。人材の採用や異動などによって、必要なところに新たな労働力を確保し、従業員1人あたりの労働時間を無理なく減らせるようにしよう。

とはいえ、採用した従業員を戦力にするための育成にも時間がかかる。労働力の確保は簡単にできるわけではない。必要な労働力を確保するためには、時短勤務の契約社員やパート社員の採用や、コア業務以外のアウトソーシングの活用なども検討すると良いだろう。

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まとめ

近年、働き方改革による社会の変化にともない、残業禁止やノー残業デーなどを宣言して残業時間の削減に取り組む企業が増えている。しかし、実際には労働時間を短縮できるような対策を講じていないケースが多数あり、ジタハラの問題が頻出している。

ジタハラは、本人が嫌がらせをしようとしていなくても起こりうるハラスメントだ。従業員のモチベーションや従業員エンゲージメントの低下、心身に不調をきたすことにつながり、せっかく育成した人材が退職してしまう恐れもある。さらに、労基法違反や業務品質、セキュリティへのリスクにも注意が必要だ。

今回ご紹介したジタハラの事例や防止するための対策などをしっかりと理解したうえで、実際の企業活動に役立てていこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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