「外出自粛に伴って電車の中吊り広告が消えた」といった報道がありましたが、プロモーション手法も時代に合わせて変化していかなければならないようです。現代のマーケティングでは、顧客の行動を深く理解することが不可欠です。本記事では、社会や人の動きを理解し、効果的なプロモーションを打つための手法の一つ「行動トレンド分析」について、具体例を分析し、できるだけわかりやすく解説します。
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目次
行動トレンド分析とは?
商品の売上状況はシーズン(期間)に依存する側面があります。
行動トレンド分析とは、商品売上のシーズンに依存する部分に着目し、さらに、どのような購買層がそのシーズン性(全体トレンド)をつくりだしているのかを分析する手法です。購買層の分類の軸は、年齢や性別をはじめとする様々なものが考えられます。
このような分析ができれば、特定の時期に、特定の購買層に対して効果的に広告を配信できるようになるでしょう。
ただし、「シーズン」といってもそのスパンは長いものもあれば短いものもありますし、「購買層の分類軸」の組み合わせも多様で、有益な法則性を見いだすには様々な視点が必要です。
「発泡酒はいつ買われるか?」
全国展開しているチェーンの酒屋が、発泡酒の売上に関する行動トレンド分析を行う場合を考えてみましょう。
まずは下の図をご覧ください。ある酒屋チェーンの1年間の発泡酒Aの売上推移です。

※マーケトランクにて作成
まず、このグラフから8月をピークとする、月ごとの平均気温に依存するトレンドが見てとれます。このトレンド分析は、季節性を理解する上で非常に有効です。
次にどの購買層がこのトレンドを形作っているかを分析します。
「年齢(10歳幅)」「性別」の軸を用いて分析したところ、1年を通して20~40代の男性の売上が7割以上を占め、この全体のトレンドを形作っていることがわかりました。これは、購買層分析の典型的な例です。
この結果から、暑くなる6月ごろから2、3ヶ月間に集中して20~40代の男性に広告を配信してみよう、という方針を立てることができます。少なくともこれは、行動トレンド分析の要件を満たしている正当な方針です。
ただし、「シーズン」といってもそのスパンは長いものもあれば短いものもありますし、「購買層の分類軸」の組み合わせも多様で、有益な法則性を見いだすには様々な視点が必要です。
しかし、「シーズン」といっても月単位での区切りでは粒度が荒すぎる場合があります。そのため、広告の効果が上がるのは「いつ」なのかをさらに深掘りし、より精緻な戦略を立てることが重要です。
そこで、月単位ではなく、一日のうちの何時ごろに売れたかという粒度のデータを探して、手に入れたとしましょう。

※マーケトランクにて作成
詳細なデータをもとに、1時間ごとの1年の累計売上をグラフにしてみると、月単位の集計より明確なシーズン性が見えてきました。このように、同じデータでも切り口によって複数のシーズン性が見えてくることがあります。これが、より詳細な行動トレンド分析の醍醐味です。
購買層の分類軸は前回と同じに設定してみたところ、同様にどの時間帯でも20~40代の男性による売上が半分以上を占めていました。
これらの2つの分析結果から、17時あたりから数時間、特に暑い季節に多めに20~40代の男性に広告をうつべし、というアップデートした戦略を立てることができそうです。一日中広告をうつのではなく、特定の時間に広告をたくさん配信する効率的な戦略です。この詳細なトレンド分析によって、マーケティング効果の最大化が期待できます。
「シーズン」と「購買層の分類軸」は多種多様
ほんの一例ですが、「シーズン」といっても長短様々あり、さらには「購買層の分類軸」もいくらでも検討の余地があることを予感していただけたでしょうか。トレンド分析において、どのような「シーズン」を設定するかは、分析の精度に大きく影響します。年単位の大きなトレンドから、曜日や時間帯といった短期的な消費行動のトレンドまで、目的やデータの粒度に応じて柔軟に設定することが重要です。例えば、季節商品の販売戦略であれば年単位のトレンドが有効ですが、日配品の販売促進であれば曜日や時間帯といったより細かい時系列データでの分析が効果的でしょう。
参考までに、考えられる例を示しておきます。
- シーズン:年単位、曜日、分単位、イベント開催期間(例:セール期間、季節イベント)
- 購買層の分類軸:年齢(1歳幅)、居住地域(都道府県、市区町村)、ECサイトでの購入か否か、実店舗での購入か否か、既婚か未婚か、職業、趣味嗜好、過去の購買履歴(顧客セグメンテーション)、利用デバイス(PC、スマートフォンなど)
このように、行動トレンド分析では、分析対象となる商品やサービスの特性、そしてマーケティングの目的に応じて、最適な「シーズン」の定義と「購買層の分類軸」の組み合わせを検討することが、効果的なマーケティング施策へと繋がります。多角的な視点からデータを分析することで、これまで見過ごされていた購買行動の法則性や、潜在的な顧客ニーズを発見できる可能性が高まります。
BtoBマーケティングでの活用法
では、本手法をBtoBマーケティングに活用するとどうなるか、簡単に見てみましょう。例えば、半導体を海外から買い付ける商社Sを想定します。データを概観すると、半導体の売上の全体トレンドは春がピークのようです。Sが半導体を取引している企業は全10社で、そのうち3社が主にPCを扱っています。購買層を分析したところ、この3社がトレンドをつくりだしていることがわかり、新生活が始まる時期にPC用の半導体が必要になるのだろうなどの推測が立ちます。
シーズンの切り口を考えるのはBtoCと同様ですが、購買層の分類はBtoBの場合、企業の種類分けになります。以下に種類分けの例を示しておきます。
- 企業の分類軸: 業種、経営状態、経営方針、企業規模
しかし実際は、行動トレンド分析をBtoBマーケティングに活用しようとしてもうまくいかないことが多いと思います。もともとBtoBの商品・サービスには特定の業種・企業を対象にしたものが多く、購買層をわざわざ分類して明確化する必要がなかったり、いわゆる定番商品が少なく、売上の周期性(トレンド)から一般的な法則を導くのが難しかったりします。特に、BtoBにおける購買行動はBtoCと比較して複雑で、意思決定プロセスに複数の関係者が関与するため、単一の購買層の定義では捉えきれない場合もあります。
ただ、行動トレンド分析とは「いつ」「だれに」販促活動をするのが効果的かを考えるためのツールですので、BtoCであれBtoBであれ、分析をすること自体は重要です。BtoBにおいても、自社の顧客セグメントごとの購入パターンや、特定期間における需要の変動を理解することは、より精緻なターゲティングと効果的な営業戦略の立案に繋がります。例えば、特定の業種における決算期や、業界特有のイベント時期などが、購買トレンドに影響を与える可能性があります。これらの要素を考慮することで、BtoBマーケティングにおける行動トレンド分析の精度を高めることができるでしょう。
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マーケティング手法の真価を発揮するには
「人がものを買う」という行動は、トレンド分析で捉えることができるシーズン性だけでなく、人間心理という非常に複雑な要素が深く関わっています。そのため、行動トレンド分析を行う際には、単にデータを集計するだけでなく、細やかな人間心理の機微を推察し、様々な切り口から購買行動を考案していくことが不可欠です。
行動トレンド分析に限らず、どのようなマーケティング手法も、その真価を最大限に発揮するためには、ターゲットとなる人々の感情や動機、そしてその時々の社会状況といった、データだけでは捉えきれない人間心理を同時に考慮に入れなければ、効果は限定的になってしまいます。例えば、季節ごとの需要変動を分析するだけでなく、なぜその時期に需要が高まるのか、消費者のどのようなニーズや欲求が背景にあるのかを深く掘り下げることが重要です。
さらに、現代のデジタルマーケティングにおいては、データ分析だけでなく、共感を呼ぶクリエイティブや、パーソナライズされたコミュニケーションが求められます。これらの施策は、行動トレンド分析によって明らかになった「いつ」「誰に」といった情報に基づいて実施されますが、最終的にはターゲットの心に響くメッセージを届けることが、マーケティング活動全体の成功を左右します。このように、データに基づいた客観的な分析と、人間心理への深い洞察を組み合わせることが、効果的なプロモーション戦略の鍵となります。
まとめ
- 行動トレンド分析とは、商品の売上におけるシーズン性を捉え、それを形成している購買層を分析する手法です。この分析により、広告配信などの販促活動を特定の時間と対象に絞り込み、マーケティング効率を向上させることが可能になります。
- 分析で用いる「シーズン」には、年単位から日単位、さらには分単位といった様々な期間が考えられ、「購買層の分類軸」も年齢(1歳幅)、居住地域、ECサイトでの購入有無、既婚・未婚など、多岐にわたります。
- BtoBマーケティングにおいても、企業の業種、経営状態、企業規模などの分類軸で行動トレンド分析の考え方を応用できますが、商品・サービスの特性上、応用が難しい場合もあります。
- いずれのマーケティング手法においても、その真価を発揮するには、人間の心理や行動を深く推察する想像力が不可欠です。

