人的資本経営(Human Capital Management)とは、人材を消費される「資源(コスト)」ではなく、価値を生み出す「資本(投資対象)」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上へとつなげる経営手法です。
従来の「いかに効率よく管理するか」という視点から、「いかに投資して個の可能性を広げ、経営戦略を達成するか」という視点への転換を意味します。
注目される背景
-
ESG投資の拡大と非財務情報の重視 投資家の評価基準が「財務情報」だけでなく、企業の持続可能性を示す「非財務情報」へとシフト。その中核として「人材への投資状況」が厳しくチェックされるようになりました。
-
労働人口の減少と人材の流動化 深刻な労働力不足を背景に、優秀な人材に「選ばれる企業」になる必要があります。リスキリングの機会提供やウェルビーイングの向上が、採用・リテンションの生命線となっています。
-
情報開示の義務化と「実践」へのシフト 有価証券報告書などでの人的資本情報の開示義務化を経て、現在は単に見栄えの良い指標を「開示するフェーズ」から、「いかに経営戦略と連動させ、実効性を高めるか」という実践・深化のフェーズを迎えています。
参考:人的資本の情報開示とは?義務化に伴い知っておくべき対象企業や開示項目をわかりやすく解説
提唱と普及のきっかけ
-
2020年9月:「人材版伊藤レポート」の公表
経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(通称:人材版伊藤レポート)」がすべての始まりです。ここで「人材をコスト(資源)ではなく投資対象(資本)と捉える」という、現在の人的資本経営のコアとなる概念が日本国内で一気に普及しました。 -
2022年5月:「人材版伊藤レポート2.0」の公表
初代レポートから一歩進め、企業が具体的にどう実践すべきかのロードマップを示した「2.0」が登場。これにより、ブームから「実践フェーズ」へと各社が舵を切り始めました。
開示義務化のタイミング
-
2023年1月:内閣府令の改正施行
金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」などを改正し、制度としての枠組みが固まりました。 -
2023年3月期決算〜:有価証券報告書での開示義務化
2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、大手企業(約4,000社)を対象に人的資本情報の開示が正式に義務化されました。これにより「人材育成方針」や「社内環境整備方針」のほか、女性管理職比率、男性育休取得率、男女間賃金格差といった具体的な指標の記載が必須となりました。
人事(HR)に求められる役割
人的資本経営を推進する主役は、まぎれもなく人事部門です。 これまでの定型的な労務管理や採用・研修オペレーションにとどまらず、経営陣のパートナーとして「経営戦略と人材戦略の連動(人材ポートフォリオの構築)」を主導する、真の戦略人事への変革が求められています。
参照
・内閣官房 非財務情報可視化研究会
・内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」
・金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する情報」

