リスティング広告の運用を自社で行う(インハウス化)か、専門代理店に委託するかは、多くの企業が直面する戦略的な決断です。インハウス化は、運用手数料の削減や自社ノウハウの蓄積といったメリットがある一方、専門知識を持つ人材の確保や育成、最新情報のキャッチアップなど、相応のコストと時間を要します。
自社運用と代理店運用のメリット・デメリットを比較検討した上で、リスティング広告のインハウス化を成功させるためには、以下の4つの重要なポイントを慎重に評価することが不可欠です。
●リスティング広告の運用が事業の中核を担うか
インハウス化は、単なる運用手数料の削減だけを目的とするべきではありません。むしろ、代理店に支払っていたコストを自社リソースに投下することで、より高い成果、すなわちROI(投資対効果)の最大化を目指せる場合に、インハウス化の意義は大きくなります。リスティング広告の運用が、事業成長のドライバーとして不可欠であると判断できるかが、最初の重要な検討事項となります。
●長期的な視点での取り組みが可能か
リスティング広告の運用スキルは、短期間で習得できるものではなく、一般的に1年から3年程度の試行錯誤と経験を通じて磨かれていきます。インハウス化を成功させるためには、担当者が継続的に学習し、改善を繰り返しながら成果を追求できる、十分な時間と環境が提供されることが前提となります。短期的な成果を求めすぎず、長期的な視点で育成・運用できる体制があるかどうかが問われます。
●特殊な業態・業種、あるいは独自の社内ルールが存在するか
自社の商品やサービス、ターゲットとする市場が非常に専門的で、外部の代理店担当者が短期間で深く理解することが難しいケースがあります。このような場合、代理店に説明・教育する時間やコストを考慮すると、社内で運用する方が効率的です。また、レポート形式の指定(例:特定の外国語での作成)など、特殊な社内ルールや運用要件があり、代理店では柔軟な対応が難しい場合も、インハウス化の有力な理由となります。
●運用担当者を適切に評価・処遇できる仕組みがあるか
リスティング広告の運用スキルは市場価値が高く、優秀な運用担当者は他社へ転職するリスクも伴います。インハウス化を推進するのであれば、担当者の貢献度を正当に評価し、適切な報酬やキャリアパスを提供できる仕組みが不可欠です。これにより、優秀な人材の定着を図り、継続的な運用体制を構築することができます。
これらの4つのポイントを総合的に検討し、自社のビジネス戦略やリソース状況に照らし合わせながら、なぜリスティング広告をインハウス化するのか、その本来の目的を明確にすることが、成功への第一歩となります。手数料削減だけでなく、ROIの向上、データ活用の高度化など、インハウス化によって達成したい具体的な目標を設定し、アウトソーシングすべき業務とインハウス化すべき業務の境界線を適切に見極めることが重要です。
リスティング広告は自社運用・代理店、どちらがいいのか?
リスティング広告の運用においては、代理店に業務を委託する方法と、自社で直接運用する方法の二つが考えられます。代理店に依頼する最大のメリットは、リスティング広告運用における専門知識と、長年にわたって培われた運用ノウハウを即座に活用できる点にあります。これにより、早期に効果的な広告配信を実現することが可能です。しかしながら、広告費とは別に、運用手数料が発生するというデメリットも存在します。一般的に、この運用手数料は広告費の20%程度が目安とされていますが、広告費が少額である場合は、固定額の手数料が設定されているケースもあります。
一方、リスティング広告を自社で運用する場合、代理店に支払うような運用手数料は一切発生せず、純粋に広告配信にかけた費用のみとなります。マーケティング全体のコストや、獲得単価(CPA)といったコンバージョン効率を最適化する上で、代理店に支払う手数料は、まず注目が集まりやすいコスト要素です。自社運用に切り替えることで、この手数料分が削減できることは明白ですが、それ以上に慎重に検討すべき重要なポイントがいくつか存在します。
リスティング広告の運用スキルを一人前になるまでには、一般的に1年から3年程度の期間が必要と言われています。したがって、自社でリスティング広告を運用する際には、ある程度の広告予算がある場合、運用スキルを持った人材を専任で採用する必要が出てくるほど、高度な専門スキルが求められるのです。インハウス化を検討する際には、こうした人材確保のコストや、組織体制の構築も考慮に入れる必要があります。リスティング広告のインハウス化は、単なる手数料削減だけでなく、事業成長における戦略的な判断として位置づけることが重要です。リスティング広告の運用を内製化することは、長期的な視点での事業投資と捉えるべきでしょう。リスティング広告のメリットを最大限に引き出すためには、自社運用の可能性を追求することも有効な手段となります。リスティング広告の運用におけるインハウス化の成功は、組織全体のマーケティング能力向上に繋がります。
自社運用と代理店のメリット、デメリット
リスティング広告の運用に求められるスキルは上述の通りであるが、それとは別に運用を自社で行う、代理店に委託することのそれぞれのメリット、デメリットはどうだろうか。それぞれのメリット、デメリットを下記の表にまとめている。
・自社で運用する場合
| メリット | デメリット |
| 代理店の運用手数料がかからず、広告予算に上乗せできる | ノウハウが蓄積されるまでに試行錯誤と時間が必要となる |
| 自社のノウハウやデータとして蓄積されていく | 人員配置にコストがかかる |
| 自社のサービスやターゲットについて深く理解している | 最新の情報を定期的に取りに行く必要がある |
・代理店に委託する場合
| メリット | デメリット |
| 早く効率的に効果を出せる | 運用手数料がかかる |
| 煩雑な運用業務をすべて任せて、他の業務に集中できる | 自社のノウハウやデータとして蓄積されない 自社のサービスやターゲットに対し理解が浅い |
リスティング広告のインハウス化を検討する4つのポイント
自社運用と代理店のメリット・デメリットを理解した上で、リスティング広告のインハウス化を検討する際には、以下の4つの重要なポイントに注目しましょう。安易な手数料削減だけが目的ではなく、事業成長のための戦略的な判断が求められます。
① リスティング広告の運用が事業の中核を担うか
インハウス化を検討すべき最も重要な要素は、リスティング広告の運用が自社の事業戦略においてどの程度中心的役割を果たすか、という点です。単に代理店に支払う運用手数料を削減したいという目的だけでは、インハウス化のメリットを最大限に引き出せない可能性があります。むしろ、自社で運用リソース(人材、ツール、教育費など)を大幅に投下することで、代理店運用時よりも高い成果、つまりROI(投資対効果)の向上を目指せる見込みがある場合に、インハウス化は有効な選択肢となります。自社でしか得られない独自の運用ノウハウを構築し、競合優位性を築くことが期待できるでしょう。
② 長期的な視点での取り組みが可能か
リスティング広告の運用スキルは、一夜にして習得できるものではありません。一般的に、一人前の運用担当者になるには1年~3年程度の時間が必要とも言われています。そのため、インハウス化を成功させるには、担当者が試行錯誤を繰り返しながら成果を出していくための十分な時間と、それを許容する長期的な視点が不可欠です。短期的な成果を求めすぎず、学習期間や初期の投資を考慮した上で、着実に運用体制を構築していく環境が整っているかが重要な判断基準となります。広告運用人材の定着と育成計画も合わせて検討すべきでしょう。
③ 特殊な業態・業種、または独自の運用ルールが存在するか
自社の提供する商品やサービス、あるいはターゲットとする市場が極めて特殊である場合、代理店の担当者がその内容を深く理解するには、多大な時間と労力が必要となることがあります。このようなケースでは、リスティング広告の専門知識だけでなく、業界特有の専門知識が求められるため、外部に委託するよりも自社で運用する方が効率的です。また、レポート作成のフォーマットが特殊な言語である、特定のツール連携が必須であるなど、社内規定に合わせた運用が求められる場合も、代理店が対応しきれない、あるいは対応コストが高くなる可能性があります。このようなニッチな市場や特殊な要件は、インハウス化の強力な推進要因となります。
④ 運用担当者を適切に評価・還元できる仕組みがあるか
リスティング広告の運用スキルは市場価値が高く、優秀な運用担当者は多くの企業から引く手あまたです。そのため、インハウス化を進めるにあたっては、広告運用担当者のモチベーションを維持し、長期的に活躍してもらうための評価制度やインセンティブ設計が重要になります。成果に見合った評価や報酬、キャリアパスが用意されていなければ、優秀な人材が流出してしまうリスクがあります。マーケティング人材を大切にし、その専門性を正当に評価できる体制が整っているかどうかも、インハウス化を成功させるための鍵となります。デジタルマーケティングの専門家を社内に育成・定着させるための土台作りが不可欠です。
リスティング広告のインハウス化サポート
リスティング広告のインハウス化は、一見ハードルが高そうに思えるかもしれませんが、専門的な代理店に支援を依頼することも可能です。インハウス化を成功させるために、外部の専門家のサポートを段階的に受けることで、自社での運用体制を構築し、長期的な成果に繋げることができます。具体的には、主に以下の2つの方法でインハウス化の支援を受けることができます。
・インハウス化 運用サポート(20万円~/月*企業により変更)
このサポートプランでは、最初の1ヶ月間は専門の代理店がリスティング広告の運用を代行します。その期間に蓄積されたデータや運用結果を分析し、その知見を基に、2ヶ月目以降は徐々に企業側の担当者へ運用ノウハウやスキルを移管していきます。実際に企業側での運用が開始した後も、月1回の定期的なミーティングに加え、メールやチャットツールでの質疑応答といった、継続的なサポートが提供されます。これにより、企業は自社で効果的なリスティング広告運用を行うための実践的なスキルと知識を習得できます。リスティング広告のインハウス化において、手厚いサポートを受けたい場合に適しています。
・インハウス化 運用アドバイザリー(15万円~/月*企業により変更)
運用サポートとは異なり、アドバイザリープランでは代理店は直接的な広告運用を行いません。あくまで客観的な立場から、リスティング広告のインハウス化を推進する企業に対して、専門的なアドバイスを提供します。企業側での運用が開始された後は、運用サポートと同様に、定期的なミーティングやメール、チャットツールを通じた質問対応など、継続的なサポートが受けられます。このプランは、既に社内に一定の運用スキルを持つ担当者がいる、あるいは自社で主体的に運用を進めたいが、専門的な視点からのアドバイスや壁打ち相手が欲しいといった場合に有効です。リスティング広告のインハウス化を、専門家の知見を借りながら自社主導で進めたい企業におすすめです。
これらのサポートを活用することで、リスティング広告のインハウス化をスムーズに進め、広告運用手数料の削減だけでなく、より精度の高いマーケティング戦略の実行を目指すことができます。インハウス化の目的を明確にし、自社の状況に合ったサポートプランを選択することが重要です。インハウス化のメリットを最大限に引き出すために、外部リソースを賢く活用しましょう。
まとめ
リスティング広告の運用を代理店から自社運用(インハウス化)に切り替えることは、運用手数料の削減というメリットがある一方で、慎重な判断が求められます。リスティング広告のインハウス化を検討すべき重要なポイントは、① リスティング広告の運用が事業の中核となり、より高い成果を目指せるか、② 担当者が試行錯誤を繰り返しながら成果を出すために、長期的な取り組みが可能な環境が整っているか、③ 商品・サービスやターゲット市場が特殊で、他業界にいる人には理解が難しい、あるいは特殊な自社ルールが存在し、代理店での対応が非効率な場合、④ 運用担当者が市場価値の高い人材であるため、運用担当者を評価できる仕組みが備わっているか、の4つです。
さらに、広告予算が少額で代理店が対応していない場合も、インハウス化が現実的な選択肢となります。インハウス化を検討する際には、単に運用手数料を削減するだけでなく、ROI(投資収益率)の向上や、自社で広告データを容易に分析できることなど、リスティング広告のインハウス化の目的を明確にすることが重要です。そして、事業戦略全体を見据え、何をアウトソースし、何をインハウス化すべきかを見定めた上で、リスティング広告のROIを最大化するための戦略を立案・実行していくことが肝要です。インハウス化の成功は、これらの要素を総合的に考慮し、自社にとって最適な運用体制を構築できるかにかかっています。

