エモーショナルマーケティングとは、顧客の感情(エモーション)に訴えかけることにより、購買意欲を刺激するマーケティング手法です。
顧客が購買行動を起こす際には、ニーズ(必要性)よりウォンツ(欲求)の影響が大きいとするものです。この手法は、顧客の心に響く感情的なアプローチを重視し、ブランドへの愛着や信頼を醸成することで、長期的な顧客関係の構築を目指します。
この記事では、エモーショナルマーケティングについて詳しく解説していきます。顧客の感情を理解し、それに応えるマーケティング戦略の重要性や、実際の成功事例なども交えながら、エモーショナルマーケティングの効果的な活用方法を探っていきます。
エモーショナル(感情)マーケティングとは?
エモーショナルマーケティングとは、顧客の感情の訴えかけることにより購買意欲を刺激するマーケティング手法です。
経営コンサルタント/マーケターである神田昌典氏により、著書『あなたの会社が90日で儲かる!』(1999年出版)において提唱されました。
エモーショナルマーケティングの根幹にある考え方は、顧客が購買を判断する際には、ニーズ(必要性)とウォンツ(欲求)の2つが関係しているというものです。このうち、エモーショナルマーケティングはウォンツを刺激することに重点を置きます。なぜなら、顧客の購買行動は、ニーズよりもウォンツが大きな影響を及ぼすと考えられているからです。
例えば、神田氏の著書では「歯科の定期健康診断」が、ニーズがあってもウォンツがない例として挙げられています。歯の健康を考えれば、定期健康診断は大きなニーズがあるといえます。しかし、「定期健康診断に行きたい」というウォンツは多くの人にとってそれほど大きくはないでしょう。
エモーショナルマーケティングの観点からすると、商品やサービスは、いくらニーズを訴求しても、それだけで購買につながるとは限りません。顧客の感情に訴えかけ、ウォンツを刺激しなければ大きな購買行動は起きないというのが、このマーケティング手法の主張です。
エモーショナルマーケティングを効果的に実践するためには、顧客の感情を深く理解し、それに合わせたコミュニケーション戦略を立てることが重要です。例えば、広告や商品パッケージのデザイン、カスタマーサービスの対応など、顧客との接点すべてにおいて感情的な要素を考慮することが求められます。
このように、エモーショナルマーケティングは、顧客の感情に焦点を当てることで、より強力な顧客との結びつきを作り出し、長期的なブランドロイヤリティを構築することを目指す革新的なマーケティングアプローチなのです。
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エモーショナルマーケティングではBtoBでも有効
BtoBでは、一般には「ウォンツよりニーズが重要」と言われることが多いですが、エモーショナルマーケティングの観点からは、BtoBにおいても感情的な要素が重要な役割を果たすことがあります。
確かに、BtoBにおける購買行動は、企業内の複数のキーパーソンにより合理的に検討されることが多く、一般消費者の衝動買いなどが起きやすいBtoCと比べれば、購買行動におけるニーズの役割は大きいと言えるでしょう。
しかし、BtoBビジネスにおいてもエモーショナルマーケティングを考慮すべき局面は存在します。例えば、社内で使用するソフトウェアを選定する場合、機能や価格などの客観的な要素はもちろん重要ですが、「この会社が好き」「会社の理念に共感した」といった感情的な理由も判断材料となることがあります。
また、金融サービスを選ぶ際にも、エモーショナルな要素が影響を与えることがあります。例えば、企業が資金調達を行う場合、「安心感がある」という理由でメガバンクが選ばれることもあるでしょう。これは、エモーショナルマーケティングの考え方が適用される一例と言えます。
さらに、BtoBにおけるエモーショナルマーケティングは、ブランド構築にも重要な役割を果たします。企業の価値観や文化に共感を覚えることで、長期的な取引関係が築かれることもあります。このような感情的なつながりは、単なる機能や価格だけでは得られない競争優位性をもたらす可能性があります。
エモーショナルマーケティングの観点からは、BtoBビジネスにおいても、相手企業の意思決定者の感情に訴えかけるコミュニケーション戦略が重要となります。例えば、製品やサービスの機能的な利点だけでなく、それらが相手企業にもたらす感情的な価値(例:信頼感、安心感、先進性など)を強調することで、より効果的なマーケティングが可能となるでしょう。
結論として、BtoBビジネスにおいても、エモーショナルマーケティングを考慮に入れることで、より強力な購買動機を生み出し、長期的な取引関係を構築することができます。ニーズに基づく合理的な判断と、ウォンツに基づく感情的な判断のバランスを取ることが、成功するBtoBマーケティング戦略の鍵となるのです。
エモーショナルマーケティングの事例
エモーショナルマーケティングの事例を、広告キャッチと営業プロセスについて紹介します。これらの事例は、顧客の感情に訴えかけることでより効果的な結果を生み出しています。
●広告のキャッチコピーにおけるエモーショナルマーケティング
神田氏は、広告キャッチコピーについての事例として下の2つをあげています。
1. 経費削減にはまず航空券から。航空券予約前に、まずご一読を!
2. まだ、ムダ金を航空券に使いますか?
この2つの広告キャッチのうち、2のものは、1の10倍の問い合わせを獲得したそうです。
2つの広告キャッチが販売しようとしている商品は同じです。
しかし、広告キャッチが顧客の感情に訴えかけるか、そうでないかにより、結果は大きく変わります。この事例は、エモーショナルマーケティングの効果を如実に示しているでしょう。
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●営業プロセスにおけるエモーショナルマーケティング
エモーショナルマーケティングでは、営業プロセスにおいて営業担当者は「話しすぎないことが大切」としています。
その理由は、営業担当者が話した場合は「売り込み」になるために、顧客の警戒を招くからです。
商品やサービスの機能や利便性などが購買の決定に重要な要因と考えた場合には、営業担当者はそれらを説明しなくてはなりません。
しかし、そうして説明することにより顧客は逆に警戒し、営業担当者と顧客との人間関係はかえって難しいものになりかねません。
エモーショナルマーケティングでは、営業プロセスにおいては「まず顧客に話をさせるべき」とします。
顧客が欲しい商品を尋ねれば、顧客は抱えている課題や想定する費用について話をすることになるでしょう。
話しているうちに顧客は、営業担当者を信頼する気持ちが生まれてきます。
また、自分が話しているその商品を「欲しい」と思うようになります。
顧客が抱くそのような感情が購買行動に結びつくというのが、営業プロセスにおけるエモーショナルマーケティングの考え方です。
このように、エモーショナルマーケティングは広告や営業の場面で効果を発揮し、顧客の感情に働きかけることで、より強い購買意欲を喚起することができます。
まとめ
◆ エモーショナルマーケティングとは、顧客の感情に訴えかけることにより購買意欲を刺激するマーケティング手法のこと
◆ 購買行動にはニーズよりウォンツの方がより大きく影響を及ぼす
◆ 合理性が重視されるBtoBの購買でもエモーショナルマーケティングは重要
◆ エモーショナルマーケティングは広告キャッチや営業プロセスなどの事例がある
◆ エモーショナルマーケティングでは、顧客の感情を理解し、それに応じたアプローチが求められる
◆ 感情に訴えかけるマーケティングは、ブランドロイヤリティの向上にも効果的
◆ エモーショナルな要素を取り入れることで、商品やサービスの差別化が可能になる
◆ 顧客の感情を重視するエモーショナルマーケティングは、長期的な顧客関係構築に有効
エモーショナルマーケティングは、顧客の感情に焦点を当てた効果的なマーケティング戦略です。この手法は、単なる機能や価格だけでなく、顧客の心理的なニーズや欲求に訴えかけることで、より強力な購買動機を生み出します。特に、ブランドと顧客との間に感情的なつながりを築くことで、長期的な顧客関係を構築し、ブランドロイヤリティを高めることができます。
また、エモーショナルマーケティングはBtoBの分野でも有効です。企業間取引においても、最終的な意思決定者は人間であり、感情が判断に影響を与えることがあります。そのため、BtoB市場でもエモーショナルな要素を取り入れることで、競合他社との差別化を図ることができます。
エモーショナルマーケティングを成功させるためには、顧客の感情を深く理解し、それに応じたコミュニケーション戦略を立てることが重要です。広告キャッチや営業プロセスなど、様々な接点で顧客の感情に訴えかけることで、より効果的なマーケティング活動を展開することができます。